私がオールマイトの記録を更新したことに、やたらと周りが興奮しているさまには精神的な隔たりを改めて感じる。
私にとって記録やらオールマイトやらは、正直どうでもいいのだ。ヒミコが喜んでくれることが重要だったのだから。
そして、彼女は私の活躍をとても喜んでくれた。そんな彼女の姿が見られて私も喜び、満足した。私にとって、それでこのアトラクションは終わりである。
だから一言二言くらいのインタビューには一応答えたが、それ以上となるといささか困る。残り時間は少ないが、まだ文化祭は終わっていないのだ。これ以上時間を取られたくはない。
ヒミコの機嫌もだんだん悪くなっていったので、周りのものには申し訳ないが、ほどほどのところで打ち切らせてもらった。この辺りの対応は、イレイザーヘッド直伝である。こんなにも早く役に立つ日が来るとは思っていなかったが。
「なんでみんな、そんなにオールマイトに関係したものが好きなんですかねぇ……やっぱり普通の人たちはよくわかんないのです」
「無理にわかる必要もないだろうよ。わからずとも、共存することはできるんだ。それに……」
フォースクロークまで使って物陰に潜んだ私たちを見失い、右往左往する追っ手たちを横目に流しながらそんなことを交わす。
そして物陰であることをいいことに、ヒミコの唇を奪った。
「……私が君を理解していれば、それでいいだろう?」
「えへへ、それもそうでした」
嬉しそうに破顔した彼女は、そのままお返しと言って私の唇を奪い返しに来た。
もちろん、みすみす奪われるに任せる。元より私の身も心も、彼女のものだ。
「……んふふ、この後どうします? まだどっか見ます? 見れてもたぶん次が最後になると思いますけど」
「そうだなぁ、どうしようか……」
微妙に時間が残っている。ひとまずプログラムを広げ、眺めてみるが……うむ、目ぼしいところは大体回ってしまっているな。
あとは、興味は引かれるものの既に終了しているであろうところがほとんど。これではできることはなさそうだが……。
そのとき、ふと思うところがあって私はぴたりと動きをとめた。そんな私に、ヒミコが小さく首を傾げる。
「……ヒミコ、ここに行ってみよう」
問われるままに答えながら、私は広げたプログラムのとある箇所を人差し指で示した。
そこにあったのは、サポート科と経営科が共同で設けているアクセサリーショップだ。サポート科が作り、経営科が販売しているらしい。
それを認識すると同時に、ヒミコはふふりと微笑んで私の顔を覗き込んできた。
「へえ、アクセサリー。珍しいですね、コトちゃんがそういう系に興味持つなんて。コスプレに続いてお洒落にも目覚めました?」
「いやその……付き合い始めてから、外を出歩く機会がほとんどないだろう? こういう贈り物をしたいとは思っていたんだ、ずっと」
「……すき!」
しかし私が答えた次の瞬間、すごい勢いで抱きつかれた。彼女の豊満な胸と、柔らかな四肢が私の身体を包み込む。
そんな彼女に、私もだと返しながら歩くことを促す。
これに素直に従うヒミコは、しかし離れようとしない。私も離れようとは思わない。腕を絡めて、ゆるゆると歩く。
目当ての場所は、会場全体で言うと真ん中の辺りにあった。商売のことは専門外なのだが、商売の立地としてはかなりいいように感じる。
そう思っていたのだが、実際に着いてみると、あまり繁盛しているようには見えなかった。なぜかと首を傾げたが、どうやら周りに人気の出し物や出店が立ち並んでいるようなので、単純に競り負けたということなのかもしれない。
まあ既に日が暮れ始めている通り終了間際なので、単純にこのタイミングで寄るものが少ないだけかもしれないが。実際のところどうなのかは不明だ。
「これ、全部手作りなんです? すごいねぇ、ワクワクします!」
