日常が過ぎていく。技を開発するために精進する日々は一般的には日常ではないだろうが、ヒーロー科ゆえにこれが私たちの日常だ。
ただみなそれなりに工程は進んでいるようだが、いかんせん元々スケジュールを前倒ししている上に、そのための合宿が中断されたせいで負担が大きい。充実はしているだろうが、みな大なり小なり疲労が蓄積しているように見える。
そんなある日、仮免試験まで一週間を切った夜のこと。みなでおしゃべりをしようという
「みんな必殺技の開発はどう?」
その思惑はともかく、話題はこれである。対象を選ばないハガクレの問いを受けて、私を膝の上に乗せているヒミコがにっこりしながら挙手をする。
「クラスのみんななら、変身にかかる時間が秒を切りました! 変身中の姿から別の人に変身するときも秒かからないので、より臨機応変に動けるようになったのですよ!」
彼女は自慢げにそう言ったあと、「まあみんなの“個性”を使いこなすのがまだ難しいんですけど」と付け加えて、苦笑した。
「ウチはコントロール面でまだサポートアイテムは必須だけど、コンクリくらいなら余裕で破壊できるようになった」
「私はねー、いい感じの防御技が出来上がりそう! 酸でどんな攻撃も防いじゃうんだ!」
「私はよりカエルらしい技が完成しつつあるわ。きっと透ちゃんもびっくりよ」
「どうかなー? 私だって透明になる以外で技ができたんだよー! なんと私葉隠透、光れるようになりました!」
ヒミコに続く形で、みなが次々に現状を述べていく。これに応じて、全員で合いの手を入れて盛り上げる。
とはいえ、全員が全員順調というわけでもない。
「増栄ちゃんは?」
「完成形は少しずつ見えてきた、と言ったところか。もう少し“個性”伸ばしが必要そうだよ」
たとえば私とか。マイナス増幅が安定して使えるようになるには、もう少し“個性”を磨く必要があるだろう。
「わたくしもですわね。やりたいことはあるのですが、まだ身体が追いつかないので」
ヤオヨロズは確か、複数のものを同時に「創造」しようと試みていたな。脂質を必要とする以上、単純計算でも負担は倍だろうから無理もない。
「お茶子ちゃんは?」
「…………」
そして例外が一人。改めてハガクレから話を振られたウララカだが、飲み物を口にするだけでどうにもぼんやりしている。これまでの話にもほとんど入ってきていない。
見かねてツユちゃんがウララカをつついたところ、飲み物を噴き出す勢いで驚いていた。やはり気づいていなかったらしい。
「お疲れのようね」
「いやいやいや! 疲れてなんかいられへん、まだまだこっから! ……のハズなんだけど。なんだろうねぇ、最近無駄に心がザワつくんが多くてねぇ」
彼女はすぐに取り繕ったが、どうにも空元気に見える。彼女自身も思うところがあるのか、言葉に勢いがない。
……のだが、表情のほうはというと……疲れている、というのとはまた違うのである。
これはどちらかというと……。
「恋だ」
「ギョ」
と思った瞬間、アシドが一切の躊躇なくウララカの心中に切り込んでいった。
アシドは何かにつけて物事を色恋沙汰に持っていこうとするところがあるのだが、今回ばかりは彼女の指摘通りウララカは「恋」をしているのだろう。
そして人間、不意に図星を突かれると大なり小なり焦るものである。ウララカも途端に顔を赤らめ、どっと脂汗を出しておろおろし始めた。
「なっ、何!? 故意!? 知らん知らん!」
「緑谷か飯田!? 一緒にいること多いよねぇ!」
慌てながらもかろうじて応答したウララカだったが、アシドのさらなる追撃に対処できず、「チャウワチャウワ」と連呼するだけになってしまう。そうこうしているうちに、両手で顔を覆ってしまった。
普段の彼女なら、“個性”事故を防ぐために絶対にしない行為だが……混乱している状況ではそれも仕方あるまい。結果、彼女は逆さまの状態で空中をふわふわと浮遊することになった。
「誰ー!? どっち!? 誰なのー!?」
「ゲロっちまいな? 自白したほうが罪軽くなるんだよ」
