それなり以上の時間を置いて、ある程度落ち着いたアオヤマは、オールマイトに対して己が知り得るほぼすべてのことを話した。
元々アオヤマは無個性であったこと。
およそ十年前、彼の将来を危ぶんだ両親がオールフォーワンにすがったこと。
オールフォーワンから“個性”を与えられたこと。
去年そのオールフォーワンから、オールマイトが就任する噂がある雄英に入学させるよう指示を受けたこと。
そして入学後、情報を渡すように指示を受けたこと……。
最後については、私がマインドプローブで見たことそのものである。それを改めて口に出し、文字通り懺悔の様相でオールマイトに話すアオヤマの姿は、どこからどう見ても自ら望んで内通した人間のそれではない。これでそうだったとしたら、今この瞬間にでも役者の道で大成できるに違いない。
ただ、アオヤマ一家がオールフォーワンに会ったのは“個性”をもらったときの一度だけらしい。それ以外は互いに連絡はなく、ただ必要に応じてオールフォーワンの側から指示が来るという関係だったようだ。
実に典型的な悪の親玉らしいやり口である。ハット一族も似たようなことをよくしていたものだ。改めて思ったが、オールフォーワンにとってのアオヤマ一家は、文字通り道具以外の何者でもないだろう。
また、アオヤマ自身は幼かったこともあって、オールフォーワンのことはあまり覚えていなかったらしい。ひどく恐ろしげな男から“個性”をもらった、ということくらいしか。
だが神野事件のとき、報道された映像で見た圧倒的な悪の姿にその記憶が、完全に蘇った。
USJ事件のときから、もしかしてと思ってはいたらしい。だから入学以来、己がやっていたことの意味を完全に理解してしまった彼は、両親に確認してしまった。真実を聞いてしまった。
そして実際に考えていた通りだったと知ってしまい、彼はそれまで以上に深く苦悩した。同時に私とヒミコを、心を読むフォースを危惧した。
結果はそれこそが発覚する引き金となったわけだが、しかしだからこそ、彼は私に呼び出されたときにすべてを察したわけである。
「すまない……ずっと君を救えなくて、すまない……! けれど……ありがとう……! よく……よくぞ話してくれた……!」
話を聞き終えたオールマイトは絞り出すようにそう言うと、その大きな身体でアオヤマを抱きしめ受け止めた。アオヤマは、そこでもう一度号泣した。
彼はその後オールマイトと、それからあたかも今到着した風を装って現れたツカウチ氏に連れられ、雄英を後にすることとなった。両親のことも含めて、ひとまずは警察預かりとなるらしい。
彼ら家族が今後どうなるのか、私にはわからない。少なくとも、今その展望をはっきりと描いているものはどこにもいないだろう。
しかし、である。
「……俺は、オールマイトさんとはソリが合わないと思ってる。教師としての方針はほぼ真逆だと言ってもいい。……が、今回ばかりは同意見だ。……青山。俺はまだお前を除籍するつもりはないからな」
残される側としては、最後にそう声をかけたイレイザーヘッドの言葉がすべてであろう。
彼の言葉に、私も大きく頷いた。見えないが、変身し続けているヒミコもそうしていた。A組のクラスメイトたちだって、もしもこの場に居合わせたのであれば、同じ反応をしたに違いない。
「アオヤマ。私も待っているぞ。君とまた、ここで切磋琢磨する日を」
「……ッ、ありがとう……増栄さん……。ありがとう、ございます、相澤先生……」
そうして、私たちはアオヤマの背中を見送ったのだった。
***
「青山のご両親が」
「入院ー!?」
翌朝。伝達された内容を聞いて、アシドとハガクレが驚愕しながら大声を上げた。とはいえ、二人以外の反応もおおむね似たようなものである。大声を上げるかどうかくらいしか差はない。
そう、アオヤマの件は内密のままで話が進められた。ただ伏せるだけでなく、別の理由によって隠されてだ。
大まかに言うと、両親が急な入院をすることになった。アオヤマは両親の下にいることを選び、夜のうちに出立。最低でも数日は休む……というような流れである。
