銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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EPISODE Ⅹ ロスト・スターズ
1.スターウォーズ


 夜の闇の中、横たえられた英雄の遺骸に火が灯される。光あれかしと望まれ、しかし闇に堕ち、それでもなお光に戻って来た勇者の身体が、少しずつ、少しずつ燃えていく。闇であった頃の姿を象徴する、黒い鎧兜ごと葬っていく。

 

 送り火。それを灯したのは、他ならぬ勇者の息子。光と闇、それぞれの隆盛によって大きく揺れ動き、混乱した宇宙のフォースに調停をもたらした男の息子。

 新たなる英雄、新たなるジェダイの騎士、ルーク・スカイウォーカーは、灰となってフォースへ還っていく父を見送る。

 

 皇帝にしてシスの暗黒卿、ダース・シディアスが第二デススターと運命を共にした日。銀河の各地で、人々が解放に喝采を上げる中。

 星全体を覆うかのような大森林にて、イウォークたちが素朴な炎と音楽に酔いしれる中。

 

 ルークは静かに、偉大な父を見送った。

 

 そうして人々の輪に戻った彼を、双子の妹が出迎える。レイアの抱擁を受け止めたルークは、次いでこの戦時中、誰よりも頼りにした兄貴分ハン・ソロとも抱擁を交わす。すべてが終わった。そんな万感を込めて。

 さらには戦友たちとも、次々と。

 

 やがて一通りの挨拶を終えたルークは、しかし宴の輪に加わることはなく。むしろ静かに、緩やかに、人々から離れていく。

 何とも言えない表情は、ある種の寂寥感と喪失感の表れ。戦勝に沸く人々の中でただ一人、彼だけが身内の死を悼んでいた。銀河の、恐らくは誰からも偲ばれることがないだろう、身内の死を悼んでいた。

 

 もちろん、それを口にすることはしない。する必要もない。

 盛況な宴に水を差すことになるし、何よりこのかすかな痛みは、それを上回る誇らしさは、自分の心のうちにだけあればいい。

 

 ――と。

 

 懐かしい誰かに呼ばれた気がして、ルークは何気なく更けゆく闇に顔を向けた。

 力強く、しかし闇を照らすには頼りない炎の微かな光が、揺れ動く闇の中。うっすらと、そこに二人分の人影が浮かんでいた。

 

 銀河中に満ちるフォースと一体となった、今は亡き二人の師の姿に、ルークの表情がわずかに緩む。

 ジェダイマスター、オビ=ワン・ケノービとヨーダ。彼らは確かに微笑んでいた。

 

 だが、それだけではない。フォースの気配は、もう一つ。二人の横に、もう一人分。

 二人と同じデザインのローブを身に着けた、ややウェーブがかかった髪の男が現れる。ルークより少しだけ年上に見える男。だが、決して同じではない年齢の男の姿。

 

 男――アナキン・スカイウォーカーが一瞬、恥ずかしげに微笑んだ。それに対して、オビ=ワンとヨーダがからかうような笑みを見せる。

 ルークの目が、一瞬だけ驚きに見開かれた。だが、それも一瞬。彼もまた、マスター二人と同じような笑みを浮かべた。

 

 と、そこにレイアがルークを迎えに来た。一人離れたところに佇むルークを宴の中へといざなう彼女に、ルークは破顔する。

 

 そうして二人揃って、改めて人々の輪の中に入っていく――直前。

 

 ルークは、一度だけ振り返った。

 三人のフォーススピリットが微笑んで、大きく頷く。まるで見守るような、その視線と仕草にルークは安堵と共に別れを告げて。

 

 かくして彼は、父たちに背を向けた。もう、振り返ることはなかった。

 

 きっと、振り返る必要もないだろう。これからの銀河は、ルークたち若者が作っていくのだから。

 

 それは恐らく、ジェダイも――。

 

***

 

 次の瞬間画面はスタッフロールに切り替わり、流れていた音楽の曲調ががらりと変わる。エンドクレジットだ。

 

 だがそこに至ってもなお、物語の余韻に浸る余裕は私にはない。映画を共に観ていたアナキンも似たようなものだ。

 ヒミコも同様だが……彼女は宇宙のことには詳しくないので、相対的に我々より軽傷で済んでいるようだ。

 

「……不思議ですねぇ」

 

 そのヒミコが、ため息交じりに言う。どこか呆れたような色も含んでいるが、それこそ私やアナキンより軽傷である証とも言えるだろう。

 

 しかしそれはともかくとして、大雑把に言ってしまえばヒミコの言葉は端的に事態を表している。

 私は彼女に頷いて見せながら、ディスプレイに表示されている映画のパッケージに目を向ける。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこにははっきりと、そう記されていた。

