銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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11.闇も否定しないという生き方 下

 学校の片隅で、事態は大体私の予想通りに進んだ。

 人の話を聞くだけの分別がまだあったのか、それとも私の言葉が最後の防波堤として機能したのかはわからない。

 

 しかし何はともあれ、トガは私の助言に従って同級生に告白し、恋仲になることに同意された。

 ……まではよかったのだが。その次に血を吸わせてほしいと告げて、相手の男子生徒を唖然とさせた。

 

 それから言葉の意味を理解できないままの彼に、トガはカッターナイフを取り出……そうとして見つけられなくて、けれど「あ、じゃあ」という気安さで八重歯をむき出しにして噛みつくそぶりを見せた。そうして嬉しそうに……本当に嬉しそうな満開の笑みを見せて、迫ったのだ。それはそれは美しく、凄まじい笑顔であった。

 

 一般人がそんな迫り方をされれば、逃げるに決まっている。案の定、トガは相手に逃げられ、それだけにとどまらず、語彙力のない悲鳴混じりの罵倒を受けて、呆然とその場に立ち尽くすことになった。

 

 まだ高い太陽の光が差し込んで、トガの横顔を照らしている。そこにあったのは、純真な期待を裏切られ、力なくぼんやりと立ち尽くす一人の少女の姿。

 そう、そこにいたのは、ただ失恋をした、どこにでもいるであろう少女だった。

 

 たとえその手段が普通ではなくとも、彼女は確かにただの少女だったのだ。

 そこには、怒りや憎しみなんてものはなく、どこまでも……そう、彼女はどこまでも「普通」だった。

 

 そんな彼女を見て、「ああ強引な手段に出なくてよかった」とだけ考えて終わろうとは、もう私には思えなかった。

 

「……トガさん」

 

 こうなるとわかっていた罪悪感を隠しながら、その背中に声をかける。いらえはなかった。

 

 代わりに油の切れたドロイドのような緩慢な動作で、視線を私に向けようと振り返るトガ。その頰には、涙が滝のように流れていた。

 

「……あは。私……振られちゃいました」

 

 悄然としたその姿に、ますます罪悪感を刺激される。

 

 こういうとき、なんと答えればいいのだろうか。想定はしていたが、その想定を本当に伝えてしまっていいものだろうか。

 前世の私だったら、「よく試練を乗り越えた」と言って褒めていただろうが。そんな言い方は、的外れだと今はもうわかっている。

 

「……心中、お察しします」

 

 とりあえず、まずは何より会話を続けねばと無難な言葉を出したのはいいが、それに対する反応は薄かった。

 

「……生きにくいなぁ……。普通にしなさい、普通ありえない、普通、フツウ、ふつう……それってなんなのかなぁ……ホント……。そんなの全然カァイいくないのに……!」

「…………」

「なんでかなぁ? 私、普通に生きてるつもりなんですけど。でも、笑ったら怒られます。お母さんたちも、異常だって。おかしくないですか? 普通に、自由に生きたいだけなのになぁ……なんで、なんで……っ、こんなに生きにくいのかなぁ……!」

 

 対して、返ってきたのは切実な心の発露であった。あはは、と乾き切った笑いが虚しく響く。

 それはきっと、紛れもない彼女の本音なのだろう。彼女は本当に、普通に生きているのだ。他の人間と同じように。

 

 けれど、それは彼らには普通に思えるものではなく。

 

 ああ、きっと両者は分かり合えない。

 

「……私は」

 

 けれど、私は。

 

 このわずかなやり取りで、わかってしまったのだ。彼女はただ考え方が少しズレているだけで、心根の部分はどこにでもいる十五歳の少女なのだと。

 そしてそのズレゆえに孤独な、この少女を。何十億もの人の中で、一人で寂しく涙を流す彼女を、()けてあげたい。そう思った。

 

 だから、私は。

 せめて私だけは。

 

「……私は、君の『普通』を否定しない」

 

 だから、こうしよう。

 

「私は、私が、君の『普通』を受け止める」

 

 これが正しいかどうかは、未熟な私にはわからないけれど。

 

「だから……君は私の隣にいるといい。それで、君が君らしく……()()()()生きていけるなら」

 

 少なくとも、これが今の私に思いつく、闇も否定しないという生き方だから。

 

「……いいの?」

「ああ」

「私、たくさんチウチウしたいよ」

「構わない」

「きっと、殺したくなっちゃう」

「できるものなら」

「……刺すよ?」

「ほら」

「……っ!!」

 

 むさぼるように。

 きっと、その言葉が一番相応しいだろう。

 

 トガは差し出されたカッターナイフを奪うと、半狂乱の様子で振るい、私の腕に突き立てた。

 鋭い痛みと共に、血が吹き出す。袖をまくっていたのだから、当たり前だ。

 

 そこに、トガはためらうことなく口を当てた。ストローを用意していたかと思うが、それを使う余裕すらなさそうだった。

 

 そうして、ちう、と音が鳴って、血を吸われる。そう、むさぼるようにだ。

 行為それそのものには、痛みはない。なんとも不思議な感覚だった。

 

 廊下にぺたりと座り込み、泣きながら私の腕に吸い付く彼女の顔は、恍惚としていた。

 

 けれど、それがどうにも、彼女らしいなと感じた。

 少なくとも、苦しくもがいている気配は微塵もない。何より、学校で見せていたものより、このほうが彼女には似合うな、とも。

 

