銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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幕間 彼の決断

 短くも濃密な戦いは、ヒーローたちの勝利で終わった。乱入してきたヴィラン連合が引き連れてきたヒーローたちにより、形勢は完全に定まったのだ。

 

 オーバーホールはヴィラン連合を追ってやって来たエンデヴァー事務所の面々による凄まじい集中砲火を浴び、瀕死となる。

 すぐさま傷と疲れを治そうと自らに“個性”を向けようとしたが、ショートが氷で割って入って不発に終わらせた。単純な方法だが、触れなければ発動できないからこそよく効いた。

 この隙に、フロッピーに投げられたウラビティがデクに触れた。同時に変身したトランシィがデクに増幅をかけ、さらにデクの背中をキングダイナの爆破で押し出した。

 

 かくして放たれたデク渾身のマンチェスタースマッシュがオーバーホールの延髄に叩き込まれ、一連の事件の首魁は撃破されたのである。

 

 最大の目的だったエリの確保も、別動隊が完遂。ヴィラン連合は全員に逃げられてしまったが、作戦自体は上首尾に終わったと言っていいだろう。

 

 だが、それをよかったと言えない男がいる。納得できない男がいる。

 男の名前は爆豪勝己、ヒーロー名はキングダイナ。誰よりも完全な勝利にこだわる男だ。

 

 彼のインターン先は、サンドヒーロー・スナッチである。

 身体を砂に変える“個性”を操るスナッチは、現役のヒーローとしては上から数えたほうが早い年齢の壮年だ。しかし、長年のヒーロー経験で培われた判断力や戦闘力は並大抵のものではなく、勝己をして教えを乞うに値するヒーローであった。

 

 職場体験でも、スナッチはその“個性”のように柔軟だった。勝己の要望を汲んだ戦闘中心の体験をさせてくれる一方で、勝己があまりやりたがらない救助や避難などの体験もしっかり行われた。勝己という人間の危惧すべき点や直すべき点なども、容赦なく指摘されたものである。そういう意味では小言も多かったが、その内容に頷けるものが多かったことも事実で。

 

 だからこそ、彼のところでインターンが許可された勝己は、彼なりに意気込んでいたのである。

 そしてその手の意気込みが、空回りに終わるほど爆豪勝己という人間は弱くない。彼は今できる限界近いパフォーマンスを発揮し、立ちはだかる極道たちを下していった。

 

 もちろん一人でそれを成せたわけではない。何せ相手の数が多すぎた。だが、彼は使うものはすべて使うと決めたのだ。そこで今さらヘソを曲げたりはしない。

 

 しかし、である。目の前で、教えを乞うたヒーローが敗北する瞬間に、手を貸すことができなかったこと。それは、それだけは、認めることができなかった。

 

 確かに負傷していた。“個性”を連発していた手も万全ではなかったし、装備もいくつか失っていた。

 

 それでも。

 だとしても。

 

 まだ自分にはフォースがあったはずで。

 

 しかしその使い方は判然としないまま、手を伸ばしたその先で、スナッチはオーバーホールに敗れた。

 

 分解という“個性”に対して、砂になるスナッチの相性はよかった。実際、最初のうちはスナッチが押していた。

 しかし、個性破壊弾が流れを変えたのである。

 スナッチの“個性”は、前述の通り身体を砂に変えるもの。だが実は、下半身には効果が及ばない。この隙を狙われたのだ。

 

 しかも、スナッチが撃ち込まれたのは完成品だ。かくしてスナッチは無個性と化し……しかしその状態でなお、一人ではなかったとはいえオーバーホールと拮抗してみせた。

 

 自分がその瞬間に居合わせたなら、そんなことはさせなかった。自分がもっと早くクロノスタシスを倒せていれば、スナッチは負けずに済んだ。そう思えてならなかった。

 

「キングダイナが気にすることではない。元より引退すべきかどうかを気にする歳だ。ちょうどいい機会だよ」

 

 病室で、スナッチはそう言って笑って見せた。長らく一線で活躍し続けたヒーローの顔に、翳りはなかった。

 フォースに目覚めた勝己には、その顔が偽りのものではないことがわかった。本当にスナッチは後腐れなく、完全に納得していたのである。

 

