微妙な時間帯だったからか、漁港にはあまり人がいなかったらしい。港内はかなり破壊されてしまったが、しかしおかげで人的な被害はないようだ。
取り残された人も既に避難を始めている。事件のほとんどない島ではあるが、意外と危機意識が高いな。本土の人間など、ヴィランが出たら物見遊山気分で野次馬に来るものだが。
とはいえ人的被害の少なさは、ヴィラン側が本腰を入れていないからこそでもあるのだろう。漁港に残っていた女ヴィランは港を破壊してからも散発的に攻撃を放っていたが、それも威嚇のようなものに見える。
ただ、さすがに私の姿を見とめてからは挙動が変わった。フォースで読み取るまでもなく、私を自由にするわけにはいかないという意思が透けて見える。やはり、下手に目立つものではないな。
まあ、これはこれで悪いことばかりではない。元々いざというときはこういう役割分担で行こうと、クリエティと話し合っていたのだ。であれば、私は相手の意識を集中させる囮役に徹するべきだろう。
私にばかり意識が向いていれば、クリエティのほうも避難誘導がはかどる。ぜひそのまま、私にだけ注目し続けておいてほしい。
「前に出る」
「……! お気をつけて!」
「任せろ」
クリエティに告げながら、私は大股で前へ出る。女ヴィランがいるほうへとだ。
これとほぼ同時に、女ヴィランのほうから攻撃が飛んできた。どうやら、あの非常に長い髪の毛を針の弾丸のようにして発射してきているようだな。
数が非常に多いので、ライトセーバーで弾くことは難しいだろう。だが、単調な直線の遠距離攻撃であれば、セーバーを抜くまでもない。
私は迷うことなく片手を前へかざした。フォースがみなぎる。
するとそこから放たれるフォースプッシュ――斥力によって、こちらに迫った攻撃はすべてが空中でピタリと動きを止めた。
かざした手のひらの向こうで、女ヴィランの顔つきが変わった様子が見える。完全に私を排除すべき脅威と認定した様子だ。
「いきなり攻撃とは、随分な挨拶だな。念のため聞いておくが……話し合いに応じるつもりは?」
とはいえ、私はジェダイだ。たとえ相手が犯罪者であろうと、問答無用で切りかかるなどしない。直前までの所業からして、九割九分応じられないとはわかっていても……それでも相手が同じ人であるならば、言葉が通じるのであれば、対話の窓は常に開けておくべきである。
……まあ、案の定返事は攻撃であったわけだが。
「是非もない。ではこれより君を無力化、しかるのちに拘束する」
再度飛んできた攻撃を片手のフォースプッシュで受け止めつつ、残る片手でフォースプルでセーバーを手元に引き寄せ、起動。橙色の光刃をソレスに構える。
直後、女ヴィランが猛然と切りかかって来た。彼女の両手には、指先全てに鋭利な刃物が取り付けられた手袋がはめられている。加えて、髪の毛がうごめいて巨大な、複数の刃のようにして襲い掛かってきていた。
それらすべてが十分な威力を持った脅威であり、おまけに速い。手数の差もあって、こちらから攻撃を仕掛ける隙がない。セーバーと髪の毛がぶつかって、金属同士がぶつかったような耳障りな音が鳴った。
しかし私は焦ることなく、立体機動の要領で身体の前面から空気を増幅して距離を取る。
矮躯とはいえ人間を一人空にいざなうほどの勢いで放たれる空気は、大人であろうと無視できるものではない。女ヴィランは一瞬怯み、さらに吹き飛ばされまいと踏ん張った。
私には、その一瞬さえあれば十分だ。ライトセーバーの刀身を伸ばしながら、女ヴィランの身体を警戒の外から薙ぎ払う。
「ぐっ!?」
その勢いに押し出されて、女ヴィランは姿勢を崩して海に落ちた。
私はそれを見送りながら、フォームをアタロに構え直す。
どうやら相手の”個性”は、髪の毛を操るもの。ただ操るだけではなく、硬度もかなり自在に変えられるのだろう。でなければ、セーバーとぶつかった瞬間に金属めいた音などしない。恐るべき練度だ。
しかしライトセーバーの真価の前では、単純な硬度は意味を成さない。あれがあくまで髪の毛であると言うのなら……。
と、ここまで考えたところで水の中から再び髪の毛の弾丸が発射された。当然、フォースプッシュによって停止させる。
だがこれは単なる目くらましだ。私は即座に横に跳び、避難誘導中のクリエティに標的を変えようとした女ヴィランの前に立ちはだかる。
直後、女ヴィランが水の中から飛び出てきて、固めた髪の毛の刃が振り下ろされた。
それが成人の腕力を優に超える力で振るわれていることは先ほどまでの攻防で理解できていたので、セーバーで受け止めつつも後ろに跳んで威力を受け流す。
「チィッ! ガキの分際で面倒なやつだね!」
「誉め言葉として受け取っておこう。だがいずれにしても……」
