銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

135 / 288
15.キラメキをもう一度

 クラス揃ってヒーロー仮免許を取得した夜。軽い打ち上げをクラス全員で行ったあと。

 本来であれば、敷地内であっても出歩くことを禁じられたこの時間帯に、私はアオヤマを連れて外を歩いていた。

 

 なぜそんなことをしているかと言えば、単純に話があると呼び出したからだ。そうして私は彼を促し、グラウンドベータへ向かっていた。

 

 会話はない。そもそも私はジェダイ装束をまとっている。つまりヒーローとしての格好であり、どういう話がなされるのかをアオヤマも察している。彼は今、心の準備をしているところなのだ。ここで下手に話しかけるのは逆効果だろう。

 

 それなら私の呼び出しになど応じなければよかったのにとも思うかもしれないが、その場合話し合いに至るまでの過程が変わるだけだ。

 

 アオヤマも逃げられないと思ったのだろう。それに彼は、報いを受けることを当然だと考えている節もある。

 その思考と、何より玄関先で出迎えた私を見て、私にならそうされても構わないと考えたことから、改めて私は彼を敵と認識するのは困難だと思った。

 

「……ここらでいいだろう」

 

 目当ての場所に辿り着き、私は足を止めて振り返った。そこでは、ハッとしたアオヤマが周囲を忙しなく確認している。

 

 グラウンドベータ。我々A組が雄英に入って初めての実技を行った場所。そして周りを見渡すアオヤマの心から垣間見える様子からして、彼が入試を受けた場所でもあるようだ。

 そこまで企図していたわけではないが、つまりここはアオヤマにとって始まりの場所と言っていいだろう。

 

 そんなグラウンドベータの、市街地を模した路上。ここを選んだのはもちろん意味あってのこと。

 

 実はすぐ近くに、ヒミコとオールマイトとイレイザーヘッド、そして警察のツカウチ氏が潜んでいる。ハガクレに変身したヒミコによって、透明化した状態でだ。

 私だけしかいないという認識でいてくれたほうが、アオヤマの心を開きやすいだろうから。それが私……が、相談したイレイザーヘッドと彼が相談した校長の案である。

 

 ゆえに私は四人がいることをフォースで確認すると、マインドプローブに意識を集中させてアオヤマと向き合う。ローブの中に手を隠し、しかしその手のひらをアオヤマにしかと向けて。

 そうして口を開けば、自然と言葉を選ぶようにゆっくりと、平坦な話し方になった。

 

「……私は。フォースによって、他者の心を読むことが、できる」

 

 ――知ってる。

 

 アオヤマからそんな心の声が聞こえてくる。

 ……なるほど? それを知っているから、神野事件のあと私とヒミコにだけは気づかれまいと、必要以上に秘匿を意識していたのか。それが逆に、私たちの感覚に引っかかってしまったと。

 

 まあ、アオヤマ自身はそう思いつつも、隠しきれる自信はなかったようだが。そしてそれは正しい。

 

「……普段は、能動的に読もうとは、しない。内心の、自由があるし、道徳倫理的にも、すべきではない、からだ。だが、勝手に見えてしまう、ときもある。感情が高ぶったときや、内心を抑えられなくなった、ものが近くにいると、見えてしまうことがある、のだ」

 

 ――知ってる。

 

 もう一度、同じ心の声が聞こえた。

 ……ああ。合宿のとき、ミドリヤとトドロキにそう話しているのを聞いていたのか。だから隠しきれる自信がなかったと。

 

 知らぬが仏とはよく言ったものである。私の、そしてフォースの知識を多少なりとも得てしまったからこそ、隠せなくなってしまったとは。

 

 だが、その一番のきっかけはそれではないはずだ。直前に起きたあの事件が、恐らくはすべてのきっかけ。

 

 だから私は、申し訳なく思いながらもマインドプローブを続行する。相手に気づかれないように、違和感を、嫌悪感を、体調不良を覚えないように緻密に、細心の注意を払って。

 

「……最初は、単に人に言えない、深い……しかし、個人的な悩みが、あるのではないか、と、思っていた。その一端を垣間見せたタイミングが、謎ではあったけれど。ともかく、だからこそ、何か力になれないかと、注意していた。……だから、気づけた」

 

 私がそう言うと、アオヤマは露骨に顔色を悪くした。ごくりと喉を鳴らす。

 

 ――来る。

 ――来る。来てしまう。

 

 心の声が聞こえる。身構えた声だ。

 

 その声が乗っているのは、神野事件の記憶。リビングで、家族揃ってあの惨事をテレビ越しに観ているときの。

 そしてその核になっているものは、かつてまだ顔があった頃の男。その名前で。

 

「アオヤマ・ユーガ。ヴィラン連合……いや。それを生み出し、操っていた男。()()()()()()()()に繋がっていた内通者は、君だな」

 

 それを告げた途端、アオヤマはびくりと全身を震わせた。身構えていてもなお、受け止めきれない恐怖があるのだろう。

 

 けれども、彼はその恐怖を抱きながらも歯を食いしばり、私の視線から逃れないようにしている。互いの視線は、まだ重なっている。それだけでも、十六歳の少年としては十分すぎるほど気丈と言っていいだろう。

