銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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9.アケスケちゃんとしまっとくちゃん

 緑谷にいつ告白するのか。

 トガはそう問いかけた。これは今の彼女にとって、誰かを好きになったからには告白しないという選択肢がないからに他ならない。

 

 なぜなら、色々と思い悩んですぐにはできないかもしれないが、それでもいずれはするものだという認識があるからだ。理波との日々が、告白に失敗したときよりも成功したときの幸せの大きさを教えてくれたからだ。

 だからこそ、彼女は麗日の反応を「すぐ告白するなんてできない」「今は無理だから、そのうち」というような方向で解釈した。そしてその原因は、もしも振られてしまったら……もしもそれが原因で嫌われてしまったら……という後ろ向きな想像によるものだと受け取った。

 

「大丈夫ですよ、お茶子ちゃんカァイイもん! 出久くんだって受け入れてくれますよ!」

 

 だからこそ、トガは笑みを浮かべつつ拳を握り、麗日を励ましたのだが……。

 

「や、違……っ、そうやなくて……!」

「?」

「だって……め、迷惑やん……こんなん……。デクくん、毎日すっごくがんばっとるのに……それなんに恋愛どうこうって……お邪魔虫やん……」

 

 麗日の返答は、トガの想像の埒外のもので。言われた直後は何を言われているのかわからなくて、ぽかんとしてしまった。

 

 トガは、基本的に押す人間だ。仮面をかぶっていたかつてはともかく、今は間違いなくそういう性質であり、自分を前面に出して主張する人間である。

 

 しかしゆえにこそ、人の事情を斟酌することが苦手であった。苦手だからこそ、世界が違えば容易にヴィランの道へ進み得る。だから麗日の言葉の意味がわからなかった。

 

 けれどそれはわずかな間のこと。今の彼女には、考えればちゃんと意味が分かった。

 相手の考えをないがしろにしない。相手の都合を考える。相手の立場を慮る。その発想ができていないことをつい最近、他ならぬ最愛の人に教えてもらったから。

 自分の好きを伝えたとき、それが相手にどのような影響を及ぼすのかを、拙くも考えることができた。

 

 そしてだからこそ、麗日の言いたいこともなんとなくわかった。彼女から垣間見えた緑谷への好意の形が、何より目標のために努力を惜しまない姿であったことも相まって……一理あると納得すらした。

 

「今さら被身子ちゃんの前でごまかさへんけど……でも、だからこそ私……デクくんの邪魔になりたくない。意味ない寄り道なんてさせたくない……。そ、それに、そもそもデクくんが私のこと、す……す、好きに、なってくれるかどうかもわからんし……」

「お茶子ちゃん……」

「……だから……。だから、別に、いいよ……応援してくれるのは嬉しいけど……。でも、いいんだ。私……私、この気持ちはしまっとく」

 

 けれど。

 けれど、だ。

 

 だからと言って、言っている本人が納得し切っていない儚げな笑みを浮かべていたら。

 

 トガに納得なんてできるはずがなかった。

 

「……ダメだよお茶子ちゃん」

「えっ……?」

「しまってたってね、気持ちは大きくなるんだよ。そのうち我慢しきれなくなって、爆発しちゃうよ」

 

 だから、納得してもらいたくてトガは言った。もちろん、諦めないことを納得してもらうためにだ。

 

 しかしそんな彼女の言葉は、どこか独り言のようで。それでいて、自分に言い聞かせるような色を帯びていて。

 麗日は、そんなトガに首を傾げた。

 

「……あのね、お茶子ちゃんだから、言うんだけどね。……私ね。血が好きなの。大好きな人のことを考えると、その人の血が全部ほしくてたまらなくなるの」

「被、身子、ちゃん……?」

 

 だが、続けられた言葉に、目を見開いて息を呑んだ。

 

 正面にある顔が、歪んでいた。昏い笑みだった。それは、まるでヴィランのような。

 

「キュンとする私はそうなの。……でも、わかってます。みんなはそうじゃないって。お父さん、お母さんすらそうで。だから、とっても生きにくくて……それがわかってたから、今まで好きになった人は何人もいましたけど、告白は一度もしなかったのです。できなかったのです。もしもOKされたら……私、自分をとめられる自信がなくって。だから、ずっと好きって気持ちをしまってました」

