銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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更新再開です。
原作時系列、入学編スタート。


EPISODE Ⅱ 連合の攻撃
1.よろしく同級生


 さて、高等学校初日である。下宿先は学校近くを選定したので、徒歩十分程度で学校に着く。

 もちろん時間には余裕をもって登校した私たちは、A組のクラスへ足を向けていた。

 

「んふふ、クラスまで一緒なんて、やっぱり運命ですね」

 

 私の横に並んだトガ……もとい、ヒミコはそう言って嬉しそうに笑っていた。

 運命かどうかはさておき、彼女が別クラスになるとそれはそれで不安なので、これでよかったのかもしれない。生徒はもちろんだが、教師陣にまで被害が出たとしたら、私の首だけではどうにもならないだろうし。

 

 ともかくそうしてやってきた教室の扉は、とてつもなく大きかった。私の背丈の五倍近くあるのでは? よくもまあここまで作り込んだものだ。

 

 ともかくそんな扉をくぐった先には、十人ほどの人間がそれぞれの席についていた。

 

「ム……やあ、おはよう!」

 

 そんな中、扉にほど近い席にいた大柄の少年がこちらに近づいてきた。四角いフレームの眼鏡を着けていて、身なりはかっちりと整えられている。

 

「初めましてだな。俺は飯田天哉という! これからよろしく頼む!」

 

 さらに礼儀も正しい。私を小さいからと下に見る向きもない。いかにもな好青年といった感じだ。

 さすがにこの国でも一番の学校というだけのことはあるか。生徒もヒーローらしいものが集まっているのだろうな。

 

「ああ。私はマスエ・コトハという。それから、こっちは私とは同郷の……」

「トガです。よろしくねぇ」

「増栄くんに渡我くんだな! 一緒に励んでいこう! ……と、そうそう、君たちの席はあちらのほうみたいだぞ」

「こちらこそ、よろしく頼む。それから、案内ありがとう。助かったよ」

 

 彼と握手を交わして、自分の席へ向かう。

 

 どうやら私の席は、窓際の前から二番目らしい。一方、ヒミコの席はその右隣。

 

 ……まさか、座席までこうなるとは。まさかこれもフォースの導きだろうか。

 

「んふふ、フォースの導きだねぇ」

 

 と思っていたら、荷物を置いたヒミコがこそりと耳打ちしてきた。

 どうやら同じことを考えていたらしい。思わず苦笑する。

 

 しかし……。

 

 そう思いながら、私はヒミコの二つ後ろの席で静かにしている少年に意識を向ける。頭髪の色が左右でくっきり分かれている少年だ。

 一見して、美しいと言える少年である。彼が何かポーズでも取れば、大体のものは様になるだろう。

 

 だがその彼から、かなり濃い暗黒面の気配がする。ダークサイダーと言ってよい水準である。これは一体どういうことだ?

 

 そう思いながら、ちらりと目線とフォースでヒミコに問うてみる。

 

「……憎い系だよアレ」

 

 それを受けて、彼女はこそりと耳打ちしてきた。

 

 私は暗黒面と、そこに繋がる人の感情の機微にはまだかなり疎い。だから暗黒面の気配を直に見てもそれが何由来であるのか、把握できないことも多々ある。なんとなくこれだろう、という予想を立てるくらいはできるが確証が持てないのだ。

 逆にヒミコは、実際に暗黒面へ踏み込みかけた人間だ。いまだ人生経験の浅い少女とはいえ、暗黒面の理解は私より深いし、そんな彼女なら直に暗黒面の気配を見れば大体背景が見える。

 

 そんな彼女の見立ては、そうそう外れない。であれば、

 

「……要注意対象だな」

 

 気にしておかねばならないだろう。彼が何を憎み、何を思ってヒーロー科に来たのか。それを確認しなければ。

 

 なんてことを考えているうちに、次々と新たな生徒がやってくる。

 うーむ、私たちもかなり時間に余裕を持たせて登校していて、まだ始業には結構余裕があるのだが。こうも早々と人が揃うとは、このクラスはみな真面目だな。いや、クラスというよりはヒーロー科だから、か?

