「寮は一クラスで一棟。右が女子棟、左が男子棟と分かれている。ただし一階は共同スペースだ。食堂や風呂、洗濯はここで」
生徒を中に招きながら言うイレイザーヘッド。
ぱっと見た限りでは、吹き抜けになった中庭を囲む形で左右に分かれているようだ。その中庭が見える位置に、広々としたソファが並んでいる。
さらにその奥にはテーブルと、さらに調理場も見える。広さは実家の寺のお堂くらいか。
「おおおおお!」
「広キレー! そふぁあああ!!」
「へー、中庭もあんじゃん」
生徒のリアクションは様々だ。目に見えて顔を輝かせているハガクレやアシド、物珍しそうに周囲を見渡すセロやトドロキなどなど。
「豪邸やないかい」
中には想像以上だったのだろう、倒れかけてイイダに身体を支えられているウララカもいる。
そういえば、彼女の実家はあまり裕福ではないのだったか。
「聞き間違いかな……? 風呂、洗濯が共同スペース? 夢か?」
「男女別だ。お前いい加減にしとけよ?」
「はい」
そしてミネタはやはりミネタであった。あの事件以降、少しは見直したのだがなぁ……。
……ただなんというか、彼の暗黒面をわずかだが以前より理解できるようになっている己に愕然とする。恐らくヒミコとそういうことをしたからだと思うが……うーん、素直に喜べない……。
と、そうこうしているうちに二階に案内される。移動はエレベーターか。一応階段もあるようだ。
「各自の部屋は二階からだ。一フロアに男女各四部屋の五階建て」
そうして案内されたのは、誰の名前もかかっていない空き部屋である。
「一人一部屋、エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼットつきの贅沢空間だ。防音設備も完備だ」
六畳一間の室内には、イレイザーヘッドが説明した通りのものがあらかじめ備え付けられていた。
防音設備については、どうやら私が事前に申し入れたものを採用してくれたらしい。まさか建物全体に施されるとは思わなかったが。
ともかく、ありがたい。これで夜中でも機械をいじれる。あとはまあ、その、夜に大声を上げても大丈夫だろう。
「ベランダもある……すごい!」
窓を開けてベランダに出たミドリヤが、感心している。
「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね……」
彼をよそに、部屋の中を見渡していたヤオヨロズがぼそりとつぶやく。
「豪邸やないかい!」
そして再びウララカが倒れて、イイダに救助されていた。
「部屋割りはこちらで決めた通りだ。各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから、とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!」
『ハイ先生!』
しかしイレイザーヘッドは彼女をよそに説明を続け、生徒たちがこれに応じて動き始める。
……まあ、ヤオヨロズはイレイザーヘッドに連れていかれたが。どうも持ち込んだ荷物が多すぎたらしい。
ともかく、私も動くとしよう。
私の部屋は女子棟の二階だった。立地としては、トコヤミの部屋の反対側ということになる。
そこから工房と空き部屋を挟んだところ、ミネタの部屋の反対側がヒミコの部屋である。
「夜でも気づかれずに行き来しやすくってよかったです」
とはヒミコの弁であるが、彼女は夜中でもうろつく気満々のようだ。まあ、そうだろう……いや、私の部屋に入り浸る未来のほうが想像できるな。
さて部屋の準備だが、私の部屋は他の面々とは少し違う。
具体的には、隣の部屋と直接出入りできるように改造されている。つまり、二部屋が与えられているのだ。その分、隣の部屋は工房用としてトイレやクローゼットが撤去され、十畳ほどのシンプルな空間になっている。また、この部屋と廊下を繋ぐ出入り口も埋められている。
これは完全なる特例であるが、サポート科担当教師のヒーロー、マスター・パワーローダーがぜひにと後押ししてくれた結果である。彼はドロイドや翻訳機の開発者が父上ではなく私であることを薄々察しているようで、私には開発環境を整えてやるべきだと熱く力説してくれたらしい。
合宿のとき、通信で顔合わせをしたときからやけに彼は親身になってくれたので、感謝しかない。まあ、今年入ったサポート科の問題児に対する抑えとして期待されているような節もあったが……それはもしや、体育祭で唯一最終トーナメントに上がってきたハツメのことだろうか。
まあ、それについてはあとあとパワーローダーの工房にお邪魔すればわかるだろう。
ともかく部屋である。が、基本的にはS-14Oにお任せだ。部屋に届いていた荷物の一つを開封して、彼女を起動すればあとは自動でやってくれる。
もちろん彼女一機ですぐに終わる量ではないので、私も手伝うが。私が動かすのは、主に工房に入れる機材や資材だ。こちらは下手に他人に触れられて何かあっても困るからな。
とはいえ、私室のほうで使うものはあまり多くない。なので、そちらが終わったら14Oにはヒミコを手伝いに行ってもらうとしよう。
