夜になってある程度経った頃。共同スペースにプリンがある旨の伝言を残して、私とヒミコは部屋に戻っていた。
そして二人で……その……あれだ、椅子に座ったまま身体を寄せ合って愛し合っていたときである。バクゴー以外のクラスメイト全員がこの部屋に向かってきていることに気づいて、私たちは取り繕うべく大慌てで身体を離して動き始めた。
首筋の吸血痕を増幅で治し、興奮状態になりつつあった身体をマイナス増幅(疑似のほう)で鎮静化させ、ものの弾みで乱れた机の上を片付け、ついでに念のため消臭スプレーを軽く振りまく。
一応言い訳をさせてもらうと、私は勉強をしていたのだ。しかしほどなくしてヒミコがしなだれかかってきて、けれどこれくらい邪魔になるわけでもなし、と抵抗しないでいたらいつの間にかずるずると……。
ともかくそういうわけで、片付けを終えた私は机に向き直り、開かれてさほど間を置かずに放置されていた参考書と問題集に改めてペンを向けた。
一方ヒミコは何食わぬ顔でカーペットに寝そべり、タブレット端末でレシピを検索する体を取る。
直後、部屋の扉がノックされた。
……危なかった。吸血の段階だったからすぐに対処できたが、これがその先まで至っていたらどうしようもなかっただろう。あと、クラスメイトたちが先にヒミコの部屋に行って反応待ちをしてからこちらに向かってきてくれていなかったら、間に合わなかった。立地に助けられた。本当に危なかった。
と、そんな焦燥などはおくびにも出さず、勉強する私の代わりという体でヒミコが出迎えに向かう。
「はーい?」
「あれ、トガっち?」
「なんでここにいるの?」
「遊びに来てたんですよぉ」
「そっかー、それで部屋におらんかったんや」
「……にしても、みんな揃ってどーしたんです?」
入口のほうに顔を向けてみれば、感じた通りバクゴー以外の全員が揃っているようであった。
とりあえず私もペンを置き、扉の方へ向かおう。
「あ、うん! 実は今、部屋王決定戦ってのやってて!」
「……部屋王?」
「なんだそれは」
「えっとねー……」
アシドとハガクレが語ったところによると。
クラスメイトの部屋を見て回り、誰のインテリアセンスが最も優れているのか競おうということらしい。男子棟は一通り見てきたので、今は女子棟を見に来たところだという。
「連絡は入れたはずなんだけど」
「届いてなかった?」
言われて端末を手に取ってみれば確かに、私にもヒミコにもメッセージが届いていた。
うん。そういうことを始めかけていたので、まったく気づかなかったわけだな。
「……すまない、気づいていなかった」
「ごめんなさーい」
「ああいいのいいの、こっちこそ押しかけてごめんね!
「でもさ、よかったら見せてほしいなーって! すぐ終わらせるからさ!」
歯を見せてにっと笑い、請うように手を合わせるアシド。これに応じて、ほとんどの人間が期待を込めながら頷いているようである。
まあ、別に見られて困るものはない。工房は少々企業秘密というか、漏れては困るものもあるが……それは主にコンピューター内の情報という形なので、見られることはないだろう。そもそも装置の外観を見ただけでどういうものか理解できるほど、工学方面に明るいものもいないはずだし。
「構わないが……私のインテリアセンスは大したものではないぞ」
と答えながら、部屋にみなを招き入れる。
「……ホントだ、案外普通って感じ?」
先頭切って入ってきたアシドが、わりと遠慮なく言う。なぜかオジロが嬉しそうだ。どうやら女性陣に色々と言われたらしい。私からは何も言うまい。
「どっちかっつーと、男子っぽくね?」
「地味だよね☆」
「自覚はしている」
私のこの言葉に、女性陣が食い気味にカミナリとアオヤマへ抗議する。私は別に構わないのだが。
しかしこういう扱いを見ると、今の私は実力どうこう関係なく、保護されるべき年齢なのだなぁと改めて思う。同時に、オジロのことも案じてやってほしいとも思うが。
「構わない。というか、カミナリとアオヤマの言わんとしていることは私も少々思っていたから、気にしないでくれ」
私くらいの女児であれば、ぬいぐるみなどが並ぶのが普通だろうか。少なくとも、色合いはもう少し華やかなのだろうな。それがきっと、普通なのだと思う。
しかし、その手の趣味嗜好については前世の男性性が残っているからか、最初から選択肢になかった。そもそも、ジェダイとしての感性がそういう飾りは不要だと判断しているということもあるし。
なので私の部屋で明確に飾りと言えるものといえば、デジタルフォトフレームくらいである。映し出されるのは、入学以来撮影する機会があったA組の写真だ。
「この写真、素敵ね。I・アイランドのときのものだけじゃなくて、他にも色々あるのね」
「ありがとうツユちゃん。まあ……なんだ、君たちとの時間は私にとってそれくらい有意義なものだということだよ」
「ケロケロ……どういたしまして。……ねえ理波ちゃん。この写真、いくつか分けてもらってもいいかしら」
「もちろんだ」
「あ、俺も欲しい!」
「私もー!」
と、そんなやり取りにキリシマらも便乗して少し盛り上がったのだが。
体育祭の打ち上げ時や、合宿直前の集合写真を見たアオヤマの心が、突然激しく乱れた。急にどうした?
