『結論から言うと、わからない』
ある日のこと。アナキンの言葉に、私とヒミコは揃ってがくりと肩を落とした。
エリの下へ通うようになって、数日後のことである。以前からヒミコが見る謎の夢について、フォースの申し子とも呼ばれたアナキンに調査を頼んでいたのだが、その返事がこれなのだ。私たちの反応は仕方がないと思わないか。
『正確に言うと、もしかしてと思うものがないわけじゃないんだけどな。ただ、今となってはそれを確かめるすべがもう残っていないんだよ』
「……そういうものなのか。マスター・ヨーダやマスター・ケノービはなんと?」
『それなんだが、スピリットになっている連中は
「明らかに何かを隠しているやつじゃないですか、やだー」
フォーススピリットになっている人物は、アナキンだけではない。その気になれば、マスター・ヨーダもマスター・ケノービも姿を現すことができることは聞いているので、その伝手は使えないのかと思ったが……誰も彼も何も言わないとなると、ヒミコの言う通りこれは隠し事があると見ていいだろう。
だが、スピリットになっているもの全員がそうだとなると、ただ隠しているだけだとは考えづらい。何か今の私には考えもつかない深謀遠慮があって、あえて黙っている可能性も十分にある。
あるいは、これは私たちが乗り越えるべき、正しい意味での試練であるのかもしれないが。
だとすると、手がかりは何もないということになってしまう。どうしたものか。
この件に関しては、“個性”が絡んでいるだけにわからないことが多すぎるのだ。単純にフォースだけの問題ではない、という点がどうしてもネックなのである。
「……せめてヒントとかもらえないんです?」
『ヨーダとオビ=ワンはとぼけるだけだったよ。ああいうのを、この国では狸って言うんだろうな。ルークたちには、なんか接触を避けられてる。子供から拒否られてるんだ。この気持ちがわかるか、二人とも。僕の気持ちも少しは汲んでくれ』
「それについては私が悪かった」
いや本当に。家族を持つことの意味を理解している今の私にとって、アナキンの切々とした言葉は理解できすぎた。なので思わず深々と頭を下げていた。
ただ、私としてもヒミコにこれ以上悪夢を見てほしくないのであり。どうしても燻るものが生じてしまう。それがあまりよくないことだとはわかっているが……。
「わからないんじゃしょうがないですねぇ……」
結局はそう言わざるを得ない。
『ああ。だから、二人とも注意は怠らないことだ。何か気づいたことがあれば、些細なことでも調べてみるしかない』
「棚に上げるとも言うが。とりあえずはそうするしかないか」
「はぁい。まあ、あの夢はなんでか全部しっかり覚えてるので、そこは大丈夫かなって思いますけど」
と、ここでヒミコはそれに、と言葉を区切ってから、私の腕に腕を絡めて引き寄せてきた。
「いざってときは、コトちゃんが守ってくれますから大丈夫です」
そして、にんまりと笑った。一瞬きょとんとしてしまったが、私も応じて笑った。そのまま彼女を抱き寄せる。
言われるまでもないことではあるが、いずれにせよ彼女の期待に応えられるよう全力を尽くすとも。私たちはパートナーなのだから。
などと思いながら身体を寄せ合っていたら、なぜかアナキンに呆れられた。
『……君たちは本当、いつまで経っても付き合いたてのカップルみたいだよな。やることも散々やってるくせに、その距離感はなんなんだ?』
「……念のため聞くんだが、君、普段から
「えぇー? ますたぁのえっち!」
『ひどい濡れ衣を見た。友人の濡れ場なんて誰が好き好んで見るんだよ』
まあ、うん。一度始めたら、結構な長丁場になる私たちにも責任がないわけではないかな。
いやそれについてはともかく。
ヒミコの夢に関しては、本当に注視していくしかないだろう。睡眠中に変身さえしなければ起こらないはずなので、
***
翌日。
「文化祭があります」
ホームルームの時間に、ぼそりとイレイザーヘッドが言った。
これに対して、クラス全体が歓声を上げて大きく湧き上がる。
「文化祭!」
「ガッポい(学校っぽいの略)の来ました!」
「何するか決めよー!」
などと盛り上がっている。
が、直後にイレイザーヘッドが目を光らせると、当たり前のように静まり返った。
「注意事項として……今年は例年と異なり、一部の例外を除き学内だけでの文化祭になる。これは時世を鑑みての決定だ」
全寮制に移行した理由を考えれば、これは仕方がないだろう。内通者は既に見つかっているが、一人だけとは限らない。
それに、神野事件以降の犯罪件数が増えてきていることも事実。まだそれを指摘するマスメディアはほとんどないが、ヒーロー側は認識しているのだろう。
