結論から言えば、ミドリヤは無事だった。中にいたマスター・パワーローダーやハツメも大した怪我はなかったので、爆発の威力は上手く逃がせていたのだろう。
ただ、それによって吹き飛んだハツメがミドリヤを押し倒す形になったことで、心穏やかではいられないのがウララカである。彼女は能面のような顔で、ミドリヤの背中を見つめていた。
一方、ハツメの豊満な胸を押し付けられる形になったミドリヤもだいぶ取り乱していたが、こちらは単に男性的なあれそれだろう。私も元男として、気持ちがまったくわからないわけではない。
とはいえ、ハツメにそういうつもりは欠片もなく。彼女はあくまで機械いじりにしか興味がないようで、ミドリヤに対してもそっけなかった。
……というかハツメ、体育祭でそれなりに接点があったはずのミドリヤたち三人の名前すら覚えていなかった。いくらなんでもあんまりだと思うが、パワーローダーいわく「彼女は病的に自分本位」とのことなので、誰に対してもそんな感じなのだろう。
それでいて、ミドリヤの口からコスチュームやアイテムの相談が出るや否や、それまでのそっけない態度を翻してミドリヤに迫る勢いである。繰り返すが、いくらなんでもあんまりだと思う。
とはいえ、興味を持てる分野では天才的な素質の持ち主なのだろう。その流れの中で口に出された提案は、どれもなかなか興味深く……思わず私も身を乗り出してしまった。
まあ、この件に関してはパワーローダーの仕事だ。もちろんサポート科の生徒であるハツメが、関わってはいけないというわけではないが……それでもパワーローダーの許可は必要なわけで。主導はあくまでパワーローダーである。
ハーネスを限界まで伸ばしてなお前に行きたがる犬のようなハツメをなだめつつ、パワーローダーがコスチュームの改良やアイテム作成に関する説明を行う。それは合宿のときに既に聞いた話だった。
要するに、コスチュームを一定以上変える場合はしっかりとした書類を作り、国に申請する必要がある。ただ、求める機能と身に着けた際の機能性を両立するデザインを考えるのはそれ専用の事務所が行うことであり、申請自体はそうした事務所が行うという話だ。
サポートアイテムを増やすだけ、あるいはわずかな変更くらいならライセンスを持っていれば誰でも申請できるので、パワーローダーに任せればいい。父上でも可。
つまるところ、パワーローダー自身はどちらかというとサポートアイテムの開発がメインなのだろう。デザインについてもできないわけではないが、そこまでやろうとするとヒーローや教員としての時間が取れなくなってしまう、とのことだった。
「その辺はバンコもそうだったな」
「でしょうね」
ヒーローと開発者の二足のわらじは、それだけ負担が大きいということなのだろう。
「……ま、説明はそんなところかね。で? 誰からやる?」
説明が終わり、パワーローダーが問う。これに応じて、特に求めるものがない私とヒミコはミドリヤたちに目を向けた。
一方四人はというと、互いに視線で何度か譲り合ったものの、最終的にミドリヤが折れるような雰囲気で最初に口を開いた。
「えっと、僕は身体に負担がかからない、もしくは減らせるものが欲しいんですけど……まずは、少し前に伝手でいただいたサポートアイテムがあるので、これをサポートアイテムとして登録したいんです」
そう言って彼が取り出したのは、赤い腕輪だった。だがその縁にあったスイッチを押すと、腕輪は瞬く間に右腕を覆う籠手へと変じる。
見覚えがあるアイテムだ。確か、シールド女史が開発したフルガントレットだったか。I・アイランド事件のとき、ミドリヤに譲られたものだ。
まあ、あのときは結局使う機会がなかったのだが……どうやらそのまま持ち帰ってきていたらしい。
「ただ一つしかないので、現時点では右腕にしか装着できなくて……可能ならこれと同じようなものをもう一つ……贅沢が許されるなら脚にもほしいなって……」
「ああ、緑谷くんはインファイターだったね。そいつの性能や仕組みに関しては取説を見せてもらうとして……方向性としては、全体的に『身体に取りつける』感じかな?」
「そうですね。あ、でもあまり動きを制限するようなものや、今とかけ離れたデザインはなるべく避けたいっていうか……」
「フム」
「なるほどなるほど?」
と、要望を口にしたミドリヤに、パワーローダーが頷くのと同時。
ミドリヤの後ろからぬっと現れたハツメが、輝くような生き生きとした顔で、ミドリヤの全身を舐めるように撫でまわし始めた。異性への耐性が希薄なミドリヤは、突然だったことも相まってすごい表情で固まってしまう。顔も赤い。本当に耐性がないな……。
あと、それを目の前で見せられることになったウララカの顔色はなかなかに悪い。分類としては笑顔なのだが、ものすごく絶望的な雰囲気がある。
「は、発目さん……? 何を……?」
それでも声をかけに行くのだから、彼女の対人能力はミドリヤの比ではないのだろう。まあ声はとても固かったが。
