銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

138 / 288
EPISODE Ⅷ ヴィランの覚醒
1.後期授業の始まり


「くらい。だれもいない」

 

 苦痛だけがあった。身体も、心も、痛くて、苦しくて。

 

 でも。

 

 けれど、()()がんばれる。がんばらなきゃ。

 

 だって。

 

「いつも、いつもだれかがしんでいく。きえてしまう」

 

 でも。

 

「『わたしががまんすれば』」

 

 この痛いのを、我慢すれば。

 この辛いのを、自分がすべて引き受ければ。

 

「『そうすれば、だれも。だれも、きずつかなくてすむ』」

 

 ああ、でも。

 

 やっぱり、本当は、嫌だ。

 

 叩かれるのも、引っ張られるのも。

 切られるのも、刻まれるのも。

 お注射も、お薬も、全部、全部。

 

 我慢しなきゃいけないのに。

 

 それでも。

 

「いたい。いやだ。だれか。たすけて」

 

 ――大丈夫、いたくないよ。

 

「てがみえた」

 

 ――大丈夫、こわくないよ。

 

「てをとった」

 

 ――大丈夫、くるしくないよ。

 

「てがだきしめた」

 

 ――大丈夫、ヒーローが救けにきてくれるよ。

 

「てがあたまをなでた」

 

 ――大丈夫、……

 

「てが、」

 

 ――ごめんね……。

 

「みえなくなっちゃう」

 

 崩れていく。消えてしまう。いなくなってしまう。

 

 消える。消える。

 すべてが。ああ、何もかもが。

 

 そのとき、また声が聞こえた。

 

 別の声。同じ声? わからない。わからないけれど。

 

『どうして? どうしてボクたちばっかり、奪われなきゃいけなかったんだろ?』

「しょうがないよ」

『どうして、この世界にはこんなに理不尽ばっかりあるの?』

「しょうがないよ。だって、のろわれてるんだもの」

『仕方なくない! 仕方ないはずあるもんか! そうでしょ!?』

 

 声が、混ざる。

 

 ああ。

 

 ああ!

 

『オマエら……ッ! 全員……ッ! 全員ぶっ殺してやるッ!』

「だれにもしんでほしくないのに!」

『なんで……! なんで、なんでもっと! もっと早く来てくれなかったんだ……! ふざけるなあぁぁッッ!!』

 

 憎悪が光る。

 光が伸びる。

 

 振るわれた輝きの色は、まごうことなく、赤――

 

***

 

「――……っ」

 

 強烈な、しかし言葉にするのもはばかられるほど嫌な感覚が、私を襲った。全身が粟立つ。

 

 だが今は動くわけにはいかない。何せ始業式の真っ最中だ。いやまあ、ネヅ校長の話はものすごくどうでもよく、ありえないほど長く続いているので、気を紛らわすにはちょうどいいのかもしれないが。

 

 この星の――全体的なフォースが、少し乱れている。いつの間に、バランスに影響があったのだろう。暗黒面の力がわずかに、しかし間違いなく増しているように感じる。

 

 いや、それについてはいい。よくはないが、少なくとも予測はつく。十中八九、シガラキ・カサネだろう。

 今のこの星で、暗黒面の力をそれほどまでに強められる存在は彼女くらいのものだし、その庇護者であったオールフォーワンが強くなるような言葉を残していたのだ。自発的に己の力を高めようとしていたとしても、何も驚かない。

 

 だが、その乱れが見せたと思われるフォースヴィジョン。これについてはまるでわからない。誰かの視点であったように思うが、あまりにも抽象的すぎて考察がままならないのだ。

 

 手入れのされていない無造作に伸びた白い髪と、絶望と怒りをないまぜにした赤い瞳の幼女であったように思う。それだけで言えばカサネを示しているように思うが、どうも顔つきが違うような気がしてならないのだ。

 さらに言えば、そうでない少女の姿も見えたように思う。いやまあ、ところどころが黒い景色と混じり合い、溶け合い、という状態だったので、はっきりと見えていた部分がほとんどないのだが。

 

 ちらりとヒミコに目と意識を向けてみるが、首を振るばかりだった。

 というより、彼女には見えなかったのか。質が同じフォースダイアドの我々だが、それでも個体としては異なる存在。こればかりは仕方ないか。

 

 ならばとダメ元でアナキンにテレパシーを向けてみたが。

 

『気にしなくていいと思うぞ。今回の件に関しては、君たちに危機が及ぶことはないはずだ』

 

 彼はそう言うだけであった。

 

 ……私たちに危機が及ぶことはないから気にしなくていい……? それはあまり、受け入れられるものではない。

 

 私はジェダイだ。この星の平和と正義を護らんとするもの。

 であればこそ、私たちだけがよければそれでいいなどと思えるはずがないのだ。

 

