銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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14.彼女の”変身”

 進学先における通学をどうするかの答えは出ないままだが、時間は過ぎていく。

 

 季節も巡り、八月を迎えた。夏休みのさなかであり、自由に使える時間が多いこの月は受験生には正念場であろうが、私にとっても似たようなものだ。

 フォースの扱いそのものはもちろん、セーバーテクニックや”個性”の扱いなども伸ばしていかなければならない。

 

 もちろんそこには勉学も含まれるのだが、こちらについては特に問題ではない。

 元より勉学については得意であり、私は生まれ変わってからというもの、一度足りとて試験で九十五点未満を取ったことがない。模試の結果もことごとく最上級であるので、気にしなくていい。

 

 そんなある日のことだった。具体的には八月七日。私の誕生日である。

 この日は毎年家族から盛大に祝われるのだが、今年はそこにトガが加わっていた。なぜかというと、なんと私とトガは誕生日が一緒だからだ。

 

「コトちゃん、誕生日一緒だったんですね! これはきっと運命ですよ!」

 

 それを知ったとき、トガはそう言って何度も跳びはね全身で喜びを表していたものである。

 

 しかし面白いこともあるものだ。あるいは、フォースがそのように導いたのかもしれない。

 まあ、トガは自分のことより私を祝いたいがために来ているようだが。そこはブレていないと言うべきだろう。

 

 だが今年のこの日、私はそれとは別に信じがたいものを見ることになった。それこそトガの言う運命であるかのように、あるいはフォースの導きであるかのように。

 

「トガ……? 君、まさか……」

「? どうかしましたか?」

 

 玄関から上がる彼女を見ながら、私は目を見開いた。

 トガは首を傾げて私を上目遣いに見上げているが……私は硬直したまま動けないでいた。

 

 もちろん、彼女に見惚れているとか、”個性”による攻撃を受けたとかいうわけではない。

 ではなぜ、私がこんな反応をしたかと言えば……。

 

「わっ!? そこに何かいるんですか?」

「……! やはり……! アナキン、これは」

『ああ……間違いない。彼女、フォースに感応している』

 

 そう、トガからフォースの気配がするのだ!

 まさかと思ってアナキンに呼びかけて出てきてもらえば、案の定。彼女はフォース・スピリットであるアナキンに、反応して見せた。

 

 フォースによって構成されているスピリットの姿は、フォースセンシティブにしか見えないという。それが見えるということは、つまりそういうことだ。

 

『いや……待て。どうもフォースユーザーに至るほどではないらしい。僕がここにいることは把握しているが、その声や姿をはっきりとは認識できていないようだ』

「そ、そうなのか……なあトガ。君、ここにいる人間が見えるか?」

「人がいるんですか? ごめんなさい、わからないです……でも、なんだかもやもやしてて、もんやり声が聞こえるのはわかります」

「アナキンの見立て通りか……どういうことだ……?」

 

 フォースは、後天的に使えるようにはならない。なぜなら、その元とも言えるミディ=クロリアンの細胞内含有数は、後天的に増えたりはしないからだ。あれはあくまで先天的なもので、フォースを扱えるかどうかはそれだけで決まる。

 私は自らの”個性”によってその例外となったが、まさにこれは例外中の例外。後天的にフォースユーザーになるなど、共和国の……ひいてはジェダイの常識ではあり得ないことだ。

 

 だが、そのあり得ないことが今起きている。これは一体、どういうことなんだ!?

 

「私もよくわかりません! あ、でも……もしかしたら、私の”個性”の影響かも?」

「君の? 確か君の”個性”は『変身』だったか?」

「はい! 血を吸った人に変身できるんですよ」

『へえ』

 

 アナキンが相槌を打つ。

 

 そうそう、そんな”個性”だった。確か、摂取した血の量に応じて変身できる時間が変わるのだったか。コップ一杯ほどの血液で一日、と聞いていたはずだ。

 だが、変身できるのは姿だけ。性格や技術はもちろん、”個性”も、変身したからと言って他人とまったく同様に使えるわけではない。潜入や情報収集などには有益な”個性”だろうが、決して飛びぬけて強力と言うわけではない。

 

「でもですね、なんと! 最近になって、変身中も”個性”が少し使えるようになったのです!」

「……なんだと? まさかそれでフォースも?」

「はいたぶん! 変身中に”個性”を使うと、すごく疲れるし変身もすぐ解けちゃうので、ホントに少しですけど……」

「いや、それでも十分すぎるぞ。使い続けて成長したということか……」

 

