銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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幕間なので短めです。
代わりに後書きが長い。


幕間 トガちゃんの雄英入試

《ハイスタートー》

 

 司会を務めるプレゼントマイクの、何気ない調子のアナウンスが響いた瞬間だ。塊となっていた生徒たちの間から、一人の少女が真っ先に駆け出した。

 

 動きやすい服装でいい、と定められた入試要綱を無視したセーラー服とローファー。明らかに戦闘行為をするには向いていない。

 だが彼女は、だってこのほうがカァイイんだもん、とのたまってこの装いでこの場に来た。そして、これで十分だという自信もあった。

 

「フォースを使うためには、強い意思。ですよねコトちゃん」

 

 にまりと壮絶な笑みを浮かべ、彼女は走る。緩やかに走っているように見えるのに、疾走と言うに値する速度。その身体には、闇の力が満ちていた。

 

 フォースは、感情に伴って性質を変える。今、彼女の身体を動かすフォースはひとえに深く、重く、分厚く、濃く、熱く煮詰められた愛に支えられている。

 

 初めて本当の自分を見てくれた。認めてくれた。

 それでいいのだと、言ってくれた。

 

 親にすら異常だと言われた己の姿を、嗜好を、構わないと言ってくれた。逃げないでくれた。

 どれほどナイフを突き立てても、かみついても、血を吸っても、ほとんど表情を変えることなく、優しく受け入れてくれた。

 

「満足したか? そう……それはよかった」

 

 そう言って、優しく微笑みかけてくれる。なでてくれる。抱きしめてくれる。

 

 その上で、隣にいろと、言ってくれた。責任は取ると、言ってくれた。そんな人、生まれて初めてだった。

 

 だから。

 

 一緒にいればいるほど、その顔を見ていればいるほど、気持ちがどんどん大きくなった。これが恋だと気づくまで、時間はかからなかった。

 

 自分の惚れっぽいところは、自覚していた。斎藤くんだって、長い間好きをこじらせていたわけじゃない。運動部で、よく怪我もあって、それがなんとなくいいなあと思っていたからで……。

 だけど、今回の「好き」はきっと違う。そんな確信があった。それがたとえ六つも年下の、それも発育が悪くて実年齢より幼く見える幼女が相手だとしても。この人しかないと、そう思った。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 ヒーローなんてもの、本音を言えばどうだっていいのだけど。あの子――理波みたいになりたいと思ったから。同じようにしたいと思ったから。

 

 そう、お揃いがいい。だって、好きな人とは一緒がいい。

 そうすればきっと、もっと、あの子を好きになれるから。

 

 恋に生きる彼女――トガヒミコにとって、受験の動機などそれだけで十分だった。

 

 だから。

 

「私のためにみんな落ちてください!」

 

 彼女は闇のフォースを身にまとい、試験会場に突入する。

 目指すのは、仮想ヴィランの殲滅。あれは、あの点数は!

 

「全部、私のものです!」

 

 現れた数体の仮想ヴィラン……ロボットに、フォースを叩きつける。フォースプッシュ……フォースで斥力を発生させ、対象を吹き飛ばすジェダイの……ひいてはシスの、基本中の基本技。

 感情に任せた猛烈な斥力は、ロボットたちに抵抗を許さず派手に吹き飛ばす。彼らはあわれスクラップとなり、見向きもされずに道端に転がった。

 

 望んだ通りの結果を見て、トガは笑みを深める。

 

 あの子と同じ力。好きな子とお揃いの力。それはどうやら”個性”ではないらしいけれど、それで()は十分だった。

 

 そして壮絶な笑みを浮かべ、高揚しながらも彼女は冷静だった。人目につく場所へまっすぐ移動すると、そこで派手にフォースプッシュを放つ。そうしておびき寄せられてきたロボットたちを迎え撃ち、ポイントを稼ぐ魂胆である。

 

 フォースプッシュとフォースプル、そしてテレキネシス。どれもフォースの基本技で、それ以外の技はまだほとんど教わっていない。

 けれどもこの試験においては、それだけで十分すぎた。

 

 かくしてトガは暴れに暴れ、この試験におけるヴィランポイント75点、レスキューポイント0点を獲得。第三位という好成績を残して見事雄英ヒーロー科に合格することとなる。

 

『やれやれ、やりたい放題だ。これじゃあジェダイにもシスにも程遠い。先が思いやられるよ。……まあ、でも……』

 

