1.新しい朝
ふ、と意識が浮上する。目を閉じていても感じる光の気配に、ああ朝が来たのかと思う。
目を開けてみればその通りで、しかし身体が重くて動かない。寝返りを打つことすら億劫だ。
それでもどうにか視線を動かして、時計に目を向けてみると……普段起きるようにしている時間帯からだいぶ遅い頃合い。昼間、とまでは行かないが、限りなく昼に近い時間だった。
どうしてこんなにも寝坊を……と思ったところで、昨夜のことを思い出して私は一人赤面する。そのまま重い体をのろのろと動かして縮こまり、誰に対してでもないがともかく顔を隠した。
ああ、そうだ。
昨夜はヒミコと、ほぼ一晩中愛し合っていたのだった。
日頃から鍛えているためか、お互いなかなか体力が尽きず延々と……その、そういうことを。互いにして、されて、あるいは一緒に……と繰り返して。それで、いつの間にか時間など完全に忘れていたのだ。
大失態である。自分がこれほどまでに快楽に弱いとは思わなかった。最後のほうはもう何も考えられなくて、よく覚えていなくて、ただひたすら貪るように快楽に溺れていたような気がする。
何が一番問題って、それらを思い出すだけで身体が少し熱くなってきていることだ。恥ずかしさだけではない。下腹部が少しうずき始めている。私は、私はなんということを。
それでいて、それを完全に拒絶しようとは思っていない自分がいる。思い出すだけで、自覚できるくらいに表情が緩むのだ。それほどの幸福感が今も続いている。
恐ろしい。こんなもの、麻薬も同然ではないか。性愛に溺れるものが絶えないはずである。ジェダイが禁じたのもむべなるかな、だ。
はあ、と思わずため息をつく。
と同時に気づいた。恐ろしく喉が痛い。ただ息をついただけで、しくしくと痛む。
「……ぁ゛……あ゛、ぅ……」
口を動かしてみる。が、声がろくに出ない。とても痛い。
なぜ、と思うが……すぐに思い当たる。
昨夜は、それはもう何度も何度も喘がされたのだ。今まで自分が出したことのないような甘い声を、大声でずっと上げ続けていたのだから、喉がやられるのも当然だろう。
こんなことになるまで行為にふけっていたのか、という驚きは即座に羞恥心へと変わる。我がことながら、本当にどうしようもない。
とりあえず喉に向けて増幅をかけ、治癒させる。同時に全身にもかけて、疲労の回復に努める。
そんなことをしながら改めて己に目を向けてみる。
全裸である。
隣に目を向ければ、そこではヒミコが熟睡している。やはりこちらも全裸だ。
当たり前である。昨夜はずっと愛し合っていて、終わりの境界もよくわからないまま二人とも気絶するように眠ったのだ。後処理などできるはずもなかった。
だからこれも当たり前なのだが……ベッドはだいぶひどいことになっていた。二人がまき散らした色々な体液が、処理されることなく放置されている。どうしたものだろう、これ。
「……まあいいか」
少し考えたが、やることが多すぎる。まだ覚醒し切っていない頭で、重い身体を引きずって片付けなどあまりにも億劫だ。
……わかっている。こんな怠惰な時間の使い方をするなど、あまりにも不甲斐ないということはわかっている。
けれど、それでも今はまだ、もう少し。もう少しだけ、昨夜の余韻に浸っていたかった。
だから私は、もう一度目を閉じる。閉じて、ヒミコに身体を寄せる。
お互いに裸のままなので、直接肌と肌が密着する。伝わってくる彼女の体温がたまらなく愛おしく、心地よかった。
そうして私は、自分でも驚くくらいあっという間に、二度目の眠りに落ちたのだった。
***
二度寝から目覚めたとき、既に真昼間だった。我ながら随分と寝坊したものである。
この頃にはヒミコも起きてきたが、とりあえず何を差し置いてもまずは風呂だ。昨夜のあれそれの結果、身体が汗をはじめいろいろなものでべたついている。
その間に、S-14Oに後始末を任せる。彼女はまったく働き者で、入浴している間にすべてきれいに片づけて、新しくベッドメイキングまでしてくれた。今日ほどドロイドを造っておいてよかったと思った日はそうそうない。
まあ彼女の手際もさることながら、入浴中にヒミコが求めてきた(拒めなかった)のでそれだけの時間が確保できたということもあるのだが。
ともかく色々な意味で火照った身体を休める私をよそに、ヒミコが昼食を兼ねた朝食を用意してくれた。
