オールマイトの一撃が入ったなら、無事で済むはずがない。実際、オールフォーワンの着けていたマスクは上半分が完全に吹き飛んでいる。
にもかかわらず、オールフォーワンは堪えた様子を見せることもなく、楽しそうに……憎々し気に語る。あるいは騙る。オールマイトの師匠と思われる人物のことを。
これに対して、オールマイトが遂に激昂した瞬間である。怒りの間隙を縫って、オールフォーワンがオールマイトの身体を空へ吹き飛ばした。あっという間に見えなくなるオールマイト。
「ったく、乗せられやがってあのバカが……!」
彼を追って、グラントリノが空へ舞い上がった。
あちらは彼に任せていいだろう。ならばまず私がすべきことは、彼らへの追撃をさせないことだ。オールフォーワンはまだ立ち上がっていないが、無力化できるならしておきたい。
「ああ……君もしつこいな」
「生憎と、私はこの星の自由と正義を守る者だ。君の思うようにはさせない」
立体機動と超速のアタロで襲撃するが、座ったままそのすべてを受け止められる。
……いや、違うな。これは防御をしようとしていない。それらしく受けているだけだ。
見たところマスクがはがれた顔に目はなく、見えていないからか……とも思ったが、直前までオールマイトと激しくやりあっていた。“個性”を複数持っていることを考えると、察知する類の”個性”も持っているはずだ。よもやフォースユーザーということはあるまい。
なのになぜおざなりな防御に終始する?
そう思ったが、答えはすぐに出た。私がオールフォーワンの身体を打ち据えるたびに、その衝撃が私に返ってくるのである。これでは攻撃するだけ損ではないか。
恐らく、衝撃を返す類の“個性”。感触からして、衝撃を丸々すべて返せるわけではないのだろうが……それにしても、である。
まあ、だからとて詰んだわけではない。まずは、どれだけ離れていても衝撃を返せるかどうかを確認すべきかな。ライトセーバーの光刃を伸ばすとしよう。
そう思いながら改めてアタロの構えを取る……が、何を思ったのか、立ち上がったオールフォーワンは語り掛けてきた。
「この星の自由と正義を守る、ね……僕の自由と正義は守ってくれないのかい? 自由も、正義も……人間誰しも持っているものじゃあないか」
「詭弁だな。自由と自分勝手は違う。そして君の正義は、大勢の無辜の民の涙や絶望、死によって構成される自分勝手の極みだろう。そんな正義が受け入れられると思うな」
構わず攻撃を続けようとするが……動き始めを空気砲で吹き飛ばされる。
くそ、大規模攻撃に対する防御策がないのが痛い。来ることはわかるから直撃を避けるだけならなんとでもなるが、それゆえに近づけない。
というか、やはり先ほどまでは手を抜いていたな。私も甘く見られたものだ。
まあいい、せっかく離れたのだ。予定通り遠距離から攻撃をぶつけてみるとしよう。
「へぇ……僕を悪と言わないんだね」
「正義の反対は悪ではないからな。私はそれを、この生を得てからの約十一年で理解している」
吹き飛ぶ私に、オールフォーワンの声が追いすがる。態勢を整えて着地しつつ、それに応じた。
彼我の距離、およそ二百メートルくらいか……と考えたところで、オールマイトを抱えたグラントリノが戻ってきた。
オールフォーワンが彼らに顔を向ける。向けるが……意識は依然として私にも向けられているらしい。
その腹に、私は一瞬だけ光刃の長さを増幅して突きを叩き込む。
「……っ、へえ、ライトセーバー……だったか。伸びるんだね、それ」
「ふむ……反射の“個性”が発動しなかったのは、意識の外だったからか。それとも射程距離外だったからか……もう一発行ってみようか」
「やれやれ、もう少し聞く耳を持ってもらいたいな。とてもオールマイトを超えると言い切った人間のやることとは思えない」
「いや、そんなことは一言も言っていないのだが」
「えっ」
私の即答に、戻ってくるなりグラントリノに何やら叱られていたオールマイトが、思わずと言った感じで声を上げた。
この反応が意外だったのか、あるいは琴線に触れたのか、オールフォーワンは改めてこちらに顔を向けてくる。
その顔に、私はもう一度セーバーの突きを叩き込む。今度も衝撃は返ってこなかった……が、今度はまったく手ごたえがなかった。
ううむ……オールマイトのパンチすらさほど効いていなかったのだから、これも“個性”の影響だろうが。ではなぜ、先ほど腹に入れたのは効いたのか?
