銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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4.ヴィランアカデミア・ダイジェスト

 少しだけ時間は遡り、一年A組たちが那歩島で活動を始めて二日目。

 この日、南国から遠く離れた日本本土、愛知県の泥花(でいか)市では、世間を震撼させる事件が起きていた。たった五十分ほどの短時間で、この地方都市は壊滅と呼べるほどの被害を受けたのである。

 

 その被害規模はゆうに神野事件を超えるものだったが、地方都市ゆえ人口が少なかったため、死傷者数もまた少ない。それを不幸中の幸いと呼べるものは、当事者にはいないだろうが。

 

 世間的にはこの事件、二十人のグループがヒーローに対する恨みによって引き起こしたとされている。

 

 だが事実は異なる。まったく異なる。

 この地で何があったのか。真実はどうだったのか。

 

 それは。

 

 それは、ヴィラン連合と、異能解放軍の全面戦争である。

 

 ……ヴィラン連合については、言うまでもない。説明不要の組織である。

 

 対する異能解放軍とは何か? これを知るものは、現代には多くない。

 

 無理もない。その中心となる人物は、その母体となる思想は、現代においてはつい最近まで忘れ去られていた古いものだからだ。

 

 彼らの思想は一つ。”個性”……かつて異能と呼ばれたそれを、規制するのではなく自由行使できるようにするというものだ。

 人が自らの異能を使うことは、人として当たり前の権利であり。ゆえに人が人らしく能力を百パーセント発揮して生きるためには、異能に対する規制は一切不要とする思想。それが異能解放思想である。

 

 だが発案者であるデストロ……本名四ツ橋主税(ちから)は、とうの昔に死んでいる。自らの思想に賛同するものと共に大規模なテロを引き起こし、ときの政府と敵対したが鎮圧され、獄中で回想録を書き残したのち死亡しているのだ。

 

 しかし、彼の思想は生き残った。デストロの賛同者たちは地下に潜り、雌伏のときを過ごしたのち、現代にまで生き延びたのである。

 

 その中心にいるのはデストロの息子、四ツ橋力也。リ・デストロと名乗る彼は、新たな社会秩序を作るために蜂起……しようとしていたタイミングで、ヴィラン連合が社会に名を馳せたことを問題視した。社会を変える旗印は、先頭に立つものは、自分たちでなければならない、と。

 

 そうして動き出した異能解放軍は、ヴィラン連合と浅からぬ関係のあるブローカー、義爛を人質にして連合を自らの拠点である泥花市におびき寄せて殲滅戦をしかけた。それこそが、この日泥花市が壊滅した事件の正体である。

 

 ヴィラン連合側の戦力は、リーダーの死柄木弔を筆頭に、計八名。プラス、ギガントマキアが途中参戦して合計九名。

 対する異能解放軍の戦力はなんと、総勢約十一万人である。

 

 ……泥花市は、異能解放軍の本拠地だ。それは単にリーダーたちが根城にしているというだけではなく、ここの住民の九割がヒーローも含め異能解放思想に殉じるために訓練を積んだ戦士だからなのである。

 

 そんな圧倒的な人数差だ。常識的に考えれば、ヴィラン連合に勝ち目はない。

 けれども、勝者はヴィラン連合だ。多くが怪我を負ったが、それでも全員死ぬことなく……それどころか、五体満足で生き残った。

 

 この結果はもちろんギガントマキアの存在が大きいものの、彼は終盤に少しだけ参戦したに過ぎない。つまり連合の勝利は、ほとんどギガントマキア抜きで成し遂げられたものと言っていい。

 

 なぜなら、本来の世界線に比べてそもそもヴィラン連合側の戦力が多い上に。

 本来ならここにいるべきトガ・ヒミコの代わりに存在する死柄木襲が、ギガントマキアと単体で渡り合える戦力の持ち主だからだ。

 

 情報を収集・分析することに長けた人材が豊富な解放軍に襲の”個性”は割れていたため、リ・デストロが待ち構える場所まで一気に迫ることはできなかったが……それでも、襲一人で大部分の戦士たちを蹴散らすことができてしまったのだ。

 

 ただし、そうした戦果は襲一人によるものではない。トゥワイスによって増やされ、合計三人となった襲たちによるものだ。

 一人でさえ規格外の戦力を誇る彼女が、三人になって泥花市内を所狭しと暴れまわったのである。これについては、解放軍側の見積もりが甘かったと言うしかないだろう。

 

