銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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16.突入

 ヴィラン連合がエリを引き込んで潜伏している場所は、街中の無人ビルであった。人が使わなくなってからさほど経っておらず、中も外もほとんど整備せずとも次の相手に貸し出せるくらいには整ったビルである。

 

 そんなビルを今、警察とヒーローが囲んでいた。

 

「保護対象の少女はどこにいる?」

「さっきまで上のほうの階におったけど、今は下の階に移動しちゅぅな。この感じやと、地下まで行くんやないかね」

 

 エンデヴァーとナイトアイが、エリのDNAから対象を追跡する“個性”持ちのヒーロー(四国のほうから無理を言って呼び寄せたらしい)を交えて打ち合わせをしている。

 

 そこにルミリオンが声と手を挙げた。

 

「そういうことなら、俺が先行できます!」

「待て、連合の誰かがついているはずだ……アヴタス、その辺りはどうだ?」

 

 ナイトアイに問われた私だが、既にフォースで索敵を行っている。

 

 だが、反応はいつもより鈍い。強いフォースを宿すカサネの所在はおおむねわかるのだが、彼女の反応が強すぎる。以前にも増してフォースが強くなっている。

 これはもしかしたら、いつかグランドマスター・ヨーダに比肩してしまうかもしれない。それほどの逸材、これ以上道を外れて欲しくないが……難しいだろうなぁ。

 

 ともかくそんな強いフォースのおかげで、彼女の周辺にあるはずの生命反応が覆い隠されてしまっている。周りにフォースユーザーがいないから、余計に強く感じるというのもあるだろう。

 

 とはいえ、カサネの動きだけなら間違いなくわかる。そして彼女は、確かに下に向けて動いていた。

 

「エリの正確な位置はわかりませんが……シガラキ・カサネも下に向かっているようです。なので、まず間違いなくエリと共にいるでしょう。そもそも誘拐時の言動を考えれば、エリに対して連合の身内に対するそれとはまた異なる、特殊な仲間意識を持っている可能性が高いですし」

「同感だ。……となると、ルミリオン。お前の“個性”では非常に相性が悪い。それでも行くつもりか?」

「もちろんです! 今度こそ……必ずエリちゃんを保護する!」

「……無理はするな。まずいと思ったら我々の合流を待つように」

「はい!」

「……ふん。では救助についてはナイトアイ事務所に任せる。他の連中は我々に任せてもらおうか」

「ええ、予定通りに」

 

 というわけで、チーム分けはナイトアイ事務所からナイトアイ、センチピーダー、バブルガール、ルミリオン。そしてエリを追跡するため地方から出向してきたヒーローと、対カサネ要員の私。この六人でエリの下へ向かう。

 

 なお、グラントリノは別行動をしている連合の幹部、クロギリの目撃情報が上がってきたためそちらに対応すべく不在である。こればかりは仕方あるまい。

 

 また、デクとウラビティ、それからショートは一時的にイレイザーヘッド、リューキュウ、それにファットガムの指揮下にそれぞれ預けられている。エンデヴァーがファットガムに対して、ショートのことをくれぐれも頼むとしつこいくらいに念押ししていた姿が印象的であった。

 

 ついで言うなら、内心かなり本気でトドロキを案じていたのは意外である。

 トドロキの生い立ちを聞いているので、エンデヴァーにはどうにも思うところがあるのだが……この短時間で彼の印象はすっかり「不器用な父親」で固まってしまった。

 

 まあ、それはともかく。

 

 デクとウラビティからは、エリをどうかよろしくと頼まれた。元よりそのつもりであるが、友人の頼みもあるとなればより身が入るというものである。

 

 さて、そうして突入の時間はやってきた。エンデヴァー事務所は飛べたり上下移動が可能なものたちがビルの上部から、それ以外の面々は正規の入り口からと、挟み込むことを念頭にして突入する。

 

 私たちは、正規ルート組と共に突入だ。追跡の結果エリは予想通り地下に向かったようなので、我々も地下へまっすぐ進む。ルミリオンは、「透過」を発動させてそのまま下に落ちていくだけで済むが。

 