そんなアクセサリーショップの店先で、ヒミコが目を輝かせている。こういうところを見るにつけ、彼女はどこまでも普通の少女だなぁと改めて思う。彼女の理解者が私以前に一人もいなかったなんて、信じがたい話だ。
まあ、それはそれでこのかわいらしい笑顔を私が独り占めできるということでもあるので……そういう意味では、私たちの出会いは定められていたのかもしれない。などと思ったりもする。
だからこそ、もし仮に気に入ったアクセサリーがなかったとしても、この表情を見られただけでも最低限の目的は達成できたような気分になれそうな私である。
一方で、私自身はアクセサリーというものに一切縁がない生活を前世も今世もしていたので、正直良し悪しはまったくわからない。工業製品という視点であれば、多少言えることがありそうだが……それは多分、アクセサリーに対してするものではないだろうし。
いやまあ、店の形態がサポート科と経営科の合同であるからか、その手のちょっとした便利機能を搭載しているものも扱っているようなのだが。そういうものは大体売り切れていて、今店頭にあるものは普通のアクセサリーのみらしい。
それは見方を変えると余り物と言えるわけで、少しヒミコに申し訳ないが……下手な機能があっても困るだけ(ハツメの発明品のように、やたら爆発されるとなおさら)なので、私としてはそのほうが安心できる。
ヒミコも気にしている様子はないので、これでいいのだろう。もしものときは、私が手を加えればいいのだし。
しかし……こうして見ると、アクセサリーにも色々あるのだなぁ。リングにブレスレット、ペンダント、イヤリングと、一応それぞれの種類はわかるのだが、その枠の中でも色や飾りなどが多種多様で、ここから選ぶにはなかなかの知識と決断力がいりそうだ。
「これとかどうです?」
「あ、これもいい感じです!」
「わぁ、これもカァイイ!」
「ねぇコトちゃん、どうかなぁ?」
だからか、あれやこれやと試着しては私に見せてくるヒミコなのだが、私に言えることは一つだけだ。彼女は相談相手を間違えている。
なぜって、私には何を着けていても彼女に似合って見えてしまうのだ。私の審美眼は機械類以外に対してはおおむね節穴だし、ヒミコが主体になると主観が入りすぎて正しい評価ができなくなるのである。
もちろんそんなことを言おうものなら彼女の機嫌を損ねてしまうことはわかるので、「似合う」という解釈に繋がることを手を変え品を変え言い続けているわけだが。
本気で全部似合っていると思っていることは事実なので、私のスマートフォンには凄まじい勢いでヒミコの写真が増えていく。これは下手したら、今夜にでも中のデータを保存用のハードディスクに移さなければならないかもしれない。
「……あ」
そんな中。日もだいぶ暮れて、文化祭の終わりが告げられるまであとわずかと言った頃合いである。
ヒミコが、ギャザリングでカイバークリスタルを手にするかのように、フォースに導かれたかのように、一つの飾りを手に取った。
それは、ダイヤ(ダイヤモンドではなくトランプの柄のダイヤ)の形をした橙色の小さな飾りが取りつけられた首飾りだった。ロケットペンダント、と言うらしい。どうやらこのダイヤ型の飾りは、開いて中に写真などを収められるのだとか。
ヒミコはそんなペンダントを、愛おしそうに着けて見せた。その姿を、すぐさま私に見せつける。
言葉はいらなかった。互いの中に満ちる、まったく同質のフォースがこれだと言っていたから。
「……私、これがいいです」
「うん。それが一番しっくり来るよ」
だから、私も即座に頷く。金属特有の光沢の中で、淡く煌めく橙色は、私たちのライトセーバーの色とよく似ていた。
そうして会計を頼むと声をかけた、直後である。
「これと同じの、合わせて二つくださいな」
割って入って、ヒミコがそう告げた。
思わず彼女に目を向ければ、出迎えたのは満面の笑み。
「「なんでも一緒がいい」」
次いで同時にそう言い合って、私たちは改めてくすくすと笑った。