 結果、解放軍幹部のキュリオスはマスタードに取材を敢行して追い詰めることには成功したが、背後から襲によって首を刎ねられて死亡。

 次いで戦士たちを「扇動」することで能力を強化する幹部、トランペットもまた襲の力任せなフォースグリップによって喉を潰され無力化された。

 

 戦力として最高クラスの幹部、外典(げてん)には荼毘が立ちふさがり、氷と炎の戦いは周囲を省みることなく大量の巻き添えを生んだ。

 

 しかしそれは見方を変えれば、荼毘一人で相手の最高戦力を釘付けにしていたということに等しい。

 逆もまた然りだが、荼毘は連合の最高戦力ではない。彼が外典を引き付けている間に三人の襲はほとんどノーマークで暴れ放題だったのだから、この選択は異能解放軍にとっては最悪の費用対効果だったと言うほかないだろう。

 

「雑魚どもは任せた。()()()()()

「ふぅーん? ……ま、しょーがないなぁ。最近いいトコなしのざこざこな弔くんだもんねー? ボクは大人で優しいからさぁー、相手のボスをぶっ壊す権利は譲ってあーげるぅ」

「うるせぇさっさと行け」

 

 戦いを開始する直前、弔と襲はそんな会話を交わしていた。すべてはそのように推移したのである。

 

 ただし、弔とリ・デストロの戦いは熾烈を極めた。両者の戦いに、襲は命令はこなしたとばかりにまったく介入しなかったため、リーダー同士の戦いは百五十パーセント以上に引き出された”個性”同士が正面を切って暴れ回る、はた迷惑な全面対決となったのだ。

 

 泥花市が「壊滅」した原因は、大半がこの戦いによるものである。追い詰められた弔が”個性”を()()()()、直接触れていないものすら崩壊させられるようになったことで、二人の戦いの場を中心にした一定範囲内はすべて更地と化したのだ。

 

 そう、死柄木弔は”個性”を取り戻した。同時に、記憶もまた取り戻した。

 彼が彼であるゆえん、死柄木弔としてのオリジンを取り戻した彼は、オールフォーワンの後継者に相応しい戦いをして見せたのである。

 

 これによって、リ・デストロは全面降伏を決意。異能解放の思想を掲げた彼は、すべてを破壊するという死柄木弔に光を見た。弔が引き起こす破壊に、抑圧からの解放を見た。

 

 かくして異能解放軍は敗北。ヴィラン連合に吸収されることとなり、戦いは終わりを迎えたのである。

 

 このとき、その決着を目撃したギガントマキアもまた死柄木弔をオールフォーワンの後継者として認めたため、終わってみればこの戦い、ほとんど何もかもがヴィラン連合に利益をもたらすことになったと言うほかない結果だ。

 

 ()()()()()()()。何せオールフォーワンは、ここまで見越してタルタロスに入ったのだから。

 ここまで見越していたからこそ、ここでの戦いが弔に覚醒を促すだろうと予想したからこそ、長年連れ添っていたドクターも弔たちに手を貸したのだ。

 

 すべては魔王の手のひらの上のこと。世紀をまたいで生きる巨悪にとっては、異能解放軍すらも糸に吊られた人形に過ぎない。

 彼らは操られていた自覚なきままに蜂起し、敗北し、ヴィラン連合の、死柄木弔の養分となったのだ。

 

 かくしてヴィラン連合はそうとは知らぬままに魔王に導かれて、飛躍した。異能解放軍を吸収した彼らは超常解放戦線を名乗り、社会を破壊する戦いを始めることになる。

 

 だがそれは、もう少し先の話。四か月ほど、先の話。

 

 今は視点を戻して、那歩島での物語を。

 そこで重ねられる彼女()()の物語を、紡いでいくとしよう。

 

「約束通り、力を授けよう。お前がそれを望むなら。だが……その前に少々やってほしいことがあっての。あるものを運んでほしい」

 

 泥花市の戦後すぐ。死柄木弔は、ドクターにそう頼まれた。

 弔にしてみればその程度のおつかい、頭を下げられてもやりたいとは思えなかったが……自らが求める圧倒的な力の対価の一つと言われてしまえば否とは言えない。

 

 ただし彼自身、泥花市の戦いで結構な重傷を負っていたため、比較的軽傷で済んだメンバーを選びこの依頼に任せることにした。

 