 

 まあ、クラスの人数が二十人しかいないので、どれだけ人が揃っても広々とした印象は変わらないだろうが……む?

 

「……ンだ。チビがガンつけてんじゃねぇぞ」

 

 新たに入ってきた生徒を見て、私の記憶が刺激された。

 

 薄い金髪に、三白眼が目を引く少年である。整った容姿もあって、かなり鮮明に覚えているぞ。睨まれている理由は定かではないが。

 

「いや……どこかで見たことのある顔だと思ってな。確か君は、一年ほど前に……」

 

 だがそう口にしている途中で、少年は盛大に舌打ちをしてきた。

 彼はそのまま私に答えることなく、乱雑に荷物を置いて、やはり乱雑に席にどっかと腰を下ろした。

 

 そんな彼の態度に、ヒミコの視線が一気に冷たくなる。

 

 だがまあ、今回については私が不用意だっただろう。何せ彼は、一年前に田等院のほうで起きた事件の被害者なのだ。それにまつわる話を、人前でいきなり出した私に問題がある。

 

「……すまない、私が軽率だったようだ。非礼を詫びさせてほしい」

「るせぇ殺すぞドチビが」

 

 しかし、謝罪に返ってきたのは殺害宣言であった。

 

 ……なんとまあ。随分と粗暴な少年だな。どうやら先ほどの反応は、トラウマを刺激したからこそではないようだ。フォースもそう言っている。

 

 そしてこの少年の気配も、かなり暗黒面に近いな。これは……増長と傲慢、か?

 

 いや、大丈夫かこの学校? あの試験ではそこまで内面に踏み込めないから、仕方ない面もあるだろうが……。

 

「できるものなら」

 

 とはいえ、ここで引き下がると隣のヒミコが代わりに手を出しそうなので、一応一言返しておこう。

 

 すると先ほどよりもさらに険しい目で凄まれたが……彼が何か言うよりも先に、イイダが割り込んできた。

 

 そのまま二人は流れるように口論を始める。第一印象通り、イイダは超のつく真面目人間らしい。アナキンなどは、ジェダイ的と言うかもしれない。

 そんな彼にしてみれば、私の一つ前のこの少年は到底受け入れがたい人間だろうな。水と油だ。

 

 とはいえ、イイダのほうも少し的外れなことを言っているような気がしなくもない。机に足をかけること自体は私もどうかと思うが、しかし製作者や学校の先輩に対してどうと言われてもな……。

 

「二人とも仲いいねぇ」

「いや、逆だと思うが……」

 

 なぜか楽しそうな顔で両者を眺めるヒミコである。彼女の目には一体どういう風に見えているんだ?

 

 そうこうしているうちにもさらに生徒が入ってきたのだが、その少年もよくよく見ると一年ほど前、私の前の席の少年と共に田等院で事件に巻き込まれていた少年だった。いや、彼の場合は飛び込んだ、と言ったほうが正しいのだろうがそれはともかく。

 

 ミドリヤ、か。覚えておこう。

 しかし彼ほど率先して動ける人間ならここに来てもおかしくないとは思っていたが、まさか同じクラスになるとは。

 

 その彼は、何やら直後にやってきた女子と会話している。態度から言ってあまりにも女性慣れしていないようだが、女子のほうはまったく気にしていないようだ……。

 

「お友達ごっこがしたいならよそへ行け」

 

 と、そのときである。低い男性の声が、賑やかだった教室の中を切り裂くようにして響き渡った。

 声のしたほうに顔を向けると、そこには寝袋に入った状態で横になっている無精ひげの男性が一人。

 

 彼はそのまま困惑した空気の教室の中に入ってくると、自らが担任であること、体操服に着替えてグラウンドに出ろとだけ伝えると、さっさと出て行ってしまった。

 クラスの様子を「合理性に欠ける」と評した彼の態度は、お世辞にもヒーローには見えないだろう。

 