ああそうだ。橙は、私とヒミコの色だ。私たちを象徴する色だ。だから、これでいい。これが、いいんだ。
……それから会計を済ませてものを受け取った私は、まったく同じ首飾りを、同じように着ける。うまくできなかったので、ヒミコにやってもらったのは我ながら情けないとは思うが、それはさておき。
お揃いの飾りを身に着けて、私たちは身を寄せ合う。
同時に、文化祭の終わりを予告するカウントダウンの音が聞こえてきた。
「……帰ろうか」
「はい!」
そうして、私たちは同時に歩き出す。このロケットの中に、どんな写真を入れようかと話し合いながら。
……なお、そんな私たちに対して、店のものたちがみな一様に拝んでいたことは見なかったことにしたい。
なんだろう、ミネタのような思考をする人間はもしかしてわりと珍しくないのだろうか。その点だけが釈然としないが、とりあえず、楽しい一日であったことは間違いない。
そこは、それだけは、胸を張って断言できるのである。
***
私たちが寮に戻って来たとき、まだ誰も戻ってきていなかった。
なので、早速買ったばかりのロケットペンダントに入れる写真を用意することにした。
どれを使うべきか、ここまでの道中で意見を交わしたが……最終的にはヒミコの意見を採用することにした。
これは彼女の意思にすべて委ねようということではなく、私も納得してのことである。なぜなら、彼女が提示した案は、
「では14O、頼む」
「
最新の写真を使うというものだからだ。
充実した一日を共に過ごした今この瞬間こそが、私たちの仲が今までで一番深まっていると思うから。
その判断は、正しかった。仕事を終えた14Oから渡されたカメラに収まっていたのは、同じペンダントをつけて、同じように笑い、同じように寄り添う私たちの姿。幸せという概念をそのまま形にしたような、仲睦まじい二人が写っていた。
これを見て、二人でまた改めて笑い合う。こういうさまを、比翼連理と言うのだろうか。そうであるなら、嬉しい。
「あとは、これを印刷して中に入れれば完成ですねぇ」
「ああ。……共和国で作るのであれば、簡易的なホログラム装置を組み込むのだがな。たまにはこういうのも、いいものだな」
「んふふ、古きを温め新しきを知る、ですかねぇ?」
「それは少し違わないか?」
そんな、とりとめのないことを言い合いながら。
二人でそれぞれ印刷した写真を、ロケットに合わせる形に切り抜く。それをロケットに納めて……お互いの首にかければ、完成だ。
そうしてもう一度笑い合って……私たちは、口づけを交わす。
今日、これまでしていたものとは違う。互いの口腔を犯すような、深いものだ。
だが、今はここまでだ。これ以上のことは、もう少しあと。日が完全に暮れて、月が昇り切るまでは、我慢だ。
だから、私たちは後ろ髪を引かれながらも身体を離す。名残惜しそうに、私の首筋を舐めるヒミコを私は少しだけ押しのけて。
そうして、談話室へ戻り。
「おかえり」「おかえりなさぁい!」
戻ってきていたクラスメイトたちを、二人で揃って出迎えたのだった。
ということで、デートはこれにておしまい。
今後、二人の装備品にロケットペンダントが増えます。常時身に着けてる系のやつですね。
なおこのペンダントのオレンジ色は塗装による色ではなく、素材の金属そのものが色を持ってるタイプの色です。いわゆるメタリックオレンジ。
本編中で言及された通り、二人のライトセーバーの色ですね。
お揃いっていいよね。でも正気に戻ってよくよく考えると、趣味嗜好や血を吸うやり取りすらお揃いとかゾッとしてしまうので、正気はこれからも投げ捨てておく。
なお今章でのイチャラブはここでおおむね終わりなので、ここでマジで今章自体を終わりにしようかとも思ってましたが、せっかくなので一応終わったあとのことも書こうということで次の13話が出来上がりました。
一応、拾っておかないといけないものも他にありますしね。