 

 けれど、そのヴィランのような笑みは、泣き顔のようでもあった。

 

「でもダメなの。しまっとくと大きくなるの。好きが大好きになって、あふれちゃって……とまらなくなるの。だから私、我慢できなくなって……中学校の最後の日に、人を刺そうとしました」

「えぇっ!?」

「それを、コトちゃんがとめてくれたのです」

「あ、だよね、やってないよね……って、理波ちゃんが……?」

「うん。とめてくれて、それだけじゃなくって。私のしたいこと、コトちゃんになら全部していいって、そう言ってくれたのです。

 嬉しかった。とっても、とってもとっても、嬉しかったのです。だから……コトちゃんは()()()()()()なのです。初めて本当の私を見つけてくれた、初めて本当の私を受け入れてくれた……どんなときもずっと一緒にいたい、私の……」

 

 だが、ここで不意にトガの雰囲気が変わった。言葉と共に、顔も変わっていく。

 遠くに視線を向ける表情は、それまでの悲壮な表情とは真逆と言ってもいい顔で……その様子に麗日は思い当たるものがあって、思わず口を挟んでしまう。

 

「私のヒーロー……? あれ、えっと。え? あの、まさか……まさかとは思うけど、被身子ちゃんの好きな人って」

「うん。コトちゃんですよ」

「えええええ!?」

 

 だが満面の笑みと共になされた力強い首肯に、麗日は思わず大声を上げた。

 上げるしかなかった。それくらい、今彼女が向けられている表情は幸せ全開な女の顔だったのだ。

 

 そしてその顔によって、それまで部屋に満ちていた真剣な空気は消し飛んだ。

 

「まっ、ちょ、えぇ!? 待って待って、合宿のときお付き合いしてるって言ってなかった……!?」

「はい! 毎日がハッピーラブラブライフです!」

「言われてみれば確かに二人ともいっつも距離近い気がする!」

 

 今明かされる衝撃の事実。麗日はこれに思わず声を張り上げたが、思い当たるものがあった。

 

 彼女の脳裏に浮かんだのは、トガたちがルームシェアをしていたアパートだ。

 麗日の涙ぐましい節約生活を見かねた二人が誘ってくれたこともあって、彼女は他のクラスメイトより二人のアパートを訪ねる機会が多かった。泊ったこともある。そのときに、ふと思ったことがあったことを思い出したのだ。

 

 そう、やたらペアに整えられた小物や雑貨が多いということをだ。洗面所を借りたときは、一つのカップに納められた二本の歯ブラシも目撃している。あれらはもしや、お揃いというやつだったのだろうか。

 さすがに体格の違いから服はお揃いではなかったが、それにしてもトガには変身という手段がある。寮でもよく理波に変身して、なり切って周りを混乱させているのだが、今考えるとあれももしや、と思ってしまう。

 なんなら寮の二人の部屋もよく似ていたし、そもそも二人の髪型はずっと一緒だ。

 

 そしてその内心を垣間見えるトガは、肯定する形でにんまりと笑う。

 

「んふふ。好きな人とはおんなじがいいじゃないですか。なんでも一緒がいいのです」

「……思い返せばあからさますぎる! なんなん二人してアケスケちゃんなん!?」

 

 なので、改めて声を張り上げる麗日であった。

 

「そう言うお茶子ちゃんはしまっとくちゃんですか?」

「いや今はそういう話と違……ッ、いやそういう話やったっけ……。えーっと……」

 

 なんだか頭痛がするような気がして、麗日は小さく首を振りながらこめかみに指の関節を当ててぐりぐりともみ込む。

 

 彼女の様子に、トガも話が脱線していたことに思い至って居住まいを正した。

 

「えっと、なんていうか、そういうわけで……つまりですね、たぶん……ううん、絶対。コトちゃんがもしいなかったら……私、ヴィランになってたのです。我慢しすぎて、それくらいに気持ちが膨れ上がっちゃってました」

