年度が改まり、私は予定通り飛び級して中学校三年生となった。それに前後する形でライトセーバーも完成し、ようやく私はジェダイ……というより、パダワンとしての体裁を整えることができた。
完成したライトセーバーは、今の私の体格に合わせた小型、かつ刀身は短めである。分類としては、いわゆるショートー・ライトセーバーに当たる。
ただし、その出力はイニシエイトのトレーニング・ライトセーバー程度に抑えられている。
要は光る棒程度でしかないわけだが、ライトセーバーは
しかし万が一のときには、私の”個性”を使えば本来の威力を発揮できることは確認済みだ。そういう事態が起こらないことが一番ではあるが。
なお、刀身の色はなんとオレンジとなった。前世では何度造っても緑にしかならなかったのだが……これは新しい環境の影響だろうな。私自身も昔に比べて多少変化しているという自覚はあるので、そういうことなのだろう。
さて、ようやくライトセーバーを手にしてからの半月ほどは、アナキンからみっちりとセーバーテクニックの手ほどきを受けた。とはいえ長いブランクがある上に、マスター・ヨーダにも比肩したアナキンが相手だ。一本を取るどころか、ろくに近づくことすらできなかったがね。
というか、実体がないフォース・スピリットの彼が、実体のある私と切り結べるというのはどういうことなのか。身近すぎて実感が薄かったが、フォースもなかなか人知を超えている。
それはさておき……私は前世、アヴタスだった頃はフォーム6、ニマーンをライトセーバー戦の主体としていた。これは主流な五つのフォームのいいところ、特徴的なところを抽出して組み合わせたフォームであり、最大の特徴は特化したところのある他のフォームとは逆に、総合力を重視している点にある。
何より、修行の際の負担が低いので、クローン戦争以前の戦いをあまり想定していなかった時代に流行した。戦う以外のことを学ぶ時間を確保するために、というのがその理由だ。
『だがニマーンは様々なフォームの要素を集めたために、要領のいいものでも習得までに最低十年はかかる。おまけに多くを詰め込みすぎたこともあって、下手に身につけるとただの器用貧乏で終わりかねない。治安の悪いこの星で、しかも一人で使うには向かないだろうな』
とはアナキンの説明だが、まさにアヴタスというジェダイナイトは戦場では器用貧乏であり、実戦力としては心許ない男であった。サポートに徹していればそれなりに戦えたとは思っているが、それは私の主観であるからなぁ。
ともあれそういうわけで、ニマーンは戦いにおいては決して使いやすいフォームではない。集団戦に弱いという欠点もあるため、コトハとしては基本的に用いないこととした。
代わりに私が選んだフォームが、フォーム4、アタロである。
アタロは体術に重点を置いた、アクロバティックなフォームだ。全身の柔軟性と、フォースを合わせた飛び跳ねで動き回り、全方位からの攻撃を中心としている。
私がこれを選んだ理由はいくつかあるが、その一つとして、これが前世のマスターが主体としたフォームであることが挙げられる。また、彼女と同種族であるグランドマスター・ヨーダもこのフォームを得意としていたのも理由だ。
彼らは、今の私よりも小柄な方だった。特にヨーダは、何世紀も生きたご高齢であったが、しかしひとたびセーバーを抜けば、すべてのジェダイを圧倒する最強のジェダイだった。
彼の超人的な立ち回りは一度しか見たことはないが、それでも強く印象に残っている。私より小柄な彼が、極めたことでそれほど戦えるのだから、なかなか身体が成長しない今の私にとっては理想に近いフォームだろう。
もちろん、グランドマスターに憧れないジェダイはいない、という理由もないとは言わない。
