朝が来た。いつも通り、アラームが鳴る前に目が覚めた。
端末に手を伸ばしてアラームを切りながら、身体を起こす。はらりと落ちた薄い掛布団から、隠すものなき上半身が露わになる。
そうして伸びをして。次いで隣に目を向ければ、そこには全裸のヒミコがいた。
もちろん、と言うべきか。私も上半身のみならず、下半身も隠すものは何もない。
そんな己の身体をちらりと見て。
「……結局こうなるのだな」
私は思わず、ため息交じりにひとりごちた。
まあ、うん。そういうことである。昨夜、部屋王決定戦とやらが終わって少ししてから、改めて押し倒されたのだ。で、そのままなし崩し的にこうである。
どうも私の意思は豆腐よりも貧弱らしい。以前に私は、ヒミコに求められたら拒めないだろうと推測していたが、その通りだったということである。
「……ヒミコ、起きろ。朝だ」
しかしともかく、朝である。今日からまた学校に通わなければならないのだから、動かなければ。
ベッドは……まあ、初めて致したときよりはだいぶマシか。あの日ほど長時間しなかったのもあるが、脱ぎ捨てた服を重ねて下敷きにしたのが功を奏した。今後はここに、バスタオルなどを用意すればより良いだろうか。
ただ、全身がべたついていて見た目的にも臭い的にも、人前に出られない状態であることには変わりない。これは、風呂だな。朝風呂は身体に悪いらしいから、シャワーか。
しかし朝食の時間も考えると、悠長にはしていられない。
「んむぅ……コトちゃぁん……」
「ああもう、ほら、起きたまえ。そういうことは昨夜十分したじゃないか……」
「んー……」
まだ半分ほど夢の世界にいるヒミコが、抱き着いてきた。
そのまま離れようとしないので、仕方なく彼女を抱き上げると、そのままベッドから飛び降りる。そうして脱ぎ散らかしていた昨夜の寝巻きを簡単にまとって着替えを取り、一路風呂場へ向かった。
まだほとんどが寝ている時間帯だ。例外は朝からランニングに出たミドリヤ、それにクラス一真面目なイイダくらいだから全裸のままでもいいかと一瞬思ったが、私はともかくヒミコの裸を余人に見られる可能性は排除せねばなるまい。
そうして私は、夢うつつなヒミコを風呂場に連れ込み共にシャワーを浴び、身支度を整えたのであった。
「やあ増栄くん、渡我くん、おはよう! 早いんだな!」
そして風呂場を出たところで、イイダと出くわした。彼は早いと言うが、彼自身も十分早い。
「おはようございまーす」
「ああ、おはよう。寝汗をかいてしまったのでな、少し早めに起きてシャワーを浴びていたんだ」
「なるほど! エアコンがあるとはいえ、日本の夏は暑いものな!」
と、さも何もなかったかのように振舞いながら言葉を交わし、食卓へと向かった私たちなのであった。
ちなみに昨夜の部屋王決定戦では、セロがその玉座についた。なので、昨夜ヒミコが作って余っていたプリンを朝食のデザートとして進呈しておいた。
まあ、なぜかセロからは申し訳ないからと返されたのだが。彼はあまりプリンが好きではないのだろうか?
***
さて、食後は登校である。
世間的には夏休みなのだが、他科よりも必要な授業の数が多く設定されているヒーロー科は夏休みが短い。何より、中断を余儀なくされた特訓を再開しなければならないということで、例年に輪をかけて短い夏休みとなっているのだ。
そういうわけで、さほど久しぶりという気がしないA組教室にて。教壇に立ったマスター・イレイザーヘッドと、私たち生徒は対面していた。
「昨日話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」
『はい!』
「ヒーロー免許ってのは人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。仮免と言えどその合格率は例年五割を切る」
「仮免でそんなきついのかよ……」
イレイザーヘッドの淡々とした説明に、ミネタのおののく声が聞こえた。彼と同じような感想を抱いたものも、それなりにいるようだ。
「そこで今日から君らには、最低でも二つ……――」
まあ、イレイザーヘッドは生徒のそんな心境には斟酌しないのだが。
彼はやはり淡々と説明を続けながら、ここでふと扉のほうに視線を向けつつ指を動かした。
すると扉が勢いよく開かれ、ミッドナイト、エクトプラズム、セメントスの三人が威風堂々と入ってくる。
「――必殺技を作ってもらう!」
そして同時に放たれたイレイザーヘッドの言葉に、クラス全体がどっと湧いた。
『学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァァ!!』
……後者はともかく、前者はそうだろうか? 学校とは、それほどまでに必殺技と縁深い場所だったろうか?
