銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

170 / 288
13.祭りの後

 この日、寮に最後に戻ってきたのはミドリヤとウララカだった。エリに作ったリンゴ飴を渡し、見送ってきたのだろう。

 その経緯を知っている私は連れ立った二人に何も思うところはないのだが、そうではないものも多少いるもので。

 

 アシドは楽しそうに目を輝かせたし、ハガクレも進展したのかと興味津々である。

 そしてミネタは「は?」とドスの利いた低い声を上げて、目を血走らせながら全力で二人の関係を邪推していた。

 

 とはいえ、ミドリヤもウララカも、この手の感情の機微には疎い。そういう反応を見せていた面々を、首を傾げて不思議そうに見やっていたので何もなかったと見ていいだろう。

 

 まあ、他より手持ちの情報が多い私には、同じような動きで首を傾げ、同じような表情を顔に浮かべている二人の姿は、本当に男女の付き合いがないのかと疑問に思うくらいなのだが。

 そんな浮ついた感想が最初に浮かぶようになった辺り、私自身がまずかなり浮ついているなと思わざるを得ない。自戒せねば。

 

 それはともかく。

 

「おかえりなさい、緑谷ちゃん、お茶子ちゃん。エリちゃん、どうだったかしら?」

 

 談話スペースに入って来た二人に、台所でヒミコを手伝っているツユちゃんが声をかけた。彼女も事情はほぼすべて承知しているようだ。

 だからか、そんな彼女に二人はいい笑顔を浮かべて応じた。

 

「うん、バッチリ!」

「喜んでもらえたよー!」

「ケロケロ。それはよかったわ」

 

 そしてその二人に応じ返しながら、ツユちゃんも嬉しそうに笑った。

 

 そんな彼女と共に、ヒミコが台所から出てくる。二人して、一口サイズに整えられたたくさんのフルーツ飴が並べられた大皿を手にしている。

 

「みんなー! お待たせしましたー、フルーツ飴できましたよー!」

 

 ヒミコの声と、実際に目の当たりにした大量のフルーツ飴に、歓声が上がった。

 

「まだフルーツはたくさんあるので、みんな好きなの選んでいいですからねぇ」

「わーい!」

「よっしゃー! 打ち上げしよ打ち上げー!」

 

 テーブルに並べられたフルーツ飴に多くのものが殺到する中、先手を取ったのはハガクレとアシドの二人だ。もちろん、二人に続く形でどんどん手が伸びていく。

 

 ただ、バクゴーだけは離れたソファでふんぞり返るのみである。そういえば彼は辛い物が好きで、逆に甘いものは好んでいなかったな。

 キリシマが勧めているが、返事はそっけない。いわく、「んな甘いモン食えるか」だそうだ。

 

 普段なら、ヒミコの手料理を無下にする行為に対して思うところがある私だが、今回はそんなことはない。事前にこうなるだろうことはわかっていたので、ヒミコも対策は済んでいるのだ。

 

「そう言うと思って、爆豪くんには専用のを作っときましたよぉ。はい、トウガラシ飴!」

 

 彼女は満面の笑みを浮かべると、あまりにも赤々しい尖った飴をバクゴーに差し出し……いや、違うな。あれは押し付けている。

 

「変な気遣いしてんじゃねぇ! (かれ)ぇか甘ぇかわけわかんねぇだろが!!」

 

 当然というべきか、バクゴーは手元を爆破させてこれを拒むが……我がA組は、彼に対してたまに妙な団結力を発揮するときがある。今回のように。

 

「まあまあ、せっかく作ってくれたんだし」

「そうそう。美少女の手作りなんだからさ、いらないはないっしょ!」

 

 セロとカミナリが、両脇からバクゴーの肩を同時に叩きつつ、軽くだがさりげなくその身体をロックした。完全に逃げ道をふさぐ立ち位置である。

 

 そして彼らに対処しようとバクゴーがわずかに動いた、その瞬間にヒミコはトウガラシ飴を押し付けることに成功した。

 してやったりと言わんばかりの笑顔を浮かべてさっと距離と取り、セロとカミナリにウィンクするヒミコ。カァイイ。

 

 もちろんバクゴーはこれに反発し、凶悪な形相を浮かべる。

 だが、その様子を苦笑しながら眺めていたミドリヤを視界に収めるや否や、怒りの矛先をそちらに変えた。入学当初に比べれば確実に丸くなっているが、それでもミドリヤに対して当たりが強いのは相変わらずのようだ。

 

