かつて地球に来訪した銀河共和国の人間がいたとして、どこにいたのか。何人いたのか。何をしていたのか。
そうした足跡を辿るのはアナキンに任せる一方で、私は押収品としての銀の鍵、すなわちホロクロンのあとを追うことにした。
基本的に、事件の証拠として警察に押収された品は、返却されるものとされないものがある。されないものの中でも薬物や偽造品などは焼却処分されることが一般的だが、そうでない品は官公庁が主催するオークションに出品されて国の収益に充てられることが一般的だ。
ではホロクロンがどう扱われているのか、だが……その「一般的」からは外れる扱いを受けていた。つまりは完全な例外である。
まあ、あまり考えずとも理由はわかる。銀鍵騎士団での扱いもさることながら、地球人には謎の機械だろうからな。これがもしも歴史的に重要な発見に繋がる何かだったらと思えば、処分などとんでもないと結論付けるしかないだろうし。
実際、今のこの星に可能なあらゆる方法を用いた結果、ホロクロンが実に千年以上前のものであると判断されているようだ。この星に存在しない素材でできているということも。
つまり、この星で言うところのオーパーツというやつだ。しかも後世のねつ造が多いそれらの中でも、間違いなく正真正銘のオーパーツに当たるのだ。必然扱いは丁重にならざるを得ないだろう。
「……で、様々な専門家のところを転々としたが謎は謎のまま。各分野の人間が引き取り手として名乗りを上げて盛大に揉めた結果、最終的には東京国立博物館に寄贈。しかし展示は一度もされることなく倉庫に入ったまま、か……」
それでこの結末というのは、何とも言えない気分になるな……。
まあ、銀河共和国でも似たようなことは起きていた。まったく違う銀河のまったく違う人種だが、見た目だけでなくこういうところでも人間の質と言うものは似通うのだなぁ。
「使われないままほっとかれてるなら、有効活用できる私たちのものにしちゃいません?」
「思い切り犯罪じゃないか……ダメだぞ、ヒミコ」
「ぷぅ」
これを聞いたヒミコは使えるものが使うべきだと主張し、取ってこようと提案してきたのだが、それはいくらなんでも問題だろう。
確かに、件のホロクロンの中にどんなデータが保存されているかは非常に気になるところだ。もしもオーダー66を逃れようとしたジェダイが持ち込んだものだったとしたら、ジェダイの機密情報などがあってもおかしくないからな。弟子育成のノウハウなどがあったとしたら、是が非でもほしいとも思う。
ただ、それらが絶対に必要かと言えば否である。私は確かにジェダイを復興させようとしているが、私が知っている時代のジェダイの在り方は、今の地球の実状にはそぐわない。そっくりそのまま導入しても、意味をなさないどころかマイナスになる可能性すらあるのだ。
ほしいと思う情報ですらこうである。これで中身がジェダイテンプルやカイバークリスタル産出地の地図などであった場合、地球ではまったく意味をなさない。
無茶をして罪を犯してまで手に入れた情報がそういうものであったとしたら、骨折り損どころの騒ぎではないだろう。だからこそ、今の私にホロクロンはそこまで重要ではないのである。
そもそも、だ。目下のところ私たちがやるべきことは決まっている。文化祭の準備であり、ダンスと演出の練習だ。
「今はどこにあるかはもうわかっているのだし、これについてはここで手を引くとしよう」
なので、そういうことになった。
ヒミコの膨らんだ頬を指先でつつき、空気を抜いてやる。それでもなお、どこか不満げに唇を尖らせたままの彼女は、とてもカァイイのであった。
***
練習を重ねながら日々が過ぎていく。
失敗と成功を繰り返して流れる時間はあっという間で、いつの間にか文化祭は翌日にまで迫っていた。練習そのものは順調であり、前日最後の練習は早々と全体での通し練習となり、最終確認、最終調整へと進んでいく。