そういうわけで、私はヨーダを中心に参考としてアタロを学ぶこととし、その弱点を補うために防御を中心としたフォーム3、ソレスを充てることにした。メインはアタロを使い、ソレスはサブという感じだ。基本のシャイ=チョーと総合力のニマーンは、それらを支える基盤とする。
なお、アナキンが得意とするフォーム5、シエンは純粋に腕力と体格の不足により断念した。あれは小柄なものにはまるで向いていないので……うん。
***
さて、そうして四月も終わりに差し掛かったある日のことだ。
「コトちゃーん!」
「ああいらっしゃい。少し散らかっているがくつろいでくれ」
いつものように、マスエ家にトガが遊びにやってきた。最近の彼女はあまり血を吸うことがなく、私のセーバートレーニングが物珍しいのか、それを眺めてにまにましている。
アナキンはフォースセンシティブにしか見えないので、傍目からは私が一人で形稽古して、一人で会話し、一人で吹っ飛ばされているように見えるだろうが。
ともかく私がアナキンに転がされ、トガがそれをやたら嬉しそうに眺めるのが、ここ一月ほどの日常である。気温も上がってきたので、もっぱら屋外にいることが多い。
しかしこの日、私は受験予定の高等学校から資料が届いたので、それに目を通すために屋内にいた。具体的には、リビングで書類を確認していたところである。
中身はヒーロー科の日本最高峰、雄英高等学校のものであり、ヒーロー免許を実際に持つ父上も交えてのことであった。
しかしトガが遊びに来たので、私たちは検討を中断することにした。私は書類を片付け始め、父上は端末を取り出して触り始める。
一方、トガは私の手元に視線を落とすと、数回目を瞬かせてから私に向き直った。
「コトちゃん、もう受験のこと考えてるの? 早くないです?」
「私もそう思うが、学校側がどうしてもと言うのでな」
「ああ、コトちゃん優秀だもんねぇ。すごいねぇ」
「我が校から雄英に進学する生徒が出るかもしれないと、やけに教諭陣が張り切っていたな。私としてはその考え方はいかがなものかと思うが」
「あの学校はそんなものですよ」
誰も本当の彼女を見つけられなかったことを考えると、やけに説得力がある言葉だ。
「……あれ? でも……雄英って、静岡あたりじゃなかったです? 遠くないです?」
「まさにそれが問題でな……ここから通学するにはさすがに遠すぎる。しかし一人暮らしをするには、私はまだ年齢がなぁ……」
資料をしまい終えて、苦笑する。物理的な距離と、実年齢はいかんともしがたい。
だが将来のことを考えれば、進学先は雄英が望ましい。同条件を整えられる学校は他に士傑があるが、あちらは西日本なのでさらに遠く、論外だ。
この点については、我が家でも意見が割れているので困っている。母上は比較的私に寛容というか、多少放任でも構わないというのだが、父上が過保護なのだ。
まあ、父上はヒーロー免許の持ち主であるし、ヒーローという職業の長短を理解している方だ。加えて、一般的な男親にしてみれば悩ましかろう。子供を持ったことはないが、一般的に男親にはそういう傾向があることは知っている。
「……大変ですねぇ」
「ああ。だが、誰も間違ったことは言っていないからな。少しずつ意見をすり合わせて、妥協点を探っていくよ。そうやって話し合いで分かり合えることが、人間を霊長足らしめる要素の一つだからな」
「…………」
私の言葉に、トガはにまりと笑っていた。
口元に人差し指を当て何やら思いついたと言いたげで、視線がやや上向いているので何か考えているのだろうが。さて、何が出てくることやら。
「む」
と、そこで父上がふと声を上げた。何事かと思い、トガ共々そちらに目を向けてみれば、画面の中では臨時ニュースが。
どうやら、またどこぞかでタチの悪い犯罪者が出たらしい。珍しくはないが、まったく本当に治安の悪い星だ。
だが、どうにも奇妙だ。画面の中には数人のヒーローが見えるが、誰も動く気配がない。何をしているんだ、彼らは?
