銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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2.ビッグ3

 アオヤマはまだ戻ってきていないが、それでも授業は進む。

 始業式から三日が経った日のこと。この日、イレイザーヘッドが担当するヒーロー情報学の時間において、そのときはやってきた。

 

「今日は本格的にインターンの話をしていく。具体的には、職場体験とどういう違いがあるのか、直に経験している人間から話してもらう」

 

 彼は最初にそう言うと、教室の外へ声をかける。

 これに応じて室内に入ってくる三人をよそに、話を始めるイレイザーヘッド。

 

「多忙な中、都合を合わせて来てくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する三年生三名……通称ビッグ3のみんなだ」

 

 彼に紹介される中、先頭に立って入ってきたのは、いつぞや手合わせをしたトーガタ・ミリオであった。

 他の二人とは面識はないが、知識としては知っている。黒髪の、耳が尖っているほうがアマジキ・タマキ、紅一点がハドー・ネジレだったはずだ。

 

 そんな三人を見て、クラスメイトが騒めく。すぐ近くで強烈な戦意が湧き上がっているが、これについては無視しよう。

 

「じゃ手短に、自己紹介。天喰から」

 

 そのざわめきを無視するのは、いつも通りのイレイザーヘッドだ。

 

 が、彼に促されたアマジキは、固い表情のまま。心拍数も高いようだし、ついでに言えば先ほどから思考が非常にうるさい。緊張で。にらむように我々を見ているのは、単にそれをごまかそうとしているにすぎない。

 実際、彼はすぐに音を上げた。

 

「ダメだミリオ……波動さん……どうしたらいい……言葉が出てこない……帰りたい……!」

 

 そして背を向け、黒板に身体を預けてしまう。

 このあまりにもあまりな姿に、一斉に困惑が場に満ちる。

 

 が、そんなアマジキを放っておいて、ハドーがにこにこと声を出した。

 

「そういうのノミの心臓って言うんだって! ね! 人間なのにね! 不思議!」

 

 字面だけ見れば、完全に罵倒である。が、本人の内心にはそんなものは欠片もない。純粋に彼女は不思議がっているようだ。

 

「彼はノミの『天喰環』、それで私が『波動ねじれ』。今日はインターンについてみんなにお話ししてほしいと頼まれてきました……けどしかし、ねえねえところで」

 

 そのまま自己紹介をあっさりと終わらせた彼女は、その内心の衝動の赴くままに我々に話しかけ始めた。

 いずれもみなの身体的な特徴を、不思議不思議と言いながら質問攻めにするのだが、答える前にさっさと他のものに話しかけてしまうため、まったく落ち着きがない。

 アシドが幼稚園児みたいと評していたが、実にしっくり来る。我が家の妹も、なんでもかんでも質問ばかりする時期があったなぁ。などと思う。

 

「合理性に欠くね?」

 

 が、これをイレイザーヘッドが見逃すはずもない。

 彼のひとにらみでハドーも身を引いた辺り、どの学年でもイレイザーヘッドはある種恐怖の対象らしい。

 

「イレイザーヘッド、安心してください! 大トリは俺なんだよね!」

 

 そのイレイザーヘッドに親指を立てて見せたトーガタが、一歩前に出る。そして、

 

「前途ーー!?」

 

 三音を大声で発しながら、耳を向けてきた。

 これも脈絡がまったくない。当たり前だが、みなぽかんと黙り込んでしまった。あのバクゴーですらである。それはそれで大したものではあるのだが、それはさておき。

 

 私は彼の心境がおおむね見えるし、面識もあるので、とりあえず応じることにした。

 

「多難」

「それだーーっ!! ありがとう増栄ちゃん! よォしツカミは失敗だ!!」

 

 私しか応じなかったことに、しかし動じることなく笑うトーガタ。

 その姿に、再び教室内が少しずつ騒めき始める。主に、威厳や風格が感じられない変人、という方向で。気持ちはとてもわかる。

 

 だが残念なことに、彼らが今の雄英の上位三位を独占していることは事実だ。人間、必ずしも性格と能力は比例するわけではないという好例と言えよう。

 いやまあ、彼らも本質的には善に属するものたちなので、基本的な人品に関しては文句はないのだが。

 

 とはいえ、トーガタはそういうひそひそ話にも一切動じない。

 

「まァ何が何やらって顔してるよね。必修ってわけでもないインターンの説明に、突如現れた三年生だ。そりゃわけもないよね」

 

 彼はそうこぼし、何やら思案するようにブツブツとつぶやいたあと。

 

「君たちまとめて、俺と戦ってみようよ!」

 

 元気にそう宣言した。当然と言うべきか、やはり驚きの声があちこちから上がる。

 バクゴーは、もうなんというか好きにしてくれ。

 

「俺たちの経験をその身で経験したほうが合理的でしょう!? どうでしょうねイレイザーヘッド!」

「……好きにしな」

 

 そしてイレイザーヘッドも応じてしまったため、私たちはあれよあれよという間に体育館ガンマへと移ることになったのだった。

 

「あの……マジすか」

「マジだよね!」

 