 だから、自分が納得できずにイライラすることは、結局のところ自分のためだ。自分で自分を許せない。そういう心境だった。

 

 ゆえに、勝己は確信する。チームで戦うということは、ヴィランを倒して終わりではない。街の人を救けるだけで終わりではない。

 誰一人脱落者を出さない。そこまで行って、初めて完全な勝利であると。

 

 そして、神野事件のときオールマイトですらそうしたように、世の中には一人だけではどうしようもならないことがある。それが現実であると、理解した。

 

 とはいえ、自分にできることは多いほうがいいことには代わりなく。

 ゆえに後始末を終えて寮に戻った日、勝己は己に課された宿題を済ませることにした。

 

***

 

 事件を終えて、寮に戻り。残っていたクラスメイトたちからおかえりと迎えられ、大きな山を越えたお祝いにとささやかながら打ち上げが行われたあと。

 

 オーバーホールにとどめを刺した手柄を理由に一番風呂を譲られた出久は、素直に頷いて寝巻きとタオルを取りに一旦自室へ向かった。そうして必要なものをまとめ終わったタイミングである。

 

「おいデク」

「でええぇぇ!? か、かっちゃん!? な、えっ、なんで!?」

 

 突然物騒な幼馴染から物騒な声音で後ろから話しかけられ、派手に跳び上がった。

 慌てて振り返れば、そこには確かに幼馴染の姿が。どうやら幻聴ではなかったらしいと知って、ますます出久は混乱する。

 

「え!? えと、その、ど、どうしたの!?」

 

 返事はなかった。が、勝己はずいと中に立ち入り……それからオールマイトグッズであふれた部屋を目の当たりにして、心底呆れた顔をした。

 

「……テメェ……マジかよ……。さすがにキメェぞクソナードがよ……」

「えええそんないきなり罵倒を!? いやそりゃ確かに否定はできないけども!」

「うるせェ」

「理不尽!」

 

 鋭利な刃物で切り付けられるような断言に、条件反射で言い返す出久である。

 だがその様子を間近で見て、勝己は彼の変化を改めて実感した。

 

 一年前なら、こんなやり取りは絶対起きなかった。ヘドロ事件の影響もあるが、そもそもそれほどの距離感と差が二人の間にはあったのだ。

 しかし今、二人の間に距離感はともかく差はほとんどない。たった一年で、随分と詰め寄られたものだと勝己は思った。

 

 それでも大きな焦りを覚えることなく、すぐ真後ろで追いかけてくる出久を気にしないでいられたのは、間違いなく遥か先を行く幼女の存在があったからこそだろう。きっと彼女がいなければ、全部自分のものにして勝ちに行くという境地に達するまで、もっと時間がかかっていたに違いない。

 

 ただ、その縮まった差をこうして改めて認識すると、やはり思うところはある。意識する暇がなかっただけで、その感情は常に存在していたのだから。

 

「……あ、ちょ、それは!」

 

 ふと目に着いたノートを、無造作に取る。いつかの日、中学校の教室で爆破したときのように。

 

 将来のためのヒーロー分析ノート。表紙にそう書かれたノートを奪い返されないように牽制しつつ開いてみれば、そこにはクラスメイトたちの“個性”やバトルスタイルなどが、事細かくびっしりと書き込まれていた。

 

 一番多くページ数が割かれているのは、やはりと言うべきか、クラスのトップを走る幼女のもので。

 しかしその中に、勝己が気づいていなかった「増幅」の特徴が書かれていることに気づいたとき、勝己に去来した感情は……いつかの日、出久に手を差し伸べられたときのものと同じ色をしていた。

 

 だが、内心を完璧に言語化するには、まだ足りない。

 敗北感、なのだろうとは思った。ずっと見下していた無個性の「デク」が、自分にはできないことをやってのける。自分より遥かに後ろにいるはずなのに、自分より遥か先にいるような感覚。

 

 そこまではわかる。改めて考えるまでもなく、思っていたことだから。雄英に入学してからの今日までの間、ほとんど意識してこなかったが……今、本人を目の前にして様子を見れば、蓋をしていただけの感情はすぐに理解できた。緑谷出久という人間を、認めたくなかったのだと理解できた。

 

