銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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13.近い場所で、彼が飛躍を果たした日

 インターン初日を終えて、寮に戻ってきた出久だったが、心中は穏やかではなかった。

 

 気のいい人間が集まっているA組では、一部を除いて誰もがみな気にかけてくれたが……インターンで見聞きしたものは基本的に守秘義務の範疇となる。下手なことは言えないため、詳しく説明するわけにもいかなかった。

 おかげで食事も入浴もおざなりになってしまい、部屋へ戻っても何かするほどの気力が湧かないまま、ベッドに仰向けとなってぼんやりするばかりである。

 

 彼の中にあったのは、どうすればあの少女()()を救けることができるだろうか、という問いだ。サー・ナイトアイには、その考え方は今はやめておくべきだと諭された問い。

 けれど、だからといって考えないなど、緑谷出久という男にとっては不可能なことだった。

 

 とはいえ、答えは出ない。仮免許を取ったとはいえ、ヒーローとしても、人間としても経験が足りないのだ。

 ましてやここは現実である。すべてを明快に救うような、特別な力や知恵が突然降って湧いてくるはずもない。

 

 ――と。

 手にしたままだったスマートフォンが、通知を告げてきた。

 

 何気なしに画面を持ち上げて、その内容に小さく目を丸くする。

 

『電話してもいいですか』

 

 生まれて初めての異性の友人から、そんなメールが届いていた。

 上半身を起こす。画面をタップして、少し悩んで、短い文章を送り返す。

 

 すると、ほどなくして電話がかかってきた。

 きっと心配してくれているんだろうな、と思い至って少し面映ゆくなる出久。

 

 とはいえ、放っておくわけにはいかない。そういうところは真面目な彼は、深呼吸を一つしてから通話のアイコンをタップした。

 

『もしもしデクくん?』

 

 直後、耳元で女性の声が響いて、出久はあっという間にいっぱいいっぱいになった。お茶子と会話すること自体は、初めてではないというのに。

 

 とはいえ、彼女相手ならば最初の頃よりも余裕があることも事実。まあ今この瞬間においては、異性を意識するだけの精神的な余裕がないだけというのが情けないところではあるが。

 

「も、もしもし?」

 

 ともあれ、出久はなんとか取り繕って応答した。

 

『夜にごめんね。その……なんていうか、色々……そう、色々あったから……』

「う、も、もしかして気を遣わせちゃったかな……」

『ううん、私がしたくてやってることだから。……正直もやもやしたままで寝るに寝れんし、それなら誰かと話してたほうがいいかなって、そういうアレだから。うん』

「ああ……麗日さんもそうなんだ……? で、でも、なんで僕なんかに……」

『なんかじゃないよ!』

「わっ」

 

 フォースで精神的に横っ面を張られて、落ち込んでいたところだ。雄英に来てからは極力出さないように努めていたネガティブな面をうっかり出してしまったところで、結構大きめの声で即答されて出久は驚いた。

 

 対してお茶子は、想いを寄せる人の卑屈な面がもどかしくて、反射的に答えていた。

 が、すぐにそれに気づいて慌てて取り繕う。電話の向こうでは、見えているわけでもないのにわたわたと手を動かしていた。

 

『えっと、その、デクくんはすごくて……その、かっこいい人だって、私わかってるから。あの、だから……その、なんていうか、「なんか」なんて言うのはやめてほしいっていうか……』

「う、うん、えっと。えーっと、あ、ありがとう?」

『ど、どういたしまして!』

 

 それが見えているわけではないのだが。普段と少し違うお茶子の口ぶりに釣られる形で、出久も妙に胸が騒いで頬を赤くする。

 

 しばらく、そこからはとりとめのないやり取りが続いた。お互いにわかってはいるけれども、本題に入るには何か前置きをしておきたかったので、一度話が脱線したのは二人ともある意味好都合だった。

 

 が、やがて覚悟を決めて。お茶子が、おずおずと本題を切り出した。

 

『……あのね、デクくん。今日のこと……なんだけど』

「……うん」

 

 来た、とは思った。

 思ったけれど、予想よりも身構えることはなかった。

 