 体操服に着替えたものの、気乗りしない様子のセロが尋ねれば、トーガタは伸脚をしながら応じた。迷いのない即答である。

 

「ミリオ……やめたほうがいい。形式的に『こういう具合でとても有意義です』と語るだけで十分だ……」

 

 これに対して、体育館の隅で壁と顔を合わせたまま動こうとしないアマジキが声をかける。ただし、その声はだいぶ小さいので聞き取りづらい。

 小さい、のだが。

 

「みんながみんな上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない……」

 

 後半のその声は、妙によく響いて聞こえた。

 

 当然、これに真っ先に反応を見せたのはバクゴーだ。こんな話を聞いて、彼が怒らないはずがない。

 

 が、彼が爆発するより早く、アシドの角で遊んでいたハドーが口を開いた。

 

「あ、聞いて知ってる。昔挫折してヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ。知ってた!? 大変だよねぇ通形、ちゃんと考えないとつらいよ、これはつらいよー」

 

 この言葉に、バクゴー以外の面々も明らかに顔色を変えた。バクゴーに至っては、怒りが一周したのか笑みを浮かべて今にも殴りかかりそうである。

 

「待ってください……我々はハンデありとはいえ、プロとも戦っている」

 

 そんなバクゴーを代弁するかのように、トコヤミが視線も鋭く声を上げる。

 バクゴーを手で制していたキリシマも、彼に続いた。

 

「そしてヴィランとの戦いも経験しています! そんな心配されるほど俺らザコに見えますか……!?」

 

 彼らの言葉は、クラスの総意なのだろう。大なり小なり戦意を見せて、既に身構えている。

 

 が、これを確認したトーガタは、場に満ちている反発をさらりと受け流した。

 

「いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」

 

 それが、始まりの合図となった。トーガタが言うや否や、キリシマがそれまで抑えていたバクゴーを解き放つ。

 

「死ぃぃねええぇぇッッ!!」

 

 爆破を両手で起こしつつ、凄まじい速度で前へ飛び出すバクゴー。

 そんな彼に続くように、しかし一直線ではなくやや迂回するように駆け出したのはミドリヤだ。トーガタが見える位置へ移動し、バクゴーに対してどう動くかを見定めるつもりなのだろう。

 

「よっしゃ! 先輩そいじゃあご指導ぉー……よろしくお願いしまーっす!!」

 

 二人に遅れる形で、キリシマが吼える。これを合図にして、他の面々も一斉に動き始めた。

 

 うん、フォースがなくとも読めていた流れである。

 対して、私とヒミコは参加しない。ヒミコに胸元で抱きかかえられた状態で、イレイザーヘッドの隣へ戦線離脱したのだが……それはひとまず置いておくとして。

 

 この瞬間に、トーガタの服が落ちた。彼の身体をすべてすり抜けて、地面にと。

 

 当たり前だが彼は全裸となり、これを目にしてしまった女性陣が硬直する。特にジローは悲鳴を上げながら顔を隠してしまった。戦闘の場において致命的すぎるが、仕方がないとも言える。克服はすべきだとも思うが。

 

 しかしなるほど。自らの細胞由来ではない、普通の服を着た状態で彼の「透過」を発動するとこうなるのか。前に自ら言っていた通り、実に扱いの難しい“個性”だ。

 

「今服が落ちたぞ!?」

「ああ失礼、調整が難しくてね!」

 

 目の前で起きた出来事の理解が難しいのか、セロが声を上げる。これに対して、トーガタは敵前だというのにも関わらず服を着なおしている。上半身は諦めたようで、パンツとズボンだけのようだが。

 

 しかしその明確なスキを、バクゴーが見逃すはずもなく。

 

「隙だらけだ! 喰らいやがれ!!」

 

 爆破の勢いを乗せて身体をねじり、強烈なハイキックを顔面に叩き込んだ。

 

 だがその攻撃は、なおもズボンをはこうとしているトーガタの顔をあっさりと透過する。

 

「顔面かよ」

 

 空振りで終わった攻撃に、バクゴーは舌打ちをしながら空中へ距離を取る。

 直後、思わずと言った様子でつぶやいたトーガタ……それにバクゴーの二人を思い切り巻き込む形で、複数の攻撃が降り注いだ。セロのテープやアシドの酸、トドロキの氷、あるいはミネタのもぎもぎなどである。少し遅れて、トコヤミのダークシャドウやツユちゃんの舌、ジローのイヤホンジャックも来た。

 

 が、それらもすべてが空振りに終わる。いずれもトーガタに触れることすらなかったのだ。

 

 そして同時に、彼の身体が地面に沈んだ。これが見えたのは、離れていたところから俯瞰していた私とヒミコ、ミドリヤ、それと真上近くにいたバクゴーくらいだろう。

 

「いないぞ!?」

 

 近接攻撃しかできない面々が、遠距離攻撃に続いてトーガタに接近しようとしていたが、姿が消えた様に思わず足をとめてしまう。イイダの声に、距離を取っていた面々も攻撃の手をとめた。

 

