銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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2.個性把握テスト

「個性把握テストを行う」

 

 端的にそう宣言したマスター・イレイザーヘッドに、場は騒然となった。

 ウララカがガイダンスはないのかと問い詰めていたが、イレイザーヘッドは「そんな悠長なことをしている時間はない」とにべもない。

 

 彼はそのまま個性把握テストの説明をさらりと済ますと、私に声をかけてきた。

 

「増栄。中学時代のソフトボール投げ、何メートルだ?」

 

 その問いに、全員の視線が私に集中する。

 だが残念ながら、この問いに対する答えを私は持ち合わせていない。

 なぜなら今しがたの個性把握テストの説明を受けるまで、体力テストというものが存在することを知らなかったのだから。

 

 しかしイレイザーヘッドの説明は、個性把握テストとやらが個性解禁の体力テストであることはわかっても、各種目の具体的な内容や、実施する目的、私がなぜか知らないでいた理由などがわからない。

 なので、諸々ひっくるめて私は問うしかないのである。

 

「マスター・イレイザーヘッド。申し訳ないのですが、体力テストとは一体どのようなものでしょうか?」

 

 そして私の回答に、マスターを含めた全員が硬直した。

 どうやら、普通なら知っていてしかるべきもののようだが……。

 

 ……あ、いや、例のミドリヤだけは、マスターのヒーロー名に目を輝かせて何事かつぶやいているな。

 

「……お前、体力テストを知らないのか?」

「存じません。受けたことがないもので」

「なぜ……あ。あー……そうか。そういえば、お前は飛び級だったな」

 

 何かに気づいたようで、マスターは頭をがしがしとかいた。

 対する生徒側は、ヒミコ以外の全員が驚いた顔で私を凝視していた。

 

「お前は確か、小五と中二をすっ飛ばしてたな?」

「はい」

「……そりゃ知らねえわけだ。あー、一回しか説明しないから覚えろ」

 

 そうして語られたのは、体力テストの概要である。

 

 なるほど、小学五年生と中学二年生のときに行う、身体能力の統計を取るためのテストか。それは確かに、そこを飛ばした私が知る由はないな。当然、記録も保持していない。

 

「各種目の細かい話は、同中のトガにでも聞いておけ。お前の順番は最後にするから」

「わかりました」

「じゃあ……一般入試の次席は爆豪だったか。お前、ソフトボール投げの記録は?」

 

 一通りの話を済ませて、マスターがバクゴー……先程教室で私に殺害宣言をした少年に話を振った。

 当の本人は、「俺が次席だと……!?」と憤慨していたようだったが。しかしマスターからの指示に、渋々ながらに答えた。

 

「……67メートル」

「じゃあ、”個性”を使って投げてみろ」

 

 ――円から出なきゃ、何してもいい。

 

 ボールをバクゴーに投げ渡しながら宣言するマスター。

 

 なるほどな。普通の身体能力に”個性”を加えることで、現在のポテンシャルを推し量ると共に、今後の指導に活かそうということか。

 

「ヒミコ……67メートルという記録は、どれほどのものなんだ?」

「かなりスゴいと思います。私なんて20メートルくらいだったよ?」

「ほう。男女の差もあるのだろうが、彼はかなり鍛えているのだな。気配で分かってはいたが……」

 

 そう解説をもらっているうちに、バクゴーが位置についた。

 

「死ねぇ!!」

 

 そして、気合一声。凄まじい爆発が彼の手で起こり、ボールはとんでもない勢いで吹き飛んでいった。

 

 ……うむ。かけ声の是非はともかく、相当飛んだのではないだろうか。

 

「705.2メートル」

「す――……っげえ!?」

「個性思いっきり使えるのか! 面白そう!」

 

 マスターが提示した記録に、生徒たちの多くが湧き上がる。

 

 だがその言葉を聞いた瞬間、マスターの雰囲気が一変した。それまでのどこか気だるげな様子から、威圧的な態度へ。

 私……と、ヒミコには本気ですごんでいるわけではないとわかるが、周りはそうは思わないだろうな。

 

「『面白そう』……ヒーローになるための三年間をそんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? ……よし、トータル成績最下位のものは見込みなしと判断して、除籍処分としよう」

 

 そしてそれは、その宣言によって明確な形を帯びた。

 同時に、ほとんどの生徒から非難の声が上がる。

 

「コトちゃん、あれって……」

「ああ、威嚇は大部分ポーズだが、除籍については本気だな。どうやら、随分と弟子に厳しい方らしい」

 

 声を上げるものたちをよそに肩をすくめる私に、ヒミコは「まあ私たちなら大丈夫ですね」と軽く笑った。

 

 彼女も今やフォースユーザーだ。おまけに私ほどではないにせよ、ジェダイ式の訓練を経験済み。アナキンにもかなり転がされている。これくらいは試練になどならないだろう。

 

 私も気負いはないのだが、それよりミドリヤがやけに怯えていることのほうが気にかかる。彼ほどの人間なら、何も問題はないように思うのだが、どうしたのだろう?