 何せ、一つだけはっきりとしていることもある。誰か……幼い少女が助けを求めている、ということだ。であれば、私がすべきことは一つしかないだろう。

 私たちが授業を受けている間に、世界のどこかで大きな事件、あるいはそのきっかけが起こりつつある。もしくは起こる。それは間違いなく、今は関係なくともいずれ関わることは間違いない。そういう意味でも、無視できるはずがない。

 

『それで自分の命を危険にさらすことになってもかい?』

『今さらそんな質問が、意味を持つとでも?』

『それもそうだ。ならば……こう言わせてもらうよ――フォースと共にあらんことを』

 

 アナキンはそう言って、消えた。

 

 と、ちょうどそのタイミングで、校長の話が終わったらしい。壇上の人間が、マスター・ブラドキングの司会で生活指導担当のマスター・ハウンドドッグと入れ替わる。

 その話も気持ち半分で聞き流しつつ、私は校長が触れた一つの言葉に想いを馳せていた。

 

***

 

 始業式が終わり。教室に集まった私たちを前にマスター・イレイザーヘッドがいつも通りに淡々と口を開く。

 

「かつてないほどに色々あったが、上手く切り替えて学生の本分を全うするように。今日は座学のみだが、後期はより厳しい訓練になっていくからな……なんだ芦戸?」

 

 が、締めくくるかと思われた直後に“個性”を発動、アシドに身体を向けつつぎろりとにらみつけた。サポートアイテムである捕縛布が半ば展開されており、完全にやる気である。久しぶりに見る気がする。

 

 これにびくりと身体を硬直させたアシドだったが、当の彼女に代わるようにツユちゃんが手を挙げた。イレイザーヘッドは“個性”と捕縛布を治めつつ、視線で続きを促す。

 

「さっき始業式でお話に出てた『ヒーローインターン』……って、どういうものか聞かせてもらえないかしら」

「そういや校長が何か言ってたな」

「俺も気になっていた」

「先輩方の多くが取り組んでらっしゃるとか……」

 

 彼女の発言に続くように、何人かも声を上げる。

 

 私も内心で頷いた。私が気にしていた言葉は、まさにそれであったからだ。

 まあ私の場合、父上からある程度聞いているので、単純に行う機会はいつになるのかという類の「気にする」だが。

 

 ともあれこれを受けて、イレイザーヘッドは気だるげに頭をかいた。しかしその内心は、完全に責任ある教師のものである。

 

「それについては後日やるつもりだったが……そうだな、先に言っておくほうが合理的か……」

 

 そうして自身の中で折り合いをつけたのだろう。彼は一度言葉を区切って、改めて口を開いた。私たち全員をゆっくりと見渡しながらだ。

 

「平たく言うと、『校外でのヒーロー活動』。以前行ったプロヒーローの下での職場体験……その本格版だ」

 

 その発言に、ウララカが「体育祭での頑張りはなんだったのか」という問いを放ったものの、説明は続けられる。

 

「ヒーローインターンは、体育祭で得たスカウトをコネクションとして使う。だから体育祭でスカウトをいただけなかったものは活動自体が難しいんだよ。ついでに言えば、授業の一環ではなく生徒の任意で行う活動になるから、活動することで学業に支障が出そうなやつもアウトだ」

 

 ここで、成績下位の面々がほぼ同時に、一斉にうめいた。

 

「ただ、一年生での仮免取得はあまり例がない。他にも理由は色々あるが、お前らの参加は慎重に検討しているのが現状だ……と、今話せるのはこんなところか。ま、体験談なども含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちにも都合があるんでな」

 

 イレイザーヘッドは話をそう締めくくると、一時間目を担当するマスター・プレゼントマイクに交代して退室していったのであった。

 

***

 

 さて、ひとまず授業も終わって昼休み。

 みなで食卓を囲む中で、上がる話題はもっぱらヒーローインターンについてだった。

 

「私なんてスカウトなかったんだけど、もしかして参加できない感じ?」

 

 口火を切ったのは、いつかのようにハガクレである。

 彼女の言葉に、同じくスカウトが来なかった面々がそれぞれに頷いた。

 

「俺も。でもやりたいよね……」

「それな。……増栄はなんか知らねーか? 親父さんから、こう、なんか」

 

 焼き魚をやけに器用にほぐしながら、ミネタが視線を向けてきた。彼に続く形で、同席していたものたちから一斉に視線が集まる。

 

 これに対して、私はいつものように複数並んだ料理の中からひとまずサラダに箸をつけつつ答えた。

 

「体育祭でのコネクション、とマスターは仰ったが……父上の経験では、それだけがインターンの入り口ではないらしい」

「というと?」

「他にコネクションがあるなら、それを使っても問題ないらしいぞ。たとえば個人的に親しい地元のヒーローとかな」

「なるほど!」

 

 私の返答に、ミドリヤが「地元となると僕の場合有名どころはデステゴロかシンリンカムイかMt.レディか……スカウトは来てないけど選択肢には十分入るぞ……」などとぶつぶつするのをよそに、ミネタが「Mt.レディはもう勘弁してほしい……」と珍しく女性に対して弱気になっていたが、それはともかく。

