銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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14.嫌な話

 さらに数日が経って、再びの週末。土曜日のことである。

 私とヒミコは、イレイザーヘッドに呼び出されて寮を出た。彼と共にタクシーに乗り込んで向かった先は、ナイトアイの事務所。……の、最寄りの警察署である。

 

 なぜそうなったかは説明されている。ヴィラン連合に関わる案件……つまりはシガラキ・カサネに関わる案件があるため、これに対抗し得るフォースユーザーとして駆り出されたのだ。

 

「んー……わかんないです」

 

 集合時間までの暇な時間、大会議室に集まったヒーローたちをざっと見渡したヒミコがあっけらかんと言い放つ。

 もちろん、この場にいるヒーローのことがわからない、という意味だ。彼女は私以上にヒーローに興味がないので、誰が誰だかわからないのである。さすがに全員がわからないわけではないが、それは慰めにはならないだろう。

 

 ただ、参加している人数はかなり多い。ヒミコが覚えることを放棄しても仕方ないくらいには多い。

 

 神野事件以降、少しずつだが犯罪件数が増えてきているのだが、それでもまだ劇的には増えていない。依然としてこの国は「ヒーロー飽和社会」である。だからこそ、今回これだけの人手が集まれたのだろうな。

 

 ……それを支えているオールマイトは既に引退間際の傷病者だし、ここ一年くらいは活動自体もかなり抑えているのだがなぁ。

 まあ彼が健在である、と世間が認識していることが重要なのだろう。これで彼があのとき倒れていたら、どうなっていたのか試算するのも恐ろしい。

 

「あれ、相澤先生に増栄さんたちまでいる!?」

 

 と、そうこうしているうちにミドリヤたちがやって来た。彼と共に、ウララカ、ツユちゃん、キリシマ、バクゴー、トドロキもいる。さらに言えば、ビッグ3も勢揃いだ。

 

「なんでー!?」

「私たちは相澤先生と一緒に来たんですよぉ」

「なんだよ、どうせなら一緒でよかったじゃねぇか」

「私たちはイレイザーヘッドの指揮下という体だからな。君たちにもそれぞれ、上役としてのヒーローがいるだろう?」

「合理的判断、ということなのね……」

「ああ……相澤先生なら言いそうだ」

「ケッ!」

 

 と、そんな話もそこそこに、彼らはとりあえずそれぞれがついているヒーローに挨拶へ向かった。

 

 その後一通りの顔合わせが済んだところで、用意されていた資料と共に席へ案内される。

 座席はプロヒーロー、警察関係者の二グループに分けられているが、私とヒミコはイレイザーヘッドの隣に配置されている。それ以外の学生組も、それぞれの担当ヒーローの傍だ。

 

「さて、揃ったところで会議を始めましょうか」

「はい。我々ナイトアイ事務所は警察からの要請を受け、先週から共に死穢八斎會という指定ヴィラン団体について調査をしていました。というのも、先だってヴィラン連合と死穢八斎會が接触したらしい、という情報がもたらされたためです」

「我々ナイトアイ事務所に話が来たのは、単純に死穢八斎會がうちの管轄内にある組織だからですね。もちろんそれだけの能力があると見ていただけているからでもありますが」

 

 音頭を取った刑事から話を向けられて口火を切ったのは、ナイトアイ事務所のサイドキック二人。バブルガールとセンチピーダーだ。

 

「ところがその調査中……この間の日曜日のことです。その死穢八斎會の若頭、『オーバーホール』こと治埼廻と、うちのインターン生が偶然にも遭遇する事態となった。……それはいい。それ自体はいいのです」

 

 次いで、ナイトアイ本人が話を引き継いだ。これを受けて、この場にいるほぼ全員の視線がトーガタ、ミドリヤ、ウララカに注がれた。

 

「三人はこのとき、オーバーホールの下から逃げ出していた少女を保護しようとしていました。資料一ページ目の子です。名前はエリ。どうやら八斎會の組長の孫とのこと。保護しようとしていたのは、虐待の疑いがあったため。

 とはいえ、日本は保護者の親権が強い国です。ましてや我々は警察ではない。その警察でも、エリちゃんの素性を確定するまで二日かかりました。当時現場でそれを知る術はなく、ゆえに明確な証拠もなしに彼女をオーバーホールから引き離すことはできなかった。多少の問答ののちに、解放するしかなかったわけですが……そこに、ヴィラン連合が突如として割って入って来た」

