街から離れた場所の廃工場。もはや久しく使われていないその場所に、一台の車が停まった。
そこから現れたのは、二人。黒と灰が基調の全身スーツをまとった男と、ペストマスクが特徴的な男だ。
うち、ペストマスクの男が憂鬱そうに口を開く。
「見るからに不衛生だな……ここが拠点か?」
「ああ! いきなり本拠地に連れてくかよ。面接会場ってとこ」
対するは、意味の反する言葉を発したスーツの男。ヴィラン連合のトゥワイスだ。
彼に案内されるまま、ペストマスクの男は工場の中へと踏み込む。
そこで彼を出迎えたのは、複数のヴィランたち。荼毘やマスタード、スピナーなど一部は不在だが、しかしいずれもあの神野事件で何かしらの被害を出した名前持ちであり、一人の人間を出迎えるにしては明らかに過剰戦力だ。
まあ実際のところ、ペストマスクの男の戦闘力は彼らに劣るどころか相手によっては格段に勝るのだが……それはそれとして、無傷で切り抜けられるかどうかは定かではなく。
トゥワイスが言うような「面接」にしては、相当な圧迫面接と言うほかないだろう。
「来たか……」
二人を、さして歓迎することもなく出迎えるはもちろん、ヴィラン連合のリーダーである死柄木弔。
彼に頷いて、トゥワイスはペストマスクの男を指で示す。
「話してみたら意外といいやつでよ! お前と話をさせろってよ! 感じ悪いよな!」
「……とんだ大物連れてきたな、トゥワイス」
弔の言葉に、大物と呼ばれた男が一瞬眉をひそめた。
しかしすぐに気を取り直したのか、怯える様子もなくさらりとかわして見せる。
「大物とは……皮肉が効いてるな、ヴィラン連合」
「何? 大物って、有名人?」
これに反応したのは、マグネ。得物を己の肩にかけ、リラックスして座っているように見えるが、その実いつでも動ける態勢だ。
彼女に問われるままに、弔は答える。
「先生に写真を見せてもらったことがある。いわゆるスジ者さ。『
「極道!? やだ初めて見たわ、危険な香り!」
「ゴクドー? それって、つまりボクたちとどう違うわけぇ?」
説明に一人顔を紅潮させるマグネをよそに、胡乱げな視線を隠そうともせず話を拾ったのは死柄木襲。
「よーし、小学校すら通ってない襲ちゃんにおじさんが教えてあげよう」
彼女に応じたのは、ミスターコンプレス。その言い方が気に入らなかったのか、襲は赤い瞳を怒らせて表情のない仮面をにらむ。
しかし、コンプレスも一廉のヴィラン。これに動じた風もなく、飄々と説明を始めた。
「昔は裏社会を取り仕切る、恐ーい団体がたくさんあったんだ。でもヒーローが隆盛してからは摘発・解体が進み、オールマイトの登場で時代を終えた。シッポつかまれなかった生き残りはヴィラン予備軍って扱いで、監視されながら細々生きてんのさ。ハッキリ言って、時代遅れの天然記念物」
「まァ……間違ってはいない」
「ふぅーん。つまりぃ、時代に取り残されたかわいそーな人たちってことかぁ。へぇー?」
嫌味が込められた説明と、あからさまにバカにするような感想と視線を、ペストマスクの男……ヴィラン名「オーバーホール」は、それでもいきり立つことなく淡々と受け流した。
彼はその内心で、表向きそんな落ち目の組織の若頭でしかない己の情報を持っている、ということにそれなり以上に思うところはあるのだが。それはヴィラン連合に対してではなく、裏にいた黒幕に対するものなので、ヴィラン連合自体にはさして心動かされるものはなかった。
そして問題の黒幕は、現在タルタロスに収監されている。改めて、オーバーホールは今このときを千載一遇の機会だと判断した。
「それでその細々ライフの極道くんがなぜウチに? オールマイトだってまだ健在なのに、そんなにハッスルしたいわけ?」
「……日向のことはさして関係ない。オールマイトも人間である以上、寿命がある。そのうちいなくなるさ。そしてその日は近いと見ている。だから重要なのは、オールフォーワンが消失したことだ」
オーバーホールは語る。オールフォーワンは、自分たち裏のものにとっては都市伝説のようなものだったと。
無理もない。オールフォーワンはそれだけ用意周到に、裏の世界をその手で支配していたのだ。