だからこそ、誰でも出入りできる形にして何か起きてからでは遅いという判断なのだと思う。
「雄英のイベントはヴィランごときで中止していいもんじゃない。それは体育祭だけでなく、文化祭も同じだ。何せ文化祭はヒーロー科以外が主役。特に経営科とサポート科にとっては、体育祭よりこっちが本番と言っていい。
単純に学生の楽しみとしても、無くすわけにはいかない。何せ現状、寮制をはじめとしたヒーロー科主体の動きにストレスを感じてる者も少なからずいるからな……」
そしてイレイザーヘッドの口から語られた説明に、クラスのほぼ全体が背筋を伸ばした。根が真面目で善良なものが多いこのクラスだ、彼の説明の意味を十分に理解したのだろう。
「とはいえ、USJ事件から神野事件、そして先日の死穢八斎會事件と、ヴィラン連合が何かと騒がしいことも事実。だから自粛はしないが、規模は縮小。警備は体育祭同様、例年の五倍で。そういうことになったわけだ」
クラス全体の様子を確認したイレイザーヘッドは、説明を続けながら寝袋に入った。
……この流れは、しばらく生徒側に丸投げするやつだな。いい加減、彼の合理主義にも慣れたものである。
「……っつーことで、文化祭だ。我々ヒーロー科は主役じゃないが、決まりとして一クラス一つ出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう」
案の定、彼はそのまま壁に寄りかかって眠り始めてしまった。
「ここからはA組委員長、飯田天哉が進行を務めさせていただきます!」
だがもはや彼に慣れ切っている我々A組は誰も動じない。それどころか、イイダとヤオヨロズが張り切って壇上に立ったくらいである。
ということで、案を挙げるよう声がかかったわけだが。
「上鳴くん!」
「メイド喫茶にしようぜ!」
「バカ野郎上鳴お前この野郎! そんなことしたらうちのクラスのキレイどころが他の野郎どもの目にさらされるだろうが!! 却下だ却下!!」
「どうしたお前本当に……いや本当にどうした!? 血の涙流すくらいなら言わなきゃいいだろ!?」
一番手となったカミナリの提案に、ミネタが食って掛かったのが意外過ぎてクラス全員が目を丸くしていた。
本当にどうしたと思ったのだが、途中で私とヒミコに向けて合掌をしてきたので、いつもの発作かとこれまたクラス全員で納得する。
ただその所作はあまりにも美しく整っていて、さらに言えばカミナリへの文句のさなかに流れるような自然さで挟み込まれたため、私ですら一瞬気づかなかったほどだ。ミネタの背後に、何やら無数の腕を持つ大きな観音像が見えた気がしたのは、本当に気のせいだったろうか。
「メイド服……私はいいと思うのです。ヴィクトリアンスタイル、いいですよね。ホントなら露出がほとんどない服で脱ぎかけ、ってのが特にカァイイんですよねぇ……んふふ」
「……真昼間だぞ、ヒミコ……」
そしてそんな会話――それとお互いの流し目――を交わした私たちだが、これを目の当たりにしたミネタは血涙をすっと消したかと思えば、天竺で経典を授けられた瞬間の玄奘三蔵もかくやな晴れ晴れした顔を浮かべて手を合わせると、天井を仰いだ姿勢のまま椅子に身体を預けて動かなくなった。
これもどうせいつもの発作だろうと、クラス全員が彼を無視して話は進む。
「おもちやさん!」
「なるほど和風で来たか!」
「腕相撲大会!」
「熱いな!」
「ビックリハウス!」
「わからんが面白いんだろうなきっと!」
「ダンスー!」
「華やかだな!」
「ヒーロークイズ!」
「緑谷くんらしい!」
「蛙の歌の合唱!」
「微笑ましい!」
「手打ちそば」
「大好きだもんな!」
「デスマッチ!」
「まさかの殺し合い!?」
「暗黒学徒の宴」
「ホホゥ!?」
「ボクのキラメキショウ☆」
「……んん!?」
「……コントとか?」
「なーる!」
……また随分と、多種多様な意見が出るものだなぁ。まあ、バクゴーの意見は間違いなく却下だが。
アオヤマの案も恐らく取り下げられるだろう。あんなことがあったあとだけに、こういうところで彼が以前と変わらない態度を貫いている様には安堵するところではあるのだが。
「さあ他に意見はないか!?」
「アジアンカフェ!」
「演武発表会!」
「タコ焼き屋!」
そうこうしているうちにも、続々と案は上がっていく。
応じて黒板に案が箇条書きにされていく。
「ふむ、こんなところか。渡我くんや増栄くんは挙手すらしてなかったようだが、何かないのかい?」
「んー……コトちゃんの作品発表会とか、考えてましたけど……」
「わあ、ひみちゃん攻める。でもそれ、サポート科の子が泣きかねないでしょ。さすがにまずくない?」