なお、入院という話は間違いではない。オールフォーワンの手口をよく知るオールマイトいわく、オールフォーワンから直接“個性”を与えられたアオヤマ本人はもちろん、その話を受けた両親にも何かしらの仕掛けが施されている可能性が捨てきれないというのだ。このため、彼ら家族は日本で最高峰との呼び声高いセントラル病院にて検査を受けることとなったのだ。
ただし、事の真相は受ける二人には伏せられている。アオヤマの両親には、発症していないものの特定の珍しい遺伝的疾患の因子を持っている可能性が浮上したためその検査で、という表向きの理由が説明されることになっているらしい。
隠す必要は現時点ではあまりないのだが、それはあくまで現時点の話。何せオールマイトいわく、タルタロスで面会したオールフォーワンは諦めた様子が微塵も見られなかったという。
オールマイトとは別に、オールフォーワンの様子を窺うことに専念していた公安の人間――もしやイッシキか?――が言うには、オールフォーワンが自身の力でどうこうしようとは考えていないようだったという。それと同時に、外部からヴィラン連合が解放しに来ると確信していた、とも。
そのため念には念を入れて、裏切りを決して許さないオールフォーワン――あるいはその部下――にアオヤマの両親が狙われないよう、カバーストーリーが用意されたわけだ。裏切りという秘匿すべき情報が発覚する大きな原因の一つは、裏切るのだと認識・実行しているときの当人……その態度や言動だからな。
「ではこれからの始業式、青山くんは欠席か……いつ戻ってこれるのだろう? 増栄くんは聞いているかい?」
「いや、わからない。私もとりあえずの伝言を受け取っただけだからな」
「ムウ」
「青山くん、心配だね……何事もないといいんだけど」
「うん……」
「じゃあ、青山ちゃんがいつ戻ってきてもいいように授業のノートをまとめておきましょうか」
「まあ、名案ですわ。皆さんで手分けして残しておきましょう」
「梅雨ちゃんナイスアイディア。……まあ、ウチが戦力になるかどうかは正直微妙かもだけど……」
「実技はどう残すよ? 文字にするのはむずくねーか?」
「実技は毎回映像に残していると聞く。ひとまずは閲覧許可を取っておく、ということでいいのでは?」
とはいえ、真実を知らないA組の面々は、「設定」を疑うことなく持ち前の人の良さをいかんなく発揮している。悪く言えば馬鹿正直となるのだろうが、しかし彼らに悪意など欠片もなく、私はみな実に善きものたちだと改めて思う。もちろんと言うかなんと言うか、バクゴーだけは気にするそぶりを見せていないが。
そんなクラスメイトの様子を眺めながら私は、こういう横の繋がりが前世ジェダイの頃にもあったらどうだったろう、などと詮なきことを考えていた。
ジェダイには学校がなかったからなぁ。一応、同じギャザリングで通過したものを同期と呼ぶ習慣はあったが、むしろそれくらいしか横の繋がりはなかったから……。
しかしそれもすぐに中断する。
なぜなら今日は、後期の授業日程が始まる日。イイダが言っていた通り、始業式がある。式のあとも、通常課程の授業もある。そう、今日からまた、普通の日々が始まるのだから。
ただ、そこにアオヤマがいないことを、寂しく思う。彼は間違いなく、このクラスの一員だったから。
だからといって彼がしたことが善き行いであるはずはなく、今後彼がどうなるかは彼とその家族、あるいは国次第といったところだろう。
イレイザーヘッドが何やら腹案があるようで、校長や警察と共に話をまとめるというようなことを言っていたが……さて、どうなることか。
とはいえ、この件は既に私の手を離れている。まだ完全に国に認められたわけではない立場の私では、これ以上のことはできないし、してはならない。私にできることは、他のものと同じく待つだけである。もちろん、請われれば力は貸すけれども。
「よし、今日出席のみんなは準備できているな? うむ、では登校しよう!」
かくしていつものようにイイダが音頭を取り、私たちは動き出す。各々が鞄を持って、寮を出る。
「コトちゃん」
「ん……どうした?」
その最後尾で、ヒミコが声をかけてきた。