 

「増栄。さっきも言ったが、お前は全種目最後に回してやる。代わりに一度目は”個性”なしで測れ。二度目は”個性”あり。両方ないとデータとして使えんからな」

「それはつまり、私だけ計測の機会が少ないということですか?」

 

 私の指摘に、周りがさらにざわめく。心配そうな気配がほとんどであることを考えると、みな気のいい連中なのだろうなと思う。

 

 だが、マスター・イレイザーヘッドはそんなことは斟酌しない。

 

「そうだ。何か不満でも?」

「いいえ。その程度でいいのでしたら、いくらでも」

 

 だから私も、普段通りにやるだけだ。

 

***

 

 かくして始まったテストの第一種目は、50メートル走。他の種目は聞いても見当がつかないものもあるが、これはわかりやすい。見る以前に、名前だけで内容がわかる。

 それでも私の順番は最後に回されたので、他の面々の様子をゆっくりと眺める余裕があったのだが……この種目はイイダが圧倒的であった。

 

 彼の”個性”は、どうやら脚部に生じているエンジンがそうらしい。3秒04というかなりの記録を叩き出していた。

 にもかかわらず、彼は距離が短くて全力が出せないという様子だった。どうやら彼の”個性”は長距離のほうが向いているらしい。

 

 他にも、バクゴーが手から爆発を起こすことで猛加速し、4秒13という好記録を出していた。彼の性格や態度はいささか以上に問題だが、言うだけのことはあるということか。

 

 逆にミドリヤは、7秒02とかなりパッとしない記録だった。身体能力を増強する類の”個性”ではないのだろうか?

 

 そして私の結果だが、”個性”なしで4秒11、”個性”ありで3秒04。

 ”個性”ありの記録は当然としても、”個性”なしのほうも普通ならあり得ない。身長わずか1メートルちょっとの、しかも大して肉もついていない私が出せる数値ではない。当然、どよめきが起こった。

 

 だが、これがフォースである。フォースと共鳴し、その恩恵に与った人間は、この程度の記録は簡単に出せる。

 また、仕掛けはそれだけではない。私がどれほどの回数、栄養失調に陥ったことか。だがその成果は、まさに今出ようとしている。

 

「……おい増栄。お前、本当に”個性”を使ってないんだな?」

 

 ”個性”なしでは確実にあり得ない記録なので、マスターが直球に疑ってきた。

 だが本当に私は”個性”を使っていないので、当然と頷く。

 

「はい。なんでしたら、あなたの”個性”を使っていただいてもかまいませんよ。マスター・イレイザーヘッド」

「……いいだろう。続けろ」

 

 そうして行った次の握力。どう測るのかと思っていたが、取り出されたのはシンプルな装置である。

 

 この項目は、ヤオヨロズが創り出した万力で装置を破壊するという、見た目に反してアグレッシブな結果を叩き出していた。創造という”個性”らしいが、本当に”個性”とはなんでもありだな。私が言うのもなんだが。

 

 ともかく私の番。マスターは自身の”個性”を発動した状態で、私の”個性”なし測定を見守った。

 だが、結果は77キロ。これまた”個性”なしでは、私くらいの小娘が出せる数値ではないが……記録は間違いないものだ。

 

 これにはマスターも何も言えなかったのか、どこか納得いかないように……しかし表情は変えることなく、「次」と淡白に告げた。 そうして計測した”個性”ありの私の記録は、399キロであった。

 

***

 

 個性把握テストはそうして、ほぼつつがなく進んで行った。私は全体的に上位の数値を維持し続け、最終の順位は2位と相成った。

 

 なお1位はヤオヨロズだ。さすがに道具を創れてしまう相手となると、誰だって分が悪かろう。持久走でバイクを出してきたときは、さすがに笑ってしまったぞ。

 後先考えずに全力で全能力を増幅していれば、彼女の記録も上回れたかもしれないが……あれはやるとあとが続かないので、これでよかったのだろう。ミドリヤもそんなような内容の勧告を受けていたようだし。

 

 それとヒミコだが、彼女も私同様に上位を維持して7位にランクインしていた。しかし彼女の場合、このテストで”個性”は一切使用していない。

 なぜなら、計測を続けられるほど血のストックがない上に、誰かから(と言っても私以外に変身して個性が使えるかはわからないので、私からしか採らないだろうが)血をもらうことが禁止されたためだ。

 