 と、下り階段に向かう私たちの後ろのほうから、炎が燃え盛る音が響いてきた。ちらとそちらに目を向けてみれば、蒼い炎が一階を埋め尽くしている。ダビだな。躊躇なくビルを焼き払いに来たか。

 となると、「崩壊」を持つシガラキ・トムラも遠慮なくビルを破壊しにかかるだろうな。すぐにそうしないのは、我々をある程度引き込んだところで生き埋めにするつもりなのだろう。私が思いつく策程度、かのエンデヴァーが想定しないとは思えないので、そうなってもなんとかするだろう。もちろん、こちらも対策はあるから大丈夫だ。

 

 とはいえ、ビルを崩壊させられるより早くことを済ませたいものだな。できるならそれが一番いい。

 

 そう思った瞬間である。地下一階に足を踏み入れた私たちを出迎えたのは、一寸先も見えないほどに濃く分厚く充満した桃色のガスであった。

 

「む……これは」

「どう見ても身体に悪そうなガスですね……連合にこんな“個性”のやつなんていましたっけ?」

「……合宿襲撃のとき、森の中で一歩も動かなかったがゆえに誰からも捕捉されなかったものが一人いました。恐らく、それでしょう」

「なるほど。しかしどうしましょうか、サー?」

 

 センチピーダーの問いに、サーが眼鏡の位置を整えながら答えようとした……その瞬間。

 私はライトセーバーを抜き、先頭に踊り出た。直後、銃声が鳴り響く。

 すぐさまガスの中から弾丸が飛び出してきたが、閃いた橙色の光に弾かれ再びガスの中へ消えた。

 

 ふむ……撃ってすぐに退避したな。直前までいた場所を狙って弾き返したのだが、外れたようだ。

 

「……なるほど? つまりガスん中に閉じこもることで、相手を近づかせんまま銃で攻撃するっちゅうわけか。理には適っとるなァ……」

「ですね。普段であれば苦戦は免れなかったでしょう……が、今回は相手が悪かったな。アヴタス、できるな?」

「お任せを」

 

 ナイトアイに指示されるままに、私は空いた手の平を前に向ける。そのままフォースプッシュを行えば、ガスは斥力によって猛烈な勢いで吹き飛ばされていく。そうして一秒程度の時間で、通路のガスは奥へと消えた。

 まあ、この階全体にガスが完全に充満しているようなので、横道からすぐにガスがこちらに殺到して来るが……それより早く私は前へ飛び出した。高速で空中を飛び、最短で相手の近くにまで接近する。

 

「そんなバカな!?」

 

 その先にいたのは、身体からガスを放出している少年だった。学生服にガスマスク、右手には回転式けん銃といういで立ち。どう見ても、彼が下手人だろう。

 

「ふっ!」

「ぅぐえっ!?」

 

 私は身体をひねって回転させながら少年にさらに近づき、彼をフォースプルで引き寄せながら鳩尾にライトセーバーの突きを叩き込んだ。もちろん出力は増幅していない。

 

 少年は重いうめき声をあげながら、身体をくの字にして吹き飛び壁に激突。すぐに気絶……するかと思われたが。

 全身がどろりと溶けたかと思うと、そのまま泥のようなものになって床に落ちてしまった。

 

「……これは。トゥワイスの『二倍』か」

 

 本物とまったく同じ分身を作り出す“個性”。合宿襲撃のときも、これによって何度もダビがやってきてキリがなかった。

 今回は最初から突破されることを見越して、分身をここに配置していたということか。「二倍」の使い方としては一番理に適っている。

 

 すぐさま周囲を索敵するが、ひとまずこの階にはもう他の生き物の気配はない。とりあえずは先に進んでしまっていいだろう。

 そう判断して、私は再び高速でナイトアイたちの下へ戻った。

 

「……了解した。ならば、先に進むとしよう」

 

 一通りの説明をしたあと、すぐさまナイトアイはそう指示を出した。

 

 ただガスの発生源がいなくなったものの、ここは換気が難しい地下だ。なかなかガスが晴れる気配はなく、一行の先頭は引き続き私となったのであった。

 

***

 