 

 二ページ目に進んで、という補足が入り、紙が一斉にめくられる。そこにあったのは、シガラキ・カサネの写真だった。

 

 とはいえ見るために撮られたものではなく、何かのスキをついて隠し撮ったものだろう。画質がよろしくないし、ピントも少しずれている。

 それでも、この少女がシガラキ・カサネであると判別することに支障はない。それくらいの質はあった。

 

「死柄木襲、そう呼ばれているそうです。本名かどうかはわかりませんが、連合のリーダーである弔と同じファミリーネームを用いている以上、ただの幹部とは思わないほうがいいでしょう」

「この死柄木襲によって、エリちゃんは誘拐されました。そしてオーバーホールから、警察・ヒーロー双方に対して捜索願が出された……というのが現状になります」

 

 ナイトアイから説明を引き継いだ刑事二人の言葉に、多くの人間が顔をしかめた。

 

「指定ヴィラン団体からの捜索願か……我々としては応じるしかないとはいえ、やってくれる」

「ふむ……俺と塚内にも声がかかったのもそういうことっつぅわけだな」

 

 代表するかのように、エンデヴァーとグラントリノがこぼした。私も同感だ。

 

 とその直後、資料を眺めていたロックロックが思わずといった様子で声を上げた。彼に続く形で、あちこちからどよめきが上がる。

 

「……おいおい、このガキ“個性”を三つも持ってやがんのか? これも神野んときのスーパーヴィランの仕業かよ?」

「正確には準個性もあるんで、能力としては四つですね。まあ、それについてはこの際重要じゃないでしょう」

 

 これに対して、いつも通りの態度で淡々と応じるイレイザーヘッドである。気持ちはわかる。

 

 わかるが、周りの興味が一斉に準個性に向いた。いまだに世間にはほぼ公表されていないので、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

 しかしこれについては誰も説明することなく、話はさっさと先に進んでいく。

 

「しかし問題はそれだけではありません。資料の三ページ目をご覧ください」

 

 そう言われてしまえば仕方なく、全員が再び紙束をめくった。

 

 三ページ目に記されていたものは、銃弾と思われるものの写真だ。先端部分は針になっているので、銃弾としての機能があるのかどうかは少々疑わしい。

 

 だがそこに装填されているものの説明文を読み進めると、これが非常に問題のあるものだということがわかる。

 

「問題は八斎會もだ。結論から言いましょう。調査の結果、八斎會はとある薬を新たなシノギにしようと動いていると判明した」

「とある薬……?」

「そこからは俺に任せてや」

 

 ナイトアイが口を開く前に、大きな身体のヒーローが立ち上がる。大阪を拠点にしているヒーローで、名前はファットガムだったかな。キリシマとアマジキのインターン先だったはずだ。

 

「俺は昔、薬の類を扱う連中をゴリゴリにブッ潰すんをメインにしてた時期があってな。その経験からお呼ばれしたんやが……これはマジでアカンやつや。なんせ……“個性”を破壊する薬やさかい」

 

 彼は軽く自己紹介したあと、そう言って険しい表情をした。その衝撃的な内容に、場が一気に騒がしくなる。

 

 当たり前だ。この星は今、“個性”というものが社会の基盤になってしまっている。危なっかしい状況は続いているが、ひとまずはそれで一応の安定を見ている。

 だがそれを破壊できる薬が込められた弾丸――資料では個性破壊弾と仮称している――などというものが出回ってしまったら、社会はまた超常黎明期のような暗黒時代に戻ってしまいかねない。それほどの危険性が秘められている。

 

「今週の月曜のことや。ウチでインターンやっとる烈怒頼雄斗(レッドライオット)のデビュー戦の話や。事件自体は結構派手めに報道されたから知っとる人もおるかとは思うけど……実はこんとき、ドサクサに紛れてこの弾丸がサンイーター(アマジキのヒーロー名)に撃ち込まれてもうた。おかげでサンイーターは“個性”が使えなくなってしもたんや」

 

 続けられたファットガムの言葉に、場はさらに騒然となる。

 特にアマジキと仲のいいトーガタは、軽く立ち上がりながらアマジキに声をかけた。

 

「え、環……!? でも、今は大丈夫なんだろ!?」

「ああ……寝たら回復していたよ。見てくれこの立派な牛の蹄」

「朝食は牛丼かな!?」

 