それでいて、滅多に姿を現さない。噂さえもだ。“個性”が出現し始めた超常黎明期以降、明確に生き続けた悪の親玉。それがオールフォーワンなのである。
オールマイトに敗れた現代でさえ、裏の世界で生きていれば自然とそうした話は聞こえてくる。それほどの存在だった。
だが、そのオールフォーワンが本当に倒れた。
もちろん死んだわけではない。それでも、明確に人前にその姿を現し、敗北した。捕らえられた。その瞬間が、映像としてはっきり世間に流れた。この影響は、決して小さいものではない。
「つまり今は、裏の世界に支配者がいない。じゃあ次は、誰が支配者になるか」
それがオーバーホールの結論。もちろん、そう言うということは、そこに己が立つだけの覚悟と力を持つという自負があるからでもあるが。
しかし、それを認められないものがここにいる。
「……ウチの『先生』が誰か知ってて言ってんならそりゃ……挑発でもしてんのか?」
死柄木弔だ。
「次は俺だ。今も勢力をかき集めてる。すぐに拡大していく。そしてその力で、必ずこのヒーロー社会をドタマからブッ潰す」
彼の言葉に、襲がうんうんと何度も頷く。
しかしオーバーホールは、これになびかない。彼の心は、一ミリも動かなかった。
「計画はあるのか?」
「計画? お前さっきから……仲間になりに来たんだよな?」
そして放たれた問いに、弔の声が低くなった。じわじわと機嫌が悪くなり始めている。
だが、これにもオーバーホールは動じない。彼は淡々と、今のヴィラン連合に……ひいては弔には、先がないとでも言いたげに言葉を紡ぐ。
「計画のない目標は妄想と言う。妄想をプレゼンされてもこっちが困る。いいか。目標を達成するには計画がいる。そして俺には計画がある。今日は別に仲間に入れてほしくて来たんじゃない」
弔の額に、青筋が浮かぶ。傍らで、襲の目が細められる。
「俺の傘下に入れ。お前たちを使ってみせよう。そして俺が次の支配者になる」
「帰れ」
「そーだそーだ!」
真正面から突きつけられた、挑発どころか明確な嘲りに、弔と襲が拒絶を突きつける。
それは他のメンバーも同様だった。
最初に動いたのは、マグネ。
「ごめんね極道くん、私たち誰かの下につくために集まってるんじゃあないの」
いつの間にか臨戦態勢を取っていた彼女は、手にしていた包みから己の武器を取り出していた。そのヴィラン名の元になった、巨大な磁石があらわになってオーバーホールに狙いを着けている。
同時に、マグネの“個性”が発動する。
それは「磁石」。周囲の自分以外の人間に、磁力を付与するというもの。付与する場所は一部でも、全身でも。強さの度合いも自由にできる力。
付与できる性質は決まっている。男はSに、女はNに。
ゆえにマグネは相手の頭に磁力を付与し、手にした巨大な磁石と引き合うほうを前にするのだ。そうすれば、頭から磁石に引き寄せられた人間は、猛烈な勢いで磁石に……つまりは石に、頭を強打することになる。それが彼女が多くの死傷事件を起こしてきた常套手段だった。
「何にも縛られずに生きたくてここにいる。私たちの居場所は私たちが決めるわ!」
今回も、そのようになる――
「……?」
――ハズだった。
磁石に頭を打ち付けられたオーバーホールが、“個性”を振るっていた。手で触れたものを、瞬時に分解する“個性”を。
彼の手が、いつの間にかマグネの腕に触れていた。ギギギ、と音がする。人の身体がきしむ音だ。
そして、限界はすぐに訪れる。
「……ッ! マグネッッ!!」
寸前。
襲が突き出した手のひらに引かれて、マグネの身体がオーバーホールから引き離される。
直後、マグネの左手が弾け飛んだ。
「あああああああっっ!?」
「マグネッ! しっかり!!」
激しく血が噴き出す。強烈な痛みと喪失感で、マグネが悲鳴を上げる。
そうして後ろに倒れ込む彼女を、咄嗟に襲が抱き留めた。
一方、今まさに人を殺そうとしたオーバーホールは気にした風もない。それどころか、自らに降りかかった血をぬぐうことに躍起になっている。
「ああ汚いな……! これだから嫌だ……!」
「お前ぇぇ……っ!!」
そんなオーバーホールを見て、襲が前に飛び出す。既に全身は赤い閃光に覆われていて、白銀の剣も抜き放たれている。
「待て襲」