なおそんなウララカの様子を見て、ヒミコとハガクレが「恋だ」のなんだのと小声で話し合っていた。私にはよくわからないが、二人にとっては興味深い話題なのだろう。合宿のときの女子会でもそうだったし。
と、それはともかく。
「フフフ、身体に触れているんですよ」
「ウララカの言いたいことはそういうことではないと思うがなぁ」
私は思わず声をかけてしまったのだが、無視された。なるほど、「病的に自分本位」か。
「はいはい……見た目よりがっしりしてますね。フフフいいでしょう、そんなあなたには……」
そしてハツメが持ってきたものは、金属製のサポーターだった。ただしその趣はパワードスーツのようだ。だいぶごつい。装着したら、その下のものは覆われてしまって何も見えないだろう。
ハツメはそれを、ミドリヤが唖然としているのをいいことにあっという間に装着してしまった。彼の腕にはフルガントレットが既に着いていて、下半身にしか取りつけなかったとはいえ、なんともまあ手の早いことだ。
「……増栄くんが兄さんのために造ってくれた下半身用パワードスーツに似ているな」
実際に取りつけられた様を見たイイダが、顎に手を当てながらつぶやいた。
私も頷く。
「そうだな。まあ、人間用の補助器具を造ろうと思えばどうしてもデザインは近くなる」
「ほう!? その話とても気になりますね!」
が、そこにハツメが割って入る。さすがにアイテムの調整をしている状態でこちらに寄ってくることはなかったが、目が爛々と輝いている。
「私が造ったものは、脳からの電気信号を感知して直接動きを補助するものだ。下半身不随になった人間用だから、健常者を強化するそれとはコンセプトが違うぞ」
「なるほど、確かに違いますね! ちなみにこちらは筋肉の収縮を感知して動きを補助するものでして!」
「ふむ、つまり少ない動きで最大限の運動効果を得ようという考え方か。だが本来は全身を覆うタイプと見受けたが……」
パワードスーツを部位ごとに使えるように、多少無理にでも分解したような形跡が見えるのだ。ごく一部だが、塗装が他とわずかに異なる部分がある。
「え、ま、増栄さん?」
「あっ、コトちゃん……」
「その通りです! 部分ごとに分解することでピンポイントでも効果を発揮できる小回りのきくハイテクっ子ですよ! 第49子を改良した第58子です! フフフフフ!」
「ということは、パワードスーツとして使っていても損傷には強いのではないか? 一般的にこの手のものは全体が繋がっていて初めて効果があるものが多いが、バラけても稼働するならダメージコントロールとして有用だろう」
「その通りです! 自信作です!」
「アイディアとしてはわかるが、実際に形にするとは……やるなぁ。この星の技術力では簡単にできるものではないだろうに」
なかなかどうして、この星の人間もやるではないか。
いや、そもそも地球人と共和国人の間に、生物としての能力差はさほどないのだろう。
であれば、この手の技術は歴史の積み重ね次第。銀河共和国には宇宙に進出してからの歴史が千年以上あって、その下にも相応の歴史があったのだから、むしろ彼我の差は当たり前のこと。その中でこれほどのものを造って見せたハツメは、間違いなく銀河共和国にいたとしても大成していただろうな。
私はそう思いながらミドリヤに近づき、その下半身を覆うスーツをまじまじと眺める。素材は……塗装がある分わかりづらいが、アルミがメインの合金だろうか?
「……よし、ミドリヤ動いてみてくれ。実際の稼働状態を見てみたい」
「え!? とめてくれるんじゃないの!?」
「? 何を言っているんだ、こんな素晴らしい装置を試さない手はないだろう」
「その通りです! ……フフフ、どうやらあなた、わかる人ですね?」
「それほどでもない」
***
困惑しっぱなしの緑谷をよそに、あまりにも自然に発目と盛り上がり始めた理波を見たトガは口をとがらせた。
「あーあ、スイッチ入っちゃったのです……」
「スイッチ?」
「コトちゃん、機械いじりが趣味だから……。サポート科兼任も趣味の一部みたいなとこあるのです」
「ああうん……飛行機がイヤで反重力装置造ろうとするくらいだもんね。納得」
「……まさかとは思うが、増栄くんも発目くんと同じようなことを……」
「ちゃんと迷惑にならない範囲で収まるので、あんな子と一緒にしないでください! ……まあでも、それはそれとして、ああなったコトちゃんをとめるのは難しいのです……」
「確かにお目々がキラキラしとるね……」
「そうなのです……とっても楽しそうにするので、とめづらいのですよ……」
はあ、とため息をつきながら、トガは麗日に頷いた。
正確に言えば、とめる方法はある。後ろから近づいて、首筋に「かぷっ」として「チウチウ」すればとまる。
だがそれをやると、色々とまずい。二人きりならいざ知らず、人前でやるわけにはいかない。この世界線のトガには、それを自重するだけの常識はあった。
「くけけ……増栄が発目を引き付けてくれている間に話を進めよう」
そしてパワーローダーには、理波たちをとめるつもりなどまったくなかった。