 その上で、足りないのだ。まだ勝己の中で、抱いた敗北感が「認めたくない」に直結した理由が見えてこない。

 なまじ頭脳明晰で色んなものが見えるからこそ、勝己にはわかってしまうのだ。出久に対する「認めたくない」が、単純な「認めたくない」とはどこか異なることを。

 

 本人に向けて語るには、なおのこと。歯抜けのジグソーパズルのように、重要なピースが――緑谷出久に敗けたという納得が、まだ見つかっていなかった。

 それは本来とは異なり、雄英に入ってから出久に敗北感を抱く機会が少なかったからだ。

 

 そしてだからこそ、まだ本当の意味での謝罪を口にできそうにない、とこの土壇場で気づいた勝己は。

 次の瞬間、ここまでの自分の行動や心の動きがすべて他人の思い通りであることを察して、阿修羅もかくやな表情を浮かべる。

 

「……チッ、あのクソ幽霊……! 最初ッから全部わかってやがったってことかよ……ムカつくなぁ……!」

「えええ……! な、なんなのかっちゃん……今日なんかおかしいよ……」

「うるせぇテメェは黙ってろクソカスが!」

「ひえっ、ご、ごめん……!」

 

 思い切り、しかし傷つけないように投げつけられたノートは、出久の腹に直撃した。ものがものだけに、痛みなどは一切なかったが。とりあえず、また取られてはかなわないと本棚にしまい込む出久。

 

 その背中に。

 

「おいデク」

 

 勝己が声をかける。

 

「な、なに……?」

 

 返事はすぐにあった。

 中学までと同じような、おどおどとしたリアクション。しかし表面的には同じでも、すべてが同じではないことはもう勝己にはわかっていることで。

 

「……一度しか言わねえ。いいか、俺は今日ここに謝りに来た」

「……え!?」

 

 だから繰り出した言葉を、当の出久は理解ができず愕然とした顔で硬直した。

 

 その内心に本物かどうかを疑う心があることが()()()しまった勝己は、いつものように般若の形相を浮かべ……しかしなんとか堪えて、別の言葉を口にする。

 

「だがよォ……どーにも納得がいかねぇ」

「あ、うん。それは、うん」

 

 今度の言葉には心底からの納得を抱かれた。やはり勝己は再度顔を怒らせたが、これも堪えた。

 

「……勘違いすんなよ。ヒーローがすることじゃなかったってことくらいは、もうわかってる」

 

 深呼吸をしてから、そう口にする。

 そうして改めて、正面から出久を見る。自分より少し低いところにある視線が、己のものと重なった。

 

 出久は目を逸らさない。ああ、もしかしたらこれが一番大きな変化かもしれないと、なんとなく勝己は思った。

 

「けど……まだ俺の中で答えが出てねぇ。お前の何が他と違って、何が認められないのかが見えてこねぇ」

「……う、ん?」

「だから……今はまだ言わねぇ。でも答えが出たそのときは……ちゃんと、言う」

 

 この言葉に、出久は目を瞬かせながらもごくりと喉を鳴らした。

 

 彼はフォースユーザーではないけれども、しかしいじめられっ子だった経験からか、

他人の気分の変化には敏感だ。

 その感覚が、理解したのである。今の爆豪勝己は、本音で話しているということを。漠然とだが、確かに。

 

 そして幼馴染の出久は、爆豪勝己がやると言ったらやる男であることはよくよく承知している。

 嫌なところもあるし、長年いじめられた相手だが、彼はそういうすごいやつなのだと、出久は知っている。そう確信できるだけの実績が、勝己にはある。

 

「……ん。わかった。待ってるよ、かっちゃん」

 

 だから、出久はぎこちなく笑いながらも、そう返した。まだ、握手はできそうにないけれど。

 

「……おう」

 

 それでも、はっきりと返事が来た。そのことに、何かが大きく変わろうとしていると感じられた出久であった。

 

 そうして、これ以上は何も言うことはないと言いたげに外へ向かう勝己の背中を見ながら思う。

 

 ――そういえば、幼稚園からの付き合いだけど。かっちゃんと本音で話したことって今までなかったな……。

 

 いつか、そんなことができる日が来るだろうか。そう考えて……その日が来るなら、きっといいことだろう、とも思った。

 まあ、和気藹々と談笑する日はちょっと想像できないなあとも思ってしまうわけだが。

 