「父上、なぜ誰も動こうとしないのですか?」
「人質がいるみたいだ。ヴィランはどうも身体を直接乗っ取るタイプで、しかも流動系の異形型らしいな。彼らでは対抗手段がないんだろう」
その解説に、私はこらえたが、トガは露骨に顔をしかめた。恐らく、彼女と私の意見は一致していることだろう。
いや、本当に何をしているんだ、現場にいるヒーローたちは。人質がいることは確かに問題だが、ただ手をこまねいて見ているだけとは。
しかも今聞こえたのは、なんだ。相性のいいヒーローが来るまで持ちこたえさせるだと? 人質は中学生の少年ということらしいが、それを理解してのことか?
「どうせみんな、目立ってチヤホヤされることしか考えてないんですよ。助けてほしい人はどこにだっていて、いつだってそう願ってるのに」
頰を膨らませて怒りを見せるトガに、父上が苦笑する。
トガと交流を得たきっかけは、大雑把にだが両親には話してある。一歩間違えたら、悪の道に堕ちていたかもしれないことも。
そんなトガの言葉には、有無を言わさぬ力があった。
「……私はそうはならない」
だから私はそう答える。
「コトちゃんはもうヒーローですよ! 私のヒーローです!」
するとこう返ってくる。嬉しそうな笑顔とともにだ。
彼女のこういう、好意を素直に伝えてくるところは好ましいと思う。だから、私もどういたしましてと素直に言える。
何より、彼女の信頼に応えたいとも。
「……父上。これ、現場はどこですか?」
「静岡の……田等院みたいだね。……
「なんとか……してみせます」
言いながら、私は自身の端末をフォースで手繰り寄せた。同時に携帯端末も取り出し、このニュースにそれぞれ接続。
ただし、すべて違うところからの映像を選ぶ。一つとして状況が重複しないようにだ。
そうして映し出した複数の映像を照らし合わしつつ、地理の知識と組み合わせて、現場の正確な場所を己の中にしっかりと認識する。
「父上、”個性”の……使用許可をお願いします!」
「……やれるのか?」
「
実を言えば、できるという確信があるわけではない。
だが、やってみるなどという生半な考えなど、ジェダイには不要だ。ジェダイにあるのは、体現すべきは、やるか、やらないかだ。
「わかった、俺が責任を取る。プロヒーロー”バンコ”の名前で”個性”の使用を許可する」
「ありがとうございます……!」
返事をしながら、呼吸を整える。意識を集中させる。巡らせる。全身で己の、世界の、宇宙のフォースを感じるのだ。
そうして、画面の中。少年を取り込もうとまとわりつくヘドロのような悪漢を、それ
――ここだ。
手をかざす。次の瞬間、ヘドロの動きが一気にぎこちなくなった。
届いた。思わず、口端が上がるのがわかる。
だがまだだ、まだ足りない。さらにフォースを通して、ヘドロの動きを完全に停止させるのだ。
並行して、取り込まれかけている少年を引きはがす。どちらも少しずつ、慎重に。
やりすぎてはいけない。度が過ぎると、これは過剰な攻撃手段に早変わりしてしまう。
フォース・グリップ。遠隔の相手を対象に、首を絞める暗黒面の技。そこにだけは至らない。至ってたまるものか。
なぜなら私は、ジェダイなのだから。
「む……!?」
だがそのとき、画面の外から一人の少年が飛び込んできた。音声から察するに、人質となった少年の友人だろうか。
怯えた表情を隠すこともなく、しかし一切躊躇なく飛び込んできた少年。彼はやはり怯えながら、恐怖に身体を震わせながら、けれどもとまることなく人質の少年を悪漢から
なんとまあ。私が既に引きはがしかけていたとはいえ、随分と根性のある少年だ。誰がどう見ても無謀であろうというのに。周りでただ手をこまねいていただけの現役たちより、よほどヒーローではないか。
そう思った次の瞬間だった。
《プロはいつだって命懸け!!