そう思って、心配ゆえに心の中を少しだけ覗こうとしたが……動揺は直後に押し込められ、すぐに立ち上がった心の壁に拒絶されて失敗した。
この壁は“個性”ではない。これは内心を必死に守ろうとしている人間の反応だ。ジェダイに読心能力があると知った人間……特に後ろ暗いものがある人間は、こういう反応をするものが多い。
実際にはよほど油断か信頼をしている相手、もしくは取り乱している相手でないと明瞭に心を読むことはできない。だからこういう過剰な反応こそ、何か後ろめたいものがあると教えているも同然なのだが。
しかし、以前はアオヤマからこんなものは感じなかった。一体何を隠しているのだろう?
あるいは、以前から秘めたことはあったが、心境の変化などによって隠しきれなくなったのか。きっかけが写真というのはよくわからないが。
ただ、これ以上やろうとするのは難しい。人知れずできることでもないし、クラスメイトを疑うのもあまりやりたくはない。
いずれにせよ、大勢の前で明らかにしていいことではないだろうし、しばらくは様子見かな。
この件は一旦私の内にしまっておくとして、話を戻そう。部屋の内装についてだ。
私の部屋で一番スペースを取っているものはベッドだが、ロフトベッドを採用している。フレームは落ち着いた色合いの木製で、荷重は二人で
代わりと言っては何だが高さは低めであり、ヒミコが立ち上がっても天井にはかろうじて頭は届かない。またベッドの下にはテレビと周辺機器、あとは細々とした小物を収めた棚が置いてある。
反対側には勉強用の机が置いてあるが、ここに収まっている椅子は最高品質の逸品だ。長時間座っていることを想定したものであり、テレビを見るときはこれの向きを反転させるのだ。
ちなみにこれもヒミコと二人で使うことを想定しているので、かなり大きめである。あくまで一人用ではあるので、二人で使うときは先にした通りヒミコが座り、私はその膝に座る形になる。先ほどはその状態で、その……うん。
……あとは、本棚が二つ。本棚の中身は色々あるが、その大半はデータで販売されていないものだ。それ以外は実家に送ったか、共同スペースに移したか、データで保管している。
「思ってたより本が少ないと思ったら、そっかデータかー!」
「本はいいものだが、スペースを取るからな。可能な限りデータで所有することにしているんだ。データのほうが慣れているということもあるが」
「電子時代の申し子……」
「なるほど、電子書籍か……両親に相談するべきか? 俺も本が場所を取ることは気にしていたんだ」
「飯田くんの部屋、本でぎっちりだったもんね……」
「メガネもいっぱいやったけどね!」
「私も検討してみようかしら……」
「ヤオモモの部屋も本いっぱいなイメージある」
「それなー」
ああ、確かにそれは目に浮かぶようだな。
「……ところで、ミネタは何をしているんだ?」
「さあ?」
「アイツの考えることはたまによくわかんねーんだよな」
「まあでもいつもの峰田だろ」
部屋の入口で立ち止まったまま、目をふさいでいる峰田である。何がしたいんだ。
いや、彼からは「百合の間に挟まるわけにはいかない」という強固な意思が漏れ出ているのだが、その意味がよくわからないのである。相変わらずと言っていいのかもしれないが、彼の思考が少しわかったかと思えばこれである。彼のことを真実理解できる日は、来ないのではないだろうか。来てもそれはそれで困りそうだが。
「ところで、そろそろツッコみたいんだけど……」
と、ここでジローが声を上げた。彼女の視線がこちらに向いたが、身体はこちらを向いていない。
彼女が向いているのは、他の部屋にはないであろう扉だ。
「……この扉、何?」
「ああ、そこは工房だ」
『工房!?』
全員がざわついて、私を凝視してきた。そう驚くことだろうか。
「私はサポートアイテムにまつわるライセンスも取ろうとしているからな。マスター・パワーローダーが後押ししてくれたんだ。作業部屋は持っていたほうがいいとな」
「お……おお……なる、ほど……?」
「えっ、いや、待て待て、それってつまりサポート科を兼ねるってことか!?」
キリシマの言葉は訂正するほど間違っていなかったので、うんと頷く。
すると、全員が改めて驚きの声を上げた。そうしてひとしきり驚いたあとは、感情が一周回ったのか感嘆のため息があちこちから漏れ聞こえるようになる。