 

「……なぜ。なぜ、アナキンたち親子の物語が映像作品として存在するんだ……!!」

 

 そう。

 あまりにも大きな謎が、私たちの前に横たわっていた。

 

 きっかけは私謹製の情報ドロイド、I-2Oが提出してきた銀鍵騎士団に関する資料である。彼が手当たり次第にかき集めた資料が、あまりにも膨大だということはかつて述べた通り。

 そしてそれを受け取った当初は、ホロクロンに目が奪われていて気付けていなかったのだが……実は他にも爆弾があったのである。

 

 文化祭も無事終わり、改めて落ち着いて資料を精査し始めた私はそれにぶつかり……アナキンに相談した結果、彼と共に爆発に巻き込まれて今に至る。

 

 そう。この星で、まだ“個性”が存在しなかった時代。超常以前と歴史的に呼ばれる時代の映像作品に、銀河共和国を舞台にしたジェダイやフォースをめぐる物語が、存在していたのである。

 時代で言えば、百年以上昔の話だ。この時期の作品は、超常黎明期の大混乱の中で遺失したり、世情に合わず意図的に封印されたりしたものも多いというのに。

 

 スカイウォーカー親子の物語は、その中でも「失われてはいないが非常にマイナーな作品」という扱いを受けていた。

 “個性”が全人口の約八割に浸透している現代だ。物語を彩る特殊能力がフォースしかない作品は、超常社会に慣れた人々には地味すぎて興味の対象にはなりづらいようだ。

 

 それと、作中の悪役として登場するダース・シディアスが、公然と人間以外のエイリアンたちを差別する政策を採っていることも、原因の一つらしい。異形型の“個性”に対する差別や偏見は、現代地球における非常に重大な問題の一つであるからだ。

 

 しかし、かといって失われたわけではなかった。

 

 ゆえに、先の文化祭で1年B組がやった演劇に、その要素がパロディとして盛り込まれていた。

 彼らは知ってか知らずか、劇中の魔法的な力にフォースの名を与え。あまつさえ、それを教えるメンター役のキャラクターにオビワンという名を与えたのである。

 

 私は時間がなくて、それを直に観る機会は残念ながら得られなかったのであるが。アナキンが見ものだと言っていた理由は、そこにあったのだ。

 

 ここまで来れば、無視などできるはずがない。

 このため、私たちは休日を一日使ってその作品を……スターウォーズと名付けられた作品群を、視聴したのだが。

 

『……僕やルークの人生が、ここまで正確に映像化されているとなると、当事者の関与はほぼ間違いないだろうな……』

「すごいですよねぇ。こないだちょうどこの辺まで夢で見ましたけど、ほとんどおんなじですよこれ」

 

 その正確さに、私たちは驚嘆するしかなかった。当事者だった私やアナキンから見ても十分な精度があり、もはやドキュメンタリーとして通用するレベルだったのだ。

 

 アナキンが主人公だった時期の話に至っては、かつての私も登場していたので目を疑った。もちろんと言うべきか、シスの復讐と銘打たれた作品の終盤手前で首を刎ねられる端役でしかなかったわけだが。

 それも含めて、あまりにも正確にすぎたのである。アナキンもここまでとは思っていなかったようだ。

 

 もちろん、制作されたのは百年以上前のこと。第一作目に至っては、さらに四半世紀近く遡る。映像技術の未熟さから来る拙さはかなりあったし、役者を立てている以上、全員の容姿が私の知る人物と完全に一致するわけではないが、それでもすべて許容できる範囲には収まっていた。

 中でもR2-D2の完成度は、時代を考えると特筆に値する。あれで中に人間が入っていたとは!

 

「……こうなると、以前に話していた『この星に来たであろう銀河共和国人、もしくはジェダイ』の存在はもはや確実視してよさそうだ」

 

 なんとか衝撃を呑み込んで、私は言う。

 

『だろうな。その当人がこの映画を作ったのか、それとも接触した人間に作らせたかはわからないが……』

「今のとこ一番あやしいのは、このゲオルグ・ルーカスっていう監督さんですよねぇ……。ますたぁ、センス・エコーでなんとかなりません?」

『簡単に言ってくれるな君は……』

「えー、できないんですー? フォースの申し子なんじゃないんですー?」

『……できないとは言ってない。疲れるんだ、あれは』

 

 アナキンが、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

『……まあ僕としても、こんな離れた星にここまで正確に僕やルークのことを遺してくれたのが誰なのか、気にはなる。やってやるよ』

 

 かくして、意外なところからホロクロンやジェダイに関する情報が得られそうな事態になったわけである。

 

