銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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閑話 幸せの記憶

「……む」

 

 夕食後。自室に戻るには少し億劫で、少しもったいない。だからこそ何人もが談話スペースに残り、思い思いの談笑にふける憩いの時間。

 食後のデザートを食べたくて、ソフトクリーム機に近寄った理波が声を上げた。その声に、周りで盛り上がっていたA組の面々が何事かと顔を向ける。

 

 彼らの視線の先には、ソフトクリームをコーンに出しながら難しい顔をしている理波の姿が。

 

「コトちゃん、どうかしたんです?」

 

 踏み台に乗って、精一杯に背と手を伸ばしてソフトクリームを出す小さな背中に率先して声をかけるのは、もちろんトガだ。いつでも理波を迎えられる態勢のまま、首を傾げている。

 

「いやなに、残量がほとんどなくなっていてな……そういうわけだ、14O。洗浄と充填を頼む」

了解(ラジャ)了解(ラジャ)

 

 トガに応じつつも、なんとか目的を果たした理波はすぐに信頼厚いドロイドに指示を飛ばしながら戻って来た。彼女はそのまま、いつも通りにトガの膝の上に座る。

 

 そう、いつも通りだ。寮生活が始まって既に三か月以上。もはやここでは見慣れた光景であり、周りにいる誰もがそれに口を挟むことはない。

 たとえ乗られたトガの表情が、友人以上を見る顔であったとしても。そこに口を挟まないのが、暗黙の了解であった。主に峰田の功績である。

 

「えっ、もうなくなったん? こないだも補充してなかった?」

「言われてみれば、確かにそうね」

「妙だな……夏でもないのにこの消費速度……まさか何者かが盗み食いを!?」

 

 なので、彼らの口から出るのはソフトクリーム機についてのみだ。そちらのほうが、ここでは遥かに問題なのである。

 

 とはいえ、飯田の言葉に賛同する者はいなかった。

 そもそも今の寮は厳重なセキュリティの保護下にあって外部からの侵入はほぼ不可能であるし、ヒーロー科の寮であるこの場にそんな不届き者はいないと誰もが信じているのだ。

 

 彼らの意見は、一致していた。ただ単に、たくさん食べられているだけなのだ、と。

 

「単純に、食べる量なり頻度なりが高いんでしょー?」

「だと思うぜ。そこらで食うソフトクリームより美味いのができるんだもんな」

「ソフトクリームの原液を作っておられる14Oさんの腕がいいのでしょうね。我が家でもレシピをいただきたいくらいですわ」

「上鳴、あんた普段から結構食べてるでしょ。もうちょい自重しときなよ」

「い!? いや俺だけじゃねーだろ!? 峰田とか峰田とか峰田とか!」

「待て待て待て、女子も結構食ってんぜ!? なあ!?」

 

 指摘された上鳴が、道連れと言わんばかりに峰田を巻き込んだ。当然のようにそれを嫌った峰田は、同じく女性陣を道連れにする。

 

 普段なら、彼の物言いは女性陣からブーイングを受けることが多いのだが……今回はそうはならなかった。そういう自覚が、女性陣にもあったからだ。

 

 特に芦戸や葉隠、麗日などは反応が顕著だ。頭をかいたり、視線を逸らしたりして、愛想笑いを浮かべるばかりである。

 彼女たちに紛れて目立っていないが、八百万も少々頬を染めて口元を手で隠している。女性ではないが、常闇も槍玉に挙げられないよう存在感を消すことに集中し始めた。

 

 そんなクラスメイトたちの様子を微笑ましく眺めながら、他人事のようにソフトクリームを舐めていた理波だったが……突如として背後から言葉で刺されることになる。それも最も信じている愛しい人に、だ。

 

「コトちゃん? 自分は関係ないみたいな顔してぺろぺろしてますけど、ソフトクリーム一番食べてるのは間違いなくコトちゃんですよ?」

「ん゛ッ!? わ、私か!?」

 

 このやり取りに、改めて視線が理波に集中する。ただし、先ほどとは違い「ああ……」と言いたげな生ぬるさが込められていた。

 

 だが、当の理波の顔には納得できないと書いてあるかのようなふくれっ面である。

 

「まさかそんな。そりゃあ、持ち主の特権で優先的に使わせてもらってはいるから確かに少しは多いかもしれないが……それでも五十歩百歩だろう?」

 

 これに対するトガの顔は、「ダメだこいつ早くなんとかしないと」と言いたげにしわくちゃだった。

 

 そんな彼女を援護するかのように、蛙吹が口を開く。

 

「ケロ……理波ちゃん、放課後寮に戻ってきたら大体一度は食べているわよね?」

「ん……それは、まあ。だが私だけではないだろう?」

「ボク知ってるよ☆ それだけじゃなくって、夕食後にも毎日一回は必ず食べてるんだってこと☆ 食後のスイーツってやつだね☆」

「それどころか、なんだかんだで二回は食べることが多いな」

「それがトガ特製のパフェになる日もあるな」

 

 理波の反論に対して、青山と障子、そして常闇が言い返す。

 

 ぐ、と理波が言葉を詰まらせた。だが、援護射撃はとまらない。

 

「あれ? 休みの日とか、昼食後にもソフトクリーム食べてなかった?」

「ああ、食べてるわ。違いないわ」

「う」

 

 さらに尾白と瀬呂が追撃をかけ。

 

「あ! そういえば、朝ごはんでもたまーにハニトーするときあるけど、そのときもアイス代わりにソフトクリーム使ってるよねー!?」

「おお、確かに! 豪勢にやってたな!」

 

 最後に芦戸と切島がとどめを刺した。

 

 もはや反論できない理波はトガの膝の上で自らの膝を丸めると、片手で脚を抱いて顔を隠す。

 

