銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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2.前を向こう

 十月に入ったある日。週の真ん中、平日だというのに、私とヒミコはイレイザーヘッドに呼び出され公欠の扱いで学外へ出ることになった。

 出迎えの車にいたのは、サー・ナイトアイとルミリオン。向かう先は病院である。

 

「エリちゃんの“個性”が暴発しそう?」

 

 走る車内で事情を説明されてすぐ、ヒミコが首を傾げながらそう言った。

 

「ああ。君たちはエリちゃんが“個性”をまったく扱いきれていないことは知っていたな?」

「はい。とめ方がわからないから、一度発動したら自身が力尽きるまで使い続けてしまうのですよね。その状態の彼女に接触してしまったら、最悪の事態になりかねないと」

「その通り。そして、どうやら彼女の“個性”はエネルギーを貯め込んで発動するタイプらしい。しかし最低でも一ヶ月はまったく使っていないせいか、エネルギーが貯まりすぎて今にも暴発してしまいかねない状態が続いている」

「……なるほど、それでマスターが呼び出されたわけですか」

 

 マスター・イレイザーヘッドの“個性”は、「抹消」だ。“個性”を強制的に停止させる効果を持つ。万が一暴走が始まっても、エリを制止させられる。

 彼が呼び出された理由はわかった。問題は、なぜ私とヒミコまで呼ばれたのかだが……そういうことなら、推測はできる。

 

 ただ、ヒミコは思いつかなかったようで、しきりに首をひねっていた。

 

「んー……? でも、それならなんでコトちゃんと私まで呼び出されたんです?」

「それは私も聞きたい。どういうことですかな、イレイザーヘッド?」

「えっ、サーが二人を呼び出したんじゃなかったんですか?」

 

 どうやら、私とヒミコも連れ出されたのは、イレイザーヘッドの独断らしい。ナイトアイの問いかけに、ルミリオンは口を大きく開けて運転席に顔を向けている。

 

 対して、質問をされた側のイレイザーヘッドはちらりと横目に私を見てきた。彼が言わんとしていることはわかるので、私は構わないと応じる。

 

「……俺の“個性”は、あくまで強制停止。暴走を止めることはできますが、止めるだけです。対してこいつの“個性”は……“個性”の働きそのものを弱めることができる」

「「!?」」

 

 イレイザーヘッドの答えに、前座席の二人が気色ばんだ。

 その二人に、私は自らの“個性”について説明する。合宿のときから本格的に鍛え始めた、マイナス増幅についてである。

 

「そして私はどんなものにも……概念であっても“個性”を発動することができる。これを応用すれば、相手の個性因子の機能だけを弱めることができるわけです」

「……なるほど。個性因子の機能が弱まれば、“個性”の出力、効果も当然弱まる。しかしゼロになるわけではないから、“個性”を使えることには代わりない……」

「そうか! 増栄ちゃんのその技があれば、エリちゃんに負担をかけずに“個性”の訓練ができるってことですね!?」

「ええ。そしてトガは、増栄に変身すれば同様のことが可能。そういうわけで少し気は早いかもしれませんが、こいつらも同行させるべきだと判断したってわけです。こいつら自身の訓練にもなりますしね」

 

 イレイザーヘッドはそう締めくくるが、実を言うとまだ私一人では満足のいくマイナス増幅はできない。

 いや、シンプルな効果であればそろそろ実用できそうな水準には達しているのだが……消費が激しくなるようなもの、つまり効果を及ぼす難易度が高いものを対象にした場合は、まだまだ不十分なのである。発動までに多少時間もかかるしな。

 一応個性因子は“個性”とは違って概念ではないので、まだマシな部類ではあるのだが……マシなだけで不十分であることには代わりがない。

 

 そこでヒミコの出番である。私一人では足らなくとも、二人であれば足りる。それは単純に二人掛けをする場合でも、どちらかを増幅して能力を強化しての場合でも、である。

 だがどちらにしても、この件は私とヒミコ双方に声がかけられたことは事実。そして、私の隣にい続けたくてヒーローを目指すヒミコにとって、今回はようやく巡って来た「ヒーロー活動をする私の隣にいる」機会である。

 

 ゆえに、ヒミコはいつも以上に嬉しそうな笑みを浮かべて、私を抱き寄せた。

 彼女の想いは理解しているので、もちろん私は抵抗しない。

 

 が、イレイザーヘッドににらまれたのでこれについてはここまでにしておこう。

 

「エリちゃんの“個性”制御訓練をどうするか、結論は出ていなかったが……そういうことなら、答えは決まったようなものか」

「ええ、そうなるでしょう」

「……と、そういうわけだよヒミコ。わかったかい?」

「よくわかったのです!」

 

