銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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11.最後の手段

 その日は、いつどうやって寮の自室に戻ったのか、よくわからない。気がつけば私は、暗い自室の真ん中で立ち尽くしていた。

 ウララカとハガクレとツユちゃんが付き添ってくれたような気はするが……断言できるほど明瞭な記憶はなかった。

 

 明かりのない部屋の中を、よろよろと歩く。そうして、力を失ったかのように椅子へ身体を投げ出した。

 

 頭が動かない。思考が働かない。

 身体も動かない。動かすだけの気力もなかった。

 

 だって、ここにヒミコがいない。ほとんどいつも、ずっと一緒にいたのに。

 ここに、この隣に。いつもいたのに。

 その彼女がいない。彼女は病院に検査入院しているから、戻ってこなかった。

 

 ……いや、仮に入院しなかったとしても、同じ心理状態になっていただろう。むしろ、そのほうが私は荒れたかもしれない。

 何せその場合、すぐ目の前に私がいることになるのだ。同じ心理状態であろう私が。それはお互いにとってよろしくないだろう。

 

 なまじ私とヒミコがフォース的に同質であるからこそ、余計にそう感じてしまう気がする。彼女が私になってしまっている今は、なおさらだ。それを思えば、一人でいるほうが幾分かマシだと思う。

 

 だとは、思うのだが。しかしそれを受け入れられるかは、また別の話だ。

 もちろん私に受け入れられるはずはなく、ただただ呆然とするしかできないでいる。

 

 彼女がいない部屋は、まるでがらんどうのように感じられた。あるいは、パワーセルを抜かれたドロイドは、こんな感じなのだろうか。

 益体もない考えがふと脳裏をよぎったが、そんなくだらないことを考えていないと本気で頭がどうにかなりそうだった。

 

 どうしてだろう? どうしてこんなことになってしまったのだろう?

 いや、原因はなんとなくわかっているけれども。それでも同じことを何度も何度も考えてしまう。

 

 どうしてヒミコが、こんな目に遭わなければいけないんだ。彼女が何か悪いことをしたわけでもないのに。

 

 こんなときこそ彼女を助けたくて、何かできることはないのかと必死になろうとするが、うまく頭が動かなくて。それがもどかしくて、悔しくて。

 

 何より寂しくて、悲しくて。気づいたら私は涙を流していた。

 

「ヒミコ……」

 

 彼女の名前を呼ぶ。普段なら、すぐに返事が来る呼びかけ。

 けれど、今は返ってくることはない。その事実に、ますます胸をえぐられるようで、切ない痛みが溢れてとまらない。

 

 それでも時間は無情に過ぎていく。何もできることがないまま、何も案が浮かばないまま、夜は更けていく。

 

 そして何もできなくても、何もする気になれなくても、身体には限界がある。

 苦しくて、悲しくて、寂しくて、切なくて、どうしようもなかったけれど。むしろそうした心の疲弊に呼応するように、身体もまた疲弊していて。

 

 気がつけば、いつの間にか翌日の朝になっていた。

 

 身体がぎしりときしむ。椅子でそのまま寝てしまったらしい。

 冬特有の寒さは、あまり感じなかった。気を利かせた14Oが、暖房を入れてくれたようだ。あと、掛布団も。

 姿を探せば、彼女は部屋の隅にある充電スポットで自主的にスリープモードに入っているようだった。下手に声をかけても自分では力になれないという判断だろうか。

 

 しかし何はともかく、寒さを感じずにはいられなかった。椅子で寝てしまったとはいえ、一人で眠るとはこんなにも寒いものだっただろうか……あ、ダメだ、また涙が出そうだ。

 

 しかしその瞬間、腹が鳴った。こんなときでも食事をせずにはいられないのは、生物のサガか。そもそも昨夜は食事をした記憶はないから、余計だろう。

 

 はあ、と深いため息をついて、椅子から下りる。とぼとぼと部屋を出て談話スペースに……向かう途中で、そういえば昨夜は風呂にも入っていなかったことに思い当たった。

 

 ……ダメだなぁ、私。本当に、まったくのダメ人間じゃないか。

 愛する人の安否がわからないというだけで、人間はここまでパフォーマンスが低下するのか。なるほど、ジェダイが恋愛を禁止するはずである。今まであれやこれやと言ってきたが、私はその本質を今の今まで理解した気になっていただけのようだ。

