銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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5.エリちゃんと

 出し物が決まったので、あとは本番に向けてひたすら練習を重ねるのみである。文化祭が終わるまではインターンもないということなので、全員揃っての練習が続く。

 

 とはいえ、私とヒミコはエリの“個性”訓練のために何度か授業を抜けていたのだが……ある日、この訓練にミドリヤとウララカもやってきた。

 自発的についてきたわけではなく、エリの指名だ。自分を助けようとしてくれたヒーローに、直接礼を言いたかったらしい。さらに言えば、そういう人々のことをもっと知りたかったのだという。

 

 二人ともそう望まれれば否と言うはずがないので、共に病院へ赴くことになった。

 正確には、彼らは見舞い客という立場になる。なのでヒーローとして来ているルミリオンや私たちとは違い、あくまで私人としての来訪だ。

 

「久しぶりだね、エリちゃん。元気そうでよかった」

「こんにちは、エリちゃん。あ、これフルーツの盛り合わせ! よかったら食べてね!」

「わあ、ありがとうございます」

 

 訓練の前に、ウララカから見舞い品として渡されたバスケットを、エリは嬉しそうに受け取った。その視線は、中に置かれたフルーツたちに釘付けだ。

 

「よかったね、エリちゃん。早速食べるかい?」

「……リンゴ、たべたいです」

「だと思ったよね!」

「そういうことならトガにお任せですよぉ」

 

 よろしく頼むよ、と言うルミリオンをよそに、どこからともなく取り出した果物ナイフでするするとリンゴを切り分けていくヒミコ。非常に慣れた手つきであり、とても素早い。あっという間にうさぎの形に切り分けられたリンゴが出来上がった。

 

「うひゃー、さすが被身子ちゃん。慣れてるや」

「すごいね! 思わず見惚れちゃったんだよね!」

「うさぎさんだ……!」

 

 そうして差し出されたリンゴに、嬉しそうに目を輝かせるエリ。

 

 気持ちはわかる。非常にわかる。私も初めて母上にこの切り方を見せられたときは、この星の文化水準の高さに心底驚き心が昂ったものだ。

 

「リンゴ、好きなの?」

「……うん。あまくって、おいしくて、すきです」

 

 ミドリヤの問いに、エリは笑顔を見せてこっくりと頷いた。

 

 が、彼女がすぐに手を出すことはなかった。彼女は差し出されたリンゴを皿ごと受け取ると、お先にどうぞと私たちに差し出したのである。

 

「……我々ももらってしまっていいのか? これはすべて君のものなんだぞ」

「うん、いいの。だっていつもありがとうございますだから、おかえし……それにね、みんなでいっしょにたべるほうがおいしいって、マグネさんが」

「……エリちゃんは優しいんだね」

「……せやね。そういうことなら、いただいちゃおっか」

 

 最後に付け加えられた人物の名前に、秩序の側に立つものとして思うところがないわけではないが。おすそ分け自体は完全なる善意で行われているので、我々はそれを飲み込んで受け取ることにした。

 

 ヒミコがそれを見越していたわけではないだろうが、リンゴは六切れ。ちょうどここにいる学生組の人数と一致する。

 同行者であり、責任者でもあるサー・ナイトアイとイレイザーヘッドは視線だけで遠慮を表明したので、ならばとエリを含めた若者同士で分け合うことにした。

 

「おいしい!」

「それはよかったんだよね!」

「うん、本当によかった」

 

 病室には、様々な笑顔が咲いた。

 

 そんな中、一番にリンゴを食べ終わったエリが居住まいを正して、ミドリヤたちに向き直る。

 

「あの……ずっとおれいがしたくて。でも、おなまえがわからなくて……しりたくって。えっと、おなまえ、きいてもいいですか……?」

「あっ、そういえば名乗ってなかったっけ。僕は緑谷出久だよ。ヒーロー名はデク!」

「ヒーロー名……えっと、ナイトアイさんとか、ルミリオンさんみたいな」

「そうそう。えっと、たぶんデクのほうが短くて覚えやすいだろうし、デクって呼んでくれていいからね」

「私は麗日お茶子! ヒーロー名はウラビティだよ。よろしくね」

「デクさん。ウラビティさん」

 

 エリはしばらく、二人の名前を反芻していた。

 