 エリには、なるべく急いで“個性”を制御できるようになってもらわなければならない。そうしなければ周りが危険だし、本人にとってもよろしくない。

 だからこそ、それに協力できる私たちの存在は大きいというわけである。イレイザーヘッドが世間一般への知名度に反して、警察組織やヒーロー界隈では極めて有名であるのも、その辺りのことがあるのだろう。

 

 とはいえ、そういう実務的な面以外にも思うところはある。私の妹と同じくらいの幼い少女が、悲惨な環境に置かれていたのだ。素直に笑えるようになってほしいと、幸せになってほしいと思うのはごくごく自然なことだろう。

 

 ……と、思っていた矢先。病院に到着した私たちを出迎えたのは、血相を変えた医師だった。

 

「イレイザーヘッド! お願いです、もういつ爆発してもおかしくない!」

 

 その言葉に促されるまま、病院にもかかわらず我々は走った。

 普段跳んだり走ったりしない医師の先導なので、全力ではないが。その分説明を聞きながら移動することはできた。

 

 そうして案内された部屋の中では。頭を……正確には角の生え際を手で押さえ、脂汗をじんわりとにじませながら荒い呼吸をするエリの姿だった。

 

 抱いた印象は、決壊寸前の川である。彼女の周りにエネルギーの動きは見えないが、じんわりと何かが彼女の中からあふれそうになっている気配はある。

 

 何より、彼女自身が根元を押さえている角。これが、実に十五センチ以上にまで伸長していた。どう見ても救出作戦のときより大きくなっている。

 もちろん根本付近の太さもそれ相応で、なるほどこれは爆発寸前以外の何物でもあるまい。

 

 そんな彼女の姿を視界に入れると同時に、イレイザーヘッドは“個性”を発動した。彼の目が赤く輝き、頭髪が重力に逆らって巻き上がる。

 

 彼の“個性”が効果を発揮するのは、発動してからまばたきをするまで。当然ずっと発動し続けることは不可能だが、まばたきから再発動までにかかる時間はさほど長くはない。

 

「ありがとうございます! さあやるぞ!」

 

 そしてそれだけの時間があれば、控えていた医師たちが治療を施すことも不可能ではない。

 もちろん一人一人でまったく異なる力が“個性”なので、根本的な解決には程遠いわけだが。少なくとも、状態を確認するどころか近寄ることすらできなかった状況を思えば改善しているのは間違いないだろう。

 

「エリちゃん、もう大丈夫だよ!」

 

 そんな中、ルミリオンが前に出た。医師たちの邪魔にならない位置に進むと膝をつき、エリへと手を差し伸べる。

 

「だ……っ、ダメ……っ! さ、さわったら、みんな……!」

「大丈夫、今君の力をあの人が抑えてくれてる! だから誰も消えたりなんかしないさ!」

 

 自身の危険性をよく理解しているエリは、怯えた様子で大人たちから距離を取ろうとする。だが、ここにいる人間でそれをよしとするものは一人もいなかった。

 

 ルミリオンは、大丈夫だからと繰り返しながらエリの手を取る。その大きな手で、彼女の手を包み込む。

 ルミリオンに「巻き戻し」が及ぶことは、なかった。

 

 それを理解した瞬間の、エリの心底ほっとした顔は年齢に見合わない悲壮さを帯びていて、それが彼女の生い立ちを象徴しているようで……私たちはみな一様に表情を曇らせる。

 

「……オーバーホールには賛成できなかったですけど。こういうの見ちゃうと、“個性”があるのもなんだかなぁって思っちゃいますよね……」

 

 ぽつりとこぼされたヒミコの感想は、私が抱いた想いと一致していた。元々“個性”などと言うものの存在しない社会で生きていたから、私にしてみれば「“個性”を病気とみなし、世界から根絶する」ことを最終目的に掲げていたオーバーホールの考えは、一定の理解ができるのだ。

 

 もちろん、その“個性”があったればこその良き出会いや救かった命もたくさんあるのだが、かといってこんな年端も行かない子供が犠牲になる可能性がどこにでも、しかもそれなり以上にある社会など、素直に歓迎できるはずがない。

 

「……よし、二日分の診察は終わりです」

 

 と、そうこうしているうちに医師たちの仕事は終わったらしい。“個性”が暴発しそうになっていること以外、身体に異常はなし。精神的にも一応の安定を見ていると。

 

 であれば、やはり急いでエリには“個性”を制御できるようになってもらうしかあるまい。それは全員の総意であった。

 

 ということで簡単な打ち合わせがこの場で執り行われ、大きな反対もなくすぐに訓練を開始することで意見の一致を見た。

 エリ自身も“個性”を下手に使ってしまわないようになりたいと思っていて、訓練に意欲を見せてくれたので、訓練はこのまま開始されることになった。

 基本的には私とヒミコがマイナス増幅を交互に行い、制限を受けた状態でエリが“個性”を使う。対象は毒などの害がなく、かつエリが忌避感を示さない範囲での小型の昆虫や爬虫類などである。