ヒミコと手を取り合って、くるくると踊る。決して激しい動きではない。だが緩やかというわけでもない。視線はほぼ常に合わせる形で、きびきびとステップを踏む。
身長差が五十センチ近くあるので、傍目にはきっと年の離れた姉が妹をリードする微笑ましい光景に見えるかもしれない。
けれど、見つめ合って踊る私たちにそんなつもりは欠片もなく。ただの確認練習ゆえに音楽そのものがなく、リズムを刻むための手拍子だけだからこそ、余計に二人の世界に没頭しているような感覚で。
ああ、楽しい。心の底からそう思う。
目の前のヒミコも、同じだと確信している。いつものような満面の、しかし確かに女の笑みを浮かべているのだから。
もちろん、私も似たような顔で応じる。
――そんな、この瞬間が永遠に続いても悔いはないと思える時間も、すぐに終わる。
「はいオッケー!」
手拍子でテンポを取っていたアシドが、打ち切る形で声を上げた。応じて私たちは動きをとめる。
名残惜しいが、私たち二人だけのダンスパートは五秒程度の短いものだ。演出班も兼ねている私たちは、ダンスの合間合間にフォースで舞台上からスポットライトを動かす役も負っているので、こればかりは仕方がない。さすがに踊りながらフォースを駆使するのは私でも少し苦労するのだ。
「いいね! 二人ともすごくいいよ! バッチリ!」
満面の笑みで言うアシドに、二人でそれほどでもと応じる。
彼女の内心で、どうやら私たちがそういう関係なのではという疑惑が膨らんでいるようだが、これだけ大胆に二人のパートを使ったのだから仕方ないだろう。他にも何人か、もしかしてと思っているものがちらほら見て取れるな。
ただ何が何でも隠したいというものでもないが、かといってこちらから暴露することでもない。聞かれるまでは今まで通りにしておくとしよう。
「時よとまれ、二人は美しい……」
「梅雨ちゃーん、峰田くんがまた発作起こしてるー!」
「戻ってくるのよ峰田ちゃん、悪魔との契約なんてダメよ」
なお視界の隅のほうでは、
「モウガルルル九時ダロ!? 生徒はァアア゛九時まデダロォ!!」
と、そうこうしているうちに生徒指導担当のマスター・ハウンドドッグが人語を喪失しかけながらもやってきて、最終確認はお開きとなった。
幕引きはやや締まらなかったものの、出来る限りの準備はすべて終わっている。だからあとは夜が明けるのを待つだけだ。
しかし祭り前夜独特の雰囲気はみなを高揚させ、自然と眠りを拒ませていた。
そう言った面々は寮の談話スペースに、全員ではないものの誰からともなく集まり、言葉を交わしていた。
私もその例に漏れることなく、ヒミコと共にソファでくつろいでいる。
「皆盛り上がってくれるだろうか」
「そういうのは考えないほうがいいよ。恥ずかしがったりおっかなびっくりやんのが一番よくない。舞台に上がったらもう楽しむ!」
経験があるのだろう。ジローが静かに、しかしはっきりと答えた。
これに対して、カミナリがやや茶化すように声をかける。
「お前めっちゃ照れ照れだったじゃねえか!」
「あれはまた違う話でしょ」
そう答えるジローだが、彼女の顔はまた少し赤い。私も最近わかってきたが、彼女はそういうところが特にカァイイのである。
「耳郎さんの話、色んなことに通じるね」
「ウィ☆ 誰がためを考えると、結局己がために行き着くのさ」
彼女の言葉を継ぐように、ミドリヤとアオヤマが言う。賑やかな面々もいる中で、どこか穏やかなやり取りだった。
彼ら以外にも、各々が好きなように話をしたり身体を動かしたりしている。やっていることはバラバラだが、しかし心は一つなのだろう。
何せ周りを見渡してみれば、誰もが楽しそうなのだ。全員で同じほうへ向けて力を合わせているからこそ、そんな時間を過ごしてきたからこその一体感が、ここにはあった。
その中にはきっと、私も入っている。そう思えるから、私は嬉しい。
何より、私一人では絶対に見ることのできない景色を見ることができたことが、見せてくれたみなが、たまらなく愛しい。
「……楽しそうですね、コトちゃん」