 ”個性”は身体能力の一部だ。筋肉と同様、使い続ければ成長する。トガの”個性”も成長したわけか。

 

 ただ彼女の場合、使用するには他人の血液が必要となる。そのため、普通に生きていたらそうそう鍛えられるものではないはずだが……ここ半年ほどは日常的に私から血を吸っているから、使う機会はいくらでもあっただろう……。

 

「いや待て、だとしてもおかしくないか? 君の”個性”はあくまで変身するもので、私の能力が使えるというのも変身中の話だろう? それでなぜ、元の姿でも使えるということになるんだ?」

「さあ?」

 

 私の問いに、トガはこてりと首を傾げた。

 

 まあ、それはそうか。わかっていればもっと説明してくれただろうしな。

 

 なんというか、”個性”というものは本当に厄介だな……。何か不思議なことが起きた場合、大体は”個性”が原因ではあるだろうが、その過程がまるでわからない。

 研究者たちなら、何か仮説の一つでも思いつくのだろうか……。

 

『コトハ、ひとまず彼女に一度変身してみてもらえないか? 変身中にフォースが使えるなら、恐らく君と同程度の感応ができるはずだ』

「あ……ああ、わかった。……トガ、せっかくだから君が私の力をどれくらい使えるのか見てみたい。変身して見てくれないか?」

「いいですよ! あ、でも今ストックを切らしてるので……」

「……血だな。わかった……んっ」

 

 夏なので服に袖はないのだから、手首や腕から吸えばいいものを、鎖骨に近い首元にかみついてきた。

 最近のトガはまた吸血の頻度が上がってきているのだが、なぜかこういう妙にデリケートなところから吸いたがる。彼女の中には何か流行でもあるのだろうか?

 

「ぷはぁ。ごちそうさま」

 

 そして彼女は、恍惚とした表情を浮かべながら顔を離すのである。

 私の血はそんなに味がいいのだろうか……?

 

「それじゃあ、変身しますね」

「待て待て待て、なぜ脱ぐ!?」

 

 そしてようやく変身する……というところで、トガはいきなり服を脱ぎ始めた。しかも下着まで含めてだ。

 つまり、全裸になろうとした。この場にいた全員が、トガから顔を背けたのは言うまでもない。

 

「しょうがないんですよ。私の変身、相手の服まで一緒に変身するので。裸んぼにならないと服の上に別の服を着てる、なんてことになって面倒なのです」

「あー……」

 

 なるほど? そういう制約があるなら仕方ない……って、いや、そうではなく。

 

「だからと言っていきなり脱ぐなよ……目のやり場に困る」

「コトちゃんにならどれだけでも見られてもいいですよ? ホラ」

「やめなさい! 年頃の娘がしていいことじゃないだろう!?」

 

 共和国ほど発達していない文明とはいえ、この星もそれなりの科学技術がある。おまけに”個性”なんてものがあるのだから、どこで誰が見ているかわからないというのに! 下着があるとはいえ、胸を露わにするのはやめなさい!

 

「ふふ、コトちゃんは優しいねぇ。だから私、大好きですよ」

「……話が進まないから、早くしてもらえまいか……」

 

 身体ごとトガから視線を逸らして、私は答える。

 

 そんな私に彼女は何か言いたげな雰囲気を出したが、すぐに気を取り直してくるりと背を向けた。それからちゃんと断りを入れて、改めて服を脱ぎ始めた。

 少しの間、ごそごそと動く気配が伝わってきたが……ぱさり、とかすかな音が鳴ったのを最後に音は聞こえなくなる。

 

 代わりに、”個性”が発動した。今までとは異なり気配の変化がにわかに湧き起こり、しかしそれを感じている暇もなく、明らかな異変が生じた。

 

 トガの気配は、雰囲気は、変わらない。だが、その身体から感じていたフォースの気配が、あまりにもなじみ深いものへ変わっていたのだ。

 なじみ深い、というか……普段から身にまとっているもの、と言ったほうがいいか。

 

 そう、それは私のフォースだった。

 

「はい、もういいですよ」

 

 そして聞こえてきた声も、私のものだった。

 

 自分の声が、自分ではないものから発せられているという違和感を抱きながらも振り返れば……そこには、私がいた。

 今の私と同じ服装、同じ髪型の、寸分違わぬ私がもう一人。なるほど、見事な「変身」だ。

 