 だが結果として、この依頼は完全に成功したとは言えないまま終わった。目的のものを運送中、察知したヒーローたちによって妨害されてしまい、ものは運んでいたトラックごと崖下に転落してしまったのだ。

 

 とはいえ、失敗でもない。トラックが落下した場所は、届け先に極めて近いところだったからだ。

 そして運ばれていたものは……もとい、人物は自力で移動し、目的の場所に辿り着くことができた。

 このとき動いていたのも、すべてトゥワイスによって作られた分身たちだ。殺されても懐は痛まない。だから、決して失敗ではないのだ。

 

 そんなヴィラン連合、ひいてはドクターによって世に解き放たれた人物の名は、ナイン。そう、少し前にドクターによる実験に被験体として立候補した男だ。

 

 戦争によって疲弊し、ヴィラン連合が潜伏期間に入ったこの隙を縫って、彼はすぐに動き始めた。

 

 仲間と合流し、動き始めたナインの姿を遠くの高所から見下ろしていた死柄木襲は、通信機の先に問いかける。

 

「……ねーねードクター。あいつら勝手にやるみたいだけど、どーするワケぇ?」

『好きにさせてやるとも。あやつに植え付けた”個性”「オールフォーワン」の因子が、どのような挙動をしどのような結末を迎えるのか……ワシの興味はそれだけじゃからな』

「……そんな気はしてたけどさぁ……」

 

 あくまで”個性”の研究以外に興味はないと断言するドクターに、襲はため息をつく。

 

 これでナインが志願した被験者でなければ、とっくにキレていただろうが。生憎とそうではないので、襲もそれ以上に思うところはないのだ。

 何があっても自業自得。そういう認識であるから。

 

『そういうわけじゃから襲ちゃんや。あやつの行く末、見守ってやってはくれんかのう。怪我なんぞないじゃろうし、暇じゃろ?』

「面倒だし、ヤ」

『もちろんタダとは言わん! もし手伝ってくれるなら、お前さんに言うことを一つなんでも聞いてあげちゃうぞ!』

 

 だが、連合の援助者であるドクターにそこまで言われてしまったら、襲も意見を変えざるを得ない。

 眉を片方上げて、次いで楽しそうに口元を歪めた。冬の冴え冴えとした月明りが、そのあくどい笑顔を映し出す。

 

「……ふぅん? なんでも?」

『ウム、なんでもじゃ! もちろんワシにできる範囲で、じゃがな?』

「ちぇ、あんなこととかこんなこととか、しこたまやってあげよって思ったのになー? こーしゅーの面前でさぁー」

『なんと恐ろしいことを!? やらんからな!』

「……まーいいや。何するかはあとで決めるとして……約束だよ、ドクター? 破ったら、殺すからね?」

『もちろんじゃよ! そんな恐ろしいことせんわい!』

 

 かくして、役者は出揃った。

 本来の世界線とは異なる役者たちが、南国は那歩島に集結する。

 

 事件が、いよいよ幕を開ける。

 




以前に後書きで書いていた通り、ヴィランアカデミア編はダイジェスト。
原作との違いはいくつかありますが、一番大きな違いはトゥワイスがトラウマを克服しなかったこと。する必要がなかったとも言う。
つまりサッドマンズパレードがないままです。なので戦力という意味では微妙なままなわけですが、無尽蔵に増やせないということは逆に言うとホークスから危険視されないということでもあるので、トゥワイスの命だけを見ればプラスに近づいてるっていう。

もちろん、それが彼にとって幸福かどうかは別の話なので、どうするかは悩んだんですけども。
しかしそれはそれとして、ここでトゥワイスが目覚める必要がないくらいの戦力差だったということは、逆に言うとトゥワイスが目覚めていたら全面戦争編の難易度がヤバいことになるわけでもあり・・・。
あっちを立てればこっちが立たずということで、悩んだ結果最終的にサッドマンズパレードfeat.襲をやらせたら絶対にまずいと判断。この形に落ち着きましたとさ。

ちなみに、本作の通りのタイムスケジュールだと、ナインは解放されてから複数のヒーローたちの個性を何個も奪いながら、さらに映画ゲストのお父さんも襲って個性を奪ったうえで、那歩島に向かうまで一日程度しか時間がなかったりします。
犯人たちの事件簿みたく、「やることが・・・やることが多い・・・!」ってなってると思います。
原作漫画と原作映画の整合性が微妙につかないから、セットにしようとするとどうしてもそうなってしまうんや・・・! 堪忍したってや・・・!
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