「ぐぅっ!?」
もちろん追撃が放たれたが、私はソレスでいなしながら隙間を縫ってフォースプッシュを使い、再び女ヴィランを吹き飛ばす。
「ここから先には通さない。君はここで、縛についてもらうぞ」
再び水の中に落ちる女ヴィランに、言葉で追撃する。
とはいえ、至近距離で相対した感覚ではこの女ヴィラン、この程度の口撃では怯むことも激することもないだろう。
実際、吹き飛ばされながらも彼女は髪の毛を巧みに操り、私の足首をつかもうとしてきた。これは間違いなく、油断していい相手ではない。
だから私は瞬間的にセーバーの出力を上げ、足元を一閃した。
問題はない。その予感があったから。
「何!?」
そしてその予感の通り。一瞬でプラズマの超高温を取り戻した光刃は、ただ硬くなっただけの髪の毛を何の抵抗も許さず切り飛ばした。
この切れ味は予想していなかったのだろう、吃驚する女ヴィラン。切り離されたことで、”個性”の制御から離れたらしい髪の毛が地面に落ちる。
それでも、まだ十分以上に残る髪の毛を動かして水面を叩き、反動で態勢を整えるところは見事と言う他ない。
さらには転覆して底を空に向ける小さな漁船の上に、危なげなく着地するバランス感覚も素晴らしい。これほどの実力者が、ヴィランであることが残念でならないな。
だがヴィランはヴィランだ。私は改めてセーバーをアタロに構え直しつつ、相手に声をかける。
「見ての通り、君の”個性”は私を相手取るには相性が悪い。このまま投降してもらえると、こちらとしては嬉しいのだが」
「調子に乗ってんじゃあないよ……!」
とはいえ、返答が否であることは最初からわかっていた。この手の輩が、簡単に諦めるはずがないのだから。
もちろんと言うべきか、否と同時に攻撃も飛んできた。女ヴィランは足場のものとは異なる手近な漁船を複数、固めて伸ばした髪の毛で貫くと、こちらに向けて投げ飛ばしてきたのだ。
判断としては、実に正しい。フォースプッシュによる飛び道具の封殺は、飛んでくるものの質量や大きさなどで可否が決まると言っても過言ではない。当然、重ければ重いほど。大きければ大きいほど成功率は下がる。
小さくとも漁船は相応の大きさを持つ重量物であり、それが複数飛んできたとなれば、今までのような対処は不可能だ。
他に手段がないとは言っていない。やりようはいくらでもある。
だが相手の思惑としては、これを防がれなければそれでよし。防がれたとしても、今までと違う方法で防いだ場合は今までの攻撃に比べれば有用であると判断できる、というものだ。
ゆえに、素直に防ぐだけでは手落ちと言える。セーバーで切り刻むのも、よろしくないだろう。短時間とはいえ、この場に釘づけにされることになる。
ならばどうするか。答えは上だ。普通なら空中は身動きが取れない場所であるため悪手になりかねないが、私の場合はそうではないのだから。
もちろん、飛び上がりながらも警戒は緩めない。追撃を防ぎ、あるいはかいくぐりながら、一気に相手の懐に飛び込む。
その弾幕は相当なものであるが、どこが穴で、どこがこじ開けられるかは、フォースが教えてくれる。己の感覚を、何よりフォースを信じる。フォースユーザーになるとはそういうことだ。
「ふっ!」
「この……ッ!」
立体機動を駆使して、女ヴィランの周辺をアタロで動き回って要所要所に攻撃を叩き込んでいく。
ライトセーバーの出力は元に戻っているため、それそのものは脅威にならない。
だがいつでも出力を自在に変えられるという事実を既に見せているので、相手としてはみすみすこれを喰らうわけにはいかない。下手に受け止めることもできない。そうやって思考に余計なリソースを割かせることで、優位に立ち回るのだ。
実際何度かこの攻防の中で、私は固めた髪の毛の一部をそうやって切り落とすことに成功している。手袋の指先につけた金属製の爪も同様に。
それができない状態でも、ライトセーバーは棒で殴る程度の威力にはなる。だから私にとってはどちらに転んでも問題ないのである。
なお、フォースユーザーがただの人間一人相手に随分慎重にやっているように思われるかもしれないが、この女ヴィランは時折クリエティのほうへ瓦礫などを投げるなどして、常に私の隙を作ろうとしてくるのだ。油断は一切すべきではない。
まあ、私はクリエティのことを信じているので、その陽動に引っ掛かることはないのだが。
いずれにせよ、これが前世だったら既に腕なり脚なりを切り落として終わらせているのだが……ヒーローはその程度のことでも歓迎されないので、ここは仕方がない。
あるいはインゲニウムに施したような、義肢技術を普及させれば逆説的に腕を落としたとしても妙に咎められることはなくなるだろうか?
