話し合った通り食事をするために、目についた食品を手当たり次第に購入した私たちは、ひとまず空いていたベンチを見つけて腰を下ろした。
「焼きそば、タコ焼き、お好み焼き、じゃがバター、フランクフルト、フライドポテト、アメリカンドッグ、豚汁……いや、こうして見るとなかなかに種類が豊富で、見ているだけでも楽しいなぁ」
「タコ焼きとお好み焼きはほとんど被りみたいな気もしますけどねぇ。フランフクルトとアメリカンドッグも結構スレスレじゃないです?」
「それを指摘するのは野暮と言うものだぞ、ヒミコ」
……いや、わかっている。皆まで言うな。本当に全部買うやつがあるかと言いたいんだろう?
正直私もそう思う。空腹の勢いに任せて片っ端から買ってしまったのだが、おかげで置く場所がなくて困っているんだ。完全に持て余している。
問題なく完食できる程度の量しかないので、そういう意味では困らないのだがな。さすがにもう少し考えるべきだったと反省している。ここは食堂ではないのだ。
「でもま、おめめきらきらさせてどんどん買い込んでいくコトちゃんがカァイかったので、私的にはオッケーです」
「わかっていたならとめてほしかったかなぁ」
「食べ物を両手いっぱいに抱えて困ってるコトちゃんもカァイかったですよ?」
「そういうところだぞ、君」
そんなことを言いつつも、食事は進める。先にも述べたが、この程度は問題なく完食できるので、どんどんと私の口の中に消えていくのである。
もちろん私一人で独占するつもりで買ったわけではない。ヒミコとはちゃんと分け合いながらだ。
「私もアメリカンドッグほしいです」
「ん、はいあーん」
「あーん♡」
半分くらい食べたアメリカンドッグをヒミコに差し出せば、彼女は残りをおいしそうにほおばった。
代わりと言わんばかりに彼女からタコ焼きが差し出されるので、私もそれをあーんと口の中に収める。
そんな感じで、お互いに食べさせ合いながらの食事はつつがなく進んだ。
……あ、いや、まったく問題がなかったわけではないな。途中、なぜか数回カメラを向けられたのである。
何を思って私たちの食事風景を撮影しようとしたかは知らないが、下手にネットワーク上に写真を流されても困る。私は必要以上に目立ちたくないと思っているし、ヒミコとの関係は友人相手ならともかく公にはまだしたくないのである。
なので、撮影者たちが全員そういう目的だとは思っていないが、念のため写真を撮ったものたちには厳重に口止めをさせていただいた。
本当なら削除させたかったのだが、いくつかの写真が当事者の私たちから見てもとてもいい出来だったので、譲ってもらう代わりに口止めで留めたのである。
まあ、その際には言葉にフォースも少し込めたので、流出することはまずないだろう。
と、そんなことはあったが、とりあえず食事自体は済んだわけである……が。
ただ、普段の私の食事量から行くとまだ少し物足りない。甘いものはまだ意図的に食べないようにしているのだが、それを加味してもまだ足りない。
「んふふ、足りないってお顔してますよぉ。追加で買いましょっか」
「……うん、食べたい」
というわけでゴミを片付け、改めて出店に向かう。
とはいえ、一度買ったところにまた行くという選択肢は基本的にない。一か所しか扱っていない品はその限りではないが、タコ焼きなどいくつか品が被っているところもあるからだ。
ただ、被っていても味付けなどが微妙に違うということはあるだろう。そういう意味で、被っている品が扱われている場所は他のところも回りたいのである。
そう思って、とあるタコ焼きの出店に顔を出したときのこと。