 だがこの学校の教師は基本的に全員がプロヒーローであり、相澤消太と名乗った彼も例外ではない。

 

(あれが抹消ヒーロー、イレイザーヘッド、か)

 

 あまり名の知られたヒーローではないが、私はこの学校に合格した時点で、学校に勤めている全教師について最低限調べてある。

 

 それによると、彼のようにマスメディアへの露出を嫌い、活動内容をほとんど公表していない人物のことを、一般的にはアングラヒーローと呼ぶらしい。そのため彼のヒーローとしての仕事ぶりまではあまり調べられなかったので、どういう人物なのか少々心配ではあったのだが……どうやら杞憂に終わったようだ。

 

「……コトちゃんと同じくらい心がキラキラしてる人、()()()()()以外で初めて見ました」

「奇遇だな、私もだ」

 

 ヒミコの何やら気になる言い方はともかく。

 

 イレイザーヘッドから感じられる気配は、光明面のかなり極まった位置にあったのである。あれだけ深く光明面にいるのであれば、人として信用して構わないだろう。

 また彼ならばあるいは、フォースについて話をしてもいいかもしれない。”個性”のこともあって、私の特異性に最も早く気づくだろうし。

 

 ともかく私は彼が問題ないと判断すると、まだ困惑気味のクラスメイトたちに声をかけることにした。

 

「気持ちはわかるが、彼の指示に従おう。この学校の教師が、無意味な指示を出すとは思えない」

 

 私の言葉に、イイダをはじめ数人の生徒が賛同し、私たちはそれぞれ更衣室へと向かうことになった。

 

***

 

「ケロ……あの、いいかしら?」

「構わない。君は、ええと……」

「ケロ。蛙吹(あすい)梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで?」

「マスエ・コトハだ。よろしく頼む」

 

 更衣室にて。着替えるために制服を脱いでいると、一人の少女に話しかけられた。

 そちらに振り返ると、どことなく蛙のような雰囲気の少女が、心配そうな目で私を見ていた。

 

「その……いきなりで申し訳ないのだけど、ちゃんと食べてるかしら?」

 

 フォース伝いに感じる彼女の思考と、その態度から発言の意図は明白だったが、言葉にされたことで改めてなるほどと思う。

 

 彼女の気持ちもわかる。私の身体は、高等学校一年生の女子としては明らかに小さく、あからさまに痩せているからだ。うっすらとあばらが浮いて見える、骨ばった下半身などなど。十五歳でこれだとしたら、確かに虐待を疑われても仕方がない。

 

 まあ、私は彼女たちとは同年代ではないのだが、そこはこの際関係なかろう。

 

「ああ……心配してくれてありがとう、ツユちゃん。だが大丈夫だ。むしろ同年代の生徒の倍以上は食べている」

 

 言われた通りに呼んだら、後ろからヒミコの視線が突き刺さった。あれは間違いなく、「私だってちゃんづけで呼ばれたことないのに」というようなことを考えているな。

 だがそれとは関係なく、それ以上の関係性が今の私たちにはあるだろうに。

 

「倍以上……? なのにそんなに痩せてるって……もしかして、”個性”の影響かしら」

「その通り。私の”個性”は、発動の際に体内の栄養全般を消費するんだ。そのせいで、訓練しているだけでもどんどん痩せてしまうんだよ。おかげで背も伸びない」

 

 それはともかく。

 

 私が答えると、着替えながらもさりげなくこちらの様子をうかがっていた他のものも納得したようだった。

 

 その中の一人……この中では特に発育のいい、また立ち居振る舞いが特に優雅で洗練されている少女が話を継ぐ。

 

「ああ、少しわかりますわ。私も代償に脂質を消費するタイプでして……慣れないうちは色々と困った覚えがあります」

「君もか。幼少期、初めて”個性”を発現したときなどは大変だったのではないか?」

「ええ。とはいえ、私は脂質だけですので、増栄さんほど深刻ではなかったのではないかと思いますが……」

「ああ……そうだな、私は最初病院沙汰だったよ。餓死寸前まで行って、あのときは家族に迷惑をかけた」

「餓死……!? そんなになるとか、どんな”個性”!?」

 

