十月も半ばを過ぎ、文化祭本番まで残り半月を切った。
この間、文化祭本番の前にエリを学校に慣れさせたいからとナイトアイが彼女を連れて来訪したり、ダンス班のミドリヤが途中で演出班に引き抜かれて舞台上での出番が大幅に減るという小さなイベントはあったが、概ねどこも順調に練習は続いている。
そんなある日の夜のこと。
「ヘイますたー、ヤットでーたガマトマッタゼ」
「ありがとう。早速見せてもらおうか」
私は情報収集を任せているドロイド、I-2Oから報告を受けることとなった。
今回彼が出してきたのは、シガラキ・カサネやルクセリアがかつて囚われていたヴィラン組織、銀鍵騎士団についての情報である。それも、主にフォースに関係することを中心にしたものだ。
どこにあったか、どんな人間がいたか、彼らが今どうしているのかといった情報は今のところ重要度が低いので、報告からは外してもらったが……しかしそれでもかなりの量だな。
理由ははっきりしている。非生物であり機械であるI-2Oにはフォースのことがまったくわからないので、フォース関係の情報はほとんど精査できないまま省かれていないからだ。
些細なものでも除かれていないのだから、量が増えるのは当たり前である。おかげで確認には手間がかかりそうだ。
仕方がないとはわかっている。だがこれでまったく有用な情報がなかったら、骨折り損がすぎるので何かしらの成果が欲しいところであるが……。
「……そんなバカな」
かといって、私の認識を根幹から崩すようなものがあってほしいとまでは思っていなかった。
「どうしたんですコトちゃん? この箱みたいな機械に何かあるんです?」
ぼそりとつぶやいて固まってしまった私の横から、私の手元を覗き込みながらヒミコが問いかけてくる。
何か、か。ああ、あるとも。聴取を重ねてもなお結局何か分からず、警察も供述通り「銀の鍵」と名づけたこの押収品には、重要なものがある。絶対にだ。
だが、問題はそこではない。いやそれも問題ではあるのだが、それはこの際置いておく。
何せ、この銀色の機械の存在そのものがとんでもない大問題なのだから。
そう、これは。この機械は、この星に存在しているはずがないのだ。あり得ないのである。
「なぜ……!
なぜなら、この銀色の金属で形作られた、正十二面体の機械――ホロクロンは、
「ほろくろん……ってなんです?」
「……フォースユーザーが造る、情報記録装置だ。フォースを使わなければ起動すらできない代物で……その高い秘匿性ゆえに、かつてはジェダイ、シスの別なくそれなりの数が造られていた」
最初は意味がわからずきょとんとしていたヒミコも、私の説明を聞いてじわじわと顔色を変えた。
そう、そうなのだ。この装置は、フォースという前提があって初めて存在し得るもの。それが、こんなフォースの薄い星で存在するなどあり得ないのだ。
もちろん、この画像データだけではこのホロクロンが地球製という可能性を排除できない。
だがこの星における人類の歴史は、どれほど長く尺を取ってもおよそ七万年ほど。そしてその大半は、文明からかけ離れたものであった。
いわゆる有史と呼ばれる時代が五千年ほどしかないこと、精密機械を製造できるようになったのがここ数百年程度であること、ついでに言えば人類以前に知的生命体が栄えた痕跡が一切ないことを考えれば、地球製の可能性はほぼゼロと言ってしまっていいだろう。
何よりジェダイとして育ち、公文書館職員として多くの知識やホロクロンの現物に接する機会があった私にはわかる。
このホロクロンの形は、スタイルは、間違いなくジェダイホロクロンのそれであり。さらに具体的に言うなら、銀河共和国末期のデザインを模したものだということが。
そして、それが意味することは一つしかない。
「かつてこの星に、ジェダイが来たことがある、のか……!?」
「えっ、でもジェダイって、シディアスのおじいちゃんが滅ぼしたんですよね?」
「アナキンが言うには、そうだな。確か、オーダー66だったか……それによって、軒並み殺されている。だが、わずかだが生き延びたものがいたことも事実だ」
他ならぬグランドマスター・ヨーダや、マスター・ケノービがそれに当たる。だが、彼ら以外にも生き延びたものもわずかながらいたとは聞いている。
そして正確に言えば、このホロクロンの製作者は、ジェダイの教えを十全に学んだ人間ではないと思う。形からして、つい先ほど「模した」と評した通り、完品と言うにはいささか荒が目立つのだ。造られた意図はわからないが、ともかくジェダイホロクロンを手本にして造られたものだろう。
恐らく、オーダー66などの外的要因によってジェダイの教えを途中で放棄せざるを得なかった人物。