 そのことを少し不思議に思いながらも、出久は頷く。ここにいない相手と、目が合ったような気がした。

 

『えっと……その、私でよければ、話聞くよ。愚痴でもなんでも。同じとこにおったんやし、私なら一応守秘義務の外でしょ』

 

 お茶子の申し出に、出久は一度目を見開いて。それからぎこちなく笑った。

 

 そうだった。この寮に住む二十人の中で、唯一お茶子だけは例外なのだ。彼女には、彼女だけは、話すことができる。

 そう思った瞬間、はっきりと気が楽になったように感じた。

 

『そ、それにデクくん、わりとため込んじゃうクチだと思うし。私も、その、言いたいこととか思うところ、あるから……よければ聞いてほしいなって……その、そんな風に思って、電話しました』

「……麗日さんにはかなわないなぁ」

 

 それは秘密を共有することへの親近感か、彼女の人徳のなすところか。それとも、彼女がそういうヒーローを目指しているからか。

 

 ともかく出久は、自分でも驚くくらいするりと言葉を口にしていた。

 

「……頭ではわかってるんだ。僕はオールマイトじゃない……救けようと思ったときに必ず救けられるような力なんて、ないんだって。サーの言う通り、今は考えないほうがいいのかもしれない。わかってるんだけど……でも、どうしても考えちゃうんだ」

『わかる……考えないなんて無理だよね……』

「あのとき、本当にあそこでエリちゃんを救けるのは無理だったのかなって……考えちゃうんだ。何かできたんじゃないか、って……」

『わかる……だって死柄木襲の言葉、聞いててしんどかった……』

「だよね……。なんで救けないんだって。悲鳴が聞こえないのかって。……そりゃ、ヴィランが言うなよって話かもだけど……でも、正論だし……」

『うん……』

 

 そこで出久は、ゆっくりとうなだれた。

 お茶子も、電話口の向こうで同じようにしていた。共にその場に居合わせたものとして、そんなことはないとは口が裂けても言えなかった。

 

 頭ではわかっている。出久もお茶子も、同行していた通形ミリオも。それぞれが今の自分の力でできる最大限のことをした。それは異論を挟む余地のないこと。

 救けようとした結果、その相手が死んでしまっては意味がないのだから、あのときはあれが最善だった。そのはずだ。

 

 ただ、現在進行形で被害を受けているものにしてみれば、それすらも裏切られたように思えてしまうことも、あり得る話で……。

 

 ここまであれこれ思い悩む必要など、ないのかもしれない。実際、相手が違ったならここまで思いつめなかったかもしれない。

 

 だが、出久たちにこの問題を突き付けたのは誰あろう、フォースユーザーの死柄木襲である。あのときの彼女ははっきりとフォースの深淵にあって、放たれる言葉には無自覚ゆえの全力のフォースが例外なく乗っていた。

 ただでさえ、言葉はときに刃物となって人の心をえぐる。フォースという明確な力を帯びていたとなれば、心に深く突き刺さる。引きずるのも当然と言えた。

 

 しかも、である。

 

「……どうして救けてくれなかったんだ、ってセリフ……どこまで本気だったんだろうね……」

『……見つけてくれないくせに、とも言ってたよね……。いつも終わってから来るくせに、って……』

「……うん。そりゃ、嘘かもしれないけど。真に受けるほうが問題かもだけど……でも、僕にはそれが嘘には思えなくて……」

『……私も……。あの言葉、ずっと頭の中でリフレインしてて……もやもやしっぱなしや……』

 

 あのときの襲の言葉が、悲鳴に聞こえた。怒りに満ちた襲の顔が、救けを求めているように見えた。

 少なくとも二人にはそう聞こえたし、見えたのだ。それがどうにも、心をざわつかせる。

 

 そう、二人は察してしまった。ヴィラン連合の主要人物である死柄木襲が、元は“個性”犯罪の被害者だったということを。ヒーローに救けられないまま、絶望の淵をさまよっていたことを。あるいは今も。

 