「ですよね。下手にあのズームの人が乗り込んできても困りますし……それじゃ、クレープ屋さんとかどうでしょう?」
「おお、食べ歩きにもってこいだな!」
ヒミコのクレープ屋か……そんなものが学内にあったら、毎日通ってしまうなぁ。
「増栄くんはどうだい?」
おっと、私にも振られたか。
正直なところ、文化的な活動から縁遠い人生をまっとうした前世を持つ私には、この手の文化的な行事の案は荷が重い。アニメーションや漫画などで、一応その手のものに少し触れたことはあるが……そういうところで出ていたものは、大体案に上がってしまっているからなぁ。
まあ、一応案がないわけではないのだが……恐らく却下されるだろうな。言ってみるだけなら無料だから、とりあえず言ってはみるが。
「ヒーロー基礎学の公開授業はどうだろうか? 座学ではなく実技のほうで」
「なんと!?」
この提案に、クラス全体が騒めいた。どうも感じる気配からして、こういう行事でわざわざ授業をやるのは受け入れづらいものらしい。
なぜだろうか、非常に理にかなった案だと思うのだが。
「結局、授業はあくまで訓練だからな。だがそれを公開すれば現実の状況に近づくし、人目があるとなれば我々は一層身が入るだろう。他よりも多く訓練時間を確保できることにも繋がる。
それにヒーロー基礎学は名前の通り、ヒーロー科限定の授業だろう? 見聞きしたことがあるものはごくわずかだ。実技となればなおさらな。であれば、普段見られないものを見られるという付加価値が生じるだろうし、マスター・オールマイトを講師にしての実技なら大衆受けもいいと思うのだが、どうだろう?」
「さ、さすが、日常的に“個性”訓練をしてる増栄さんだ……心構えが違う……!」
「なるほど……! 授業とイベントを両立させるということか……なんという向上心だ! 俺も見習わなければ!」
「ええ、来場者のニーズにも応えられる良き案かと!」
「い、いやぁ、でもよぉ、文化祭だぜ? さすがに授業は……なあ?」
「うん、こういうのはパーッと遊ぶようなのがいいと思う!」
ミドリヤやイイダ、それにヤオヨロズはかなり前向きにとらえてくれたようだが、他は反対のようだ。
「コトちゃん……ソレはさすがに味方できないのです……だって文化祭ですよ?」
「なん……だと……?」
しかもヒミコすら反対の立場を表明する始末である。私は思い切り落ち込んだ。
「……さすがに実技の公開授業はナシだな」
おまけに寝ていたはずのイレイザーヘッドすら、わざわざ身体を起こしてそう言ってきたので私はますます落ち込んだ。
「警備には教師陣も当たることになってる。そんな中公開で実技授業となると、最低でも教師が二人……場合によってはもっと必要になる。しかも大人数が観覧できる演習会場は、文化祭の会場範囲から離れた場所にしかない。手間がデカすぎる上に人手が足らん」
「えっ、そういう理由……ってことはつまり」
「ああ、公開座学ならいい。俺は一向に構わん」
『それだけは嫌だ!!』
だが、まっとうな理由だったので私は少しだけ回復した。イレイザーヘッドはやはり、光明面の極みに立つ人である。話が分かる。
……と、そんな小さなトラブルもあったが。
それはそれとして、あれやこれやと自分の案を推す声が上がり続け、あるいは互いに互いの案にダメ出しをするような時間が続くことになる。
イイダはなんとかして話をまとめようとしていたが、生真面目が過ぎるところのある彼では少々手に余ったようだ。
結局時間内に案がまとまることはなく……。
「実に非合理的な会だったな。お前ら、明日朝までに決めておけ。決まらなかった場合……増栄の案で行く。つまり公開座学だ」
まるで“個性”を使っているかのような目でこちらをにらみ、イレイザーヘッドは退室していった。
彼のその言葉に、残されたものたちの心は私を除いてほぼ一致する。
「冗談っしょ……」
「みんな! 今日中に出し物決めようぜ!!」
『おおおおお!!』
……こんなことで、クラスのみなが一致団結するところは見たくなかったかもしれない。
漢、峰田実。
百合の間に挟まりたいとか抜かす男を増やす可能性があるメイド喫茶を、断腸の思いで拒否。
あとそれとは別に、喫茶店だとスタッフとして時間を拘束されるので、ヒミコトカップルには時間いっぱい文化祭でいちゃついてほしいとも考えている模様。
いやしかし、前章はメインが襲だったこともあって、理波たちだけでなく峰田の登場シーンも少なかったんだけど、こうして久々にガッツリ書くとやっぱこいつ抜群に書きやすいなって・・・。
なお、メイド服でコスチュームプレイの実績をアンロックしていることを察してしまった皆さんのえっちレベルは、峰田に匹敵するものとお考え下さい(無慈悲