 ともあれそういうわけで、ヒミコはフォースのみでの測定だが……それだけでも十分な記録が出ることは先に述べた通りである。本人も別にそれで困っていなかったので、それでいいのだろう。

 むしろ彼女より周りの生徒のほうが抗議していたくらいだが、マスターはさらっと却下していた。

 

 マスターいわく、「ストックが必要な”個性”なら、有事に備えいつでも使えるよう準備しておくべきなのがヒーロー」とのこと。

 要は常在戦場であれということであり、そういう点でヒミコの吸血は現着後の補給行為と同等とみなされたようだ。あるいは、”個性”の整備が足りないとでもいったところか。

 個性把握テストで事実上”個性”が禁止されたので、生徒の言い分も一理あると思うが……つまりマスターは、そういう”個性”に関わる自己管理ができているかどうかも見ているのだろう。入学初日だというのにそこまで要求してくるとは、あらゆる意味で厳しい方だな。

 他にも何か思うところがあるようにも見受けられたが……まあ、彼は光明面の人だ。こんなところでそこまで深く探らずともいいだろう。

 

 逆に最後までパッとしなかったのがミドリヤだ。当初は増強するタイプの”個性”ではないと思っていたのだが、イイダいわく超パワーと引き換えに、反動で自身が大怪我をしてしまう”個性”らしい。

 

 実際、彼はソフトボール投げで700メートル超という記録を叩き出したが、結果として右手の人差し指は完全に使い物にならなくなっていた。なるほど、開始前にあれほど怯えていたはずである。

 そして、人間の域を超えた記録はこの一度だけ。その後の持久走に至っては痛みが響いたのか、ソフトボール投げで得た貯金を使い潰す勢いの記録であった。実にもったいないと言わざるを得ない。

 

 ちなみに、彼の指を治そうとしたらマスターにとめられた。やるなら全部終わってから、そして養護教諭の監督下でやれとのこと。

 後者はともかく、前者はヒーロー的には正論なのだろうが、恐らく医者なら却下であろう。少なくとも私には、それほどの怪我に見えた。

 だからマスターの言うことではあったが、私は食い下がって簡単な応急処置だけはさせてもらった。終わったら保健室に直行すべきだろう。

 

 ……だが奇妙だ。確かに地雷のような”個性”だろうが、それにしてもミドリヤの記録は全体的に平凡である。

 というか、下手したら周囲の女子より低い。それはこのテストで記録の底上げに使えそうにない”個性”のハガクレやアシドよりも低記録なので間違いなく(アシドの”個性”は酸らしい。本当に”個性”はわけがわからない)、ミドリヤの成績は堂々の最下位であった。

 普通、あのようなピーキーな”個性”であっても、ヒーローになろうとするものならある程度鍛えてきているはずだろう。そもそも増強系の個性は、地力が高ければ高いほど効果も高くなるものが多いのだし。

 

 だがミドリヤの動きは、努力の形跡は確かにあったがどこかぎこちなかった。それはまるで急ごしらえのようにも見えたが……。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 なお、最後にマスターがついでのように付け加えた言葉に、再び場が騒然となった。

 やる気を出させるための合理的虚偽、とのことだが……このマスター、なかなか食わせ者である。

 

「それが一番の嘘なのにねぇ」

「まったくだ。恐らく、最下位になったミドリヤとて見るべきところがあったから前言を撤回したのだろうな」

 

 まあ、彼の真意は別に誰も知らずともよかろう。この件は私たちの胸の内にしまっておくとして……。

 

「マスター。ミドリヤの保健室行きに同行して、養護教諭殿と面会したいのですがよろしいでしょうか?」

 

 すべてが終わり、ミドリヤへ保健室利用届け書類を手渡すマスターに声をかける。

 

「……ああ、治療ができるんだったな。いいよ。婆さんには一筆書いといてやる」

「ありがとうございます。……よし。ミドリヤ、すぐに保健室に行こう」

「え、でも着替え……」

「馬鹿者! それは放置していい怪我ではないぞ! 治せるなら即座に治すべきだ!」

「は、はいわかりました!?」

「ヒミコ、そういうわけだ。すまないが先に行っていてくれ」

「はい、教室で待ってますね」

 

 と、そういうことになったのだった。




なんだかんだで順調にクワイ=ガン門下に染まりつつある主人公。
普通のジェダイは煽られても煽り返さないんだよなぁ。

ちなみに最初は普通にやらせるつもりだったけど、体力テストってよくよく考えたら人生の間でやる機会多くないなと思ってこんな流れに。主人公、飛び級してるのでね。
まあ「中学の頃からやってるだろ?」という相澤先生のセリフは、体力テストが毎年行われてるんじゃないかって疑惑も感じさせるのだけど、そこらへんは独自解釈独自設定ってことで。

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