 ああ、それは悪手だ。いつもの彼であれば、このあとは――

 

「――まずは遠距離持ちだよね!」

 

 全裸のトーガタが、ジローの後ろに現れた。地面から飛び出るようにしてだ。ただしその速度は極めて速く、よく見ていないと一瞬でそこに現れたようにしか見えないだろう。

 

「ワープした!?」

「すり抜けるだけじゃねぇのか!? どんな強“個性”だよ!」

 

 この移動に、動揺が広がる。特に一番トーガタに接近されたジローが顕著だが……それでも、全裸の大男に悲鳴を上げながらもイヤホンジャックを巻き取り、迎撃をしようとしていたのでまるきりダメと言うわけではないだろう。

 

 ただ、トーガタを前にそれはあまりにも悠長が過ぎた。さして動くこともできないまま鳩尾に拳が叩き込まれ、ジローがその場にくずおれる。

 

 この勢いのまま、トーガタはさらに動く。最初の位置からほとんど動いていなかった、遠距離攻撃持ちの面々が次から次へと襲われ脱落していく。

 

「死ねぇぇぇぇッ!!」

「やらせないっ!」

 

 それを阻止すべく、バクゴーとミドリヤが()()同時に攻撃を加える。バクゴーが顔に、ミドリヤが足下にだ。

 

 上手い。私がそう思った瞬間に、トーガタの身体が地面に沈んで消えた。

 

 バクゴーは舌打ちを、ミドリヤはあちこちへ視線を飛ばしながらほぼ同時に着地。互いの背をかばうような形で立ち上がった。それに続くようにして、遠距離持ちの中で被弾を免れたトドロキとヤオヨロズが、同じように周囲を警戒する姿勢を取った。

 

 そんな彼らの意図を無視するように、トーガタが離れた場所へ現れる。一瞬で移動するには、かなり無理のある距離だ。オールマイトでもなければ不可能だろう。

 

 これにいまだ驚愕の色を隠せないまま、A組の面々が視線を集中させる。ぽつりとトドロキがつぶやいた。

 

「一瞬で三分の一以上が……!」

「お前らいい機会だ、しっかりもんでもらえ。その人……通形ミリオは俺が知る限り、最もナンバーワンに近い男だぞ。プロも含めてな」

 

 と、ここにイレイザーヘッドの淡々とした激が飛ぶ。あまり感情を声に乗せない人なので、ただ聞くだけではわかりづらいのだが……嘘偽りない善意100%の激励であっても、今この状況においては少し逆効果ではないかなと思う。

 

「な、ナンバーワンに最も近い男……!?」

「何したのかさっぱりわからねぇ……!」

「すり抜けるだけでも強ェのにワープとか……! それってもう無敵じゃないすか!」

「よせやい!」

 

 ほら。何人かの戦意が、早くも挫けかけている。ポーズを決めているトーガタに、自信と余裕が満ち溢れているように見えることも一因か。この辺りは、風貌すらも心を挫く武器にしていたオールマイトに通ずるものがある。

 いやまあ、みなそこまで明確にやられているわけではないだろうが。士気が下がっていることは間違いない。

 

「寝言言ってんじゃねぇぞテメェらァ!」

「うん……! からくりはあるはずだよ!」

 

 が、そんな空気を切り裂くように、バクゴーとミドリヤが声を張り上げた。

 

「すり抜け野郎がワープする前には、必ず地面に『落ちて』やがる……起点はそこだ! 見逃すんじゃねェぞ!」

「それにこっちが攻撃を喰らってる、ってことはすり抜けないタイミングもあるはず……それならカウンターは狙えると思うよ!」

「お、おお! さすが、ハンデありとはいえオールマイトに勝ってるだけあるな! 助かる!」

 

 うむ……この二人に限っては挫ける、ということはなさそうだ。

 こうなったからには、戦いがあっという間に終わるということはなさそうかな?

 

 私はそう思いながら、ここからの展開に期待をするのだった。

 

 ……ちなみに、隣から授業中だぞと言わんばかりの鋭い視線(“個性”込み)を向けられたので、ヒミコは唇を尖らせながら私を床に下ろした。

 




原作と違いかっちゃんも轟くんも仮免合格してるので、この戦闘にも当然二人が参加します。
かっちゃんがいるなら、こんな誘い方された上に格下扱いされたらそりゃキレる。
でもって本作ではデクVSかっちゃん2がなかったので、デクくんが率先して先手を取りに行くことはないかなってことでこんな感じの流れに。

なお、青山くんは前章の後書きで言及した通り、今章は不在になります。
次章では戻ってくる予定なので、今少し時間と予算をいただければ。

【おまけ・その後の二人のテレパシー】
『いきなり除籍されなかっただけ、君はイレイザーヘッドに感謝すべきだと思うぞ』
『ぷぅ』
『私にカァイイアピールをされても困るのだが。いや、それをイレイザーヘッドにするのも、その、嫌なのだが』
『……えへへ』
『なんだ、どうした』
『なーんでも』
『なんなんだ』
『なんでもないもーん』
※戦闘シーンはちゃんと見ながらやってます。
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