うん……やはり、ヒーロー科とサポート科の兼任は相当に難易度が高いのだろうな。
だが前代未聞ではないのだよなぁ。父上がそうだし、パワーローダーもそうなのではないだろうか。
「増栄さんは本当にお父さんを尊敬しているんだね……!」
なおミドリヤは普段通りであった。まあ、こちらも訂正するほど間違ってはいないし、構わないのだが。
「な、なあ、中って見てもいいもんか?」
「構わないが……不用意に触れるのだけはやめてくれ」
どこかワクワクした様子のキリシマに頷いて、私は工房の扉を開けた。
「お、おお……!」
「これはまた、なんとも……」
「パソコンがたくさんある……」
「よくわかんないけど、機械もいっぱいだぁ!」
「すっげぇ、なんか秘密基地みたいでわくわくすんな!」
「まばゆくはないけど、浪漫はあるね☆」
「サポート科の寮って、もしかしてこんな感じやったりするんかなぁ」
工房の中を見渡して、みなが口々に言う。
サポート科の寮についてはわからないが、工房は大なり小なりこんなものではないだろうか。というか、ある程度文明の形態が近いのであれば、どの星でも同じようになると思う。
「見たところ、作りかけらしき機械がありますわね。あれはサポートアイテムですの?」
と、ここでヤオヨロズが声をかけてきた。床に無造作に置かれている失敗作を示しながらだ。
工房内にはいくつか異なる種類の機械が置いてあるが、彼女が示したものは……。
「いや、あれは試作品の失敗作だな。必要なデータは取れたから、あとは解体して使えるパーツを回収している途中なんだ」
「試作品の失敗作って……随分と大きい機械だけど、何を造ろうとしてるの?」
私の回答に、ミドリヤがこちらを見ることなく問うてきた。彼は見下ろす形で失敗作をまじまじと眺めている。
「リパルサーリフトだ。だがエネルギーの確保で折り合いがつかなくてな」
いまだ核融合に到達していないこの星の技術では、リパルサーリフトを安定的に動かすことは難しい。ただ動かすだけなら一応なんとかなるが、大量の電力をとんでもない勢いで消費してしまうのだ。
ドロイドやライトセーバーを造ったとき、併せてパワーセル(銀河共和国のエネルギー蓄積装置。地球の電池とは比べ物にならない)も開発しているのだが、それでは足りない。充電式にしようとすると、今度はかさばる。過剰な大型化を避けた上でリパルサーリフトを満足に動かすためには、エネルギーを生み出すジェネレーターがどうしても必要不可欠なのだ。
そもそもの話、リパルサーリフトはただ浮揚するだけの機械ではなく、推進装置もセットで語られるものだ。それを乗り物……リパルサークラフトにしようとすると、相応のエネルギーを必要とするのである。
が、さすがの私もこれはどうにもならない。
絶対に造れないとは言わないが、燃料がな……。調べた限り地球にはプラズマ資源がないので、造ったとしても稼働させられないのだ。いやまあ、あったとしても採掘・精製する技術も機材も人手もないのだが。
おかげで飛行機に代わってリパルサークラフトを普及させようなど、夢のまた夢と言わざるを得ない。となると、この際核融合を実現させるしかない……が、そんなことをしている時間はないので、ひとまずリパルサーリフトを組み込んだ担架から始めようと結論づけたのが昨夜のことである。
「りぱるさーりふと?」
「細かい説明は省くが、要するに反重力装置だ」
『うええ!?』
私の説明に、男性陣がどよめいた。そういえば、彼らには話したことはなかったか。
一方、生暖かい目を向けてきたのは女性陣である。
「あーっ、I・アイランドのとき話してたやつだ!」
「ケロ。本当に着手していたのね」
「それほど飛行機がお嫌だったのですね……」
「有言実行の女だなぁ!」
そしてこの言われようである。
この反応に何かあるらしいと察した男性陣が目を向けてきた。
「増栄ちゃんね、飛行機が苦手なんだって」
「苦手なのではない。信用できないだけだ」
「いや、だからって色々飛び越えていきなり反重力装置はさ……こう、ネズミ退治に地球破壊爆弾持ち出すようなものでしょ……」
「ぐぬ」
ジローの言葉に思わずひるむ。私はそこまでのことをしているだろうか。本当に?