「クソデク……テメェあのアスレチックやったんか」

「アスレチック?」

「在学中のオールマイトの記録がまだ抜かれてないやつだよ」

 

 首を傾げたミドリヤに、近くにいたオジロが補足する。

 

「えっ!? そんなのあったの!? オールマイトもやったアスレチックなんて!」

 

 ファンとして一生の不覚だと言わんばかりの反応をするミドリヤであるが、オジロの情報は古い。

 

 ミドリヤが知らずプレイできていないことに対して、バクゴーは「ざまぁ」と笑っているが……直後に追加の補足を入れたヒミコに怒声を上げることになる。

 

「あ、それ。コトちゃんが更新しましたよ」

「あ゛!?」

「え、マジで!?」

「爆豪が何度も挑戦しても、更新どころか並ぶことすらできなかったのに!?」

「余計なこと言ってんじゃねぇぞ切島ァ!」

 

 そして私は、バクゴーに派手ににらまれたが……当然、その程度で怯える私ではない。

 そもそもだ。ヒミコから大量の飴を眼前に差し出されたタイミングだったので、どれを最初に食べようか真剣に悩んでいてそれどころではなかった。オールマイトの記録云々より、こちらのほうが今の私にとっては重要なのだ。

 

 状況的に、ここで怒鳴り散らしても暖簾に腕押しだと悟ったのだろう。バクゴーはやはり派手に舌打ちをして、ただ宣言するだけにとどめた。

 

「来年だ。来年の文化祭で、オールマイトはもちろんテメェの記録も抜いてやる!」

「楽しみにしているよ」

 

 そんな彼に、最初の一本をみかん飴にすると決めた私は笑みを浮かべ、悠然と言い返した。

 

「いいじゃないか! いっそみんなで挑戦するというのはどうだろう!?」

 

 と、そこにイイダが入ってくる。彼らしい提案であった。

 もちろん、これに対して茶化したり冷かしたりするものがこのクラスにいるはずもない。

 

「いいな! やろうぜ!」

「まあそれも一興……」

「運動場ガンマってアスレチックの動きにも効きそう」

「こう、くびれがつく感じだよね!」

 

 口々に賛同や、対策の声が上がる。

 

 が、そんな中で一人、ヤオヨロズが別の提案を投げかけた。

 

「来年のお話も結構ですけれど、とりあえず今日のシメをなさっては?」

「そうね。せっかく被身子ちゃんと作った飴だもの、早く食べたいわ」

 

 応じて微笑むツユちゃんを見て、他のものもみな飴を手にしてなんとなく円に集まる。

 もちろんキリシマに連れられて渋々のバクゴーをよそに、イイダが音頭を取った。いつもの彼らしい、長大な演説を予想させる語り口だった。

 

「こういうのは手短に行こうぜ!?」

 

 思わず、と言った様子でカミナリが一言を差し込んだ。

 

 これにイイダは「俺としたことが」と咳ばらいをし、改めて私たちを見渡してから、持っていた飴を掲げる。

 

「それでは簡素に。……みんな、お疲れさまでした!」

『おつかれさまー!!』

 

 だから私たちもそれに合わせ、飴を掲げて叫ぶ。そして、乾杯するかのように飴に口をつけた。

 飴の甘さが、口の中で果物の酸味と溶けながら一つに合わさっていく。

 

 私は前世を含めても、こういう経験をしたことがない。他者のそれを振り返れるほど、長く生きたこともない。

 

 けれども、なんとなく。

 

 これが、俗に青春の味と言うやつなのかな、と。

 

 そんなことを、思ったのだった。

 

***

 

 夜の病院で。文化祭の興奮冷めやらぬエリは、ベッドに身を横たえながらも眠気を感じられなくて、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

 

 半分ほど開いたカーテンの向こうに浮かんでいるものは、間もなく満ちる月の姿。角度の関係でそのさやかな光を直視することはないが、だからこそ一条の筋を描いて室内に降り注ぐ光を幻灯にして、今日の思い出を振り返る。

 

 楽しかったなぁ、と素直に思う。ヒーローたちが魅せてくれた音楽とダンスは、今でもはっきりと思い出せるほどだ。

 

 色んなおいしいものも食べることができた。知らないものがいっぱいで、でもどれも好きになれた。

 

 一緒にいてくれたヒーローたちはみんな親切で、優しくて、胸の中がぽかぽかして心地よくなる。

 

 でも、だからこそとも思ってしまう。あのとき、あの場所に、あの人もいてくれたなら。

 

 もう何度目かわからないその結論に、エリは小さくため息をつく。そして、ころりと寝返りを打って……。

 