この時点で既に昼は過ぎており、この日は結局ほとんど何もできないまま終わった。ヒミコと二人、身体を寄せ合って何をするでもなく、ぼんやりとしたまま穏やかに過ぎていったのである。
寮に転居するために荷造りをしなければならないのだが……まあ、たまにはこういう日も悪くないだろう。
昨夜延々とやり続けて落ち着いたのか、この日の夜は特に求められることもなく、静かに眠りにつくことができた。
で、翌日からは荷造りである。まだ寮に移動するには少し時間があるが、我が家はものが多いので早いうちに済ませておかねばならない。
それと寮の部屋は六畳一間しかないので、持っていけないものをどうするかも考えねばならない。ただありがたいことに、工房用の部屋を用意してもらえるらしい。が、それでも今ほどのスペースは確保できないので、取捨選択は必須である。
このままこの部屋を借りた状態にして、倉庫のように扱うのもありだとは思うが……下手に人目に入れるわけにはいかないものがそれなりにあるので、引き払って実家に送り返したほうがいいだろう。家賃もそれなりにするわけだし。
ちなみに14OやI-2Oなどのドロイドは、寮に持っていくつもりだ。彼女たちには明確な自我があるが、扱いとしてはどこまでも私の所有物でしかないので、問題はないはずである。
というわけで、持っていくもの持っていかないものの選別を行うとともに、14Oに梱包を任せる。そんな作業を、ほぼ一日かけてこなした。この部屋に住み始めてまだ半年も経っていないはずだが、それでもものは増えてしまうものだな。
私が機械いじりをするためにあれやこれやと資材を買い込むこともあるが、それとは別にマンガや映像媒体などもそれなりに場所を取っていた。
寮には共同スペースが設けられると聞いているので、この手のものはいっそそこに置かせてもらうつもりである。許可も取った。
あとは寮への配送手続きなどを行い、持っていけないものの片付けをこなしながら、数日を過ごし。
雄英に集まる日がやってきた。久しぶりに制服に着替えて、登校する。
新しく我々が住むことになった寮は、雄英の敷地内……校舎のすぐ目の前に建てられている。建物が整然と居並ぶ姿は圧巻ではあるものの、すべて同じ規格で完全に同じ見た目をしているため、いささか味気ない気もする。
その中の一つ、我々A組に用意された建物の前で、我々は久しぶりに全員集合していた。
「とりあえず一年A組、無事にまた集まれて何よりだ」
私たちを前に、マスター・イレイザーヘッドが言う。いつも通りの、淡々とした物言いであった。
そんな彼に対して、ツユちゃんが言う。
「無事集まれたのは先生もよ。会見を見たときはいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」
彼女の言葉に、クラスの大半が頷いた。
私はその会見を、すべて終わってから見たので何とも言えない部分もあるのだが……確かに、イレイザーヘッドはあのとき間違いなく進退を懸けていた。彼は自分の社会的な立場より、生徒の安全を取ったのだ。
それでも許されない場合があるのが社会であり、大人というものだが……ともあれ、イレイザーヘッドの首は繋がったようだ。
「……俺もびっくりさ。まぁ、色々あんだろうよ」
頬をかきながら返すイレイザーヘッドであるが、彼については学校側の都合などもあるのだろう。
内通者がいないかどうかを調べるために、あえて大きく体制を動かしていないのだと思う。泳がせて尻尾をつかもうとしているのだろうな。
「さて……これから寮について軽く説明するが、その前に一つ」
まあ、それは今言うことではない。
ということで、イレイザーヘッドも話を変えた。ぽん、と一度だけ手を叩いて注目を集める。
「当面は合宿で取る予定だった、仮免取得に向けて動いていく。だが……緑谷、峰田、麗日、葉隠、八百万。この五人はあの晩、あの場所へ、トガ救出に赴いた」
『……!?』
そうして放たれた言葉に、ほぼ全員が表情を強張らせた。名指しを受けた五人は当然として、他の面々もだ。
彼らは大層驚いていて、五人をそれぞれに凝視している。バクゴーもそれなりに驚いている辺り、あの五人の行動は誰にも知らされていなかったのだろうな。
「その様子だと、行くそぶりすら誰も把握してなかったようだな。クラスの誰にも相談すらしなかったってか。はぁ……色々と棚上げした上で言わせてもらうが、例年通りなら俺は勝手に動いた五人のことは除籍処分にしているよ」