 そんな様子を会場の上から眺めながら、ジェダイとシス双方の教えを授かったかつての英雄は、深いため息をついたという。

 

 トガヒミコは、調和など望んでもいないし求めてもいない。

 彼女が求めているものは、ただ一つ。増栄理波という存在だけだ。

 

『まだ若い身空だ。まだ見限るには早すぎる……そうは思わないか?』

 

 アナキンはそうつぶやくと、()()()に視線を向けてうっすらと微笑み――ふっと景色に溶けて消えた。

 

***

 

「ところでよ、この女子リスナーヤバくね?」

 

 雄英高校。その教師陣が一堂に会した一般入試審査の最中、ふとプレゼントマイクがこぼした。

 

 彼が示した受験生とは、トガである。画面に映し出された彼女は、吸血鬼さながらの鬼気迫る笑みを浮かべて全方位に向けてフォースプッシュを放っているところであった。見ろ、ロボがゴミのようだ。

 

「やってることは爆豪って子と同じく、派手な”個性”で寄せ付けての迎撃だけど……なんていうか」

「そうですね……どっちかっていうとヴィランですよねコレ」

 

 マイクに同意するのは、18禁ヒーローのミッドナイトとスペースヒーローの13号だ。その他、セメントスやハウンドドッグといった面々も同感らしくしきりに頷いていた。

 

 だが、マイクは彼らに否と首を振った。

 

「お前もそう思うだろ、イレイザー?」

 

 そして彼に話を向けられた抹消ヒーロー、イレイザーヘッドは彼に同意する形で頷いた。

 

「ドウイウコトダ?」

 

 イレイザーヘッドは常日頃から仏頂面を隠さず、塩対応もよくやるので彼についてはわかる。だが、普段からテンション高く騒いでいるプレゼントマイクの反応は、明らかに普通ではなかった。

 それに気がついたエクトプラズムが、両者に問いかける。

 

 だが彼に答えたのは、プレゼントマイクでもイレイザーヘッドでもなく、毛並みの整ったネズミだった。

 

「みんな、彼女の資料を見てごらん! そこに答えが書かれているよ!」

「んんん……? 別段変わったところはないように見えるが……」

「く、くけけ! なるほどこいつァやべーかもな!」

 

 ブラドキングが首を傾げた……直後、隣にいたパワーローダーが笑い出す。

 そんな彼に、場の視線が集まった。

 

「見ろよこいつの”個性”! 『変身』だってよ!」

「変身……?」

「待ってください、彼女試験中にそれらしいことは何も……」

「そう! 彼女、ずっと念動力みたいなことしかしてないんだよね! 不思議だねぇ!」

「まさか、”個性”の虚偽申請……?」

 

 この時代、それぞれの”個性”は役所に提出され管理されている。強大な力を誰もが持つ時代ゆえに、国家というシステムがそれを統制しているのだ。

 だが、いつの時代も悪というものはそうした法を潜り抜けるものである。”個性”の虚偽申請とは、そうした連中が主に行う不法行為だ。

 

 ただ、治安がかつてと比べて非常に悪い現代では、孤児であったり犯罪に巻き込まれて戸籍が正常ではないものもいる。あるいは、親の善意で悪いとわかっていても正確に届け出たくないというケースもあり、一概には言えないが。

 

「それも問題だが……なあ? イレイザー」

「ああ。実は……以前、仕事で()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「仕事で……?」

「ええ。今から六年ほど前……子供をさらって非合法な実験を繰り返していた、とあるヴィラン組織の研究所に踏み込んだときです。俺の”個性”で消せなくて苦戦したんで、よく覚えてる」

 

 淡々と語るイレイザーヘッドに、周りのヒーローたちの視線が鋭くなった。

 イレイザーヘッドの言葉は淡々としていながらも、確かな熱があった。あるいは、深い苦みも。

 

「……ソノ組織ノ生キ残リカ?」

「というよりは、捕らえられていた子供とかでは? 六年くらい前なら、年齢的に十分あり得ますよね」

「この映像だけではなんとも。少なくとも、どちらもあり得るとしか」

「まあ、単純に”個性”の虚偽申請だってんならわかりやすくていいんだけどな!」

 

 ちなみにそんときは俺の美声でまとめてぶっ飛ばしたんだZE! と続けたプレゼントマイクに、ミッドナイトが話をまとめる。

 