「必殺技! コレスナワチ必勝ノ型、技ノコトナリ!」
「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とは、いかに自分の得意を押しつけるか!」
「技は己を象徴する! 今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
だが私が首を傾げる間もなく、教師陣が次々に言葉を紡いでいく。
「詳しい話は実演を交え、合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館ガンマに集合だ」
というわけで、私たちは体育館ガンマへとやってきた。
ここでイレイザーヘッドからされた説明は、主に合宿のときに私とバクゴーにされたものと同じであった。すなわち、それを使えば戦況を動かせる技、型こそが必殺技であり、それを作れと。
ゆえに、与えられた課題も同様である。だが“個性”伸ばしの特訓だった合宿は中断されてしまっているので、私とバクゴー以外は”個性”伸ばしの訓練も並行する形となった次第だ。
ちなみに、合宿のときに私たちの相手をしたB-8Tも動員されていた。試作した技を試す相手はエクトプラズムの分身体がいるので困らないが、一定のダメージを与えると消えてしまうので、本気のスパーリングをするとき専用という感じだ。
まあタイプティーチングであるからして、それ以外にも戦闘に関する立ち回りを指導することもできる。その手の情報はすべてインプットされているから、教師陣と一緒に生徒を見て回るようだ。
と、言ったところで私であるが……実のところ、マイナス増幅のために“個性”を伸ばす段階から抜け出せていない。そのため、基本的に食事と“個性”発動を延々と繰り返している状態だ。なので、発動機序が似ているヤオヨロズと同じ場所で訓練を繰り返すこととなった。
一応、ライトセーバーの光刃を伸ばして行う遠距離攻撃は、必殺技として認定されたようなので最低限のノルマはクリアしていると言えるが……そちらはメインではないので。
「やってるねぇみんな!」
と、そこにオールマイトがやってきた。
「私が――呼ばれてないけど今日は特に用事もなかったので、来た!」
つまり暇だったらしい。まあしかし、トップヒーローが暇なのはいいことだ。
彼はそのまま教師陣に合流し、生徒一人一人にアドバイスをして回るようだ。彼の普段の授業風景を見るに、彼のアドバイスがどこまで有効かは少々あやしいところがある気もするが……そうは言っても、大抵の子供が憧れるトップヒーローだ。彼から直接声を掛けられ、状態を見てもらえるというのはモチベーションに繋がるだろう。
「増栄少女はどんな必殺技を考えているんだい?」
「増幅をマイナスに作用させることが直近の目標ですね。これができれば、敵の無力化も捗るはずなので」
「なるほど、それは確かに必殺技だ。完成が待ち遠しいな! うん、既に方向性が固まっているなら私が出る幕はなさそうだ」
私とはそんな会話だけで終わった。彼の言う通り私は目標がはっきりしているので、今回ばかりは彼の教え方がどうこうという話ではない。
と、思っていたのだが……。
「……今日の授業が終わったら、一人で仮眠室まで来てくれ。話がある」
「……? はい、了解いたしました」
別れ際に、彼はそんなことを耳打ちしてきた。
はて、私に何を話すつもりなのだろう。一人で……ということは、オールマイトの秘密に関わる何かだろうか。
……まあ、それはそのときになればわかることか。今考えても仕方あるまい。
ということで、私はその後訓練に集中し、時間いっぱいまで己を鍛え抜いたのであった。
***
必殺技開発訓練は、午前で終わりとなる。会場となる体育館ガンマは一つしかないし、そのフィールド形成を担うセメントスが一人しかいないので、午前と午後でA組B組を振り分けているのだ。ちなみに順番は日替わりである。
では午後は何をするのかというと、自主訓練であったりコスチュームやサポートアイテムに関して考える時間となっている。このため、私はサポート科のマスター・パワーローダーに直接顔を合わせて挨拶するために、ヒミコとハガクレを伴って彼の工房へ向かうことにした。
「おーいみんなー! 工房行くんだよね? 一緒に行こ!」
「もちろんだよー!」
「わーい、お茶子ちゃん! 一緒に行きましょー!」
その道行きに、ウララカとイイダが加わった。
「君たちもコスチュームやアイテムについて相談かい?」
「いや、私はアイテム開発についての話だな。ヒミコはただの付き添いだ」