思わずヒミコに振り返る。彼女はくすくすと笑っていたが、慈愛の微笑みを浮かべると私の頭を優しくなでる。
「だいじょぶですよぉ。コトちゃんはただ、安心安全な乗り物を作ってあげたいだけだもんねぇ。立派ですよぅ」
「う、うん……」
そうだよな?
私は別に、そんな子供じみたことなどしていないはずだ。うん、そのはずだとも。
よし。
ということで、改めてみなに顔を向ける。
が、その先では、なぜか微笑ましく私を見つめる女性陣の姿が。
本当になぜだ。転居してまだ半日程度しか経っていないのに、なぜかくも私は愛玩される幼児のごとき扱いを何度も受ける羽目になっているのだ?
これからの共同生活が、少し不安になった私であった。
【没ネタ・部屋王決定戦に理波たちが最初から参加していた場合の話】
「楽しくなってきたぞ! あと二階の人は……」
三つの部屋を確認し、目に見えて楽しそうなウララカはそう言いつつ、途中で言葉を切った。
彼女が続きを言うまでもなく、この場の全員がそちらに気づいていたからだ。
全員の視線が向かう先。そこには扉を開け放ち、顔だけを覗かせているミネタの姿が。
「入れよ……すげえの……見せてやんよ」
彼は目を血走らせながら、人差し指をくいくいと動かして誘ってくる。
が、その誘いを受けるものはいなかった。いないどころか、全員が完全に無視を決め込む始末である。
「三階行こう」
「うん」
「入れよ……なァ……!」
それでもなおすがろうとする彼の姿があまりにも哀れだったので、私はため息をつきながらもそちらに身体を向けた。
「ではお邪魔しよう」
『……え!?』
すると途端に全員が驚愕の顔を浮かべて私を見た。そして固まった。
……なぜだ。というか、誘った側のミネタも硬直しているのはどういうことだ。
「ちょ、やめときなよ増栄。どうせろくなもんないって」
「どうだろうな? 実際に見てみなければそれはわからないだろう。この星ではシュレディンガーの猫というのだったかな」
「それはそうかもだけど……」
ジローにそう返しつつ、私はミネタのほうへ向かう。
彼の顔色が、思考に同期してコロコロと変わっている。思考が乱れているせいで、どういう心境なのかはわからない。
わからないが、誘われているのだから別に中を見ることに問題はないだろう。そう思い、私がミネタの横を通過しようとしたときである。
「ヤメロオオォォォ!!」
当のミネタに、凄まじい勢いで部屋から遠ざけられた。
「やめろ! ダメだ!」
「なぜだ。君から誘ったんじゃないか」
「ダメだ! お前にはまだ早い!」
拒絶するような物言いだが、そこにはある種の義務感というか使命感が垣間見える辺り、彼もやはり一応はヒーロー志望か。まあ、最初から誘わないでもらいたかったところだが。
しかし彼の思考の意図がある程度わかるのは、やはり私が性経験を得てしまったからだろうなぁ……。彼の部屋にはきっと、その手のものが大量にあるのだろう。
「さすがの峰田も、十一歳児にエロコンテンツを見せびらかさないだけの理性はあったか……」
「いや、すごい葛藤してたよ」
「結構な時間悩んでたよね、アレ」
「顔もすごかったよねぇ」
「ケロ。百ちゃん、判定は?」
「……執行猶予つきで有罪、でしょうか」
『異議なし』
そんな私の後ろでは、女性陣が判決を下していた。
なお、ヒミコは「峰田くん、何か使えそうないい道具とか持ってないですかねぇ」などと末恐ろしいことを考えながら、ニコニコと無言で立っていた。
【没ネタ終わり】
ボクも勘違いしていたのでここで改めて訂正の説明をするのですが、
リパルサーリフト:リパルサーフィールドという反重力放射によって物体を浮揚させる技術のこと。
リパルサークラフト:リパルサーリフトを利用した乗り物のこと。リパルサーリフト・クラフトとも。
らしいのですね。
つまり、リパルサーリフトが反重力装置、リパルサークラフトがそれを積んだ乗り物、という感じで。
なので、過去の話でこの単語が出た回を修正してあります。
わかりづらくて申し訳ないのですけど、スターウォーズの設定はそうなってるので、仕方ないのです・・・。
スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?
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あるならまあ読む
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あんまり気が乗らない
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いらない