その日の夜。寮に戻った私たちは、早速出し物をどうするかを改めて話し合い始めた。
「インターン組は?」
だがそこに、インターンに出向いていた面々はいない。
「補習だってよ。話し合いには参加できないから、決定に従うって。爆豪は『下手なモンにしやがったら殺す』とか言ってたけど」
「平常運転がすぎる」
そう、彼らは放課後の今も授業を受けている。丸一ヶ月学校にいなかったアオヤマも同様である。
なお、私とヒミコの場合は必要なときのみの一、二時間くらいしか出動がないので、補習は免除だ。ヒミコは成績的に危うかったが、次の定期考査で結果を出すことを条件に免れている。
なので、談話スペースで集合した面々の中には私たちも当然同席している。同席、というか私はヒミコの膝の上に座っているのだがね。
それを見て、涅槃仏のような顔と姿勢でソファに横たわったミネタはいつも通りということで、全員が放置の構えである。打ち合わせには問題なく参加するようだし、気にするだけ無駄とも言う。
彼はともかく、そういうわけでインターン参加組とアオヤマ以外の欠席者はおらず、十三名全員が揃っている。
「落ち着いて考えてみたんだが……先生の仰っていた他科のストレス、俺たちは発散の一助となる企画を出すべきだと思うんだ」
そんな中、学校でも議長をしていたイイダがやはり、ここでも率先して口を開いた。何かヒントとなるものはないかと、ノートパソコンを操作しながらだ。
「そうですわね……ヒーローを志す者が、ご迷惑をおかけしたままではいけませんもの」
これにヤオヨロズも同意した。
「そうなると正直……ランチラッシュの味を知る雄英生には、食で満足させられるモノを提供できないと思うんだ」
「あ、飯系ダメってこと?」
「個人的には、だ。他科へのサービスを考えれば」
確かに、ランチラッシュの作る食事は非常に美味である。私としてはヒミコの手料理のほうが上だとは思うが、これは彼女の味付けが完全に私向けに特化していることと、身内のひいき目によるものだ。世間一般では、ランチラッシュに軍配が上がるはずである。
なので、食事でもてなそうとするならイイダの懸念は何も間違っていないだろう。何せただでさえ美味かつ幅広い料理を、安価で提供されているのが雄英の食堂なのだから。
「そう言われると、そうだな……俺たちが楽しいだけでは彼らに申し訳がない」
そしてショージもこれに同意し、ハガクレが改めて案の一覧が表示されているパソコンの画面をのぞき込んだ、そのときである。
「……別に他の科の人のことなんて、気にしなくてよくないです?」
私を抱きすくめた状態のまま、ヒミコが話の前提に殴りかかった。
この発言に、私以外の全員がぎょっとして彼女に視線を集中させる。
「と、渡我くん!? いきなり何を言うんだ!?」
「そうですわ、さすがにそのお言葉は看過できません」
イイダとヤオヨロズの言葉は総意のようで、多くのものが頷いている。
だが、この程度のことでヒミコが怯むはずがない。仲良くなりたい人相手には少し臆病なところがある彼女だが、既にA組の面々にはそのサガも含めて受け入れられている。この場所で変に遠慮することは、もうしないだろう。
だからこそ、彼女は飄々とした顔で唇を尖らせた。カァイイ。
「だって、おかしいじゃないですか。なんで私たちのせいで、他の人たちがストレス感じるなんてことになるんです? 私たち、何かしました?」
だがその口から出てきたのは、カァイイ仕草とは反対の真剣なものだった。
「そりゃ、私たちは入学したときから何度も事件に巻き込まれてるのです。それでイベントがちっちゃくなったりしたのがヤって気持ちだって、わかります。……でも、私たち誰も好きで事件に巻き込まれてなんかないじゃないですか」
――悪いのは、勝手に襲って来たヴィランの人たちじゃないですか。
そう付け加えられた言葉に、全員がハッとなる。
「襲われたから、私たち追い返したんですよ。みんなでがんばったんです。あの頃はまだ誰も仮免許だって持ってなかったのに。いっぱい怪我して、いっぱい怖い目に遭って……でも、みんなで力を合わせて、なんとかしたんですよ。そんな私たちをまるで諸悪の根源みたいに言う人たちなんて、私知らないです。つーんです」