 とはいえ、立ち方や表情など、違う部分もある。その辺りは、簡単には消すことのできないトガという人間の個性なのだろう。

 

「すごいな……私がいるぞ……」

『いやはや、”個性”ってやつは本当に恐ろしいな』

「本当に人がいるー!?」

 

 そのトガが、驚いた顔でアナキンを思い切り指差した。今まで見えなかったものが急に見えるようになったのだから、気持ちはわかる。

 

『やあ、お嬢さん。僕としては何度も見ているけれど、こうやって面と向かって会話するのは初めてだな』

「ほへー……幽霊? 幽霊さんなのですか?」

『ま、まあ、そんなところだ……』

 

 トガ、すごいな。まったく躊躇なくアナキンの周囲を回りながら、その身体をべたべたと触ろうとしている。霊体なので当然触ることはできないのだが、それでもまるで気にしていない。

 あのアナキンが押され気味だ。珍しいものを見たな。

 

『おほん、僕はアナキン・スカイ』

「幽霊でも血って吸えます? 試してみてもいいですか?」

『ダメに決まっているだろう!? おいコトハ、君の友達だろう、なんとかしろ!』

「あー……トガ、そもそも身体がないんだから血も何もないぞ。やめてあげてくれ」

「なーんだ。幽霊の血、チウチウしてみたかったんですけど」

 

 本当に残念そうに言うトガ。

 

 どれだけ血が好きなんだ……。いずれ私だけでは我慢できなくなりはしないだろうか? そんな日が来ないことを祈るぞ……。

 

「トガ、彼はアナキン・スカイウォーカー。私の友人であり、また師匠でもある」

「そうなんですか。私はトガです」

『うん……知っているよ。僕がコトハにセーバーの手ほどきをしているときとかに、よく一緒にいるのを見ているからな』

 

 はあ、とアナキンがため息交じりで言った。どことなく疲れているように見えるが、幽霊も疲れるものなんだな。

 

『それはともかく。トガ、コトハの力を使ってみてくれないか』

「えー」

「……トガ、私からも頼む。なぜ君に突然フォースが宿ったのか、私も知りたいんだ」

「わかりました!」

『調子のいい娘だな……』

 

 すまない、アナキン。

 というか、トガ。もしや君、素直なのは私に対してだけか?

 

 なんて思っていると、トガは脱ぎ捨てられた衣服から顔をのぞかせていた自身の携帯端末に手を向け、集中し始めた。

 フォースが動き始める。それが感じられる。

 

 そして――私たちが見ている前で、携帯端末は空中を走るように横切って、トガの手の中に納まった。

 

「ふぅ……どうですかコトちゃん、できました!」

「あ、ああ……よくできたな。完璧だ」

 

 私の言葉に、トガは嬉しそうににまりと笑う。

 

 ……私の顔でそうやって笑うと、違和感がすごいのだが。しかしその態度はまさにトガそのものなので、いつものように彼女の頭をなでておく。……いつもよりなでやすいなぁ。

 

「では、私の増幅はどうだ?」

「いいですよ。じゃあ……えっと、これの充電を……」

 

 そう言いながら、彼女は手にした携帯端末に意識を集中させた。

 その画面を横から眺めるように回り込むと……見ているその目の前で、携帯端末の電気残量が増えたのがわかった。

 

 間違いない、増幅も使えている。

 

『……すごいな』

「ああ、本当に……」

「わぷっ」

「『うわっ!?』」

 

 あまりのすごさに私とアナキンが半ば呆然としていると、突然トガの身体が溶けた。

 何を言っているのかわからないかと思うが、言葉に誇張も嘘もない。トガの身体がいきなりどろりと形を失い、溶けたのだ。

 

 と同時に身体は膨張し始め、すぐさま全裸のトガの姿へと変わる。

 彼女はその勢いのまま、私に抱き着いてきた。

 

「~~! 君と言うやつはまたそういうことを!」

「わぁい、コトちゃんの匂い好きぃ」

「いやそういう話ではなくて!!」

 

 全裸のまま、私に身体を摺り寄せてくる。まるで猫だなこの娘は!