 

 それでも、それでも私はもう、ヒミコのいない生活なんて……。

 

「理波ちゃん」

「ひゃあ!?」

 

 そのとき、突然声をかけられて私は思わず跳び上がった。驚いてそちらに顔を向ければ、そこにはジャージに身を包んだウララカが。

 

 どうやら、これから日課のランニングに行くところだったらしい。それに気づいて、思わずほっと胸をなでおろした。

 

「えと、その……大丈夫……?」

「……あまり、大丈夫ではない」

 

 しゃがんだウララカに、顔を覗き込まれる。心配そうな顔が、私をまっすぐに見つめていた。

 

「今も、君の接近にまったく気づけなかった。大丈夫ではない、けれど……それでも、生きていたら腹は減るから……」

「……そだね。お腹空いてるとついついネガティブなこと考えがちだし、ひとまずはいつも通りにするのがいいと思う」

「うん……あ、それと……昨夜はありがとう。正直あまりよく覚えてはいないのだが……部屋まで付き添ってくれただろう?」

「気にしないでええよ。私にとっては当たり前のことやし」

 

 ウララカはそう言って、にへっと笑った。同時に、その手が伸びて私の頭に乗せられる。

 

「あのね、私も被身子ちゃんのことすっごく心配だけど……それでも、戻ってきたとき理波ちゃんがげっそりしてたら絶対被身子ちゃん心配するだろうから。もうちょっとだけ、がんばろ?」

「……うん」

 

 慈母のような表情に、私は頷く。

 

 ……そうだな。まだすべてが終わったと決まったわけではない。元々時間制限のある“個性”なんだ、ある日突然元に戻る可能性だってゼロではないはず。

 “個性”自体がわりとなんでもありなものだし、解決する手段が見つかる可能性だってある。

 

 そうなったとき、私が潰れていたら間違いなく心配されるし、泣かれるだろう。それは本意ではない。ウララカの言う通りだ。

 

「あ、そうだ。昨夜のご飯、キッチンに残ってるはずだよ。ビーフシチューだったんだ。理波ちゃんのために残したやつやから、全部好きにしていいからね!」

「そうか。そういうことなら、ありがたくいただくとしよう」

 

 だから私は、きっとうまくはできていなかったとは思うけれど、なんとか笑みを浮かべてウララカに応じた。

 

「麗日さん……あ、増栄さんもいたんだ。おはよう」

 

 と、そこにミドリヤがやってきた。こちらもジャージ姿だ。二人の朝練は、途切れることなく続いているようで何よりである。

 

「おはようデクくん!」

「おはよう。……そう心配そうにしてくれなくても大丈夫だ。いや、本音を言うと正直厳しいのだが……ふさぎ込んでいても何かできるわけではないし、な」

「う、うん……その、無理はしないでね? 何かあったら、いつでも言ってくれていいから」

「うん……ありがとう。そのときは、よろしく頼むよ」

 

 そうして私がぎこちなくも笑うと、ミドリヤも同じくぎこちなく微笑んだ。今の私に内心は見えないが、彼のことだ。今回の発端になったことを気に病んでいるのかもしれない。

 

 だが察せても、言葉をかけられる余裕は今の私にはなかった。ランニングに出かける二人を見送り、一人でキッチンに向かう。

 するとウララカが言った通りの状況だったので、ありがたく残り物をいただくことにした。

 

 家事能力の低い私だが、さすがにコンロの点火や電子レンジの起動くらいはできる。それだけできれば、残っていたシチューを食べるくらいは造作もない。

 

 温め直したシチューを前に手を合わせ、一人「いただきます」とつぶやく。その瞬間、一気に寂しさが爆発して胸が苦しくなった。

 

 それでもなんとか押しとどめて、スプーンを手に取る。

 ものをよそって口に押し込めば、味覚はすぐさまそれが美味であると伝えてきた。

 

 けれど、

 

「……違うん、だよなぁ……」

 

 抱いた感想は、違う、だった。

 

 確かにおいしい。何せランチラッシュの料理だ、一度冷えてしまったのだとしてもまずいはずはない。

 