そして彼女は言葉をそう締めくくると、ぷくりと頬を膨らませて私の首筋に顔をうずめた。彼女はそのまま黙り込んでしまう。おかげで場には気まずい空気が流れた。
今ここにアオヤマがいなくて助かった。もし彼がヒミコの言葉を聞いたら、たとえ覚悟ができていたとしても傷ついただろうから。
「……確かに……トガさんは実際にさらわれているもんね……」
「そうだな……相当なストレスだったはずだ……」
「……申し訳ありません、渡我さん。私たちの配慮が足りませんでしたわ……」
みなは口々にそう言うが、あまり気にしないでほしい。何せ私の首筋に顔を伏せている彼女の内心は、欠片も気にしていないのだ。むしろヴィラン連合のヴィランたちを、友人だと思っている始末である。
なので私は一応彼女の頭をなでているが、実に何とも言い難い。そういう意味でも、アオヤマがいなくてよかった。
こういうところを見るに、ヒミコは他者への共感性がやや低いのだろう。彼女が両親から普通たれと口酸っぱく言われていたのは、この辺りもあるように思う。
私はそんな欠点も含めて彼女を愛しているし、そもそもの話フォースダイアドである我々の間には、察するという行為はほとんど必要ないので、そういう意味でも私たちは運命の相手なのかなとも思ったりもするわけだが……。
「……というわけなので、私は三奈ちゃんの案がいいと思うのです!」
私が頭の中であれこれ考えていたことは、改めて顔を上げたヒミコの満面の笑みで吹き飛んだのであった。
「へっ? 私の?」
「みんなで踊ると楽しいと思います! どーせ私たちをよく思ってない人たちのご機嫌取りしたって、まともに受け取ってくれないと思うので。まずは私たちが一番楽しめるやつがいいと思うのです!」
「おー! トガっち話が分かるー!」
直前までとは打って変わっての笑顔を見せるヒミコに、困惑するみなの前で彼女はアシドの手を取って上下に動かす。
それとは逆の手で、彼女はイイダの手元にあったノートパソコンを引き寄せ何やら操作する。
「トガだって一応はヒーロー志望なので、私たちだけなんてことは言わないのです。私たちがまず楽しんで、それで他の人も一緒に楽しくなるようなのがいいと思うのです……ってことで、こんな感じはどうでしょ?」
そうして、みなに見える形でくるりと向けられた画面には、派手な光と音で煌めく空間で人々が躍る映像が。
「そう来たかー!」
「意外! ひみちゃんからそういう発想来るとは思わなかった!」
「けどよ、素人芸ほどストレスなもんはねーぞ?」
セロの言い分ももっともだ。
だがヒミコは動じることなく、むしろ甘いとでも言いたげにアシドに目を向けた。
「ダンスなら三奈ちゃん教えられますよねぇ? こないだ青山くんとか出久くんが教わってるの、見てましたよ」
「うん、私教えられるよー!」
そう答えるアシドに、なるほどと相槌を打つ。
確かに少し前、教室でそんなことをしていた。そして最初は明らかにぎこちなく不自然だったアオヤマとミドリヤだったが、今は形になった動きができるようになっている。
アオヤマなどは、ここにいたらこれ見よがしに踊って見せていただろうと容易に想像できるほどである。
「そういやそんなことしてたね」
「然り。言っては何だが、当初の二人はだいぶ……」
「奇怪な動きだった素人が一日でステップをマスターしたんだ、芦戸の指導は確かだ!」
「待て素人ども! ダンスとはリズム! すなわち音だ! パリピは極上の音にノるんだ!」
「音楽と言えばぁー……!」
と、ここで全員の視線がジローに向いた。
うむ、私もそう思う。我がA組で音楽といえば、彼女をおいて他にあるまい。当の本人は、困惑しきりであるが。
その彼女に、ハガクレがぴょんぴょんと跳びはねながら距離を詰める。
「耳郎ちゃんの楽器で生演奏!」
「ちょっと待ってよ」
「なんでェ!? 耳郎ちゃん演奏も教えるのもすっごく上手だし、音楽してるときがとっても楽しそうだよ!」
そうなのである。彼女は演奏も指導も上手なのだ。何度か彼女の部屋にお邪魔して音楽に触れる機会があったが、実に楽しそうに色々と話してくれたことをよく覚えている。今までその手のものに触れてこなかった私にとっては、とても有意義な時間だった。
まあ、私にはどうも音楽の才能がないようなので、それについてはコメントは差し控えさせていただきたいのだが。それはそれとして、様々な楽器を操るジローの姿は輝いていたと思う。