「おい」

「へ? あ、うん、なに?」

 

 と。

 去り際、部屋の扉から顔だけを出した勝己が、改めて声をかけてきた。まるで忘れ物を思い出したと言いたげな態度に、なるべく明るく応じた出久であったが。

 

「”借りモン”……()()()()()になったかよ」

 

 そう問いかけられた瞬間、びくんと全身が跳ねた。

 

「……ははあん? もしかしてとはずっと思ってたが……なあ、テメェの“個性”、やっぱオールマイトからもらったんだな」

「へぇあ!?」

 

 どう答えようかと迷っているうちに続けられた言葉に、さらなる混乱へ叩き込まれた出久。

 

 そんな彼に対して、勝己はまるで悪役のような笑みを浮かべた。

 意図してやったことではなかったが、そんなことはおくびにも出さない。むしろ、かかったなアホがとでも言っているような顔をしてみせる。

 

「なるほど、フォースってなァ便利なモンだ……なぁデク?」

「あわわわわわ……」

 

 間違いなく、心を読まれた。一度ならず二度までも。

 そうして心の中で己を罵倒する出久をよそに、勝己は勝ち誇るようにして去っていった。

 

「『誰からは言えない』んだろ……言わねぇよ、誰にも。じゃあな」

 

 去り際にそう言い残しながら。

 

「……オールマイトに相談だ……!」

 

 一人取り残された出久が、大急ぎでオールマイトに電話をかけたのはそれからすぐのことで。

 翌日の昼休みに、出久は勝己を伴ってオールマイトがいる仮眠室に集合することになったのだった。

 

『ま、及第点ってところだろう』

 

 なお、一部始終を見ていた幽霊は、そうつぶやいたという。

 

 かくして、新しいフォースユーザーは大いなる第一歩を踏み出した。




はい、というわけでかっちゃんのインターン先はスナッチでした。
彼を選んだ理由としては、このインターン編でかっちゃんが宿題をクリアしようと思わせるような敗北経験を目の前でするに当たって都合がよかったのと、原作での言動からしてベストジーニストほど厳しくなくても、彼に近い考え方してそうだなと考えたからです。

それとかっちゃんのヒーロー名は、理波の「殺の字はやめておけ」というアドバイスを受けてのものです。あと、渾身の大・爆・殺・神ダイナマイトはうっかり見てしまったトガちゃんに遠慮なくゲラゲラ笑われたのもやめた理由の一つらしいですよ。
あ、ちなみに読み方はキングカズマと同じイントネーションでよろしくお願いします。

あとかっちゃんのライジングをここにするかもう少し先にするかで悩みましたが、さすがにこのこじれまくった二人の関係は一気に解決するような簡単なものではないだろうと思ったので、最終的にこんな感じになりました。
アナキンの評価は、本人が言った通り及第点です。

ちなみに本作でのヤクザたち

活瓶:原作通り。
入中:透ちゃんに変身したトガちゃんが迷路だけを透明化したので普通に見つかり、相澤先生に抹消されて御用。
窃野たち三人:原作通り。
乱波たち二人:原作通り。オーバーホール戦に切島くんだけいなかったのはそのせい。

音本たち二人:オーバーホール戦開始まで身を隠していて、途中参戦する形で妨害。オーバーホールを一気に優勢にしたが、ロックロックに空中で本締された。戦闘はだんだんそこから離れていったので、結果的に戦線離脱となり御用。

玄野:オーバーホールと共闘。二回やられたがそのたびにオーバーホールの個性で復活し、しぶとく戦った。攻撃は控えて補佐に徹した結果、相澤先生はじめ複数のヒーローを超鈍足にして分断に成功するが、最後はかっちゃんと轟くんに個性の鍵である髪(?)を全部燃やされて御用。

オーバーホール:スナッチを始め多くのヒーローを戦闘不能に追い込んだ(個性を壊されたのはスナッチだけ)。戦闘の過程で色々取り込んで巨大になっていき、地上に出たところでリューキュウと怪獣大決戦をした。
活瓶の影響で弱体化したリューキュウ相手には終始押していたものの、現れたエンデヴァー事務所御一行様から全力の集中砲火を浴びてあとは本文で述べた通り。ナンバーツーは伊達じゃない。
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