 今度声をかけてきたのは、肌が桃色で白目が黒い少女だ。

 

「私の”個性”は『増幅』だ。餓死しかけたときは、その……恥ずかしながら、ソフトクリームを食べていたときで……もっと食べたいなと思ったら、次の瞬間ばたりとな」

「あー、なるほどー! や、ソフトクリームおいしいもんね! しょーがないよそれは!」

 

 彼女は私の返答にあっけらかんと笑う。

 

「あ、私は芦戸三奈! よろしくねー!」

「挨拶が遅れて申し訳ありません。私は八百万(もも)ですわ。以後お見知りおきを」

「マスエ・コトハだ、よろしく。……ああそうそう。先ほどから、私の話相手を取られて拗ねている後ろの彼女が、トガ・ヒミコだ」

「はいはい、トガです! コトちゃんとは同じ中学です! よろしくねぇ!」

 

 私が紹介するや否や、前に出て声を出すヒミコ。

 彼女は人見知りではない。むしろ、他人と接することを求めているところがある少女だ。だから私の相手を取らない限りは、こうやって普通に他人に接することができる。

 

 人によっては、それを面倒くさいと言うのかもしれないが。

 

「はいはーい! 私、葉隠透だよー!」

「ウチは耳郎(じろう)響香」

「私は麗日(うららか)お茶子だよ、みんなよろしく!」

 

 その後も相次いで挨拶が交わされる。どうやら、このクラスの女子は全員が暗黒面から遠いところにいるらしい。そこは安心だな。

 ヒミコ以外は、だが。

 

「それにしても、いきなりグラウンドに出ろとは何をするのでしょう?」

「入学式、今やってるはずやんね? 出なくってええんかなぁ……」

「……恐らくだが、入学式に出ている暇はないという判断なのだろうな」

 

 ヤオヨロズとウララカの言葉に、着替えを再開しながら入り込む。

 当然のように、全員の視線が集中した。

 

「コトちゃん、何か知ってる感じです?」

「ああ。人伝いに聞いた話なのだが……この学校の校長は……ものすごく話が長いらしい」

「ものすごく」

「話が」

「長い?」

 

 順番に繰り出される単語に頷き、私は着替えを終えた。

 

「ああ。なんでも、入学のあいさつだけで一時間はしゃべるらしい」

「え、なっが……」

「それは……さすがに少々、時間がもったいなく感じますわね……」

「ねー! そっかー、それで先にやれることやっちゃおうって感じかなー?」

 

 ハガクレと名乗った少女……少女、だよな? うん……そのはずだ。

 彼女の”個性”は透明なのだろうな……服しか見えない……。

 

 ともかくハガクレの言葉に頷く。

 

「ケロケロ……じゃあ、ガイダンスかしら?」

「え、でもガイダンスで体操服っておかしくない? おまけにグラウンドでしょ?」

「だよねぇ。教室で資料があれば十分じゃないです?」

 

 ヒミコが小首を傾げる。それに応じるようにして、全員の視線が再び私に集中する。

 

 だが、今度ばかりは私も答えを持たない。

 

「すまないが、彼が具体的に何を企図しているかはわからない。校長の話は、あくまで人から聞いて知っていただけだからな」

「そっかー!」

「知らないんじゃしょうがないね!」

「そうね。何はともあれ、行ってみればわかるわ」

「せやねー。ヘンなことじゃなきゃいいけど……」

 

 かくして着替え終えた私たち計八名は、更衣室をあとにしたのであった。

 




「クラスの女子にダークサイダーはいない」みたいな描写しましたが、これでもし今後敵連合との内通者が彼女たちの中にいるなんて展開が本誌で起きたらどうしよう、とずっと戦々恐々としてる。
完結してない作品の二次創作ってそういうところあるよね・・・。

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