 その頃、襲の下には早くもルミリオンが追いついていた。エリを抱きかかえて走っていた襲の、後ろに天井ごとすり抜けて現れたのだ。

 

「……ッ、面倒だなぁ、その“個性”……」

 

 そして襲は彼を確認するや否や、即座にフォースプッシュで対応した。

 あらゆるものをすり抜ける「透過」と言えど、フォースは透過できない。ルミリオンは斥力にあおられるまま、吹き飛ぶ。

 

 ……が、彼はそれに一切逆らわなかった。斥力の直撃を受けることで彼はあえて壁の中まで吹き飛び、“個性”解除の反動で吹き飛んでいたときよりもさらに早い速度で戻ってきたのである。

 

「……!」

「悪いね……フォースの使い手とはそれなりにやり合ったことがあるんだよね」

 

 あっさり眼前まで復帰されて、襲が眉をひそめる。その身体から、パシリとかすかな音を立てて稲妻のような赤い光が湧き上がってまとわりつく。

 

「あっそ……そんなに死にたいなら、殺してあげるぅ」

 

 言いながら、彼女はエリをそっと床に立たせた。そうして、ここを離れるように促しながら剣を抜き、ルミリオンを正面から見据える。

 

 剣を構えた姿勢に、ブレも揺らぎもなく。ルミリオンは知る由もないが、以前に比べて明らかに安定感が増していた。

 これを見て、ルミリオンも身構える。だが、両者は動かない。動けない。

 

 なぜなら、エリがその場から動こうとしないからだ。それどころか、彼女は襲の服をつかんで離さない。

 

「……エリ。いい子だから離れてて。じゃないとこいつ、殺せないからさぁ」

「……っ、なん、で……? その人、わるい人じゃないよ……たすけようって、してくれたよ……?」

 

 怒りを燃やし、冷たい顔でルミリオンをにらむ襲に、しかしエリは引き下がらなかった。

 

 初めて会ったとき、あれほどまでに怯えていた少女がそれを飲み込んで、強大な力の持ち主に言い募る姿に、ルミリオンは目を見開いて驚く。短期間でそこまで精神状態が回復したのかと驚き、恐らくはそれを成したであろう目の前のヴィランへ視線を向けながら。

 

 しかしそこにあったのは、怒りを乗せた殺意を霧散させた少女の顔だった。見た目相応の……そう、どこにでもいそうな、妹を心配する姉のような顔をした、少女の姿がそこにあって。

 言動から想像できるその生い立ちを改めて思い起こしたルミリオンは、世界が彼女に強いる理不尽を嘆く。

 

「助けようとしただけじゃん。思っただけで、動かなかったじゃん。それどころか見過ごそうとした! そんなやつがヒーロー? 笑っちゃうよねぇ!」

 

 だが同時に襲が吐き捨てるように言ったことに、心を揺さぶられた。

 

 彼女の言い分を、否定することはできない。むしろ耳が痛い。フォースによって見透かされた深層心理であるだけに、耳どころか頭を鈍器で殴られたような衝撃すらあった。

 

 しかし、だからなんだとルミリオンは内心で首を振る。

 あのとき動かなかったのは、見過ごそうとしたのは、自分が弱いからだ。だがその弱さを、ルミリオンは誰よりも知っている。知っていて、だからこそ受け入れてもいる。

 

 そう、ルミリオンにとって弱さは前提の話。それを受け入れ、隠すことなく生きてきた。

 だから、それを突き付けられようと。心を揺さぶられようと。ルミリオンは揺らがない。倒れない。

 

 そうして彼は、死柄木襲を改めて見据える。人間のおぞましい業によって、そうならざるを得なかったであろうヴィランの姿を。

 

「……ああ、君の言う通りだ。そんな俺に保護されることなんて、エリちゃんは望んでいないかもしれない」

「は?」

「それでも……! あのとき、俺たちが傷つくことより、地獄に戻ることを選んだ優しい子が笑えないままなんて、そんなの許せない」

「……だから来たってワケぇ? バッカじゃん? エリはもう笑えるんだよ。オマエなんかいらないの。わっかんないかなぁ!」

 