 問題ないと言いながら、アマジキは“個性”を発動させた。右手が牛のそれへと変化する。彼の“個性”は、食したものの身体を自らの身体に再現するものなのだ。

 彼の様子に、周りからは口々に安堵の声が出る。

 

「回復すんなら安心だな。致命傷にはならねぇ」

「……俺の『抹消』とはちょっと違うみたいですね」

 

 ロックロックがいかにも気にしていないと言うような態度で言ったが、これにイレイザーヘッドが口を挟んだ。

 

「あん? どう違うんだよ?」

「資料を読む限り、こいつを受けると個性因子が傷つき、結果“個性”が使えなくなるとあります。ですが俺は“個性”を攻撃してるわけじゃないんで」

 

 イレイザーヘッドは言う。自分の“個性”は、あくまで個性因子の活動を一時停止させるだけなのだ、と。

 

 走るスピーダーを停止させる方法にたとえた場合、イレイザーヘッドの“個性”は外部からブレーキを踏ませる方法と言っていいだろう。だが個性破壊弾は、スピーダーそのものを破壊することで結果的に停止させる方法と言っていい。結果が同じでも、その機序はまったく違うのだ。

 

「今は自然治癒して異常なし。身体のほうも異常なし。ただ“個性”だけが攻撃された、か……確かに違ぇな。……なあ。だとするとこの薬、もしかしなくても未完成ってことなんじゃねぇか?」

「だろうな。恐らく完成品は、“個性”を完全に破壊することを企図している」

 

 ロックロックが納得した顔で頷きつつも、緊張した面持ちでこぼした。その対面で、エンデヴァーが頷く。

 

「そんなものが出回ったら大変なことになるぞ……!」

「か、解析はできたのか?」

「残念ながら、サンイーターに撃ち込まれたモンからはなんもわからんかった。撃った連中はダンマリ! 銃もバラバラ! この薬が入った弾も、撃ったっキリしか所持してへんかった。けど……」

 

 ここでファットガムは、言葉をためるように一度口を閉じた。

 同時に視線を傍らのキリシマに向け、彼を誇示するかのように開いた手で指し示した。

 

「ところがどっこい、烈怒頼雄斗が身を挺して弾いたおかげで、中身の入った一発が手に入りましてん!」

「うおっ!? 俺ッスか! びっくりした、急に来た!」

「切島くんお手柄や」

「ケロ。かっこいいわ」

「硬化だよねー。知ってるー! うってつけだね!」

 

 どうやらアマジキ同様、キリシマにも個性破壊弾を撃ち込まれたようだ。だが、彼の“個性”は「硬化」。発動中は、針が刺さる余地はない。それで彼は被害を免れたようだ。

 免れたどころか、効果を残した個性破壊弾が手に入った。なるほど大手柄である。

 

「そしてその中を調べた結果……ムッチャ気色悪いモンが出てきた。人の血ィや細胞や」

「つまりその効果は人由来……“個性”ってこと? “個性”による“個性”破壊……」

「うーん……さっきから話が見えてこないんだが。こいつがとんでもない代物ってことはよくわかったが、それがどうやって八斎會と繋がる?」

 

 その言い分はわからなくもない。確かに、これだけではいまいち接点が見えてこない。

 だが、そこには明確な接点である。既に私には、内心を覗く形で見えている。

 

 なぜならばこの弾丸は。

 

「その弾丸の中から見つかった血と細胞が、エリちゃんのDNAと一致した……と言えばおわかりいただけるかと」

『……ッ!?』

 

 そういうことなのだから。

 

 衝撃的な内容に、この場は感情が一周したのか静まり返ってしまった。そんな中で、ナイトアイが淡々と言葉を続ける。

 

「これに関しては、運がよかった。オーバーホールも、まさか大阪で起きた小さい事件で中身が無事な個性破壊弾が警察に渡ったとは思わなかったのでしょう。思っていたなら、エリちゃんのDNA採取に協力するはずがない」

「まあ、それについてはエリちゃんの捜索のためにはDNAが必要だと警察が協力を求めたってのもあると思いますがね」

「……おいおい、警察が嘘ついたってのかよ?」

「ハハハ、方便って言ってくださいよ、ロックロック。それにあとから捜索“個性”のヒーローを別口でちゃんと呼びましたので、丸っきり嘘ってわけでもないですよ」

「シノギの要を誘拐した連合に意趣返しがしたかったのだろうが、それが最大の失敗となったということか。下手な策は身を滅ぼすというわけだな」

 