わからない。成り立つ推測が多すぎる。“個性”がたくさんあるというのは、厄介などという話ではないな……。
「おや? 世間では君のことを、オールマイトの後継者と言う向きもあるようだが。違うのかい?」
そして、何もなかったかのように語りかけてくるオールフォーワン。
うむ……かくなる上は、セーバーの出力を上げるしかないか?
だがなぁ……そうなると、頭上に陣取っている報道ヘリコプターが邪魔だ。ジェダイとしては、敵の腕や足の一本くらい切り落とすのは珍しくもなんともない普通の攻撃なのだが。
この星のヒーローは、それもなかなか許されない。大衆がそれを求めるからだ。そういう意味でも、厄介などという話ではないわけだが……。
ともあれ、相手が会話をしたいというのなら少し応じるとしよう。話し合いは、ジェダイにとって何度も無視していいものではない。
もちろん時間稼ぎの意味もあるだろう。時限つきの強化を施している身としては、頭が痛い話だが……私としてもやりすぎない範囲で有効打を与える方法がすぐに思いつかないので、思考の時間が欲しい。
「勘弁してくれ。確かに、オールマイトという個人のことは大いに尊敬している。だが、オールマイトというヒーローのことは決してその限りではない」
「どうしてだい? 僕が言うことではないかもしれないが、彼は平和の象徴じゃないか」
「もちろん彼の功績は素晴らしいものだ。だが今となっては、平和の象徴という柱石に人々は頼り切ってしまっている。ヒーローすらもだ。誤解を招くことを覚悟で言うが……オールマイトというヒーローは長く生きすぎた。もっと早く後進に道を譲るべきだった」
「ふ……ふふ……っ」
私の言葉に、オールフォーワンは笑い始めた。
いや、これは嗤っているのか。私ではなく、オールマイトを。
「ははははは! これは傑作だ……オールマイト、君なんかよりこっちのお嬢さんのほうがよほど現実が見えているじゃないか! 君の! 五分の一も生きていない幼女のほうが!」
「……っ、ヒーローの形は人それぞれだ! 教え子のそれが私と違うからと言って、否定することはあり得ない! いや……むしろ先達の失敗を反面教師にできる彼女は、確実に私を超えるだろう! それは師として嬉しい悲鳴というやつだ!」
「乗るな俊典! 挑発だ、落ち着け!」
「そうかな? まあ、そうでもいいんだけれど。ねえ、今どんな気持ちだい? 弟子に己がヒーローとしての生き様を真正面から否定された気持ちは!」
「貴様……ッ!」
「だから乗るな! やつと言葉を交わすんじゃない!」
……しまったな。これがオールフォーワンの狙いか。
恐らく私に対する世間の風潮を、オールフォーワンは最初からまったく信じていなかったのだろう。私と話し合う気は最初からなく、あくまで狙いはオールマイト。彼の心だけをえぐるつもりだったということか。私はそれに乗せられたわけだ。
やはり、暗黒面の深みにいるものは心が読みづらくてやりにくい。これがフォースユーザーとなるともっとやりにくいのだろう。
ダース・シディアスはその思惑を、目と鼻の先にいるジェダイに最後まで悟らせなかったが……恐らく歴代の暗黒卿の中でも最強クラスだったのだろうな。
と、言ったところで急激に身体が重くなり、私はがくりと膝をつく。全能力増幅が切れたのだ。
「……! 大丈夫かアヴタス!」
「あなたほどではありません……」
「おやおや、無理をしていたのかい? ダメだよ……君はまだ幼いんだ。若いうちの無理は歳を取ってから響くからね。プルスウルトラだなんて馬鹿なことは言わないで、早くおうちに帰って休みなさい。――帰れたらの話だけれどね」
くくくと笑うオールフォーワン。