 しかしすぐに覚えたようで、一度小さく頷いてから改めて、二人に向けてぺこりと頭を下げる。

 

「たすけてくれて、ありがとうございました」

 

 この言葉に、一瞬ミドリヤとウララカは言葉に詰まった。二人とも、自分がエリを助けられたとは思っていないのだ。自分たちでは手が届かなかったと、そう認識している。

 しかし今ここでそれを言っても、押し問答になるだけだけだろう。エリのことを考えれば、素直に受け取るべきだ。

 

 二人もそう思ったのか、すぐに笑みを浮かべて頷いた。

 

「どういたしまして!」

「うん、エリちゃんが無事でよかった!」

 

 そして二人の返しに、エリもまたにこりと微笑んだ。

 微笑んで、二人ににじり寄る。まだ人に直接触れることには多少怯えが見えるが、それでも彼らにはもっと近づきたいと思ってくれているのだろう。

 

「あのね、私ね、ずっと考えてたの。たすけてくれたときのこと……たすけてくれたひとのこと……。お姉ちゃんたち、ヒーローのことはなんにもおしえてくれなかったから……だから、ヒーローの人たちのこと、もっとしりたいなってかんがえてたの」

「うん、なんでも聞いてよ!」

「私たちなんでも答えるから!」

 

 そこからは、とりとめのない会話が続いた。会話の中心は主にルミリオンで、ウララカが次点といったところ。

 エリは聞き役にほとんど徹していた。いまだ幼く、世間から隔絶した環境にいたこともあってか、彼女は同年代よりも知識が足りていないのだろう。それは会話や感情の機微も含まれる。

 

 とはいえどんなことにも疑問を抱いて質問するし、返って来た答えにはうんうんと頷いて自分なりに噛み砕こうと努力している。エリ自身の頭に問題があるわけではないことは、間違いない。経験さえ積めば、この程度の遅れはすぐに取り戻せるはずだ。

 

 何より、彼女の表情はちゃんと感情の変化に伴ってころころと変わる。嬉しいと思えば笑顔になるし、悲しいと思えば曇る。驚けば声を上げて跳びすさるし、怖ければ怯える。

 それらはどれも身体と心の動きが一致していることの現れであり、それだけ心身が安定していることの表れでもある。それはいいことだ。

 

 そんな、なんと言うこともない会話の中のこと。あるとき些細なきっかけで、話題が文化祭へと飛んだ。

 

「ぶんかさい?」

「文化祭っていうのはね、俺たちの通う学校で行うお祭りさ! 学校中の人が学校中の人に楽しんでもらえるよう、出し物を出したり食べ物を出したり……あ! リンゴ! リンゴアメとか出るかも!」

「リンゴアメ?」

「リンゴをあろうことか、さらに甘くしちゃったスイーツさ!」

「……!」

 

 ルミリオンの説明はさらに途中で飛んだが、エリはこれに目の色を変えた。それどころか、口元からよだれが出るほどである。よほどリンゴが好きなのだなぁ。

 

 気持ちはわかる。出店に並んでいる食べ物は、どれも不思議と美味に感じるものだ。

 私もリンゴ飴は好きだ。綿菓子も好きだし、ベビーカステラもおいしい。チョコバナナもよかったなぁ。

 

 うん、なんだか腹が減ってきた。今度ヒミコに作ってもらおう。

 そう思ってちらりと視線を向けたら、ヒミコは「仕方ないですねぇ」と言いたげににんまりと笑っていた。

 

 これには私も思わず微笑んでしまったのだが、どこからともなく『腹ペコ幼女……』という友人の呟きが聞こえた気がして、正気に戻った。

 

 そんな私をよそに、話は進んでいる。エリはそわそわしながら、おずおずと口を開いていた。

 

「あの……その……その、おまつりって……私も行けたり、しませんか……?」

 

 このかわいらしいお願いに、ミドリヤもウラビティもルミリオンも、一斉に後ろに振り返った。

 

「「相澤先生!」」

「サー!」

「もちろんだ」

「ああ。校長に掛け合ってみよう」

 

 今まであまり要望を口にしなかったエリの、ささやかな願いだ。善意の塊である彼らは、迷うことなくそれを叶えようとする。イレイザーヘッドも即座に端末を取り出し、あれこれと動かし始めた。