あるいは、共和国やジェダイが滅んだ後世の人物。その辺りがこれの製作者のはずだ。
私としては、前者の確率が高いと思う。オーダー66を生き延びたものの多くは、フォースとの繋がりを断ったり銀河の辺境に身を隠すことで、帝国の執拗な追及を逃れようとしていたらしいからな。その中に、あの銀河系そのものから脱出したものがいたとしても、私は驚かない。
まあ、ホロクロンの製作者とここに持ち込んだ人物が同一とも限らないわけだが。
……ふむ。そうだな、ここはアナキンにも聞いてみるべきか。誰よりもあの時代の中心に近いところにいた、彼にしかわからないことはあるはずだ。
「アナキン!」
『ちょっと待ってくれ、今バクゴーがゴルフボールを一センチほど浮かせられたところなんだ。どれだけ続くか見てい――あっ』
「アナキン!?」
何をやっているんだ。いや修行なのだろうが。それにしたって、少し拍子抜けするというか……自分だけ緊迫していた私がなんだか間抜けみたいじゃないか。
と、思っているうちにそのアナキンが私たちの隣に出現した。
『やれやれ、一秒と持たなかったよ』
「……進みが早いのか悪いのか、よくわからないな。どんなことでも小器用にこなす男ではあるのだが」
『いかんせん、意識の根幹にあるのがまず勝ち負けって男だからな。フォースに向けて集中するのが下手クソだ。ただ戦闘が絡めば一気にギアが入るから、いかにその辺りをこじつけるかかな。ちなみにさっきは煽りに煽って、無理やり戦うことに結び付けさせたんだ。まるでカートゥーンみたいなキレ方で面白かったぞ。カメラがあったら撮ってたんだけどな、惜しいことをしたよ』
「何をやっているんだ君は」
いや本当、何をやっているんだ君は。
「絶対面白いやつじゃないですかー。いいなぁ、私も見たかったのです」
「羨ましがることではないと思う」
やれやれは私のセリフだよ。思わず深いため息が出た。
『それで? 何が何だって?』
「いきなり話を戻さないでくれ、心が追いつかない。いや、いいんだけれども……」
釈然としないものを抱えながらも、とりあえず状況を説明する。
最初は話半分と言った様子だったアナキンも、ホロクロンの画像を見た瞬間に顔色が変わった。さもありあん。
そして説明を終えると同時に、私はすぐに質問を投げかけた。
「アナキン、君はどう見る?」
『君と同意見だ。この星に、ジェダイの教え……あるいはジェダイという存在をある程度知っているものが来たことはまず間違いないと思う』
「だが、ここと共和国の距離は……」
『ああ、とんでもなく離れてる。スターシップで行き来するなんて現実的じゃない。片道であっても無謀すぎる。……ただ、ハイパースペースで何か起きたのであれば、あるいはと言ったところか』
ハイパースペース。我々が存在する実空間(リアルスペースと呼ばれる)とは異なる位相の世界である。銀河共和国のスターシップは、ハイパードライブエンジンを用いることでこの空間に突入し、リアルスペースの距離を無視して超長距離を超光速で移動している。
正確に言うと、実際の原理はもう少し違うのだが。厳密な話をすると難しくなるので、とりあえずハイパードライブ航行……ワープ中に通っている別空間がハイパースペースだと思ってもらえればいい。
そんなハイパースペースだが、いかに技術が発達した銀河共和国であっても、そのすべてが明らかになったわけではなかった。
確かに共和国にはハイパースペース内を移動するスターシップの存在を感知する装置があったし、リアルスペースに引きずり出す装置すらあった。それでも、リアルスペースの生物が生息する場所ではない以上、わからないことのほうが多かったのである。
「銀河共和国と地球を繋ぐ道があったって可能性はないんです? 誰にも知られてないけど知ってる人がいたとか、それともたまたま見つけたとか、そういう……」
「その可能性もなくはないが、確率としてはかなり低いだろうな。何せハイパースペースは確かに別空間だが、リアルスペースとは相互に影響を及ぼすんだ。進路上に恒星や惑星、小惑星帯などがあると衝突事故を起こす程度にはな。8700万光年もあれば、普通に飛んだところで途中でどこかの星の中に埋まるのがオチだ」
「えっ、やだ怖いです……」
「そもそもの話、8700万光年を無補給で航行し切るほど燃費がいいスターシップなど存在しないしなぁ」
『ああ。だからそれよりは、ハイパースペース内で起きたなにがしかの影響で、遠く離れた場所へ吹き飛ばされた可能性のほうが高いと思うわけさ。大気圏内でジャンプしたとか、ハイパースペース内でドッグファイトをしたとか……そういう特殊な状況での何かならもしかして、ってところかな。こじつけみたいなものだけど』