「私、コトちゃんに会う前になんにもしてなくてよかった。あの日まで我慢しててよかった。だって、何かしてたらあんな風に離れ離れにされちゃってたかもしれないんでしょ? そんなのヤ。ヤです」
視線を向ければ、彼女は空を見上げている。いやに実感のこもる、しみじみとした声音であった。
その言葉の裏には、あくまで「普通」にこだわる両親への感謝が垣間見える。両親がなぜそうさせていたのか、その本質を今ようやく理解できたのだろう。どうやら、トガ家和解の日は近いらしい。
「だからね、私、これからも絶対ぜーったい、悪いことはしないのです。コトちゃんと離れ離れになりたくないもん!」
次いでヒミコはそう続ける。今までもそういう心持ちだったろうが、アオヤマの一件で改めて決意したのだろうな。
であれば、もうヒミコがヴィランになることは絶対にないだろう。
だが、仮にとは思うこともある。もしも彼女がもっと早く限界を迎えていたら……きっと、私たちはヒーローとヴィランという立場で相対していただろうから。
もしそうだったら、私は彼女に対して今と同様の感情を持てただろうか。
……難しいだろう。私の価値観を変えてくれたのは、私に誰かを愛することの意義を教えてくれたのは、他でもないヒミコなのだから。
よしんば持てたとしても……きっと、それはお互いにとってとても困難な道が待ち受けていたに違いない。立場が違うということは、敵対するということは、そういうことだ。
ただ、それはあくまでもしもの話であって。今ここにいる私たちに、敢えてすれ違っていたであろう可能性を論ずることにさしたる意味はないだろう。
そんなことよりも私は、ヒミコが口にした言葉の根底にあるものがどうにも嬉しくて。だから私は、くすりと笑って言葉を返す。
「ああ、ぜひしないでくれ。私も、君と離れ離れになるのは嫌だ」
「うん。えへへ、ずーっと一緒にいてね、コトちゃん」
「もちろんだよ」
こうして私たちは、どちらからともなく手を絡めた。
前を行くハガクレが、それに気づいて口笛を吹くそぶりを見せる。
彼女に向けて、空いているほうの手で人差し指を立て、己の唇に当てるヒミコ。
私はそれを見て、やれやれと苦笑するが……しかし、手を離すことは決してないのであった。
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EPISODE Ⅶ「雛鳥たち」――――完
EPISODE Ⅷ へ続く
というわけで、青山くんは一時離脱。のちのち戻ってきてもらうよって匂わせて今EPは終わりです。
少なくとも次のEP8・・・原作で言えばインターン編の時系列中では出てこないと思います。つまり、ボクとしては2か月近くは時間的な余裕を確保できたということ。
ええ、そうですね。今のところノーアイディアなので、原作での動き待ちです。
いやまあ、何か思いついたらそっちを使うかもですけど。とりあえず、ということで。
そしてトガ家和解の予感。
本当の自分を押し殺して、普通であることの必要性を頭ではなく魂で理解したトガちゃんでした。
まあ理波が悦んでチウチウされてるので、今更隠す必要はないんですけど。
運命の相手に出会うまでの時間稼ぎとしては間違いなく必要だったと理解できたので、デタントは間近です。
さてそんな感じで、EP7はこれにておしまいです。
正確には明日の幕間まで、ですが。
もう一日だけお付き合いくださいませませ。
スターウォーズメイン、ヒロアカサブの長編閑話って読みたいです?
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読みたい
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あるならまあ読む
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あんまり気が乗らない
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いらない