「温度差で風邪引きそう……言いたいことはまあ、わかるんやけど……」

「お茶子ちゃんが我慢しきれなくて、私みたくなるかはわかんないですけど。でもさっきのお茶子ちゃん、あんまり大丈夫な感じじゃなかったのです」

「え……そ、そかな……」

「そうですよ。しまっとくって言っといて、全然納得してない顔だったのです」

「ぅ……そ、そうかなぁ……」

「ですよぅ」

 

 きっぱりと断言したトガの頷きに、麗日は軽くうめきながら目を逸らす。

 

「なので、無理に我慢しないほうがいいよって、そう言いたかったのです。誰かを好きになるのだって、人間なら当たり前のことだもん」

「随分遠回りした気がするけど……うん、とりあえずはわかったよ……」

 

 はあ、とため息が出た。その後、視線を天井に向ける。

 次いでまた、軽くため息をついて。それから視線を落として、またため息を……という行為を、特に意味もなく繰り返す麗日。彼女自身、心に整理がついていないのだった。

 

 そんな彼女に、トガが改めて声をかける。

 

「……私くらいアケスケちゃんになれとは言わないですけど。全部しまっとくちゃんになる必要はないんじゃないかなーって、トガは思うのです。今よりちょっとだけ多く声かけて、一緒に何かするくらいならいいんじゃなあい?」

「それができたら苦労しないよ……」

「えー、そうかなぁ? たとえば……出久くん毎朝寮の周りランニングしてるから、一緒にするのはどう? これなら邪魔にならないですよ」

「ふえっ!? い、いやそれは、その……」

「あと組手とか。お茶子ちゃんガンヘッド直伝の格闘術あるし、これも邪魔にならないと思いますけど」

「う……えっと、あの、えと……!」

「“個性”対策の考察なんて誘ったら、それこそ出久くんが断るなんてあり得ないんじゃないかなぁ?」

「わ、わかった、わかったから! もうやめてぇ!」

 

 次々とトガの口から出てくる具体案に、麗日はあうあうと言いながらトガを押しのけ物理的に発言を封じた。

 

 そのまま至近距離で向かい合うことになった二人だったが、すぐに麗日が紅潮した顔ごと視線を逸らす。逸らしながら、ぼそりとつぶやくように声を発した。

 

「わかった、から……。ち、ちょっとだけ……がんばって、みる……」

 

 そうして唇を尖らせる麗日の()()()()姿に、トガは思わず首筋にかみつきたくなる衝動を覚えたが……我慢した。

 順序は踏むべきだと、教えてもらったから。今ならきっと、ちゃんと()()()から。

 

 だからまずにこりと笑うと、よしよしと麗日の頭をなでる。

 

「応援してます。トガはいつだってお茶子ちゃんの味方なのです」

「ん……うん……ありがと……」

「ところでお茶子ちゃん……ちょっとだけ、ちょっとだけでいいので、お茶子ちゃんの血をチウチウさせてくれませんか?」

「この流れで!?」

 

 なお、吸血が自分にとって親愛を示す行為なのだと説明したら、わりとあっさりさせてもらえた模様。よかったね。

 

***

 

 緑谷出久の朝は早い。遅くとも六時には起床して、朝練を始めるのだ。

 まずはストレッチで身体をほぐし、筋トレを行う。その後は三十分ほどランニングをして、またストレッチ。それが終わったら汗を流し、朝食の席に着く。それが彼の朝のルーチンである。

 

 だがこの日、着替えを済ませて一階へ降りてきた彼は、そこでストレッチをしている人影を見つけて「おや」と思った。

 それは寮に入ってから一度もこの時間に見なかった人物で……しかし普段何かと会話をする機会がある人物であるから、よほど近くない今は特に気負うことなく声をかけることができた。

 

「おはよう麗日さん、早いね?」

「ひゃっ!? わ、あ、で、デクくんおはようっ! そういうデクくんも!」

 

 声をかけられた人物……麗日は、一度大きく身体を跳ねさせたあと、あたふたと振り返った。

 

 彼女の上ずった声に内心で首を傾げる緑谷だったが、元より人付き合いの経験が少ないせいもあって深くは考えなかった。

 