笑いながら、こちらに手を向けた。その腕が、一気に肥大化する。
「……! でけぇの来るぞ! 避けて反撃を――」
それを見たグラントリノが飛び上がる……が。
「避けていいのかい?」
オールフォーワンの狙いは、どう見ても私だった。反動で動きが鈍っている私を見て、言われるまでもなくオールマイトがかばう形で前に出る。
私は……まだ行ける。先ほどの全能力増幅は全力ではない。まだ最低一回は全能力増幅を全力で行えるし、そうでないなら二回は固い。だから避けようと思えば避けられる。
だがそれをしたところで、大規模攻撃を連発するオールフォーワン相手では分が悪いだろう。未来が読めても、回避しきれないのだから。
さらに言えば、後ろから人の気配がする。私もオールマイトも、避けるという選択肢は持ち合わせていなかった。
しかしこの状況……使えそうだ。あの空気砲が放たれれば、余波で巻き上がる粉塵によって視界はかなり悪くなる。上空を飛ぶ報道ヘリコプターからの視線も、遮ることができるだろう。
であれば……。
「おい!!」
と、そこにグラントリノが焦った声を上げながら戻ってくる。
その内心から、オールマイトの限界が近いことが窺える。
それはまずい。オールフォーワンに正面から対抗できるオールマイトの存在は、どうしても必要だ。先ほどオールマイトのことをああ言ったが、オールマイトというヒーローの善性や力に関しては、否定するつもりなどまったくないのだ。
であれば――やはり私がすべきことは
そう覚悟を決めた私は、空気砲が放たれたのとときを同じくして、私の前に立つオールマイトの身体に向けて“個性”を
「君が守ってきたものを奪う」
凄まじい威力が込められた空気砲が、今まででも一番の威力を持って襲ってくる。これに立ち向かうのは、長年この国の治安を守り続けてきたトップヒーロー。
オールマイトは一切怯えることなく、躊躇することもなく、拳を前に突き出す。デトロイトスマッシュ、と掛け声が響く。
轟音。耳をふさいでいてもなお鼓膜を激しく揺らすほどの音が、周囲一帯に鳴り響く。
それは空気が空気をぶつかり合う音だけではない。地面がえぐり取られる音、建物が倒壊する音、さらには押し出された空気が巻き起こす暴風も含んだ空前絶後の轟音だ。
だが、それでもなお――オールマイトは倒れない。
「まずは怪我をおして通し続けたその矜持……みじめな姿を――ッ!?」
オールフォーワンの嬉々とした声が、途切れた。絶句であった。
余波が収まり、砂塵が収まり、少しずつ視界が晴れていく。
オールフォーワンは目が機能していないはずだが……それでも、これで悟ったのだろう。今目の前にいるオールマイトの状態を。
「オーマイ……オーマイグッネス……!」
オールマイトがぽつりとこぼす。その身体に数秒、とても見覚えのある
そうして彼は、拳を突き出したままの態勢で笑った。そこに苦しさは見当たらない。
健在だ。心だけではない。身体も。先の空気砲を、完全に相殺することに成功していた。
代わりに、私はがくりと膝をつき、倒れそうになる。限界が近い。もはや栄養は枯渇寸前だ。
だが、これでいい。私の存在感を消しつつ、オールフォーワンに勝つには
震える手で懐から非常食(イレイザーヘッドがよく使っているゼリー飲料の特注品)を取り出しつつ、私も笑う。
「……バカな。そんなはずは」
オールフォーワンがかすれた声を上げた。この国の人間であれば、ほぼ全員がそんな反応などしないだろう。
だが無理もない。オールフォーワンは、オールマイトの
知っていたからこそ……今目の前に立つ、“個性”も含めた力がみなぎる
「と……俊典? お前……」
グラントリノも同様だ。彼の場合は、味方だからこそおののいてはいないが、それはともかく。