 

「あとは、インターン経験者自体もコネクションに含まれるそうだぞ」

「え、それホント?」

 

 野菜を咀嚼しつつ、ハガクレに頷く。

 

「とは言ったものの、父上がインターンをやっていたのはもう二十年近く前の話だからな。今もそうかはわからないぞ。少なくとも当時はそうだったらしい、というだけであって」

 

 この答えに、しかし場の雰囲気は一気に明るくなった。

 私は決して断言はしていないのだがなぁ。十年一昔と、この国では言う。二十年ともなればかなり変わっていると思うが。

 

「そういうことなら、予選落ちした俺たちもチャンスはありそうだな」

「うちのクラス、スカウトもらったやつ多いもんな!」

「先にインターンに行った人に紹介してもらえば、あるいはというところか。多少出遅れるのは仕方ないとして」

 

 しかし一度盛り上がった彼らは、鎮まらなかった。まるで山火事のようだ。

 

「そういうことなら……ねーお茶子ちゃん、()()()()()、もしインターンやれることになったら助けてくれる?」

「もちろんだよ!」

「んふふ、右に同じくなのです」

「わーい! 二人とも大好き!」

 

 二人の即答に、いつの間にかヒミコをあだ名で呼ぶようになっていたハガクレが、諸手を上げて歓声を上げる。

 思わず眉間に力が入ったのがわかった。

 

 ……まあそうは言っても、ヒミコはインターンに行くとしたら私と同じところに行くだろう。仮免許すら取ったばかりの一年生を、三人も受け入れてくれるような懐の深いヒーローはそうそういないはずだし。

 うん。眉間から力を抜いた。

 

 とはいえ、私としてもインターンに行くとしたら誰のところにするのか、という問題は出てくる。いやまあ、十月頭にサポートアイテム関係の資格試験が控えているので、インターンに行くとしてもその後からのつもりなのだが。

 

 それはそれとして、行くならやはりインゲニウムと言いたいところなのだが、彼の復帰に間に合うかどうか。既にヒーロー活動用のパワードスーツは完成して、引き渡して経過も良好だったからもう間もなくだとは思うが……。

 

 そう考え、私は空になった二つ目の丼を横にずらしつつ、インゲニウムの縁者に声をかけることにした。

 

「……イイダ、兄君の調子はどうだ? 私はできればインゲニウムのところを希望したいのだが」

「ああ、順調だよ! 医者が言うには、早ければ今月の中頃には復帰できそうとのことだ!」

 

 が、彼の返答が場の空気を変えた。それまでの、ある意味では学生らしい陽気な雰囲気は吹き飛び、一瞬の静寂ののちにお祝いムード一色になる。

 

「マジか!?」

「本当なの飯田くん!?」

「よかったじゃん飯田!」

「ありがとう! みんなありがとう! 兄に代わって礼を言う!」

 

 口々に祝いの言葉を述べる面々に対して、イイダはわざわざ立ち上がって一人一人に頭を下げていく。それも深々とだ。

 

 そんな彼に対して、さらに祝辞がぶつけられていく。律儀な彼はこれにすべて応えようとするのだが、何度も何度も声がかけられるためエンドレスである。そのうちカミナリやアシドのような、比較的他人に遠慮なく絡みに行く傾向の強い面々が調子に乗り出し始めた。

 

 そこまで行けば、あとはヤオヨロズやツユちゃんなどが制止してくれる。ここまでで、ある意味一つの流れと言えよう。A組では比較的よく見る光景だが、うちはそういうクラスなのだろう。

 

 そうして最終的には、ヤオヨロズの音頭でインゲニウムに復帰のお祝いを贈ろうと決まったところで昼休みは終了となったのだった。




お待たせしました、書きあがりましたので本日より投稿を再開します。
EP8、「ヴィランの覚醒」全18話+幕間2話をお楽しみいただければ幸いです。

今章は原作で言う八斎會編です。
割烹とかだとヤクザ編と書いてましたが、書きあがってみると実のところインターン編withヴィランアカデミア一部先取り編といった感じになりました。
つまり、原作沿いじゃない部分があります。書くのに時間がかかったのはその辺りの調整に手間取ったからですね。
二次創作で原作から逸れたことをやろうとすると、下手に一次創作するより時間かかるのは既存の流れをどう変えるか、変えたとしてその影響はどれほどのものかといったことを考える必要があるからでしょうねぇ。

なおヴィランアカデミア一部先取り編、と書いたので原作のヴィランアカデミア編を知ってる人にはわかるかもですが、今章は理波が完全に不在な話が過去一多いです。
そのため百合要素は前章、前々章より減ってる・・・と思う。たぶん。
まあ前半は比較的百合百合しくしてるはずなので、そちらでご勘弁いただきたく。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。