 

 ともかく彼女を引き離すと、急いで服を着させる。

 

「なるほど、変身中に他人の”個性”を使うと一気に疲れるとともに、変身残り時間が激減するのか」

 

 その最中、背中越しに尋ねたが、先ほどの溶ける様はそういうことらしい。つまり、変身が強制終了したということのようだ。

 

「です。フォース? だとそんなことはないんですけど、なんでかなぁ。不思議だねぇ」

 

 それは、フォースが”個性”ではないからだろうな……。

 

 と、いうことは念のためまだ言わないでおくとして、だ。

 

「で、アナキン。君はどう思う?」

『僕は”個性”には詳しくないが……変身が解除されるときに、溶ける形で解除されたのが気になるな。おいトガ、君は変身するときもああやってドロドロになるのか?』

「今お兄さん、何か言いました?」

「変身するときもああやってドロドロになるのか? と」

「そうですよ。それがどうかしました?」

「とのことだが」

『うーん……溶けている、というのは……まさかとは思うが、一度身体を再構築しているということか? だとしたら、変身解除のときに細胞が……具体的にはミディ=クロリアンの一部が解除されないまま身体の中に残留している、とかだろうか……』

 

 顎に手を当てて、うんうんうなるアナキン。

 

 なるほど、そういう考え方は確かにできそうだな。もしそうだとしたら、相当な回数変身を重ねなければここまでは至らないだろうが……。

 

「なあトガ。君、変身は頻繁にするのか?」

「コトちゃんからチウチウした日はいつもしてますよ?」

『ということは……君たちが出会ってから、五か月近く……既に百回は確実に変身していることになるな。ゴールデンウィークのときなどは、ほぼ毎日じゃなかったか?』

「何回も、しかも短いスパンで変身し続けたことで、”個性”が何らかのエラーを起こして私のミディ=クロリアンがごくわずかだが残留した、と言うことか……」

『ついでに”個性”の成長も伴っている、と』

 

 存外確率の高そうな仮説ができてしまったな……。

 フォースと違い、私の”個性”である増幅が本来のトガにまで発現していないのは、やはりフォースとはまるで質の異なるものだからだろうな。

 

 何度も言うが、フォースに必要なものは細胞内のミディ=クロリアン。”個性”の由来である個性因子とやらとはまったく異なるものなのだから。

 

「……だとすると、これからトガは私に変身すればするほど、フォースの力が私に近づいていくということか……?」

『あり得るな……』

「本当です!?」

 

 着替えを終えたトガが、割り込む形でぐんと近づいてきた。

 

「本当かどうかはわからないが、今言った仮説が正しければ、そうなっていく可能性が高いのではないかな……」

「じゃあ私、コトちゃんと”個性”もお揃いになれるんですね! やったぁ!」

「……そんなに嬉しいことか……?」

「好きな人みたくなりたいって思うのは、当たり前のことですよ?」

「……そういうものかな……」

 

 私にはよくわからない感覚だが。

 

 どうなのだろう? と思って、アナキンのほうに目を向けたところ。

 

『ああー……まあ……そう、だな……ないとは言わない、かな……』

 

 なぜか歯切れの悪い回答が返ってきた。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。

 

 まあいい。それより、今はトガのことだ。

 このままだと、彼女はいずれ完全なフォースユーザーとなるだろう。だとすると、それを野放しにするわけにはいかない。

 彼女の立ち位置は、どうしても暗黒面に近い。万が一完全に暗黒面に堕ちてしまったときのことを考えると、色々教えることは相応の危険を伴うが……しかし彼女の場合、私の修行を見て勝手に使い方を覚えていくだろう。

 

 であれば、最初からこちらから教える体で、フォースに関わる禁則事項などをしっかり認識させるほうがいいように思う。何せ、彼女は私にはかなり素直なようだし。

 

「……と思うんだがアナキン、君はどう思う?」

『……僕から言えることは、たった一つだ。コトハ、ちゃんと責任は取れよ』

「? それは当たり前のことだろう」

 

 当然のことを言い含めてくるアナキンに、私は首を傾げる。

 

 だから、私は気づかなかった。私の後ろでトガが両頬を手で覆い、いっそ昇天するのではないかというくらいにゆで上がった、恍惚とした顔をしていることに。

 




トガちゃん、フォースの覚醒。
ついでになんか個性も育ちました。原作より一年以上早い。
まあ使う機会が多くなかった原作に比べ、毎日のように使ってたから多少はね?

アナキン「ちゃんと責任は取れよ」
「当たり前だろなにいってだ」
トガちゃん(トゥンク)

好感度がもりもり上がってるなう。

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