「うん、朝練でね。もしかして麗日さんも?」

「う、うんっ、そんなとこ! やっぱさ、身体は資本だもんね!」

「そうだね、体力はいくらあっても困るものじゃないし」

 

 だから、麗日が自分と同じ目的で早起きしていると知って、素直に表情を綻ばせた。同時にさすが雄英、生徒の向上心は並みじゃないなと感心する。

 

 そんな彼の嬉しそうな表情を見た麗日が胸を高鳴らせていることに気づかないまま、彼は朝練の準備を始めた。

 

「……デクくんいつもはどんな朝練してるん?」

「僕はストレッチ以外だと筋トレ、ランニングかな。欲を言えば格闘の復習とかもしたいんだけど、平日の朝はちょっと時間が足りなくって……」

「宿題とかも考えると、あんま睡眠時間削れんもんねぇ……」

「うん……まあそこは仕方ないよ。時間はみんな平等だし。だから相澤先生じゃないけど、なるべく有効的に使わないとね」

「合理的に行こう、だね!」

「うん」

 

 ストレッチをしながら、そんな何気ない会話を交わす。普段は一人黙々とやっている……それこそただのルーチンワークが、なんとなしに華やいで感じられた。

 

 そんな純朴な緑谷の内心を知ってか知らずか、麗日は内心で大きく葛藤をしていた。だがせっかくここまで来たのだからとなんとか自分を言い聞かせて、疲れや暑さとは違うもので渇いた口を唾で湿らせて、おずおずと声を出す。

 

「えっと、あの……その、よかったら私も一緒していい? 今日が初めてだから、加減とか目安とかがちょっとわからんくて……」

「もちろん、僕なんかでよかったら」

 

 返答は即であった。麗日が懸念していたようなことは一切なく、いっそあっさりと承諾されたことに少し肩透かし感を覚えつつ……けれど確かに胸に満ちた嬉しさに、改めて己の気持ちを自覚する。

 麗日は自然と綻ぶ顔を極力引き締めつつ、なるべくいつもの自分を意識して笑う。ありがとう、と言いながら。

 

 そうしてしばし共に筋トレをこなして、二人は揃って寮を出る。夏ゆえに既にそれなりの高さに上がっている朝日をよそに、並んで地面を蹴って。

 

 訓練であり、鍛えることが目的であるため、余計な会話はない。けれど今、並んで同じことをしているというそれだけのことが、麗日にとっては何より嬉しいもので。

 どんなときでも一緒にいたいと隠すことなく言い放ち、堂々と人前で触れ合う()()の気持ちが、少しだけわかってしまって……それができる関係を既に構築していることを、少しだけ羨ましく思った。

 

(でも私は被身子ちゃんほどアケスケちゃんにはなれんから……ちょっとずつ、ちょっとずつ前に進もう。そもそも恋愛がしたくて雄英来たわけとちゃうし。まずはヒーローになる! そこ疎かにしたらあかんやんね)

 

 なんてことを考えながら。

 麗日お茶子の新しい日常は幕を開けた。

 

 そんな彼女……いや、彼女たちの後姿を、ベランダの手すりに身体を預けながら見送る人影が一つ。

 

「ファイトですよぅ、お茶子ちゃん」

 

 彼女は、慈愛に満ちた表情でつぶやいたのだった。

 

 ……この顛末を、全力の透明状態でこっそり眺めていたもう一人の仕掛け人が、あとで黄色い声を上げて大層喜んだのは言うまでもない。

 




というわけで、原作より20巻分近く早い「アケスケちゃんとしまっとくちゃん」でした。
原作では決裂したやり取りですが、本作では説得に成功。
というか、原作での出会いが違えば手を取り合えたと思えるやり取りが悲しくて、素直なコイバナをさせてあげたかったので、こんな感じになりました。
ここで一旦気持ちに区切りがついてしまったのと、目当てのゲームが発売したこともあって、執筆がしばらくとまってたのはここだけの話。

次からは仮免試験です。
なので、さすがにイチャイチャはここで一区切り。

スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?

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