「あの! 申し訳ないんだけど、しばらく店番をお願いできないかな!?」
大サイズを買おうと声をかけた瞬間、中にいた経営科のものたちにそんなことを言われて思わず面食らう私たち。
何事と思う間もなく始まった説明によれば、どうも近くにある競合他店に現状まったく太刀打ちできないので、戦略会議を兼ねて買い出しに行きたいのだという。それでただの通りすがりに店番を頼むというのは、図太いというかなんというか。
とはいえ、文化祭は今日一日しかない。その貴重な時間をここで使うわけにはいかないので、この話は断ろうと思っていたのだが……。
「お願い! 店番してる間、食材は自由に使ってくれていいから!」
こう言われた瞬間、ヒミコが目を輝かせて承諾してしまった。私が口を挟む暇もないほどの即答であった。
かくして私たちは、あれよあれよという間に出店の中に納まることになってしまったのである。
「……ヒミコ、どうしてまた急に引き受ける気になったんだ?」
自分でもわかるくらい、機嫌が下がっている声だった。
これに対してヒミコは、手際よくタコ焼きの生地を作りながら笑顔で答える。
「だってコトちゃんってば、おいしそうに食べるんですもん。私が一番コトちゃんの好きな味にできるんだって、証明したくなったのです」
「……それはズルいぞ、ヒミコ……」
なんだか気恥ずかしくて、思わず顔を覆う。そんなことを言われたら、私だって納得するしかないじゃないか。
そうこうしているうちにも、ヒミコはよどみなく手を動かして、タコ焼きを作り上げていく。先ほどジローが歌っていた曲を、鼻歌で口ずさみながら料理を進める彼女をちらりと横目に見てみれば、惚れ惚れするような手際の良さだ。
これはプロにも負けていないのでは? いや、タコ焼きのプロをよく知らないので、失礼な言い方かもしれないが。
しかし改めて考えれば、ヒミコが料理をしているところを間近で見る機会はあまりなかった気がする。調理場に戦力外がいても邪魔にしかならないから、基本的に調理中の彼女には近寄らないようにしていたのだ。なんだか新鮮である。
こうして近くで見る彼女の額には、うっすらとだが汗がにじんでいる。鉄板の熱によるのだろう。
けれど楽しそうに手を動かす姿には、苦労の類の色は一切見えない。フォース越しにも、彼女は料理そのものを楽しんでいる様子がうかがえる。
その中には、私に喜んでもらいたいという気持ちもはっきりと見えるのだから、私にできることなど礼を言うこととおいしくいただくことくらいだろう。
いやはや、実に絵になる立ち姿である。思わず見惚れてしまった。改めて惚れ直したとでも言おうか。
本当に、私はつくづく出会いに恵まれたと思う。こんないい人を伴侶にできる私は、間違いなく幸せ者なのだろうなぁ。
「よーし出来上がり! コトちゃん、お待たせしました!」
と、そうこうしているうちに出来上がったらしい。差し出されたプラスチックのパックには、八個のタコ焼き。香ばしいソースと鰹節の香りが、私の鼻腔をくすぐった。
「はーい、どうぞー♡」
そしてそのうちの一つにつまようじが突き刺され、私の眼前に持ち上げられる。
私はもちろん、それをためらうことなく口の中に入れた。途端に襲ってきた熱さはこの際仕方がないとして、しかしそれを押しのけて口の中に広がる味は、明らかに今日食べた他のタコ焼きとは違っていた。
「ん……!
「えへへぇ、よかったぁー」
まだ飲み込んでもいないのにも関わらず、思わず声を上げた私にヒミコが満面の笑みを浮かべる。
いや本当、それくらい味が違うのだ。同じタコ焼きという料理のはずなのに、何がそんなに違うのだろう?