「……!?」

 

 次の瞬間、月光を遮って生じる影が、室内に突如出現して息を呑んだ。ひゅっと喉の奥が鳴り、硬直する。

 

 それは、人の形をしていた。ゆっくりと立ち上がっているように見える。

 なんだろう。誰だろう。身も心も、冷えていくのがわかった。けれど、だからと言って動けるはずもなくて……。

 

 そんなエリに、声が投げかけられた。

 

「ああ……ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだ」

 

 聞き覚えのある声だった。否、忘れたくても忘れられない声だ。ずっと聞きたかった声。

 

 だから、身体の硬直は一気に解けた。勢いよく掛け布団をはね飛ばし、身体を起こして振り返る。

 そこにいたのは、

 

「お姉ちゃん!」

 

 あの日、地獄の底から救けてくれたヴィラン(ヒーロー)。死柄木襲がそこにいた。

 

「しー、声が大きいよ。バレちゃうから静かにしよ?」

 

 彼女にそっと嗜められて、エリは大慌てで口を閉ざした。両手で口を覆って、周りにくるくると視線を向ける。

 

 そんなエリに、襲はくすりと微笑んだ。

 

「今んとこ周りに気配はないから、まだバレてないよ。大丈夫。でも静かにしたほうがいいのはガチだから」

 

 そう言って、いたずらっぽく笑って口元を人差し指で押さえる仕草をする襲。

 

 これに大きく頷いて、エリは手を下ろす。下ろして、それから万感の想いを乗せて、襲の懐に飛び込んだ。

 

「お姉ちゃん! きてくれたんだね!」

「約束したでしょ? ボクは絶対、約束を破ったりなんかしないんだ」

「うん!」

 

 そうして、二人は小声――そう言い切るにはまだ少々難しいかもしれないが――で言葉を交わす。

 

 話しながら、襲はエリを抱き抱えてベッドに腰を下ろした。スプリングがかすかに声を上げて、二人分の体重を受け入れる。

 

「文化祭、楽しかった?」

「えっ、お姉ちゃんなんでしってるの?」

「ふふん。こう見えてボク、耳がいいんだよ」

「そっかぁ」

 

 えっへんと胸を張る襲に、エリは素直にすごいと絶賛する。

 

 もちろん、襲の聴力が特段優れているという話ではない。襲が情報を得られたのは、フォースの読心によるところが大きい。意図する、しないに関わらず、彼女の感覚は様々な心の声を聞き取ってしまうのだ。

 

 だからこそ、襲は雄英近くにまで赴いた。自身が受け入れられることはないと理解しつつも、エリの姿を少しでも見られたらいいと考えて。

 

 もちろんエリを見ることはできなかったが、結果として雄英にちょっかいを出そうとしていたヴィランの目的を阻むことはできたので、意味はあったと言えるだろう。

 

 とはいえ、それをエリに言う意味はない。心配されたくなかったし、させたくもなかった。

 だからこそ、今朝のことをエリに言わなかったデクに、襲はちょっとだけ感謝した。それから、やっぱりあいつはマシなやつなんだなと考える。

 

 考えて、それからデクの名前を知らないことに気がついて、今度会ったら覚えといてやろうとも思う。ヒーローに対して思うところはたくさんあるが、今日は気分がいいから。

 

 そんな襲に、エリは表情を輝かせて語り出した。今日の思い出を共有したくて、はやる気持ちに急かされるように。

 

「……それでねそれでね、」

 

 膝の上で、今日の出来事を少ない語彙で一生懸命に話すエリに、襲は微笑む。頭を撫でてやりながら、相槌を打って。

 そんな穏やかな時間を、彼女は楽しいと思った。エリも、同様に。

 

 そして二人揃って、この楽しさを相手が抱いていてほしいと願った。それは、血の繋がりはなくとも、二人がお互いに親愛を抱き合う特別な関係にあることを意味していた。

 

「……でね、どこにもなくってね、しょんぼりしてたんだけどね、最後にデクさんが……あっ」

 

 よちよちとした語りがようやく終わりに差し掛かったとき。思い出したと言わんばかりの声を上げて語りを切ったエリは、ぴょいと襲の懐から飛び降りる。

 首を傾げる襲の視線をよそに、部屋の隅へと駆けるエリ。

 

 彼女が手を伸ばしたのは、病室に備え付けの小さな冷蔵庫である。その中から取り出されたのは、透明なビニール袋で覆われたリンゴ飴。

 エリはそれを、嬉しそうな顔で襲に差し出した。

 

「これね、デクさんがくれたの! あまったらだれかにあげていいよって、私にだけ一つ多くくれたんだよ!」

 

 ――だからね、これはお姉ちゃんにあげるの!