「ハイパースペース内でのドッグファイトは、銀河帝国時代ならあり得そうだな。ハイパースペース内でスターシップ本体から切り離された小型ポッドが、二度と戻ってこなかったなんて事故は共和国時代でも年に何度かあったことだし」
「……それ、事故したときの被害フツーに大きくないです? それでなんで飛行機のほうがヤってなるんです?」
「そういう事故は大体人災か自業自得だ、飛行機なんかと一緒にしないでくれ」
思わず早口で言い返してしまったが、意図しない、本当にどうしようもない事故の件数は、広い銀河共和国を見ても一年に一度あれば多いくらいだったのだ。本当、飛行機のような原始的なものとは一緒にしないでほしい。
とりあえず、生暖かい微笑みを浮かべたヒミコはこの際一度考えないものとして、話を戻そう。
「ちなみにアナキン、この星にホロクロンを持ち込んだ人物について、どう思う?」
『どうだろうな。僕はジェダイ関係者じゃなくて銀河共和国、もしくはジェダイに近い縁者じゃないかと思うが……ただの勘に過ぎないからなぁ』
「君の勘なら信じる価値はあると思うが」
『おだてても何も出ないぞ? まあとはいえ、過去に遡って調べてみる価値はあるだろう』
「同感だ。もしかしたら、世界のどこかには痕跡があるかもしれない」
私はそう言いながら、アナキンと目を合わせる。
付き合いの長いこの親友は、これで私の意図を正確に理解した。そして小さく肩をすくめる。
『で、僕に任せるって? 随分と人使いが荒くなったじゃないか。昔の君なら一緒に調べようって言うところだぞ。まったく、これも悪い女に引っかかってしまったせいかな?』
「ますたぁ、それ私のこと言ってます?」
『自覚があって大変結構』
皮肉げに笑うアナキンの視線が、こちらにも向いていることは明白だ。良し悪しはともかく、誘惑されるままずぶずぶと色恋沙汰にはまり込んだ自覚はあるので、私は目を逸らす。
が、逸らした先に「失礼しちゃいます」と唇を尖らせるヒミコがいたので、私は頬を緩めた。何をしてもカァイイから彼女はずるい。
『まあいいんだけどな。僕だって結婚はしていたわけだし。子どもも孫もいるし。ただ……』
「わかっている。分別はつけろと言うのだろう?」
『それもそうだがそっちじゃなくて……まあいいか。これ以上は実際に経験してみないとわかるものじゃないし。ただ、君もなんだかんだで僕と同類だからなぁ』
「君のように破天荒に生きているつもりはないのだが」
『……そういうところで鈍いのは相変わらずなんだよなぁ』
妙に歯切れの悪いアナキンに、私は首を傾げる。
しばらくそうしていたら、彼は仕方なさそうに言葉を続けた。
『君も、
「? 仮にそうだとして、何か問題が?」
『長所と短所は表裏一体なんだよ……ま、これについては僕より君の父君のほうが専門だろう。それは置いとくとして……僕もこの星にどんな人間が来ていたのか、気にはなる。調べてみるよ』
「ああ、うん……すまないが、よろしく頼む」
ここで会話は終わり、アナキンは踵を返しながら静かに消えていった。
結局、彼が最後に何を言いたかったのかはよくわからない。警告のような色合いもあったようだが……少し考えてもわからなかったので、ひとまず棚に上げるとしよう。
ということで、改めて銀鍵騎士団の情報確認に戻ったのだが。
「あーん……かぷっ♡」
「ひゃあん♡」
二十二時を過ぎたところでヒミコからチウチウによる強制終了を受け、私はベッドに連れ込まれたのであった。
夜は長い。
はい、ということで銀鍵騎士団が手に入れた銀の鍵とは、ホロクロンのことでしたよという設定開示回でした。やっとここまで出せた。
つまり騎士団出身のルクセリアがEP4の18話で語った「初期メンバーが銀の鍵に触れたことで謎の超能力に目覚めた」という認識は間違いで、実際は逆。
「程度はともかくフォースに目覚めていたからホロクロンを特殊な道具であると認識できた」が正しいわけです。ホロクロンそのものはただの記録装置で、特殊な力を持っているわけではないですからね。
フォースさえあれば起動はできるので、騎士団ではフォースに目覚めた実験体が本当に覚醒したのかどうかの確認用として使われていたって設定なんですが、そこら辺は書く余裕がなくて後書きでの解説になりました。
なお起動できるからといって、中身を有効活用できるかどうかはまた別の問題な模様。
では誰がこのホロクロンを地球に持ち込んだのか? 中には何が記録されているのか?
それらの謎はトガちゃんの夢ともども今後明らかにしていく予定なので、そこらへんのことは棚に上げておいて、しばらくは学校行事でイチャつく幼女とトガちゃんをご堪能ください。