ただ、そんな彼女はどうも後ろめたさを感じていたようだ。ヒーロー活動に根差したものではないということに、思うところがあるようだった。
「何言ってんだよ! あんなに楽器できるとかめっちゃカッケーじゃん!」
「カミナリに全面的に同意するよ。それにだ、音楽は国境を越えるというだろう。君の演奏は、言葉の違うものたちを一挙に笑顔にできる、とてもヒーローらしい特技だと思うぞ」
なのでカミナリと二人でそう言ったら、すっかり照れてしまったが。
「……ここまで言われてやらないのも……ロックじゃないよね……」
最終的に、彼女は覚悟を決めた……それでいて、どこか吹っ切れたような顔で、そう答えたのだった。
「決意と照れが入り混じる響香ちゃんのお顔、とってもカァイイのです」
「わかるよひみちゃん、アレはカァイイだよね」
「うんうんカァイイ」
まあ、一部の女性陣からは「カァイイカァイイ」と連呼されて微笑ましく見られていたのだが。
「ちょっとそこの三人!」
「あまり人をからかうのはよくありませんわ」
「そうだぞヒミコ」
ともあれ、こうして私たちA組の出し物は生演奏とダンスということに決まったのだった。
その後は日を改めて、補習を終えた面々も加えてから役割分担決めである。
諸々話し合ったが、ただ歌って踊るだけでは物足りないということで、演出も加えることになった。結果、担当は楽器班、ダンス班、演出班の三つに分かれることになる。撮影や機材の担当として、14Oも駆り出す。
楽器の担当選定は紆余曲折はあったが、ジローが歌兼ベースを、カミナリとトコヤミがギターを、ヤオヨロズがキーボードを、そしてバクゴーがまさかのドラム担当ということで落ち着いた。
バクゴーは最初はやらないと言っていたのだが、セロに「難しいらしいぞ」と煽られたことで張り合う形で応じることになった。まさかバクゴーがあそこまでドラムに堪能とはなぁ。人は見かけによらないものである。
そのバクゴー、「他の科のストレス発散とかいう慣れ合いみてェなお題目だったら殺してたわ」と言っていたので、改めて何人かはヒミコに礼をしていた。そんなことで礼を言われるのもなんだか奇妙な話だと思うのだが。
「やるからには雄英全員、音で殺るぞ!」
最終的にはいつものバクゴー節が炸裂していたので、気にする必要はなさそうである。協力はしてくれるわけだし。
彼としては、我々を敵視している連中を音楽で改心させたら勝ち、殺したということになるらしい。彼のことはだいぶ理解できたと思っていたが、こういうところはまだ少しよくわからないな。
まあ、A組一同はそういうところも含めて彼を受け入れているので、応じる形で全員気炎を上げていたが。
なお、私とヒミコはダンス班である。一部の演出にも協力する形になるので兼任と言ったほうが正しいかもしれないが。
付け加えると、この選出はヒミコの強い希望で決定されている。その際に私との二人だけのパートを約束させていたので、あの殴りかかるような意見の出し方はこれが目的だったのだろう。抜け目のない人である。
「ところでコトちゃん? 歌うのヘタッピでしたけど、ダンスは大丈夫ですよね?」
「銀河共和国の末期、ジェダイは調停役をこなしていたんだぞ。社交の一環で踊ることがないわけではなかった。歌よりはマシなはずだ」
カラオケには二度と行かない。行っても絶対にマイクは取らない。私はそう決めている。
前世から今に至るまで、音楽を自分でやる方面ではほぼ触れてこなかったので、下手したらジャイアンより酷いと思います。
ただ前世で同じ状況に陥っていたら、練習して次に備えるくらいのことはしていたはず。内心でどう思おうと、目の前の困難から目を背けるようなことはジェダイならしないと思うんですよね。
なのにここで二度と行かないという発想が先に出る辺り、既にジェダイナイトのアヴタスと雄英一年生の理波は同じだけれど別の人間なのでしょう。
それがいいことか悪いことかはさておき、こういう態度を取れる友人が彼女の周りにいる、ということは間違いなくいいことであるはずだとも作者は思うのでした。
・・・それにしても、もしかしてみんな結構メイドコスプレ回見たい感じ・・・? 作者としてはさらっと流すつもりのシーンだったんだけど・・・。