 

 ただ、その恐怖の中にわずかにだが、安堵が見えた。それだけが明らかに異質で、では何か特殊な事情があるのだろうとそこを重点的に探ってみれば、なるほど。見えてきたのは納得しかないものだった。

 

 家族だ。両親の姿が、そこにはあった。

 

 誰にも勘づかれてはいけないということしか知らないアオヤマに、オールマイトがいて、なおかつ他の場所から孤立するだろう授業はどれかと問う両親の姿。

 やはり誰にも勘づかれてはいけないことしか知らないアオヤマに、今どこにいるのか、合宿先はどこなのかと問い詰める電話をかけてくる両親の声……。

 

「……いや、違うな。正確には……君の、両親が、……か?」

「……ッ!!」

 

 心を覗いた私の言葉に、アオヤマは即座に反応した。

 彼は追及が己ではなく両親に移った瞬間、私に向けて“個性”のレーザーを放ってきたのである。恐らくは、反射的な行動。それほどまでに両親を追及されたくなかったのだろう。

 

 レーザーが亜光速で私に迫る。だがその刹那の間に、私はマインドプローブを解いてライトセーバーを引き抜いた。橙色の光刃がレーザーを弾き飛ばし、青い光はなすすべもなく地面に突き刺さる。

 

 そこまで来て、ようやくアオヤマは自分が何をしたのか理解が追い付いたらしい。焦燥した顔で、青白い顔で、半ば呆然としていた。

 

 アオヤマは恐らく、自分にそれなりに情状酌量の余地があるのだと理解しているのだ。主犯とも言うべき存在が己ではないと。理解しているからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だからこそ、考えるより先に身体が動いていたのだろう。両親に咎が及んでほしくないと、心の底から思っていたから。

 

 そう、彼はこの場において、両親をかばっているのだ。ああ、なんという麗しい家族愛だろうか。

 

 だが、恐らくこの状況はオールフォーワンにとって想定内だろう。シスの暗黒卿に似た気配を持つあの男のことだ。こうやって家族がかばい合い、互いに擦り切れていく様を見て悦に浸るのだろう。あの男が駒、あるいは道具に対して抱いている感情など、その程度でしかないはずだ。

 

 そしてアオヤマも、それは思い至ったのだろう。彼も雄英に合格した人間、頭脳の回転は早い。加えてオールフォーワンについても、一般人より知識があるはずだ。

 

 だからこそ、彼は覚悟を固めてしまった。今の反射的な行動が、固めさせてしまった。

 

 ――だってボクは、ママンとパパンを守りたくて。死なせたくなくて。

 

 マインドプローブを使わずとも見えてしまった、その悲壮な覚悟に。

 私はただただ悲しくなる。

 

「アオヤマ……」

「フフッ……、フフ、アハハハハ!」

 

 私の呼びかけをかき消すように、アオヤマが笑う。

 

 やめろ。そんなことをしても、意味はない。それで隠せているつもりか。

 

「……そうだよ。USJも、合宿も。ボクが手引きした。()()()()()()()()()()()

 

 似合わない笑みを浮かべなくていい。君はどうあがいたってそんな笑い方ができる人間ではないだろう。

 

 なぜって、君は。入学当初、君は間違いなく、ヒーロー志望の未来ある若者だった。光と闇のバランスは、他と多寡の違いはあれど間違いなく光にあったのだ。人のために、人に喜んでもらうために、みんなのためにと想う、清い心がそこにはあった。

 

「合宿が中止されたのも、プッシーキャッツが活動休止に追い込まれたのも……トガさんがさらわれたのも! 全部ボクのせいだ! ハハハハハッ!」

 

 だからそんな、やりたくもないことを無理やりにやる必要はない。そうだろう。

 

 だって君は。

 君は今、私の正面に立つ君は。

 

「……ならばなぜ泣いているんだい、青山少年……」

 

 私の言葉を代弁するように、男の声が響く。太く、強く、雄々しい声。日本の治安を支える男の、多くの人にとっては聞くだけで安心できる、ヒーローの声。

 

 その声に、アオヤマは硬直した。ぎょっとした顔で、恐る恐る横を向く。

 

「私はフォースは使えない。人の心を読むなんて器用なことは、とてもじゃないができっこない。でもね……そんな私でも、今君が無理をしていることくらい、わかるよ」

「……オール……マイト……」

 

 そこにはいつの間にか、ナンバーワンヒーローが立っていた。数歩先には、イレイザーヘッドの姿もある。まだツカウチ氏の姿は見えていないが。

 

 オールマイトの言う通り、アオヤマは泣いていた。号泣である。泣き声は上げず、本人も己の状態を把握し切れていなかったようだが。

 

 後悔に満ちた顔で、光を失った目で、取り乱した髪で、色を無くした表情で、涙を流しながら笑っていても、説得力などあるはずがない。ただ、悲しくなるだけだ。

 

「私はオールフォーワンを知っている。やつのやり口を知っている。……君も、君のご両親も、逆らえなかったんだろう? 従うしかない状態に、追い込まれていたんだろう?」

「……っ、ち……、ちが、……っ」

「違わないはずだ! 本当に心底やつに忠誠を誓っているなら、どうして合宿で爆豪少年と共闘できたんだい? ……いや、あるいはそれは、相手が脳無並みの強敵だったからかもしれないが……それでも、それでもだよ、青山少年……! 相澤くんから聞いている……!」

 

 ――君は二次試験で、真っ先に人を救けようと動いたそうじゃあないか!