「コトちゃーん、終わったー?」
「ああ、大体のところは。君も終わったんだな」
「うん! 14Oちゃんのおかげでとんとん拍子」
そうこうしているうちに、ヒミコがひょっこりと顔を出した。にんまりと笑っている。かわいい。
時計を見れば、まだ三時くらい。途中でトドロキが件のハツメ由来のトラブルに巻き込まれたため、助けに行くということもあったが、それでもお互いにだいぶ早く終わったようだ。
「このあとはどうする?」
「うん。お菓子作ろうかなーって」
「菓子?」
私の問いに、ヒミコは後ろ手に持っていたレシピ本を前に出して見せた。
主に洋菓子がつづられているらしいそれに、私は首を傾げる。確か、買ったはいいが作る時間があまり取れないから活用される機会がなかったものではなかっただろうか。
「うん。あのね、ここのご飯ってランチラッシュが作ったのが届けられるでしょ? なら、ご飯作る時間が減るなーって思って」
「ああ、なるほど」
ルームシェアをしていた頃、私たちの食事は14Oとヒミコが作っていた。最近はヒミコが担当する比率が増えていて、彼女は立派な料理上手と化しているのだが……この寮では、彼女が述べた通りランチラッシュの食事が給されることになっているので、基本的に料理をする必要はない。
しかし和食と洋食が選べる以外は献立がお任せであったり、提供できる数の上限が決められていたりするし、私にとって一番好みの味付けがヒミコのそれで固定されてしまっているので、今後も彼女は作り続けると宣言している。それでも、今までより作る量が減ることは間違いない。
「その浮いた時間で、菓子を作ろうということか」
「うん。ランチラッシュのご飯にデザートはつかないみたいですし」
「そうか。となると、私はますます君から離れられなくなるわけだ」
食事のみならず、菓子まで私好みの味付けのものを給されたらもはやどうにもなるまい。
「うん、ぜーったい離さないから」
そして返事がこれなので、私は苦笑いを浮かべるしかない。
まあそんな反応をしつつも、私自身彼女から離れようとは思っていないので、ポーズのようなものだが。
ともかく、椅子に座ったヒミコの膝の上に座る。そのまま二人でレシピ本を開いた。
「コトちゃん、何か食べたいデザートってあります? ソフトクリーム以外で」
私が一等好む菓子を禁止されたのは、別にそれを作れないとか面倒だからとかそういう理由ではない。単純に、最近業務用のソフトクリーム用機械を入手したのでそれを寮にも持ち込んだからである。
つまりいつでも食べられるので、あえて作ってもらう必要はないのである。まあ共同スペースに設置する予定なので、残量は気にしなければならないだろうが。
「うーん、そうだな……」
ぺらぺらとめくられる本の中を順繰りに眺めるが、気になるものが多くて困る。相変わらず、この星の食文化は豊かだ。ざっと見た限り食べたことのないものはないのだが、だからこそ余計に決められない。
結局決められないまま最後まで行き、最初に戻って……を数回繰り返したあと、私は諦めることにした。用意する側にとっては面倒な話かもしれないが、すべて任せることにしたのである。
「んーん、気にしないで。じゃあ……そだなぁ、初日で材料もあんまり整ってないし、プリンにしよっかなぁ。どーお?」
「プリン……うん、いいと思う」
「ん、おっけー♡」
「カラメルは多めがいい」
「んふふ、お任せなのです」
そういうことで、ヒミコは早速調理場に向かいプリンを作り始めた。
私も一緒にそちらへ移動したが、調理には何一つ貢献できない身なので、共同スペースに持ち込まれたソフトクリーム機やマンガなどの娯楽品の確認を行うことにする。
なお、14Oは元々住んでいたアパートに戻している。何分あちらはまだ片付いていないからな。I-2Oともども、もう数日はあちらにいてもらう必要があるだろう。
と、そうして私のやれることがすべて終わり、プリンの蒸し工程中で多少暇をしているヒミコと談笑していたときであった。
「あれ、増栄さんにトガさん」
「二人とも早ぇーな!」
「もう終わったのか?」
オジロとカミナリ、それにショージが連れ立って共同スペースにやってきた。
「ああ。君たちもか?」
「おう! っつっても、俺は飯田たちに手伝ってもらわなかったらもっとかかってただろうけどな」
私の問いにカミナリが答えるが、そのイイダの姿は見えない。
この疑問には、オジロとショージが答える。
「ああ、委員長ならまだ部屋作り終わってない人を手伝いに行くってさ」
「俺たちも同行しようとしたのだが、一部はあまり部屋を見られたくないのか遠慮されてな。となると、部屋の広さからして人数が多いとむしろ邪魔になる」
「なるほど。まあ、自室というものはプライベートな空間だからな。抵抗があるものもいるだろう」
「それなー。……お? こんなとこにマンガの棚なんてあったっけ?」
ソファにカミナリが腰を下ろす。と同時に、私が設置した本棚を見つけて目を丸くした。
「私が家から持ち込んだものだ。部屋に置くスペースがなかったから、いっそ誰でも手に取れるようにと思ってここに設置させてもらった」