筋骨隆々の巨漢が血反吐を吐きながら割り込んできて、少年二人を引き寄せると同時に拳を地面に叩きつけた。
するとどうだろう、拳を中心にすさまじい勢いの衝撃波が発生し、暴風となってそこら一帯に吹き荒れたではないか。
挙句それだけにとどまらず、風が猛然と吹きすさぶと同時に強烈な上昇気流が生じたのだろう。水分が巻き上げられ、雨のように降り始めた。
「――オールマイト」
それは、この国で……いや、この星でも特に名の知られたヒーローの雄姿であった。
なるほど、これが長年トップヒーローの座を維持している男か。今までヒーローについて細かく調べたりすることがあまりなかったので、具体的にどういう男か知らなかったが……これは確かに、納得するしかないだろう。
「いやー、さすがだよなオールマイト。……何はともあれ、お疲れさん理波」
一人で感心していると、ぽんと頭を撫でられた。そちらに目を向ければ、父上が優しい目で私を見ていた。
「……ありがとうございます、父上」
「どういたしまして。よくやったな」
父上はそれ以上何も言わなかった。言わなくともお互いの考えていることはなんとなくわかるし、今回についてはあえて気持ちを口にするまでもないと、やはりお互いわかっているからだ。
彼はフォースセンシティブではないが、こういうところには敏いお方だ。そこは宗教の指導者であるがゆえに、人の心への理解が深いからだろう。
「すごい! すごかったですコトちゃん!」
そして、一段落したと見てか、トガがすごい勢いで横から抱き着いてきた。
端末の映像は早くもオールマイト一色になっていたのだが、そちらには見向きもせずにだ。彼女はいっそ、清々しいまでにオールマイトへの興味がないらしい。
とはいえ、私もさほどオールマイトに思うところはない。なので、この話は事件の終わりと共にあっさりと打ち切られた。そして、話題は流れる水のように次へと移っていくのであった。
……なお、今回の件を父上がヒーロー公安委員会に報告したところ、私は最低でもヒーロー仮免許を取得するまでは、遠隔地への”個性”の行使を禁止された。
納得しかないので、それは別にいいのだが……しかし実のところフォースは”個性”ではないので、アナキンは『じゃあつまり、やり放題だな』などと言っていたのだが……いや、しないよ。そんな、マスター・クワイ=ガン門下じゃあるまいし。
気まぐれかつ今後使えるかどうかもわからないスターウォーズ用語解説第五回
「クワイ=ガン・ジン」
スターウォーズのメインキャラクター。スターウォーズのナンバリングタイトル、エピソード1に登場(2にも声だけ出演してる
ジェダイの最高位、マスタークラスの人物。実力、指導力に申し分なく、周りからも一目置かれる有力なジェダイマスター・・・なのだが、平気で評議会の決定を無視したり、ジェダイの掟をスルーしたりと、ものすごく型破りな人物。
どれくらい型破りかと言うと、ジェダイに禁じられた賭け事をふっかけられたら即座に乗り、あまつさえその賭け事(ダイス)でフォースを使ったイカサマを堂々とふっかけるレベル。
そんなわけで、誰が呼んだか人呼んで「ジェダイの突然変異」。いやマジで、何がどうしてこんなジェダイができたんだ? 導き? フォースの導きなの?
そんなクワイ=ガンの因子はそれはもうばっちりと弟子、孫弟子に受け継がれている。弟子のオビ=ワンは「ジェダイの鑑」と言われるほどの人物で、普段は実際そういう穏やかな人だが、いざとなるとジェダイ的に禁じ手とされた方法をわりとホイホイ使う。
そのオビ=ワンの弟子は言わずと知れたアナキンとルークであり、両者がジェダイとしてどれほど型破りだったかは劇中の活躍を見れば言わずもがな。
さらに言えば、アナキンの弟子にアソーカという人物がいたのだが、彼女はアナキン直々に「自分と同じ性格」と認められている。なんなんだこの門下。