『ッ!?』
学生にとっては恐ろしい文言を、躊躇なく口にしたイレイザーヘッド。
彼のいつも通り淡々としたありようが、その言葉に説得力と迫力を生んでいる。名指しされた五人はもちろん、他の面々が顔を青くした。
そしてその顔色は、イレイザーヘッドが鋭く睨みつけたことでさらに悪くなる。特に五人がだ。
「公共の場での“個性”の無断使用は、違法行為に当たる。ルールを……法を犯すということは、たとえそれがどのような善意に基づくものであろうと……どれだけ立派な成果を上げようと、ヴィランのそれと変わらない。除籍が妥当だろう?」
普段とは異なり、明らかに感情が見え隠れする声色である。だからこそ、余計にイレイザーヘッドが本気で怒っていることがわかる。
だが彼は、次の瞬間ふっと苦笑した。自嘲しているのだろう。ひどく弱弱しい笑みであった。
「……とは言ったが。最初に言った通り、実際はそこらへん色々と棚上げだ。何せ今年はカリキュラムを色々変えてる。一部を急いで進めて仮免取得に舵を切ったことで、免許なしに犯罪現場に出くわしたときの心構えや、軽率な行動が引き起こす影響などが十分に周知されていなかった。
何より、今回の件は情報漏洩を防げなかった雄英側にそもそも一番責任がある。資格を持たない未成年を預かる教育機関として、お前らが法に触れる行動を起こす可能性も考慮して動くべきだった。だから、あの日のことでお前たちに処分を下すことはしない」
自嘲しながらも、しかし目を逸らさないイレイザーヘッド。彼は間違いなく、正面から五人を順繰りに見ていた。
……ああ、よかった。これでいつものように最低限のことしか言わないまま除籍を強行していたら、私はイレイザーヘッドを糾弾していただろう。棚上げしたという部分を説明せずに、一方的にと言うのはあまりにもやりすぎであると。
「処分はしない……しない、が。それでも、お前たちが信頼を裏切ったことは間違いない。
……俺たち教師陣のじゃねぇぞ。
いいか、今後は正規の手続きを踏み、正規の活躍をするように。それがお前たちが信頼を取り戻す、唯一の方法だ。わかったな」
『……はい!』
五人が揃って声を上げる。
彼ら彼女らの顔をちらりと見てみるが……大丈夫だろう。強い決意と覚悟、それに後悔がちゃんと彼らの中にある。全員がしっかり反省したはずだ。
……その中にミネタも入っているのが、どうにも不思議に思ってしまうのはやはり日頃の行いのせいだろうが。
「……よろしい。俺の話は以上だ。んじゃ、寮について説明する。中入るぞ」
五人の言葉に大きく頷いたイレイザーヘッドは私たちに背を向け、寮の扉を開いた。
どうも、どうもどうも。
言ったことは守る男、ひさなです。
というわけで大晦日の深夜ですが、本日よりEP7「雛鳥たち」を始めます。
全16話+幕間1話、イチャラブ多め(のはず)でお送りしますので、楽しんでいただけると幸いです。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
ところで、今EPでは通してアンケートをします。
少し前に割烹に書いたのですが、スターウォーズメインヒロアカサブの長編の閑話を書きたいなと思い始めていて。
ただ閑話という言葉通り、本編にはあまり影響しないので書く必要がないといえばないんですよね。
幕間の要素もあるので、無意味ではないんですけど。書くとすると普通に1EP分くらい(下手したらもっと)がっつり書くことになるので、その間本編の進行は当然とまります。
それでも閑話って読みたいですかね?
というアンケートです。よろしければご回答いただければ幸いです。
スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?
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読みたい
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あるならまあ読む
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あんまり気が乗らない
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いらない