「なるほど、君たちはある意味完成しているものな……」
「ハガクレは逆に、コスチュームの相談らしいがな」
「うん。私ね、“個性”が成長して触ってるものも透明化できるようになったから、色々付け足したくって!」
「すごいじゃないか! うん、葉隠くんのコスチュームは……最初に比べれば不安は薄れていたが、それでも色々と心配だった。付け足すのは俺としても賛成だぞ」
イイダが高速で、しかし視線を逸らした状態で何度も頷くのに連動するような形で、ウララカも頷いていた。気持ちはわかるので私も、さらにはヒミコも似たように頷く。
今まで触れる機会がなかったのだが、実はハガクレのコスチュームは最初期の「手袋とブーツだけ」の状態から、髪由来の繊維を用いた最低限の衣服が追加されている。確か六月の半ばからだったか。
このため今の彼女の格好は痴女ではないのだが、それでも使える素材が限られていたこともあって、コスチュームの選択肢は決して広くなかった。“個性”が成長したことで、露出度がもっと下がるといいのだが。
「ねぇねぇ理波ちゃん、ちょっと相談あるんだけど……いいかな?」
「ん? なんだ?」
と、話が一段落したタイミングでウララカが声をかけてきた。
「あのね、実は理波ちゃんのお父さんにアドバイスもらえないかなって思ってるんだけど、いい……かなあ?」
「父上に? どうしてまた」
私は首を傾げる。意図がよくわからなかった。
「うん、あのね? 必殺技についてなんだけど……今のところは自分自身を浮かす方向でがんばろうと思ってるんだ」
「機動力を底上げするためか?」
「うん。だけどね、さっき授業中にエクトプラズム先生から、他に選択肢はあるのかって聞かれて……思いつかへんかったんよね……」
「まあ君の場合、まず相手に触れられるところまで近づかなければならないからな」
「うん。エクトプラズム先生も、思いつかないなら今あるものを伸ばそうって言ってくれたんやけど……本当にないんかなって思って。選択肢がある中で選んだのと、それしか選べんかったのって、似てるようで違うやん? でね、そんとき思ったんよ。理波ちゃんのお父さんって、そういえば重力ヒーローやったなって」
「確かに、父上の“個性”は重力操作だ。なるほどそれでか」
父上の場合、重力をゼロにすることはできない。しかし増やすことと減らすことはできる。汎用性という意味では、ウララカの上位互換のようなものだ。
そんな“個性”の持ち主である父上から、果たしてウララカに適用できるアイディアが出るのかわからないが……聞いてみて損はないだろう。
「わかった。では今夜、取り次いでみよう。だが、実のある回答が得られるかはわからないぞ。そこは覚悟しておいてくれ」
「うん、わかってる。そんときは素直に諦めるよ」
「ん、ではあとで私の部屋まで来てくれ。タイミングはあまり遅くならないうちであれば、いつでも構わないから」
「ありがとう、理波ちゃん!」
と、話が一段落したところでちょうど目的に辿り着いた。校舎一階に設けられた、マスター・パワーローダーの工房である。
が、そこには先客の姿が。
「あれ、デクくんだ」
その先客の姿を見とめた瞬間、ウララカの心境が一気に変わった。表情もだ。
嬉しそうな笑みを浮かべて、彼女は駆け出す。イイダが廊下で走るなとそれを制そうとしているが……今回ばかりは野暮というものだろう。
「いないと思ったら! デクくんもコス改良!?」
ウララカのその言葉を受けて、ミドリヤも我々に気がついた。
彼は工房の扉に手をかけたところでこちらに顔を向け……って、いけない!
「ミドリヤ、危な――」
――そして彼は私が介入する間もなく、工房から発生した爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。
瀬呂くんがプリンを受け取らなかったのは、渡されたときの理波の顔が(´・ω・`)だったからです。
ところでボクはデク茶を推しておりましてね。
いやまあ、トガ茶も推していますけれども。
そういうわけなので、以前どこかで書いたかと思いますが、百合のみならずこの二人を絶対にくっつけてやるぞという意思の下で本作を書いています。
いずれはダブルデートとかさせたいですね。ヒロアカのストーリーライン的に、このあとそういうことさせるだけの余地が社会からどんどん消えていくのがつらいところですが。
スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?
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