そう。
今、ここに立つオールマイトは。
「……君のおかげだね、アヴタス?」
「はい。
「アメイジングだ……!」
「……ッ! そうか……増幅……! だが、そんなことが可能なのか……!?」
できるかどうかで言えば、恐らく不可能だ。
だが、その不可能をフォースが可能にする。フォースと組み合わさることで、増幅は実体のない概念であってもその対象にできるのだ。
若さと“個性”という曖昧さの極みのようなものを増幅するとなると、全能力増幅に匹敵するほどの消費が必要になるが……ここは使いどころだろう。
そして、その甲斐はあった。
だからこそ、彼が仮初の復活を果たしたのだ。
現代の神話。たった一人であらゆる困難を、悪を打ち砕いてきた男が、今ここに再臨する。
「およそ三分。それが消耗した今の私にできる限界です。……あとは任せましたよ、マスター・オールマイト」
「十分すぎるよ。なーに、ウルトラマンだって三分さ、任せてくれ。――大丈夫、私がいる!」
「く……!」
そこから先は、あっという間だった。
オールマイトの身体が、音速で動く。オールフォーワンは、それに対処できない。
オールマイトの拳が、音速を超えて振るわれる。オールフォーワンは、それに対処できない。
それでも、敵もさるもの。遅れはしたが間違いなくオールマイトに身体を向け、恐らくは衝撃を返す“個性”でカウンターを仕掛けようとした。
だが。
「
先ほどまでであれば、限界をいくつも超えなければ出せなかったであろう威力が込められた攻撃を軽く囮にして、オールマイトがオールフォーワンの背後に回り込む。
ただの背後ではない。囮にした攻撃すら、当てずともオールフォーワンの空気砲並みの衝撃波を出しているのだ。それに煽られて、オールフォーワンの身体はたたらを踏んでいる。
そんな状態の背後に回り込んだのだ。誰の目から見ても明らかな、隙であった。
当然、そこへ向けて拳が叩き込まれる。これもまた音速を超えて振るわれたのだろう、とんでもない音と風が巻き起こる。
――直後、人の身体を殴ったとは到底思えない、爆音が鳴り響いた。一瞬遅れて、地面が砕ける轟音が続く。
オールフォーワンが後頭部を殴られ、顔面から地面に叩きつけられた音だった。
これに応じるように、地面にクレーターができる。当たり前のようにクレーターを作るその威力に、肌が粟立った。
オールフォーワンは……動かない。意識も感じられない。気絶したらしい。
誰も文句は言うまい。オールマイトの、勝ちだ。圧勝である。
拳が掲げられる。高々と、胸を張りながら。無言の勝利宣言。
彼のこの姿は、きっと上空のヘリコプターから全国に……いや、全世界に向けて流れているのだろう。
なるほど、こんなものを長年見せられていたら、彼一人に頼りきりになるのも無理はない。それほど圧倒的だった。三分どころか、ゼリー飲料をチャージする程度の時間で終わらせてしまった。
恐るべきは、彼の持つ“個性”。ワンフォーオール……か。
……いやまあ、あの威力の攻撃の直撃を、よりにもよって頭に受けながら気絶で済んでいるオールフォーワンも大概恐ろしいのだが。なぜあれで五体満足でいられるんだ? それも“個性”だろうか。USJ事件に居合わせた脳無もそんなような“個性”を持っていたが……。
しかしまあ、何はともあれ。
ヴィラン連合との戦いは、こうしてひとまず幕を下ろしたのであった。
必殺・若マイト召喚。
いや呼吸器半壊や胃の全摘を治せないのでこれでも全盛期には届かないんだけど、AFOも六年前の大怪我以降弱体化しているから・・・。
この映像をシールド博士が見たらひっくり返りそう。
次回はリザルトと、締めです。EP6最終話。