ヒミコが微笑んで、隣に寄り添う。そういう彼女も、楽しそうだ。
「うん。とても楽しいよ。とても」
だから私は笑って、応じるのだ。お互いに身体を預け合って、くすくすと語らう。これもまた楽しいものだ。
「そろそろガチで寝なきゃ」
だがそうこうしているうちに、アシドが伸びをしながら立ち上がった。
彼女に応じる形で、一人また一人と腰を上げる。よくよく見れば、いつの間にか日付が変わりそうだった。
そんな中で、キリシマが拳をぶつけながら音頭を取る。
「そんじゃ、また明日やると思うけど……夜更かし組! 一足お先に……絶対成功させるぞ!」
『オーーッ!!』
彼に応じて、全員が声を張り上げた。中には拳を振り上げたものもいる。
私もそれに続く。自分でも驚くくらい、大きな声が出た。それでもみなの声の中に紛れたが。
本当に、私は今、心底から楽しいのだろう。素直にそう思えて、私はますます笑みを深めた。
それからみなが三々五々に散っていく。私たちも同様だが、そこにミドリヤがおずおずと声をかけてきた。
「あの、トガさん」
「出久くん? どうかしました?」
しかも珍しいことに、ヒミコに対してである。ヒミコはこてりと首を傾げながらもこれに応じた。私も彼女の腕の中で同じようにする。
「その、つかぬことを聞くんだけど。トガさん、食紅って持ってたりしないかな? あったら少し使わせてほしいんだけど……」
直後、返って来た言葉の中にエリのイメージが含まれていることに、私たちは気づいた。
同時になるほどと思う。そういうことなら遠慮はするなとばかりに、ヒミコは大きく頷いた。
「もちろんありますよぉ。こっちです」
そしてミドリヤを調理スペースに案内し、普段しまっている場所を説明する。食紅だけでなく、各種調理器具なども含めてだ。
「ありがとう!」
「んふふ、どういたしまして。……リンゴ飴、作るんですか? エリちゃんですよね?」
「うわあ、そういうことまでわかっちゃうんだ?」
「君は正直すぎるんだよ。オールマイトもそうだが、おかげで君たちは心が読みやすい」
私の指摘に、ミドリヤは再度うわあと苦笑した。
その仕草がどうにもおかしくて、私たちは笑い合う。
「……うん、リンゴ飴。さっきプログラム見たんだけど、出してる出店がなさそうだったから……それならいっそ自分で作っちゃおうと思って」
「出久くん、普段は料理とかしない人ですよね? トガお手伝いしましょうか?」
「えっ!? いやそんな。トガさんは増栄さんと一緒に回るんでしょ? せっかくの時間を邪魔しちゃったら悪いよ。大丈夫、ちょっと調べたけど僕でも作れそうだったし」
お節介を発揮したヒミコだったが、ミドリヤはこれを固辞した。
私とヒミコが一緒に文化祭を回ることは特に言っていないのだが、ミドリヤは確信しているようだ。私たちの関係がそういうものとまでは思っていないようだが、それはそれとして私たちはセットという認識なのだろう。
彼の認識に、私たちは揃って相好を崩す。困っているならデート中であろうと手を差し伸べるつもりだが、それはそれとして二人の時間を割くとなれば思うところがないわけではないのである。
「リンゴ飴、わりと簡単ですもんね。……あれ? でもリンゴのストックってなかったかと思いますけど」
「うん、だから明日朝一番で買ってくる予定。ついでに小道具のロープも必要になったしね」
「ああ、そんなことも言っていたな。構わないが、遅刻はしないようにな」
「もちろんだよ!」
ミドリヤはにこりと笑うと、力強く頷いた。
こうして文化祭前日の夜は更けていったのであった。
二人の世界を書くと、高確率で峰田もついてくるの我ながら笑っちゃうんだよな。
おかげでがんばって考えてストックしてた仏教ネタがすさまじい勢いで消えていく・・・。
いやまあ、今後使う機会はまず間違いなく減るだろうし、ここで放出するのも悪くないとは思うんですけどね。
というわけで、次からデート回・・・の、前にジェントル回です。