 

 その言葉に、アオヤマが嗚咽を上げ始める。彼の心がさらに乱れて、中身がちらちらと垣間見えた。

 

 救助をテーマとした、仮免許試験の二次試験にて。心が立ち直り切っていない中で、苦悩を心のうちに抱えつつも、考えるよりも先に動くアオヤマの記憶が。フォースによって、私にははっきりと見えた。

 

 そうだ。だから彼は。

 合格を告げられたとき彼は誰よりも驚き、驚きを通り越して悄然としたのだ。思考に反したその行動が、それを認めた公安委員会の判断が、何より自分自身が信じられなくて。本当に己はここにいていいのかと、自問し続けるしかなくて。

 

「トップヒーローは、学生時代から逸話を残している……! 彼らの多くが、話をこう結ぶ! ――『考えるより先に身体が動いていた』と……! 君もそうだったんだろう!?」

 

 やがて、瀑布のごとき感情の奔流をこらえきれなくなったアオヤマが、その場に膝をついた。

 

 まるで、罪人が聖職者に懺悔しているかのような構図。

 だが、それはあながち間違いでもないのだろう。

 

「確かに君は罪を犯したかもしれない。けれど罪を犯したから一生ヴィランだなんてことはないんだよ、少年! だから――」

 

 オールマイトが言う。私の予想通りの言葉を、私の予想を上回るトーンで。

 

 ああ、さながらそれは。

 

「――君は! まだ! ヒーローになれる!!」

「う……うぅ……! ぅ、ううう……! うわあああああぁぁぁぁぁ……ッッ!!」

 

 神の赦しのようであった――。

 




原作と違ってかっちゃんがこじらせてないので、デクVSかっちゃん2はありません。
代わりに取り調べがログイン。

内通者が発覚したあと、改めてヒロアカを読み返したんですよ。
そしたら、確かに仮免試験編の青山くんは普段と少し様子が違うんですよね。すべてが明らかになってから見たら、それはなるほどと思うには十分でした。
それでも二次試験からの彼は、おおむね普段通りに戻っていて。
それは恐らく、飯田くんが助けに来てくれたこと、彼が「君のおかげだ! ありがとう!」と言ってくれたこと。
何より、ミナちゃんが「青山のおへそレーザーのおかげで、またみんな集まれたねぇ!」と言ってくれたことが、青山くんにとっては非常に大きな救いになったんじゃないかと思うのです。

しかし本作では、理波の影響で一次試験でも二次試験でも、青山くんの心が救われるような出来事は起こりませんでした。
パッと見はスムーズに合格してるように見えますが、これは青山くんにとってはかなりまずい事態だと思います。それこそヴィラン堕ちどうこうではなく、まず彼の心がもたないだろうという意味で。

なので、ここはオールマイトに登場してもらいました。
原作ではデクくんが言っていたセリフを、代わりに言えるだけの格と説得力があるのは、恐らくオールマイトくらいなので。
特に本作では、オールマイトは張子の虎とはいえいまだに健在です。ここは彼に任せる以外に、ボクには策が思いつきませんでした。

アナキンが、理波が一人でどうにかしようとせず教師陣に頼ろうとしていたのを見て、「それでいい」と言ったのはそういう理由ですね。オールマイトを引っ張り出さないとまずいぞ、という。

しかし改めて読み直すと、デクくんと青山くんって酷似しながらも対照の存在として徹底されてるんですね。
古来日本語において、緑と青は同じ色を示す言葉でした。谷と山は、もちろん対義の言葉。
どちらも元無個性で、他人から個性を与えられて夢をかなえようとしている。その個性にかなり大きなデメリットがあるのも共通。
入試の会場も、二人は同じグラウンド。もちろんクラスは同じA組で。
でもオタク気質で気が弱いけれど、人のためなら自分の命は省みないデクくん。
我が強くてマイペースだけど、自分が危ないときは腰が引けてしまう青山くん。
人見知りなところがあるけれど、必要とあれば人との会話もなんとかこなせるデクくん。
人見知りはしないけれど、自分と感性が合わない人間とはなかなか会話が成立しない青山くん。
一般家庭の出身で、息子のためなら厳しいことも言える親を持つデクくん。
富裕層の出身で、始まりは息子のためとはいえ自分たちが助かるために息子にすがりつく親を持つ青山くん。

堀越先生はどこまで見越してキャラメイクしてたんでしょうね。
ここまで条件が揃ってる以上、たぶん最初からすべて計算してやってるんだと思いますけども。
クリエイターとしての格の違いを感じる・・・。

スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?

  • 読みたい
  • あるならまあ読む
  • あんまり気が乗らない
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。