 

 もちろんすぐに使いこなせるようになるはずはなかったが、私たちが抑え込んだ甲斐はあったようで、実験台が消滅してしまうことはなかった。何かあったらすぐに「抹消」を発動できるようイレイザーヘッドが控えていたが、彼の出番はほとんどなかった。これは不幸中の幸いと言えるだろう。

 

 ただ私の“個性”が私の栄養を消費する関係上、あまり長くは使えない。効果が続く時間も、入学当初に比べれば倍近く増えてはいるものの、それでも決して長くはない。

 このため、訓練自体は一時間程度で終わりとなった。まあ六歳児のエリに負担を強いるわけにもいかないので、これくらいがちょうどいいのかもしれないが。

 

「……ぜんぜんできなかった……」

「気にすることないよ! “個性”を鍛えるって、案外難しいんだよね! 俺なんて、高校入ってから使いこなせるようになるまで一年以上かかったんだ。それに比べればエリちゃんは早いほうだよ!」

「……そう、なの……?」

「うん! 才能あるんだよね!」

 

 自信なさげに上目遣いになったエリに、ルミリオンは満面の笑みを浮かべながらその頭を優しくなでた。

 彼のその姿を見て、エリは安心したのかほっと胸を撫で下ろす。

 

 そんな彼女の額の角は、私たちが訪ねたときの半分くらいになっていた。どうやら、それなりに発散できたらしい。

 

「焦ることはない。我々はこれからも来る。週に二回か三回……うむ、三日に一回くらいを予定している。少しずつ進んでいこう」

「はい。……えっと、ありがとうございます、サーさん」

 

 普段の仏頂面が嘘のような穏やかな笑顔を見せたナイトアイに、エリがこくりと頷く。彼女の顔にも、微笑みがあった。

 

 ふむ。あまりにも進捗がないようなら最終手段を使うことも考えていたが、この調子なら問題はなさそうだ。

 そう、“個性”の上達速度を増幅する、など最終手段だ。できなくはないが、凄まじい消耗をするからな。

 

 かくして、私とヒミコは定期的にエリの下へ通うことになったのだった。

 

***

 

 ちなみに。

 

 病院を辞した私たちは学校に戻り、クラスのヒーロー基礎学実技演習に合流したのだが。

 そこに、なぜかナイトアイも仮想敵役の助っ人としてやってきた。

 

 突然のビッグネーム参戦にクラスメイトは全員驚いていたが、それはそれとしていい訓練と刺激にはなったようで何よりである。

 

「まさか、()()()()()()()このクラスの生徒は全員『予知』を覆せるのか……? フォースユーザーとの戦いに慣れるとは、やはりそういう……? いや、結論を出すのは全員で試してみてからでも遅くはないか……」

 

 まあ、ナイトアイが去り際にそんなことを呟いていたので耳を疑ったわけだが。

 しかしさすがの私でも、しばらくの間彼が半ば定期的に雄英を訪れ、稽古や講義をするついでに“個性”を試すようになるとは予測できなかった。

 

 一体何が彼をそこまで駆り立てると言うのだろうか? オールマイトがいない日、いない時間にばかり来るのは狙ってのことなのだろうが……。

 




エリちゃんは原作と違い、オーバーホール戦に不参加でデクくんへの個性行使がなかったため、原作よりかなり早く個性が暴発寸前になりました。
なので原作より二か月近く前倒しで個性訓練を受けさせるよ。理波たちも手伝いますよというお話でした。
あとあとこれが意味を持つので、この話はカットできなかったのです。つくづくエリちゃんの個性は反則技。
ともあれ、本格的な文化祭編のスタートは次話からです。

あとついでに、サーの奇行。いや奇行って言ったら彼に対して失礼なのですが。
話のテンポ的にも今後の展開的にも、個性「予知」について描写する必要性が薄いのでここでぶっちゃけますが、これは感想でも予想されていた通り、圧迫面接でデクくんに未来予知を覆された影響です。
ただ、原作と違ってみんなの願いが絶望的な未来を変えた流れが起きていないので、原作の彼が死の間際に辿り着いた結論にまだ達していないのですね。

なので、「普段から未来予知をするクラスメイトと訓練してる」と言ったデクくんの言葉から本作中の推測を立てた結果、A組で個性を試そうとしてるわけです。
そしてやはりA組の人間(この話のときは作戦時に顔を合わせたことのある切島くんを「視」た)に予知を覆されたので、通うことにしたという流れ。
もちろんA組だけに関わるのは不自然かつ不平等なので、彼はB組の訓練にも顔を出すようになります。
原作より一年生全体の実戦経験が少ないので、代わりに訓練の質を上げることで穴埋めするスタイル。もちろん予定していてこうなったわけではありませんけどネ!
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