 そして同時に、出久はかつてのオールマイトとの会話を思い出していた。木椰区のショッピングモールで、死柄木弔と遭遇したあとのこと。オールマイトに、「オールマイトでも救けられなかったことはあるんですか?」と問うたときのことを。

 

 ナンバーワンヒーローの答えは、迷うことなく「あるよ。たくさん」だった。あのオールマイトでさえ、取りこぼすことがある。そんな現実を突きつけられた日のことを。

 時間を置いた二つの記憶がまるで、違う絵柄なのにかみ合ってしまったジグソーパズルのように、くっついて離れなかった。

 

 だから余計に、もやもやする……。

 

『……でも、さ。諦めたくは、ない、よねぇ……』

「――――」

 

 それは、とても静かな言葉だった。もしかしたら、つぶやくような声量でしかなかったかもしれない。

 けれど、彼女のその言葉は、やけにはっきりと聞こえた。

 

『救けたい、よね……。笑っててほしいなって、思うよ……もちろん、他の人だって、みんな、みんな……』

 

 言葉が重ねられる。余人には無謀な願望にしか思われない言葉。けれどそこには、はっきりとした覚悟の色があった。だから。

 

「――……うん。救けたい。救けることを、諦めたくない。だって、救けたいって、思っちゃったんだ」

『――――』

 

 心の炎が、勢いを増した気がした。

 

「エリちゃんは当然として。彼女も……死柄木襲も。ヴィランになってしまった人も、なるしかなかった人も……いや、もうヴィランに望んでなった人だって! 僕は――全部全部、救けたい!」

 

 だから言う。それはさながら、宣誓のように。

 

『――……ふふ。やっぱりデクくんはすごくてかっこいいや』

「え。そ、そう、かな? 自分で言っといて無茶苦茶だなって思うんだけど……」

『そんなことない! だって、それができたら一番いいやん? それ目指して、悪いわけあるもんかい!』

「麗日さん……」

 

 いつの間にか、二人とも顔は上がっていた。視線は窓の向こう、暑さの残る夜の空を見つめていた。

 

『……でも、そのためには強くならんとね』

「そう……だね……。救けるためにはきっと、負けられない戦いもあるだろうし……ああ、強くなりたいなぁ……」

『うん……私も、もっともっと強くなりたい……』

 

 そうして次に出てきた言葉は、力なきものの定型句のような言葉で。

 

 しかしそこに、悲観や羨望、嫉妬の色はなく。

 ただひたすらに、望み、願い、理想という前に向かって走り続けるもの特有の明るさに満ちていた。

 

「……ねぇ、麗日さん。僕……僕も、目指すヒーロー像、決まったよ。オールマイトみたいなヒーローになりたい。ずっと、ずっとそう思ってたけど。今は――」

 

 なぜなら。

 

 彼はもう。

 

「――オールマイトを、超えるヒーローになりたい! いつだってみんなを悲しませない、みんなが笑っていられる世界にできる……どんなときでも必ず勝って、必ず救ける、そんなヒーローに……!」

 

 デク(無個性の役立たず)ではない。デク(ナンバーワンを継ぐもの)なのだから。

 

『なれるよ』

「うん……」

『なろうよ!』

「うん……!」

『一緒に強くなろ、デクくん!』

「うん!」

 

 そんな彼に、彼女の言葉はよく沁みた。

 直接身体に触れられたわけでもないのに、暖かかった。

 意見を重ねるわけではなく、寄り添ってくれたことが、嬉しくて。思わず涙腺が緩む。

 

 そんな目元を、空いているほうの手でぐいとぬぐって、出久は天井を仰いだ。

 

「……ありがとう、麗日さん!」

『えへへ、いいってことよ!』

 

***

 

 ――そんな会話がなされている。

 

 ような気がするようで、どこかうっとりしているヒミコをよそに。

 私は今日、何が起きていたかの情報をまとめたI-2Oから報告を受けていた。

 

 内容そのものには、そこまで目を引くものはない。

 いや、もちろん私の感覚では十分すぎるほど大事件の芽に感じるのだが、この惑星の水準で考えるとこれでもまだ大したことはないのである。相変わらず恐ろしい星だ。

 