許可はもらっているよ、と説明すると、三人から少し驚いたような顔を向けられた。
「え、ってことはこっちのアニメとか映画のブルーレイが入ったのも?」
「ああ、私が持ち込んだ」
「マジ? 意外ー!」
「そうだな……お前はこの手のものには興味がないものと思っていた」
「言わんとしていることはわかる。まああれだ、この星の文化と人間心理の研究のためにな」
「えぇ? マンガで勉強になるもん?」
「意外とバカにならないぞ」
「……あー、言われてみれば確かに。マンガもアニメも映画も、わりと硬派なやつが多いね」
「納得した」
ショージの頷きに応じる形で頷いた私であった。
と、彼の視線が私からずれてヒミコに向かう。
「……トガは何を?」
「プリン作ってます!」
「プリン!? マジ!?」
ヒミコの返事に真っ先に反応したのは、カミナリだ。
「時間が余ったので。お菓子作ろうって思ったのです。ランチラッシュは基本デザートまではつけてくれないみたいですし」
「ひゅー! さすがの女子力!」
「すごいなぁ。でもなんか見た感じ、結構な量じゃない?」
「慣れてるのでー。大丈夫、みんなの分もちゃんとありますよぉ」
「ああ、そういえば合宿のときもすごかったね。なるほどなぁ」
「……そういうことなら、俺たちも楽しみにさせてもらおう」
そしてなぜか、三者三様ながら生暖かい微笑みを一斉に三人から向けられる私であった。本当、なぜだ。
「あ、そうそう。そこの機械はソフトクリームマシーンなのです。さっきセッティングしたばっかなので食べられるようになるまでもうちょっとかかると思いますけど、夜ご飯までには食べられるようになるはずですよ」
「え!? これが!?」
「なんでそんなのがあるの……」
「……ソフトクリーム……甘い菓子……まさか……」
ここで改めて、三人から生暖かい視線を向けられる私。だからなぜだ。
「んふふ、三人ともぴんぽんぴんぽんだいせいかーい。コトちゃんの大好物なので、持ってきちゃいました」
「マジか!? 剛毅だな!?」
「これどう見ても業務用だよね……? どこからそんなお金が……」
「……体育祭のときにお邪魔したときは、なかったと思うが……」
「言っておくが、私が購入したわけではないぞ」
具体的には、父上からの今年の誕生日プレゼントである。政治的な理由とはいえ、この歳で仮免許を得たことに対する褒美でもあるらしいが……いずれにせよ絶対に安いものではないだろうに、いきなりぽんと与えられて私も困惑した。
まあ、それはそれとしてありがたく頂戴したが……そういうわけなので、実はまだ手に入れてから二週間も経っておらず、何なら一度も使用したことがない。
「パパさん……さすがの元プロヒーローも父親なのね……」
「……八百万さんほどじゃないけど、増栄さんとこも結構なお金持ちなんだね」
「さすがは大発明家と言ったところか……」
彼らの様子から言って、やはりソフトクリームの業務用機械はやりすぎらしい。薄々そんな気はしていたが、父上はいわゆる親バカと呼ばれる人種なのかもしれない。
とはいえ、もらってしまったものは仕方がない。機械なので腐ることはないが、目的あって製造された機械を使わないでおくのはかわいそうだし、何よりもったいない。
別に、私がソフトクリームを堪能したいからではない。ないのだ、本当に。
「……まあそういうわけだから、みなソフトクリームはいつでも好きに食べて構わない」
「マジ!? いいの!?」
「ああ。だからこそここに置いたんだ。大丈夫、私の持ち物だからな。清掃や補充は私がやるよ。メンテナンスもな」
正確には、メンテナンス以外は14Oが、だが。
「やりぃ! 食えるようになったら早速試してみよっと!」
「……俺も、ちょっとほしいかな」
「コーンもありますよぉ。ここでーす」
「……用意がいいな」
「ソフトクリームはコーンと合わさって完成するものだと思っている」
みたび、三人から生暖かい視線が集まった。だから、なぜなんだ。
だが、このあと他の男子たちも次々に合流してきたのだが、そのたびに同じことを説明し、同じようなリアクションばかりを受けることになった。
「解せない」
「よしよし」
そしてむすくれる私の隣で、ヒミコがくすくすと楽しそうに笑っていたのだった。
改めまして、新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ、ボクとボクの作品をよろしくお願いいたします。
原作で二階部分に配置された女子がいなかったのは、絶対二階に峰田がいるからだと思ってます。
その周りも峰田に迎合しない、もしくは彼に対処できるであろう面々で固められてるから、A組メンバーの配置は相澤先生が意図して決めてるのは間違いないでしょう。
その上で本作ですが、原作より多い二人を峰田のいる階に配置した理由は、相澤先生の目から見て理波とトガちゃんだけは峰田が性的な目で見ていないと判断されたからです。
相澤先生はなんだかんだでちゃんと生徒を見てるので、そういう判断するだろうということで。
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