まあとはいえ、そんな姿を見せたらむしろ加虐心を煽るだけだろう。実際、裏でウララカの恋愛事情に首を突っ込んでいるハガクレがすぐに便乗したし、普段ならあまりそういう話に乗ってこないジローすら追求に加わる始末である。
なお、ハガクレはこの流れを狙っていた。興奮した様子を見せつつも、内心では「計画通り」とほくそ笑んでいる。なんと恐ろしい手管であろう。
「違うよ本当に! 私そういうの本当……わからんし……」
「無理に詮索するのはよくないわ」
「ええ。それより明日も早いですし、もうオヤスミしましょう」
ツユちゃんとヤオヨロズは、こういうときでも冷静だなぁ。この温度差に、私は思わずこっそり苦笑する。
苦笑しつつ、頭上のヒミコにちらりと目を向けると……そこには悪役のような笑みがあった。どうやらこのままアシドたちにつつかせて、ウララカに自覚を促したいらしい。それまで口を挟むつもりはないようだ。
きっとハガクレも似たような表情をしているのだろうな。ウララカには少し同情する。
「えぇー、やだー! もっと聞きたいー! なんでもない話でも強引に恋愛に結びつけたいー!」
そしてアシドは遂に本音をぶちまけたな……。いくらなんでも直球がすぎるだろう……。
「そんなんじゃ……っ」
そんなときである。ウララカがふと言葉を切った。
不思議に思って彼女に目を向ければ、彼女の視線は窓の外に釘付けになっていた。
その先を追えば……そこには、夜だというのに一人自主練習をしているミドリヤの姿が。イイダから教わった足技を復習しつつ、そこに私が教えたアタロの要素を足そうと試行錯誤しているようだ。
そしてそのミドリヤを見るウララカの目の色はと言えば……。
「……スタートラインに立ったっぽいよ、トガちゃん」
「グッジョブですよ透ちゃん! んふふ、ここからはトガにお任せなのです」
「任せた! ふふふ、これでやっとまともに応援できるね」
「ねー!」
ささやくような、そして嬉しそうなハガクレの呼びかけに、ヒミコは悪い笑みをさらに深めて応じた。ハガクレも笑い、二人は顔を寄せ合ってニコニコしあっている。
私はそんな二人の様子に、そっと小さくため息をついたのだった。
***
ノックの音がした。
自室に戻り、しかし寝る準備に取り掛かることもなく、所在なくベッドに腰掛けていた麗日は、この音で現実に引き戻された。慌てて立ち上がり、玄関に向かう。
扉を開けてみれば、そこにいたのは。
「さっきぶり、お茶子ちゃん」
「被身子ちゃん?」
クラスでも特に仲のいい友人だった。
彼女はにんまりと笑い、話したいことがあると言う。どんな話かはわからなかったが、麗日は疑うことなく友人を部屋に迎え入れた。
「何も出せんくてごめんね」
「ううん、こんな時間にいきなり来た私が悪いので。おかまいなくー」
「ん……それで、話って何?」
とりあえずトガには座布団を勧め、自身はベッドに腰を下ろす。
これに従いつつ、トガはそれまでと一転して真面目な顔になった。
どうやら、大事な話らしい。そう思い、麗日もまた表情を引き締めて――
「お茶子ちゃん、出久くんのこと好きでしょ?」
「んぶッファ!?」
――コイバナの豪速球を正面から喰らい、盛大にむせた。トガが慌てて背中をさする。
「なん……っ、い、いきなり何……っ、や、てか、ちゃ、ちゃうし、だからそんなんとちゃうし……!」
むせた苦しみでうるむ瞳を鋭くして、トガをにらむ。
けれど、トガはそれに堪えることなく――申し訳なさそうにしゅんとはしたが――言い返して来た。
「……ごめんねぇ、お茶子ちゃん。私、見えちゃったのです。フォースユーザーなので」
「え……。……え、えっ? えええええ!?」
その言葉に、麗日は固まる。一瞬、意味がわからなかった。
が、しかしすぐに答えを導き出した。その意味を理解できた。できてしまった。
だから、麗日の顔は一瞬にして真っ赤に染まった。取り繕おうと慌てる余裕すらなく、目を回す勢いだ。
これにはトガが逆に焦り、言葉にフォースを乗せて落ち着くように誘導する。