 本来であれば、静岡と大阪ほど離れている場所の事件に繋がりがあるとはなかなか考えられないものだが。元々月初のヴィラン連合との接触により、八斎會は従来よりも監視が強くなり、既に捜査が始められていた。そのため、どんな些細なことでも八斎會に繋がる可能性があるものは、すべて捜査の手が及んでいたのである。

 その結果、警察は大阪の事件で個性破壊弾を使った男が、死穢八斎會と関係のある組織から卸されていた違法薬物も併用したことをつかんだ。

 

 もちろんそれだけでは大きな意味を持たないが、かすかにでも二つの要素が八斎會と繋がっていたのである。

 さらに言うなら、オーバーホールことチサキの“個性”は対象の分解・修復を行うものである。つまり一度壊し、治す。警察は、この効果に着目した。

 

「そしてエリちゃんは……うちのインターン生三人が遭遇したとき、手足におびただしく包帯が巻かれていた。さらに言えば、彼女は“個性”が未届で不明。しかし一般的に“個性”が発現しているであろう年齢。

 かくして我々は、一つの疑惑に辿り着いたのです。オーバーホールは――年端も行かない幼い少女の身体を銃弾にして売りさばいているのではないか、と」

 

 ナイトアイの説明に、多くのものが顔色を悪くした。社会の悪意の免疫が少ない学生組は、ごく一部を除いて真っ青になっている。無理もない。

 無理もないが……ここは耐えてもらうしかあるまい。恐らく、ヒーローをしていればこれに匹敵する案件は必ず遭遇するだろうから。

 

「警察でも『まさか』って声は多かったですよ。でもこの超人社会、やろうと思えば誰でもなんでもできてしまいますからねぇ……」

「それで念のためDNA鑑定をした結果、クロだったわけか」

「エンデヴァーの仰る通り。……ということで、ようやく本題です。現在、八斎會に対する捜索令状と、エリちゃんの保護に関する諸手続きを申請しているところです。これが出揃い次第、ヴィラン連合と同時に踏み込みたい。ちょうどエリちゃんの居場所を特定するのと同じくらいのタイミングになる予定でしてね」

「ついてはそのために、誰がどちらに対応するかを決めておきたい。役割分担や日程の調整も含めて、なるべく早く決めてしまいたいのです」

 

 ……その後会議は二時間ほどに渡って続き、最後は作戦決行日が確定したら連絡が入る、それまで待機および準備、ということでお開きとなった。

 

 なお一年生組は、インターンの中止も視野に入っていたとはイレイザーヘッドの弁である。

 とはいえ誰もこれには納得しなかったし、問題視されているのはヴィラン連合のほうなので、一年生組はほぼ全員八斎會対応側の班に回るということで一応は決着となった。

 

 まあ、バクゴーは私がヴィラン連合側に回ることに抗議していたが。それは私を案じてではなく、カサネにリベンジしたいからなのだろう。

 彼はフォースに目覚めたからには連合側でいいだろうと言っていたが……素手でシガラキ・カサネと戦うにはまだ修行が足らないだろうということで、却下である。

 

 その際彼の内心に起きた動きは悪いものではないと思うので、そのままアナキンの宿題を片付けてほしいものだが。彼は極めてプライドが高いから、すぐには無理かもしれない。すぐにできたとしても、時間は足らないだろうし。




本文中で説明した通り、原作とは違ってまだオールマイトが引退していないので、犯罪発生率は抑制され続けています。オールフォーワンが捕まり次の悪のリーダーを目指す連中の影響で増えてはいますが、それでも原作の同時期よりはだいぶマシ。
なのでここに来たヒーローは原作より多く、エンデヴァーもそのうちの一人という感じです。
捜索系個性のヒーローを地方から引っ張ってこれたのもそういう事情。
なんなら人数を確保できてるので、二正面作戦とかやっちゃう。
で、仮免取れたなら轟くんがエンデヴァーのところでインターンするのはまず間違いないだろう、ってことでこのメンツ。
かっちゃんがどこでインターンをしているかは、幕間でやる予定。

・・・と、ここまで色々書きましたが、八斎會に殴り込む側は全部カットします。こっちで起きることはおおむね原作通りなので。
一応隠し通路を事前に知る方法というか、手順は原作と違うんですけど、そういうところ余すことなく書いてると文字数が跳ね上がる(たぶん5万文字くらいかかる)し物語としてもテンポが悪くなるので・・・。
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