弔がそれを制そうとするが、もう遅い。“個性”とフォースによって爆発的な身体能力を発揮した襲のスピードは、簡単に止められるものではなかった。
「死ィィィィねええぇぇぇぇッッ!!」
猛然とオーバーホールの首に向け、刃を叩き込む襲。
だが、それが首に届こうとしたところで、彼女は
その勢いのまま剣を振るい――音もなく飛び込んできた弾丸を弾き飛ばす。
「邪魔を……!!」
着地。彼女はその直前から、弾丸が飛んできたほうへ手を向けていた。
すると、フォースが生み出す引力によって、天井からペストマスクで顔をすっぽりと覆い隠した男が引きずり降ろされてくる。
「するなァ!!」
「どっちが……!」
男を迎える切っ先。対峙する銃口。
この隙を突いて、襲にオーバーホールが手を伸ばす。
しかしその動きの鏡写しのように、弔もまた接近して手を伸ばした。
どちらも相手に触れることで効果を発揮する“個性”の持ち主。触れさえすれば、相手をすぐに死へ至らしめる力。
そんな物騒な力が秘められた両者の手が交錯する傍らで、銃が起動する。顔をマスクで覆った男が、弾丸を放った。
現れたのは、先端に針を持つあからさまに普通ではない弾丸。もちろん、襲がそれをはっきりと視認できたわけではないが……それでも
振るわれた剣の勢いも乗った弾丸は、まっすぐにオーバーホールへ向かい……。
「オーバーホール!」
「……ッ、チィッ!」
すんでのところで、オーバーホールはこれを回避した。闇に消える弾丸を見送りながら、勢いよく距離を取る。
そうこうしている間に銃を撃った男もそちらへと移動し、くしくも二つの組織のリーダー格が二対二で対峙する構図となった。
しかしそれもすぐ崩れる。なぜなら、廃工場の壁を力任せに破壊しながら、複数の男たち――いずれもペストマスクを着けている――が乱入してきたからだ。
「ハッ、なるほど……ハナからそうしてりゃ幾分かわかりやすかったぜ」
数の優位をあっさりと覆され、弔は悪態をつくように声を出す。
ただその顔には、かつての彼とは異なる冷静な色もあった。
「待てどこから!? 尾行はされてなかった!」
「大方どいつかの“個性”だろう」
大勢の乱入に、案内役だったトゥワイスが狼狽える。
これに答える弔の口調はやはり落ち着いていて……それはまさに、オールフォーワンの教育が芽吹き始めていることの証だった。
「……遅い」
「二発とも外しちゃいやした……参りやしたね」
一方オーバーホールも、落ち着き払っている。
手短にたしなめられた男のほうも、参ったと言いつつ本気で参っているようには思えない口ぶりだ。
「穏便に済ませたかったよ、ヴィラン連合。こうなると冷静な判断を欠く。幸いにして、死人はお互い出なかったんだ。戦力を削り合うのも不毛だし……頭を冷やして後日また話そう。腕一本はまけてくれ」
そのまま、オーバーホールは仲間を従えてこの場を離れようとする。
「ふざっけんなよ時代遅れのゴミどもがぁ……!」
「てめェ殺してやる!!」
彼らを追いかけて殺そうと、襲とトゥワイスが気炎を上げる。
だが、
「……ダメだ」
弔がそれを制した。
「なんでさ!? ここまでナメられて何もするなって!?」
「そうだ! 責任も取らなきゃなんねェだろうが!」
これに対して二人はさらに激昂するが、そうこうしているうちにオーバーホールたちは既に大半が消えていた。
「冷静になったら電話してくれ」
その言葉と、連絡先が書かれた名刺だけを残して。
かくして、ヴィラン連合と死穢八斎會の初顔合わせは、非常に険悪なまま終わったのであった。
マグネ生存。
フォースユーザーが居合わせて、仲間の命の危険を見逃すはずがないよねってことで。
まあ今後の展開のためにも、マグネは死んでもらったら困るというのもあるんだけど。
今までは極力原作沿いになるように書いてましたが、今章はここから少しずつ原作と違うところが出てきます。
まあとはいえ、全体的に見ればそこまで激しく原作から逸脱してるわけでもない・・・はず・・・。
これまでより原作との違いが多いのは、そうならざるを得なかったわけではなくEP2の頃からの予定通りなので、その点に関して言えばプロット君は無事です。
それ以外のところでちょっと死にかけましたが、死んではいないのでヘーキヘーキ。