そうして数分ののち、なんとか理性を取り戻した麗日はしかし、いまだ赤い顔のまま。けれど観念したのか、ぽつりぽつりと話し始めた。
「うぅ……これ……やっぱそう、なんかなぁ……そういうこと、なんかなぁ……!」
すがるように、違うと言ってくれと言いたげな顔をトガに向ける麗日。
しかしトガはこれに忖度することなく、そうだと力強く頷いた。
「はうぅ……や、やっぱそうなんや……。経験者の被身子ちゃんが言うなら、きっとそうなんやね……」
がくりとうなだれる麗日。同時に、過去最大の深いため息が出た。
これを受けて、トガはこてりと首を傾げる。
「……もしかしてお茶子ちゃん、恋愛とかしたくない人でした?」
「そ、そんなことないよ……? その、芦戸ちゃんとか透ちゃんくらいとは言わんけど、機会があるなら少しくらい……とかは思っとった……」
「じゃあ、何かが引っ掛かってるんです?」
「ん……。だって……なんか、よくわかんないけど、怖いよ……。最近、まともにデクくんの顔見れへんもん……。なのに発目さんがデクくんと一緒にいるとこ見て、頭ん中もやもやざわつくし……。寝る前とか、一人でいるとそういうときのこと、思い出しちゃって、勝手に胸が痛くなるし……!」
――私が私じゃなくなっちゃったみたいで、怖いの。
麗日は、そう言って目を伏せた。そんな彼女の肩に、トガは優しく手を置く。
「ん……わかります。私も人を好きになったとき、そんな感じになります」
「被身子ちゃんも……?」
「うん。その人のことしか考えられなくなって、ずーっと見ちゃうよねぇ。他の女の子と一緒にいると、勝手にざわざわして。でも、大丈夫ですよ。だからって別に人が変わったりしないのです」
「ホントにぃ……?」
「ホントですよぅ。ただ……んーと……んー、なんて言うか……、……そう、新しい扉を開いただけなのです」
「新しい扉……」
追随する形で、麗日がつぶやく。応じて、うん、とトガが頷いた。
「今まで入れなかった場所に、入れるようになっただけなのです。んっと、世界が広がる? って感じ。でもそこの前情報は一個もなくって……そんなので初めて来る場所って、不安に決まってるでしょう? それと同じ……って言うのは、ある人の受け売りなんですけどー」
実際はこの気持ちを表す言葉が思いつかなかったので、この場で助言を求め、その回答になるほどと思いながら話していた。要するにカンニングなのだが、麗日がそれに気づく余地はない。
単純に余裕がないということもそうだが、トガの言葉に目から鱗を落としていたからだ。トガが借りた幼女の言葉が、それだけ腑に落ちたのである。
「だから、怖がらなくたって全然大丈夫なのです。トガのお墨付きですよ」
そう言って、トガは笑みを深めた。
この笑顔を見て、麗日は全身から余計な力が抜けたような気がした。経験者の語る実体験には確かな説得力があって、オールマイトの笑顔にも匹敵する頼もしさを覚えたのだ。
まあ、トガは意識してそう思わせるように誘導したところがあるので、彼女はやはり本質的にはダークサイダーなのだが。
「そういうわけなので、私はお茶子ちゃんのことを全力で応援するのです! ……それで、いつ告白しますか?」
「こ……ッ、そっ、それはっ、それはまた別って言うか……!」
が、続けられた言葉に、思わず手が出た麗日であった。
手が出た、とは言っても全力で殴ったわけではない。軽く、触れる程度に拳を当てただけだ。それを真っ赤な顔でしたものだから、トガはただ
麗日にそれを知るすべはなく……結局は知らぬが仏であった。
お節介トガちゃん、透ちゃんと共謀してお茶子ちゃんの背中を押すの巻。
原作でこういうガールズトークをしてほしかった。
なのでしてもらいました。
ここまでが前半なので、後半へ続くよ!
スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?
-
読みたい
-
あるならまあ読む
-
あんまり気が乗らない
-
いらない