 

 そう締めくくったエリの顔は、天使もかくやな眩しいもので。

 襲は思わず、嬉しさが限界を超えて溢れてしまいそうになった。

 

「……うん、ありがとね」

 

 そう言うだけで精一杯だった彼女は、けれども下手なところは見せられないと姉のプライドを発揮し、リンゴ飴を受け取り歯を立てる。

 

 ぱきり、と飴が割れる音が室内に響く。次いで、リンゴの部分が小気味いい音を奏でた。

 少し酸味のある甘さは、どこか懐かしい幸せを思わせる優しい味だった。

 

「どお?」

「うん……うん、おいしいよ。とってもおいしい」

 

 ――お姉ちゃんにも、分けてあげたいくらい。

 

 その言葉を呑み込んで、襲は笑う。うまく笑えているだろうか。自信がない。

 

「よかったぁ!」

 

 けれど、エリは変わらず笑顔を見せる。そのことに、胸の奥でうずく寂しさを押し殺しながら、ほっとした襲だった。

 

 そうしてエリの頭を改めて撫でて、もう一口。変わらない味が、もう一度広がった。

 それから心の揺れを悟られたくなくて、襲は話を少し無理やりに変える。

 

「……ところで、デクって誰?」

「えっ、お姉ちゃんあったことあるでしょ? 私をたすけてくれたときにいたヒーローさんだよ。みどりの……かみのけがちょっともじゃもじゃしてる……」

「ああ、あいつか。……そっか、あいつがデクなのか」

 

 リンゴの表面を覆う飴を噛み砕く音をわざと立てながら、襲は納得したと言いたげに何度も頷く。自分の目で見て、マシだと認めた男がちゃんと行動できる男であると理解して、さらに彼に対する評価を上方修正する。

 

 まあ、だからと言って敵対しないという選択肢は基本的に存在しないのだが。ことエリに関するものであるなら、ルミリオンと並んで信用してもいいかもしれないというくらいには、認識が改まった。

 

 襲のそんな心の動きはもちろん、一切言葉にはなっていない。

 だが、エリはちゃんと表情から察することができた。だから嬉しくて、にっこりと笑う。

 

 襲はこれに、少しばつが悪そうにして視線を逸らす。

 もう、胸の奥に寂しさはなかった。代わりに、どこか懐かしい暖かさを感じた。

 

 二人の時間が、穏やかに過ぎていく。そうして二人は、エリが力尽きて寝落ちするまで一緒に寄り添いあっていたのだった……。

 

 

EPISODE Ⅸ「雄英の祭の物語」――――完

 

EPISODE Ⅹ へ続く

 




今回の前半部分も小説「雄英白書・祭」からのエピソードです。
高校生が青春してるシーンからしか摂取できない栄養がある。おじさんになるとね、体育祭とかで喜んでるミッドナイトの気持ちもわかってしまうのだ・・・。
まあ一話の後書きに書いた通り、学校関連の和気あいあいとした平和な話はここまでで、この先はエンデヴァーVSハイエンド編、クラス対抗戦編、ヴィランアカデミア編、インターン編、第一次全面戦争編とほぼひたすらシリアスが続くのがヒロアカなんですけどね。
なんだよ全面戦争編って。本当に学園ものの章タイトルか。物間の煽りすらいっそ平和だよ。
けど本作でもここからはほぼずっとシリアスの予定です。震えて待て。
その前に、予告通り幕間と久々の閑話が挟まります。こっちはまだシリアスじゃないので、まずはそちらをお楽しみいただければ幸い。

なお襲がエリちゃんとのんびり姉妹のお話している同時刻、理波とトガちゃんはベッドの上で夜の文化祭を開催中です。
二人が実践している文化に関しては、銀河共和国も地球もさほど変わらないと思うので、読者の皆様におかれましては妄想力をフル稼働していただければと思います。

・・・と、言って〆るつもりだったんですけど、最初のほうで言及したコスプレ回を流すなと色んな方に言われたので、急遽追加になった閑話はご要望に沿いまして夜の文化祭回です。
いやまあ、時系列的には文化祭どころか八斎會事件よりも前なんですけどね。
それはそれとして、似たようなことをしてるのは間違いないので、参考までにということでご容赦ください。

その追加閑話はEP9編の最後に出す予定なので、まずは普通の幕間と閑話をお楽しみください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。