 

 彼の表情を見る限り、どうやらネヅ校長も同意見なのだろう。話はスムーズに進んでいるようだ。

 実際、ほどなくして許可は下りた。

 

「文化祭当日まではまだ一か月近くある。サー、細かい調整は任せます」

「任された。……エリちゃん、文化祭はたくさんの人が来る。万が一何かあってはいけない。だからそれまでに、もう少しだけ“個性”を使えるようになっておこう」

「うん……! 私、がんばる! ……ます!」

 

 ナイトアイの言葉に、両の拳を握ってきりりとした顔を見せたエリである。頬はやや紅潮していて、フォースユーザーでなくとも彼女が楽しみにしていることはわかるだろう。

 そんな彼女に、我々はみな一様に表情を綻ばせたのであった。

 

 そうしてしばらくしてからは、“個性”制御訓練が始まる。せっかくだからと、ミドリヤとウラビティも同席した。

 

 ほとんどの人間が自分だけの特殊能力を持つこの星で、“個性”を鍛えることは難しい。何せ同じ“個性”は基本的に存在しないからだ。

 ただ、極めて近しいものは存在する。だからこそ、訓練の際はそうした過去の前例にならうわけだが……エリのような似たものがない、突然変異的な“個性”はその前例がない。これをミューテーションと呼ぶ。シガラキ・トムラも恐らくはそうだろうと言われている。

 

 だからこそ訓練は難しいわけだが、しかしそういうものであっても根幹は変わらない。

 それは、自分の“個性”を信じることだ。自分の“個性”なら、こういう使い方ができるはずだと信じる。こういう結果を出せるはずだと信じる。そのイメージが、“個性”の成長には欠かせない。

 

 その辺りの説明をナイトアイから聞いたミドリヤは、「オールマイトも言ってたけど、結局はそこなんだなぁ」とぶつぶつ呟いていた。

 最近はウララカとの朝練の前に、オールマイトと訓練をしていることは知っている。何やら新しいことを試しているのだろうな。

 

 だが、だからといって小声とはいえ人前で言うのはどうなのだろう。彼は果たして隠す気があるのかないのか。

 

 ちなみにもう一人の見学者であるウララカは、納得の表情で頷いていた。彼女は我が父上から、離れたところに効果を及ぼす上でのコツなどを聞いていたが、その際も同じような話をされていたので馴染みがあるのだろう。

 

「あとはひたすら反復だ」

「何事も近道はできないってことだな」

 

 年長組は最後にそう締めくくったが、これに一番頷いていたのはヒミコだった。

 

 うん、君は去年私に変身しまくっていたものな。それを間近で見ていた私から見ると、説得力がすごい。

 

 なお本日のエリの訓練は今日もわずかな進展にとどまったが、既に多くの人から“個性”を使いこなせるようになるまでにかかった具体的な時間を聞いているからか、初日と違いエリが落ち込むことはなかった。

 そういう意味では、順調そうで何よりと言うべきだろう。

 

 彼女の発奮の根幹に、ヴィランがいなければなおよかったのだが……まあ、そこは下手に口を出すべきではないのだろう。

 




今まで表に出す暇がなかった設定:
ご存知の通り理波の実家は寺ですが、大きい寺なので年に一回檀家を集めての仏教イベントがあります。
寺が保管してる貴重な仏像やら曼荼羅やらが一般に向けて開帳され、僧侶が集まってお経あげたりするんですが、ただのお堅い宗教イベントだと人が集まらないご時世なので、お祭り要素も併せてます(作者の近所の寺が実際にやってた)。
ここには出店も並びます。理波ちゃんが本格的に地球の甘いものにハマりこんだのはこれが原因。この際の姿は、普段の大人顔負けな彼女しか知らない学校の先生には大層驚かれたそうな。
なおうっかりそれらを目撃したアナキンは腹筋を破壊された。

ところでみなさんメイドコスプレ回を強くご所望のようなので、幕間・・・いやこの場合閑話かな。を、増やそうと思います。ネタを思いついてしまったのでね・・・思いついたからには使いたいと思うのは書き手のサガでしょう。
なるべくえっちくできるように頑張るんで、その代わりと言っちゃあなんですが、感想いただけると嬉しいですわよ!
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