「校長先生、彼女については一旦保留ということで?」

「そうだね、そうしたほうがいいだろう。調査が必要だ。他の生徒には申し訳ないけど、今年は合格通知が少し遅くなりそうだね」

 

 だが、どれほど調べてもトガに不審な点は見当たらなかった。結果として、彼女は入学を許可されることになる。しかしそれでも彼女への疑惑は払しょくされることはなく、念のため要監視となった。

 

 かくして彼女は、担当クラスに対する除籍権限を有するイレイザーヘッドのクラス……すなわち、A組へと配属されることになったのである……。

 





【挿絵表示】

(思い立って描いてみたけど、画力が追いついてねェ)

増栄理波(10)
Birthday:8/7
Height:109cm
好きなもの:修行(肉体的にも頭脳的にも)、機械いじり、ソフトクリーム

THE・裏話1
実は構想段階では、ヤオモモの妹という設定だった。当時の名前は八百万増栄。
個性のアホみたいに高い汎用性と、デメリットが「栄養を消耗する」という設定なのはその名残。
まあ、栄養を消耗する個性にしないと10歳でも結構身長とか諸々成長しかねないからそういうデメリットにした、ってのが先にあるんだけど(その目は澄み切っていた

さらに言えば、カイバークリスタルは当初ヤオモモに創造してもらう予定だったりした。
じゃあここまで八百万家に近い設定を用意しながら、なんで別家に独立することになったかというと小さいけれども複数の理由が重なったため。
いくつかあるけれど、特に設定に影響があったのは

1.ヒロインは最初からトガちゃんの予定だったのだけど、あれこれ考えた結果ヤオモモとトガちゃんが同郷って可能性は限りなく低いなと考えた。
2.人の心がわからないジェダイに、人の心を救うことを目指す明確かつ身近な指標が欲しかった→パパが僧侶に変更→八百万家って寺じゃないよね→変えなきゃ!
3.ヒロアカ世界のヒーロー用サポートアイテムの製造には資格が必要→一般家庭でライトセーバー造れない→じゃあパパを製造資格も持つ多彩なヒーローにしよう→重力ヒーロー爆誕
4.2と3の理由でパッパが元プロヒーローになったけど、これなら初期から修行がクッソはかどるし、公安とかの繋がりとか飛び級の話も持ち込みやすいじゃん! と思った。
5.フォースの存在を早い段階でドクターに知られたくなかった&八百万家ほどの金持ちなら、ドクターが関与するでかい病院(それこそ蛇腔とか)で個性診断してそうって思ったから。
6.やっぱさー名前にさーフォースの要素入れたいよねー。

の六つ。まあぶっちゃけ6が一番でかい理由ってのは否定しない(真顔

THE・裏話2
本当は書く予定なかったんだけど、感想欄でズバリ言い当てられたのでもう書いちゃう。
ライトセーバーの色がオレンジになったのは、ずばり「ジェダイの緑」と「シスの赤」を掛け合わせた色だから。
光の三原色では、緑と赤の組み合わせで黄色になる。そして赤の要素が強いと、オレンジになる。
つまり、主人公のセーバーカラーがオレンジなのは、そういうことである。
一応、現時点ではむしろまだライトサイドのほうにだいぶ偏ってるんだけど、将来の暗示の意味も含めてオレンジに決まった。

THE・補足
主人公の年齢と学年の推移は以下の通り。
6歳(小1)→7歳(小4)→8歳(中1)→9歳(中3)→10歳(高1)
つまり、この子は原作における緑谷たちの5歳下。

なお本編の情報から察していただけると思うけど、トガちゃんの年齢は緑谷たちの1歳上としています。
根拠としては、単行本に載った各キャラの補足における年齢はその単行本時点の時系列に準拠してるから。
例:1巻雄英入試直前時点=中3の2月時点の緑谷(7/15生まれ)が15歳表記、2巻戦闘訓練時点=高1の4月時点の青山(5/30生まれ)が15歳表記。

トガちゃんは24巻の連合VS解放戦線時点=12月ごろにプロフィールが掲示されました。
彼女の設定は、この時点で8/7生まれの17歳となっています。なのでメインメンバーの1歳上と判定しています。つまり、主人公とトガちゃんは6歳差。
なので最初から同じ学年にすることはできなかったんですが、結果として「好きな人と同じ学年になりたいがためにわざわざ高校を中退して雄英を再受験する」とか言う頭おかしいムーブに繋げられたので、個人的には満足。
トガちゃんが幸せならオッケーです(例のサムズアップ

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