 そうしてしばらく、私はトガに身体を切られ、血を吸われ続けた。何度も。

 

***

 

 さて、その後について語ろう。

 

 まず、私たちは危うく通報されかけた。

 まあ、人の少ない卒業式後とはいえ、少ないのであって誰もいないわけではない。いずれ誰かが通りがかることは必然であった。

 

 しかし、私はあくまで同意の上での行為であり、これは私自身が望んだことであると再三伝え、なんとか警察沙汰だけは回避するところまでこぎつけた。人が大勢集まる前に、周囲に散々広がった血痕の処理を済ませられたのもよかったかもしれない。

 

 もちろん、当たり前のように誰も理解を示さなかった。

 

 いや、その気持ちは私もわかるところではあるのだ。正直な話、私とてトガの吸血行為を完全に理解したなどとは言えないし、きっと永遠にわかるときは来ないだろうとまで思っているほどだ。

 

 けれど私が吸血を許した経緯は、理解してもらえると思うのだが。順序立てて説明しても、なかなか理解してもらえなかったので、わかりあうとは難しいなと改めて思う。

 大衆というものがおおよそそういうものだ、ということもわかってはいたことだが。理解されない、ということは大なり小なり心に来るものがある。トガはそれに苦しんでいたのだ。

 

 だが、私はそんなトガを救けたいと思った。そのためにしたことだから、後悔はない。

 少なくとも、フォースが私を非難することはなかった。私にとっては、それで十分である。

 

 そしてこの件は、トガの両親には話が行かないようにしたので、彼女が普通な生き方を強いる両親から恫喝されることはなかった。

 

 どうしたかと言えば、マインドトリックというフォースの技を用いた。いわゆる心理操作であり、フォースによって他者の心に意思を植え付け、それによって行動をある程度操るというものだ。

 意思の強固なものには効果が薄く、種族によってはそもそも元から効果がなかったりもするが……逆に言えばあまり意欲や気力のないものには効きやすく、その性質上有効な相手には本当によく効く。

 

 私個人としては、心を操作する技ゆえにジェダイの正道からはやや外れた技だと思っており、あまり使いたくはなかったのだが……今は使いどころだと判断した。

 この判断は正しく、事態は大事になることなく落着したというわけである。

 

 ただこのマインドトリック、学校関係者全員に実によく効いたので……なんというか、この学校には真実生徒のことを想っている教師はいないのだなと、この国の闇を見た気分にもなったがそれは置いておこう。

 

 ……ちなみに、アナキンの師であるマスター・ケノービはこれの達人であったし、さらに彼の師だったマスター・クワイ=ガンもまたこれを得意とした。私がマスター・クワイ=ガン門下に対して思うところがあるのは、こういう技術を正義のためとはいえ、わりと躊躇なく使うところがあるからだったりする。

 

 それはともかく……どうにかこうにか、トガは完全に暗黒面に堕ちる直前で踏みとどまった。

 

 ただ、まだ危ういところにいることは間違いない。

 だから私は彼女を友人として家族に紹介し、定期的に私相手に欲求を発散させることにした。

 

 彼女によってつけられた傷も、私なら“個性”で治療できる。失った血の補填もだ。むしろ治療の練習になるので、これは私にとっても益のあることだった。

 また、痛みに慣れるという意味もある。なかなか日常的に攻撃による怪我はしないから、そういう意味ではありがたいと言えた。

 

 ……ああ、そうそう。トガが唯一本性を見せた男子生徒から、彼女の話が広がることはかろうじてなかった。

 これは今までのトガの擬態が完璧で、誰も彼の話を信じなかったからである。嘘つき呼ばわりされたサイトウ少年には非常に申し訳なかったので、それとなく謝罪はしておいた。

 

 と、そんな感じでまとまった今回の件だが、一通りの報告を聞いたアナキンが「やってしまったな」みたいな反応だったのは、よくわからなかった。

 

『いや、君のしたことが悪いわけじゃない。今の君にできる中では十分な方法だろう。ただ……君の言い方がまずいし、すべてを本当に受け止めてしまったことも、もしかするとのちのち……』

「……? 何か問題でしたでしょうか、マスター・スカイウォーカー?」

『……いや、確証があるわけじゃないんだ。ただ……そうだな……君、()()()()()()()()()()。君は言うなれば、猛獣に簡易な枷をつけただけで隣に侍らせているようなものだ。世間の一般人は絶対納得しないし、何かあればことは彼女だけにはとどまらないぞ』

「それはもちろんです。マスターが何を気にされているのか、非才の身にはわかりかねますが……彼女のことは、責任を持って表社会に馴染ませて見せます」

『……だといいんだが』

 

 よくはわからないが、私より色々と優れる上に物事に精通している彼の懸念だ。注意しておくに越したことはないだろう。

 

 あるいは、彼女が犯罪者に利用されるようなこともあるかもしれない。もしそうなったとき、きっと世間は事情を考慮しないだろうから。注意してしすぎるということはない。

 

 ともあれそういう形で、この件は決着したのであった。

 

 それから残り少ない中学校一年生は、穏当に過ぎ去っていった。

 




「君は私の隣にいるといい」
トガちゃん(トゥンク)
アナキン「あっ(察し」

無自覚にフラグを立てていくスタイル。
生兵法は怪我のもととはよく言ったものだね!
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