「わかりましたか、コトちゃん?」

「わかったから……私が一番悪かったから……もう許してはくれまいか……」

 

 そんな彼女に、背後からトガが耳打ちする。

 

 四面楚歌の理波は、ジェダイにあるまじき所業を繰り返していた己にただただ恥じ入るばかりだ。その顔は羞恥で赤く染まり、視線は誰にも向けられないまま泳いでいる。心なしか身体もぷるぷると小さく震えていた。

 

 この姿を見て、彼女がかつて屈強な身体の成人男性だったと思うものは、一人もいないだろう。

 

「ふふ……っ、やっぱこうやって見てると……ねぇ?」

「ああ、ちゃんと子供だよな。ちょっとほっとするわ」

「これがギャップ萌えってやつだよねぇ」

「うんうん、わかるわかる」

 

 実際、周りのクラスメイトたちも見た目通りの幼女を見る目で微笑ましく見守っている。数人に至っては、実際に笑っている。必死に堪えてはいるが、堪えきれずに漏れている。離れたところでは、半透明の幽霊も腹を抱えて爆笑している。

 

 一方峰田は成道(じょうどう)直後、悟りの楽しみを味わうブッダさながらの笑みを一人静かにキメていた。

 

「増栄くん! 君の“個性”上たくさん食べることは仕方がないのだろうが、しかし何事にも限度というものがあると思うぞ!」

 

 そんな中で、厳しいことを言い出せる飯田は根っからの善人だと言っていいのだろう。

 

 ところが理波はこの期に及んでも、もにょもにょと言い訳を口にしている。自覚はできたようで、勢いはもちろん説得力も皆無だが。

 

 ただ、そんな姿を見て嗜虐心を刺激された人物がいる。他ならぬトガである。

 彼女は位置関係的に理波から見えないことをいいことに、一瞬にたりと笑った。すぐに元の笑顔に戻ったが、そのまま流れるように飯田へ声をかける。

 

「飯田くん、もっと言ってあげてください。私気づいてはいたんですけど、コトちゃんがカァイすぎて怒れなくて……」

「ヒミコ!?」

 

 そんなトガの心境や発言を、フォースで察知できていた理波ではあったがもう遅い。

 既に賽は振られてしまった。真面目一徹な飯田が、この手の冗談を理解できるはずもなく。

 

「む、そうだったのか……! よしわかった! 不肖この飯田天哉、確かに承った!!」

「うぅ……お、お手柔らかにだな……」

「いいや、ダメだ! これは君を想ってのことなんだからな! 頼まれたこともあるし、じっくりやらせてもらうぞ! まずはそのソフトクリームは没収だ!」

「えっ……、そ、そんな……」

 

 張り切って、ずいと身を乗り出す飯田。彼の本気具合に、さっと青ざめる理波という構図が出来上がる。

 

「さすが飯田くん、委員長だ……!」

「やー、あれは委員長っていうよりお母さんじゃない?」

「飯田、誰か生んだのか?」

「ふはっ、なんでそうなるんだよ!」

 

 この様子を見て、そしてそれへの感想を口々にこぼしていた周りのものたちが、一斉に笑い始めた。もう我慢できない、と言いたげな爆発具合である。

 そしてこの状況を生み出した原因は、没収されたソフトクリームに追いすがろうとする理波を抱きすくめたまま、離そうとしない。

 

 半泣きの顔が、原因であるトガへ恨めしそうに向けられる。口をぐっと引き締めて、すがるような上目遣いだ。

 

 愛しい人のそんな姿があまりにも珍しくて、カァイくて。トガは口元が三日月のように、にんまりと笑うことを堪え切れなかった。

 

「あはぁ……カァイイ……♡ ステキ……♡」

「なんでそうなる!? もう! ヒミコのばか!!」

 

 そうして談話スペースには、さらなる笑いが巻き起こる。

 

 なお飯田の説教は、理波を膝に乗せているがために自らも説教を受けているにほぼ等しい状況をトガが嫌ったので、わりとあっさりと打ち切りを食らった。

 

 ただし、そんな中でも理波はしっかりソフトクリームのおかわり禁止を言い渡されてしまったため、一人でしょげていた。そこまで含めて、一連の流れはこの場の全員にとって愉快な一幕である。

 

 それは、平和で楽しいひとときの記憶。学生らしい、若者らしいバカな話をとめどなく続けて、笑っていられる幸せな時間の記憶。

 

 ――トガ・ヒミコの魂がこの世界から消失する、前日の夜のことであった。

 




A組メンバーには完全に気を許しているので、こういう風にいじられることになってもこれはこれでって思ってる理波の話でした。ちょっと短めでしたが。
でもそれはそれとして、ソフトクリームの没収やおかわり禁止には本気でしょげてるので、やっぱり根が幼女なんでしょうねこの子。
昔アナキンにアイスクリームネタで弄られてた頃からまるで成長していない。

実を言うとこの閑話を書く予定はまったくなかったんですけど。
空古さんより、二人がイチャついてる素敵な絵をいただきまして、モチベがモリモリ沸いたので書きました。掲載許可をいただきましたので、こちらに掲載いたします。

【挿絵表示】

あぁ~^
これは間違いなく付き合ってる距離感。素晴らしい!
改めまして、イラストありがとうございました!

・・・と、そんなわけで、改めてEP10はこれにておしまいです。
次回のEP11はトガちゃんの行方とか、劇中劇としてのスターウォーズの謎とかも進展しつつ、本筋は劇場版二作目のヒーローズライジングになります。お楽しみに。
ただ次のEPはトガちゃん不在のまま進みますので、その点はご了承くださいませ。
いつものように書き溜めをしますので、書きあがるまで今少し時間と予算をいただければ。
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