 ただそれでも、私にとって一番の味は、もう固定されてしまっているから。だから、どうしても少し違うと思ってしまう。

 思ってしまって。

 

 すぐさま、ヒミコの料理が食べたいと思ってしまって。

 

「……っ、ぇう、うぅ……ぐす……っ」

 

 起きてから我慢していた涙が、溢れた。

 それでも、スプーンを動かす手はとめない。ちゃんとヒミコを出迎えるためにも、私は万全でありたい。そのために食事を抜くことはできない。

 

 もちろん、そう思ったところで涙をすぐにとめられるはずはないので、それはもう気にしないことにする。どうせぬぐったところで、すぐにこぼれてくるのだし。

 

 そうして開き直った私は、べそべそと泣きながらもどうにかシチューを完食したのだった。

 

***

 

 その後、食器類を片付けたところでミドリヤたちが帰って来た。そのまま汗を流しにシャワーを浴びるというウララカに連れられて、私も浴場に向かう。

 気を遣ってか、なにくれと声をかけてくれる彼女には、本当に感謝してもしきれない。優しい人だ。彼女の想いが無事に成就するといいなと、改めて思う。

 

 シャワーを終えた頃になると、起きてくるものもだいぶ増える。全員が全員――バクゴー以外――私を気遣ってくれるので、いささか申し訳ない。

 昨夜の私は、それほどひどい状態だったのだろうな。本当、迷惑をかけた。

 

 と、言って謝ったところで、やはり全員が全員――バクゴー以外――「気にするな」とか「当たり前だろう」とか言うのだろう。それは予想というより、確信だ。まったく、本当に私は友人に恵まれたものだよ。

 

 ただ、登校時に両脇を固めて手を繋いでくるハガクレとツユちゃんには、恥ずかしいのでやめてもらいたいところである。完全なる善意によるものだから、言うに言えないのだが。

 

 ともあれ、そんな形で始まった一日。一人が欠けて、十九人となった教室で、朝のホームルームを終えた直後のこと。

 

 手招きしたイレイザーヘッドに首を傾げながらも、彼に連れられて廊下の隅に移動する。

 

「増栄、放課後もう一度病院に行くぞ。予定を開けておけ」

 

 そして私は、告げられた彼の言葉に目を丸くする。言葉の意味を理解するや否や、慌てて彼に詰め寄った。

 

「……もしや、何か方策が見つかったのですかっ?」

「最初から浮かんでたよ。ただ、本人の意思を確認する必要があったからな」

 

 そう言う彼に、私は自分でもわかるくらいに顔を綻ばせる。

 

「……エリちゃん、即答してくれたよ。がんばる、ってな」

「エリ……そうか、『巻き戻し』……!」

 

 一気に腑に落ちた。同時に、今までにないくらい心が躍るのがわかった。

 

 そうだ。そうだ、彼女の“個性”なら、きっと元に戻せる! 触れた生き物の時間を戻す、彼女の“個性”なら、きっと!

 二か月もの間みっちり訓練した今の彼女なら、暴走させることなく成功させてくれるはずだ!

 

「ただし、誰にも言うなよ。あの子の“個性”は強力すぎる。触りだけでも情報が漏れる可能性はできるだけ減らしておきたい」

「わかりました!」

 

 ヒミコ! ああ、ヒミコ!

 もうすぐまた会える! 早く、早く君に会いたい!




本来原作ではこの時期のエリちゃんはまだ個性の訓練を開始していないのですが、本作では八斎會編で巻き戻しのエネルギーを一切消費しなかったので、ほぼ事件直後から訓練を開始しています。
しかも訓練に協力できる人間が相澤先生の他に二人もいたので、訓練の進行も原作より早いです。
そのため、この時点でも彼女の力を借りられるというロジック。

本作ではミリオが個性を喪失していないのに、それでもエリちゃん関係の描写をカットしなかったのは、もちろん襲との関係性を描くためもありますが、ここでトガちゃんに巻き戻しを使用する予定があったからです。
ちなみに理波がクソ落ち込んでる頃アナキンが何をしていたかというと、今までなぜか会ってくれなかった息子たちから「ヨーダやオビ=ワンと待ってます」と急にコンタクトが来たのでそっちに行ってます。
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