 襲が笑う。けらけらと、ルミリオンを嗤い飛ばす。

 

「そうかもしれない。エリちゃんにはもう、君っていうヒーローがいるみたいだしね」

 

 が、その返しに、襲はピタリと止まった。

 何を言ってるんだこいつは。そんな顔だった。

 

「わかるよ、エリちゃんを見れば。君はきっといいお姉さんなんだろう。今日までずっと傍に寄り添って、守り続けたんだよね? そこはすごいと思うよ。素直に尊敬するんだよね。

 でも、君以外はどうかな! 心底エリちゃんを愛して守れる人間が、ヴィラン連合に何人いるんだい? いや……ヴィランでも人間だ、そういう人はいるかもしれないけど……全員ってことはないんじゃないか?」

 

 この言葉に、襲は顔をしかめた。

 彼女の反応を見て、ルミリオンはやはりなと頷く。

 

「それだけじゃないぞ。ヴィラン連合については俺、詳しくないけれど。あの脳無? とかいう兵器を使う組織、ってことくらいは知ってる。“個性”をたくさん持つ人型の生物兵器なんてとんでもない代物を作ってるやつが、エリちゃんの“個性”を黙って見過ごすとは俺には思えないんだよね! そこんとこ、君はどう思うんだい!?」

 

 そして、トドメとばかりに言葉を続ける。

 

 これに対して、襲は明確に舌打ちでもって応じた。いや、応じたというよりは身体が勝手に動いたというべきか。それくらい、彼女の心を貫いたのだ。

 

 襲は弔と異なり、ドクターに何度か直接会った記憶がある。襲が持つ“個性”のみならず、フォースについて研究するために顔を合わせたのだ。

 つまりドクターの顔はもちろん、その性格も弔よりは理解している。ドクターは隠していたし、実際()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、それでも彼が“個性”に対して偏狂的とも言える関心と執念を持っていることは知っている。

 

 だからこそ、わかってしまう。わかってしまったのだ。確かにあのドクターなら、エリの“個性”次第では何をやってもおかしくない、と。

 

 だがドクターは、先生ことオールフォーワンの腹心だ。しかも今の困窮しているヴィラン連合にとって、複製された”個性”と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()脳無は明確な切り札となり得る。それらを唯一作れるドクターを殺すのは、長期的に見れば不可能だ。

 

 そこまで考え、思い至ってしまって。

 襲は、ぎしりと奥歯を噛みしめる。返す言葉が浮かばなくて、ルミリオンをにらみつけることしかできない。

 

 ゆえにこの瞬間、言葉での勝負はついたのだった。

 




荼毘は「まだ時期じゃない」ので、エンデヴァーの前に極力出ないように立ち回ってます。
元より籠城戦なので、違和感を覚える人は現場にはいないでしょう。

なお、原作と違い本作では個性破壊弾の存在もオーバーホールの企みも連合に露見していないので、当然それがエリちゃんの個性由来であるとは連合の誰も思い至っていません。
エリちゃんも自分の個性を使うと人が消えるやべーものってことを理解してるので、ここまで一度も使ってないし説明もしてません。
もしどれか一つでもあれば、何かしらの連絡が行ってドクターが何を差し置いても奪いにきてたと思う。
なのでエリちゃんが一週間以上も連合で問題なく生活できたのは、ギリギリの綱渡りの上に成り立ってるそれなりな奇跡的だったりする。

最後にようやく触れられましたが、襲は脳無の材料が人間ということを知らされていません。むしろ、人工的に作られた意識なきクローンを素体にしている、という誤った知識を与えられています。
これは彼女の生い立ちを知っているAFOが、真実を教えたらえらいことになると読んだためです。結果、本当のことを伏せつつも嘘をつかない範囲でどちらともとれるような言い方で煙に巻かれた。
EP6で彼女が脳無をただの兵器として扱う旨のセリフを強調したのは、脳無の真実を知らないという伏線です。
いやまあ、細かすぎてわかりづらいのは承知しているんですが、ヴィランの背景を描写する余地がなかったので苦肉の策です。ここら辺はボクの力不足ですね。
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