「……ちなみに、このあとの物語はないんです? 夢ではまだそこまで行ってないですし、ルークくんがどんな風にジェダイを復興したのか、私気になります」

()()()()()()()()()()()()()()()()()。7以降も作られる予定にはなっていたみたいだが、ちょうどその頃に“個性”が広がり始めて世界が一気に混乱したせいで、企画どまりに終わったようだ」

『……ルークのその後を思うと、続きが作られていないことを喜んでいいのか悪いのか……』

 

 アナキンが言うには、どうやら彼の息子はこのあとシスの暗躍によって大きな失敗をさせられ、ジェダイの復興は頓挫したらしい。なるほど、父親としては複雑な心境だろう。

 気にはなるが、そっとしておくとしておいたほうがよさそうだ。話題をずらそう。

 

「しかしここまでアナキンとルークのことが正確に網羅されているとなると、地球に来た誰かはかなり絞れそうではあるが……問題は、アナキンとルークが生きていた時代は今から千二百年は前ということだな。当時の関係者で、現代近くまで生き続けるなんてことは不可能なはず……」

『一応、方法がないわけじゃないんだが……ちょっと現実的じゃないんだよなぁ』

「ではマスター・ヨーダやマスター・ケノービのような、フォーススピリットの面々が今のところ有力か……」

「私は普通に、複数の人が何年もかけて地球に来たんだと思います! この地図見てるとここまで来るのものすごく大変そうですけど、そうじゃないとスターウォーズの作られた時期と噛み合わないですし」

「そうだな、世代をまたいだ人間たちの仕業と見るのが妥当だと私も思う。記録の精度はホロクロン、あるいはドロイドがあれば担保できるしな。ゲオルグ何某はそれを見ただけという可能性もある。その点で言うと、君の息子の戦友……ハン・ソロだったか。彼の血族が地球までの航路を切り開いていたなんて考えるのは、いささか夢の見すぎか?」

『僕は嫌いじゃないぜ? 実際、彼はケッセル・ランを12パーセクで走破(非常に危険ゆえに遠回りを強いられる道を、直進してショートカットしたという意味)なんて常識破りを成し遂げた男だ。その血族ならおかしくないんじゃないか。彼なら事情に通じた人間と出会う機会はあっただろうし』

 

 I-2Oが作った地球・コルサント間の位置関係を示す星間地図(まだ完成には遠いが、息抜きで作ったらしい)を画面に映し、そんなことを語り合う私たち。

 途中、ヒミコに色々と解説しながら、たまに脱線もしながら語り合ったが……それでもはっきりとした答えが得られたわけではなく。

 最終的に、アナキンに踏み込んだ調査をしてもらうことで、ひとまずの決着を見たのであった。

 

 なおこれに関係して、A組メンバーには絶対に映画スターウォーズは秘匿するということで我々は意見を一致させている。なぜなら、彼らはアナキンのフルネームを知ってしまっているからだ。

 バクゴーに至っては、その姿すら認識できている。これを知られた場合、面倒なことになるのは間違いない。

 

 ついでに、公安各所がどの辺りまで把握しているのかも調査することにした。こちらは引き続きI-2Oの仕事だ。

 知られると非常に面倒なことになるので、何事もないといいのだが。

 




長らくお待たせしました。EP10「ロスト・スターズ」、本編14話、幕間1話、閑話1話の計16話でお送りいたします。
割烹にも書きましたが、すべてシド星とかいう惑星とアルセウスとかいう邪神のせいです。
楽しかったです(素直

さて今EPは、今までも何度か言っていた通り、原作で言うところのA組B組対抗戦編です。
と同時に、本作の今まで隠されていた謎を解くための導入編でもあります。
まあ今EPは謎が明確になるだけで、答えが明らかになることはないんですけども。そういう意味でも導入編で、次EPは展開編、さらにその次のEPが解決編になります。
都合3エピソードをかけて明らかにしていくので、お楽しみに。答えの開示より早く正解に辿り着ける方は、果たしているのでしょうか。

ちなみにB組の演劇「ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人~王の帰還~」でフォースやオビ=ワンの名前が使われてるのは公式設定です(雄英白書・祭より)。
おかげでスターウォーズが映画として存在する世界であるとしてプロットを組みなおす必要が出ましたが、考えた結果普通に問題なく組み込めると気づいたのでプロットくんは生き延びました。

あとシークウェルトリロジー(EP7~9)に関しては、一身上の都合で存在しない世界線ということにしました。個性が出始めた時期が西暦のいつなのか明示されてないからできる力技。
私怨じゃないよ。ほんとだよ。
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