 それでいて、ことの発端とも言える死穢八斎會の若頭、オーバーホールことチサキは捕まっていない。虐待の疑いはあれど、証拠がないため逮捕できないのである。

 任意同行はもちろん求めたようだが、それも断られている。任意は任意だからな。

 

 だがそれよりも何よりも、私にとって無視できないものが別にある。

 

「……シガラキ・カサネがフォースグリップを使った、だと……?」

 

 そう、これだ。これは、これだけは何を差し置いても見過ごせない。

 

 フォースグリップは、言うまでもなく暗黒面の技だ。シスのみならず、暗黒面に堕ちたフォースユーザーなら使うこともあるだろう。

 だが、だからといって訓練もなしにいきなり使えるものではない。暗黒面の技としては下から数えたほうが早い難易度ではあるだろうが、それでも基礎を固めた上に成り立つ応用技なのだ。

 

 それを、シガラキ・カサネが使っただと?

 あの、ただフォースを振り回すことしかできなかった子供が? 誰からも教わることなく?

 

 いくらなんでもそれは、信じがたい話だ。せめて誰かがどこかでやったところを見たか聞いたかでもしない限りは、たどり着けるものでもないのだが。

 

 ……ヒミコ、しかいないよなぁ……。恐らくは合宿で、ムーンフィッシュと交戦したとき、だろうな……。

 彼女を捕まえたものに見られていたわけだ。そこから伝わったのだろう。

 

 まあ、それについてはもう仕方がない。既に終わったことだ。今さらヒミコにとやかく言う意味も必要もない。

 

 ただ、これが事実であるなら。現状でシガラキ・カサネと真っ正面から戦って勝てるものは、もはやこの地球上には私とヒミコしか存在しない可能性が高い。

 

「公安委員会の思惑通りに進んでいることには思うところはあるが……ヴィラン連合への対処に私が出ないわけにはいかなくなった、か……」

 

 つまり、そういうことである。すべての報告に目を通し終えた私は、ここで一つため息をついた。

 

 公安委員会からの要請となれば、それは「退治」となるだろう。果たして説得の余地を与えられるかどうか……。

 

 もちろん、戦うことに否はない。この星の自由と正義のために、戦わざるを得ないのであれば戦おう。シガラキ・カサネはまごうことなき犯罪者であり、暗黒面に生きるフォースユーザーなのだから。

 

 しかし彼女の過去に、相応のことがあったと私は知っている。虐待されていると思われる子供を誘拐したのも、自分と似たような境遇の子供をチサキから保護したかったからなのではないか。

 もしそうであるなら……彼女にも、更生する余地はあるのではないか。そう、思えてならない。

 

 たとえその可能性がゼロに極めて近くとも。ゼロでないのであれば、ジェダイとして、あの父上の娘として、ただ倒すだけで終わりとはしたくない。

 

 私はそう、思うのである……。

 




今回のサブタイは、EP1の13話に重ねる形のサブタイ。別名「緑谷出久:ライジング」。
何らかの飛躍がキャラクターにあったとき、原作ではライジングのサブタイが与えられますが、デクくんは今のところそういうのないですよね。
いやまあ、彼ってわりと常にライジングしてるし、その手のイベントが起きたときはもっと印象的なサブタイが与えられてるイメージではあるんですが。

一方原作の展開は既に最終章なので、今後デクくんのライジングが出るとしたら最後の最後にとっておき、って形だろうと推測してます。
ただ割烹ではちらっと書いてますが、本作は原作で言う全面戦争編をひとまずの決着にするつもりで書いています。なので、原作のライジング回の時系列では普通に授業とかしてる時期である可能性が極めて高く。
そういうわけで、もうここでライジング回やっちゃえって思いました。

思ったのでやりました(その目は澄み切っていた
まあ、ボクはこういう発破はヒロインにやってほしい派なので、かっちゃんではなくお茶子ちゃんにやってもらいましたが。

ところで、そろそろタグにデク茶とか入れたほうがいいんだろうか・・・。
でもタグのスペース、文字数いっぱいなんだよな・・・。
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