そんな、薄暗いことをちらりと考えた瞬間だった。
強烈な悪意が島の中のほうから感じられて、思わず思考が逸れる。
さらに直後、急激に空の気配が変わり、雲もほとんどない夕焼けを切り裂いて雷が落ちた。
二人分の声なき悲鳴が、フォースを通じて聞こえてくる。デクと、キングダイナの声。
「……っ!」
私は思考もせずにそちらへ身体ごと向き直った。立体機動が乱れる。そちらへ、彼らのいる方向へ、私は――
「――理波さん!」
直後、下から声が飛んできた。
引き寄せられるようにそちらを向けば、避難誘導を終えたクリエティの姿。彼女は毅然とした態度を崩すことなく、私をまっすぐ見つめている。
そんな彼女の瞳に、はっとした。
そうだ。落ち着け。冷静に考えろ。
デクたちを助けに行くなということではない。様々な情報を、要素を組み合わせて、それが真実妥当であるかどうかを考えるのだ。
そんな私の視界の中を、女ヴィランが猛然と駆けていた。感じられる感情は、焦り。ここで釘づけにされていることではなく、あの雷が落ちた先にいるであろう人物に対する心配。
……なるほど。そういうことであるならば。
「クリエティ、合わせてくれ!」
「承りましたわ!」
私は、まだここに残る。この相手を、女ヴィランを優先する。
そう判断して、私は改めて立体機動を開始した。数秒の間、慣性だけで空中を移動していた身体に活を入れ、もう一度空を切って勢いよく飛行する。
出だしが遅れたため、女ヴィランに追いつくまでに少し時間がかかる。だが十分だ。間に合う。
なぜなら、クリエティが牽制してくれるからだ。彼女は「創造」したクロスボウで女ヴィランを攻撃している。
放たれているものは矢ではなく、あちこちに転がっている瓦礫だ。どうやらリソースと手間と時間を節約するために、あえて通常とは異なる構造で創造したようだ。
いい判断だ。おかげで女ヴィランには、かなりの頻度で瓦礫が高速で飛来している。それを無視して先に進むことは、武器を半分ほど失っている女ヴィランには少し難しい。
「ええい邪魔をするな!」
「それはこちらのセリフだ」
「くそッ!?」
おかげで私が追いつけた。激しく複雑に飛び、私はいくつものフェイントを織り込みながら女ヴィランの前へと回り込む。
そこからは、先ほどまでとほとんど同じ展開である。
だが今度は私一人ではない。クリエティも一緒だ。彼女が的確にサポートを入れてくれたおかげで、先ほどよりも格段に戦いやすくなっている。
そして、そのときは来た。
「はッ!」
「ぐああぁぁ!?」
私はフォースの導きに従い、ライトセーバーの刀身を伸ばした。伸ばしながら突きを放つ。
すると切っ先は一切の妨害をすり抜けて、正確に鳩尾に直撃。女ヴィランは軽く吐しゃしつつ吹き飛び、地面を転がり動かなくなった。
まあその、いくら手練れのヴィランとはいえ、シンプルな武器的な個性のヴィランが個性込みで完全武装のジェダイ相手にタイマンで勝てるかって言うと、ね。スライスにとっては相手が悪かったとしか。
理波本人も自覚している通り普段よりもメンタルが弱ってるので、隙がないわけではないんですが、そこは仲間の存在があるので。
逆に言えば、ヤオモモがいなかったら結構マズかったのも事実だったり。
ところでさすがに連続で無感想が続くと堪えたので、そろそろ何かしらいたたげないかなって・・・いただけたら嬉しいなって・・・(チラッチラッ