「コトちゃん、お野菜でも麺類でも柔らかいほうが好きですよね? なので卵を少し多く入れて、焼く時間も短めにして、明石焼きにちょっと近づけてみたんです」
「……君には敵わないんだと再確認したよ」
本当に、私のことをよくわかってくれている。それがタコ焼きのおいしさも相まって、とても嬉しい。
そう言えば、ヒミコはますます笑みを深めた。
そんな彼女の幸せそうな様子を肴に、タコ焼きを食べ進める私なのであった。
ただ、誤算が一つ。
今まで客入りの悪かった店だから、店番と言ってもやることは大してないだろうと思っていたのだが……私があまりにもおいしそうにタコ焼きを食べているから、という素直に喜べない理由で客が急に増えたのである。
当然私たちは困惑したのだが、一応店を預かっているからには客を無視するわけにはいかないだろうということで、急遽本当に商売をすることになってしまった。
もちろん私は調理など一切できないので、分担は悩むまでもなく決まっている。会計だ。あと、たまに列の整理。
だが、不思議と一向に客足が途絶える気配がない。列の中には、警備で来ているヒーローまでいた。
なぜかと思って少し広めに音を探ってみれば、どうやら私が出店をしていることで注目を集めてしまったらしい。
言われてみれば確かに。私はこれでも体育祭の優勝者であり、それなりに世間に顔が知られている。私ほどではなくとも、ヒミコも似たようなものだ。
まさか普段の知名度が、こんなところにまで影響するとは。昨今のヒーローにはテレビ出演などで顔を売っているものが一定数いるが、私にはやはり理解できないと思わされる一幕であった。
もちろん、ヒミコの作ったタコ焼きがおいしかったから、というのも大きな理由だろうけれども。
まあこちらに関しては、彼女の女としてはむしろ喜ばしいことだと思う。知名度による補正は否定できないだろうが、それでもヒミコのタコ焼きをおいしいおいしいと言ってほおばってくれる客の姿を見て、私はどこか誇らしい気分になった。
そうだろう? 私の彼女が作る料理は、とてもおいしいのである。
「なんじゃこりゃ……」
ちなみに、買い出しから戻って来た経営科のものたちは、出かける前とのあまりの落差に目を点にして硬直したという。
気持ちはわかる。前後の写真を残していたら、同じ場所には見えないだろう。
だが最終的に、彼らは買い出し中に行った会議の内容を全面的に破棄。ヒミコのレシピを有償でもらい受け、彼女監修という名目を掲げて売り出すことにした。
せっかく時間を取って、新しい食材を買ってまで試そうとしたことをなかったことにするのはどうかとも言ったのだが……。
「いや! 今はこのビッグウェーブに乗るのが経営的に正しいと思う!」
「ああ! 新しいことを試す時間や労力を考えても、今の流れをあえて切るほどの勢いは得られないだろうと判断した!」
彼らはそう言って、今の方向を維持すると満場一致していた。
まあ、商売に関しては私は素人以下である。学生とはいえ、それを中心に学んでいる経営科の人間がそう言うのなら、それが正しいのだろう。
そういうわけで、レシピと共に調理の仕方などの引継ぎを済ませた私たちは、後を任せて他の場所へ向かうことにしたのだった。
「……その前に、一旦寮に戻ろうか」
「そですねぇ。これを持ち歩いて文化祭は、さすがにちょっと」
なお、レシピ及び店番の報酬として私たちが受け取ったのは、経営科のものたちが新たに買ってきた大量の果物である。
彼らはタコ焼きと共に、果物を入れたロリポップケーキを作ることで起死回生を図ろうとしていたらしいのだ。
結局それらは使わないということになったので、代わりに私たちがそれらをもらい受けたというわけだな。
ただ量が量なので……これはあれだな、あとでクラスのみなで分けるとしよう。
「じゃあ今夜の打ち上げは、フルーツパーティですねぇ」
「ああ、いいな。すごく楽しみだ」
果物の入った段ボール箱をそれぞれ抱えながら、私たちは笑い合った。
アニアカ文化祭編のEDで、中学時代のトガちゃんの写真を見たときから本作では絶対笑顔で写真撮らせるぞって思ってました。
あの写真、トガちゃんは写真の真ん中でたくさんの同級生に囲まれてるのに、笑ってないんですよね。
周りの子たちはみんな満面の笑みなのに、トガちゃんだけ笑えてないんですよ。
ああ、やっぱりトガちゃんにとって、中学時代の同級生とは本当の意味でわかりあえていなかったんだなってのを突きつけられた気がして、悲しかったんですよ・・・。
なのでせめて本作では、ずっと幸せ全開の笑顔を振りまいていてほしかった。
そういうわけなので、読者の皆さんにはこの調子であと二話、バカップルどものいちゃつきに付き合っていただきます(断固たる決意