野放図に機械を造っては騒動を起こし、周囲のことなどろくに気にしないのが発目明という人間だ。開発者としての技術や思考力は群を抜くが、人間性はそれに反比例している。ゆえにパワーローダーも、その扱いにはだいぶ困っていた。
だがあの合宿のとき、理波とリモートで会話をしたときから、予感があった。発目に匹敵する能力を持ちながら、常識をわきまえている理波なら、あるいは発目を御せるのではないか、と。御せずとも、しばらく注意を引き付けておくことはできるのではないか、と。
要するに「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」という発想だが、どうやら功を奏したらしい。発目はすっかり理波と議論に夢中であり、面倒なことを起こす気配はまったくない。
巻き込まれた緑谷については申し訳ないと思うが、発目との縁故は将来的には大きな意味を持つだろう。彼女にはそれだけの価値がある。ここは耐えてほしい。
ショベルカーのような仮面の下で、パワーローダーは神妙な顔をしつつ誰にともなく小さく頷いた。
「で……えーと、君は飯田くんだったね。君はどうしたいんだい?」
「え? あ、はい……俺は脚部の冷却器を強化していただきたいなと……」
パワーローダーが気にせず話を進めるので、本当にあちらはいいのかと緑谷のほうをちらちら見ながら、飯田が口を開く。
「なるほど。それならできる……できるけど、それに頼り切りになる可能性は否定できないね。“個性”の強化も並行したほうがいいよ」
「は、それでしたら家族がみな似たような“個性”なので、今日の放課後にでも効率のいい鍛え方はないか確認しようと思っていたところです」
「当てがあるならいい。じゃ取説見せて」
「こちらでよろしいでしょうか?」
「ん」
という流れで、パワーローダーと飯田も話し込んでしまった。
結果として、トガと麗日と葉隠の仲良し三人組が浮いた形となる。
けれども、トガが面白くなさそうにしつつも理波を見つめて仕方なさそうに微笑んでいるのに対して、麗日は複雑な表情で緑谷……ではなく、発目に視線を向けていた。
そしてそんな二人をハガクレは色々と察した顔で眺めていたが……その視線に気づいたトガに視線を向けられると、にっこりと笑った。
これに応じて頷くと、トガはウララカに声をかける。垣間見えてしまったウララカの心の内に、強い親近感を覚えながら。
「つまんないですねぇ」
「……ん……うん……」
そして話題を振ったにもかかわらず、反応が鈍い麗日を見たトガは予想通りだとにんまり笑みを深める。
「出久くん、取られちゃいましたねぇ」
「ブッ!?」
「わあ、トガちゃん真正面から豪速球」
この反応に、葉隠以外のクラスメイト三人が心配そうに顔を向けた。
彼らに対して、大丈夫だからと身振りで応じた麗日の注意は、はっきりと緑谷に向いている。トガと葉隠は、それぞれの笑みを浮かべつつも麗日の背中をさすった。
そんな状況だ。意識が向いた、ということを意識してしまった麗日は一際顔を赤くして、トガにその顔を向けて抗議する。
「なななななっ、なん……っ、いきなり何言うの被身子ちゃん……っ!」
が、その顔に説得力はなかった。耳まで真っ赤な麗日の表情はそっくりそのまま、彼女の心境の現れだ。
わざと心の幕を開くような物言いをしたからこそではあるが、しかしだからこそトガには余計にそれが筒抜けである。
麗日の深層心理は、心の奥底には、確かに緑谷の隣を取られたくないと思っている彼女がいた。その気持ちを理解しきれず、しかし投げ出すこともできず、それでいて認めきれず後生大事に抱え込んで、頬を膨らませる……そんな、ヒーローとは反対を行くような、年頃の少女が。
だから、思うのだ。こんなにもかわいらしい恋心を抱いているこの親友を、応援してあげたいなと。
好きな人と一緒にいられる幸せ、愛を分かち合い心を通わす喜びを、少しでもいいから知ってほしいな、と。
それは絶対に悪いものじゃないから。大丈夫だからと……そう、教えてあげたい。
「えへへ、ごめんなさい。お茶子ちゃんがカァイイので、つい」
「かっ、ちょ、どゆことぉ!?」
――まあでも、今はとりあえず、ひとまずごまかしておくとして。
トガは今日から少しだけ、お節介トガになろうと密かに決意した。
フォースユーザーではないため彼女ほど察せられたわけではない葉隠も、過程は違えどほぼ同じ結論に達していた。だからこそ、透明な顔に満面の笑みを浮かべて成り行きを見守っていたのだが。
葉隠の納得を横で読み取ったトガは、彼女と視線を合わせてどちらからともなく大きく頷いたのだった。
絶対にデクとお茶子ちゃんをくっつけてやるんだ(鋼の意思
なお、毎晩「かぷっ」として「チウチウ」することで強制的に作業を終了させているものとします。
スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?
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