顔を覗かせた太陽の光が差し込み、闇が退いていく。夜明けだ。
そして同時に、ヴィランたちがやってくる。彼らは逃げも隠れもせず、三人一塊となって砂州を歩いてこちらに向かってくる。実に大胆なことだな。
だがそのほうがこちらとしても都合がいい。作戦通りに動かしやすくなる。
戦いの狼煙を上げるのは、クリエティとCan't stop twinkling。砂州から島に上がり、斜面へと踏み込んできたヴィランたちが特定の地点に差し掛かったタイミングで。
「Can't stop twinkling スーパーノヴァ!☆」
Can't stop twinklingが、今の彼に出せる最大出力のネビルレーザーを発射する。彼の”個性”特有の甲高い音と共に、青く煌めく極太の光線がヴィランたちへ一直線に迫る。
人一人どころか、数人を巻き込んでなお余りある太さのレーザーだ。中心に立つナインは自らの”個性”――バリアを展開するものだろう――によって悠々と防いだが、周囲を固めるスライスとキメラはさすがに回避を選んだ。射線から離れるべく、その中心にいるナインから距離を取ったのだ。
そこを狙って、クリエティが大砲を放つ。彼女に残されたほぼすべての脂質を注ぎ込んだ砲身から放たれた弾は、いずれもヴィランたちに当たらない。
だがそれでいい。これの狙いは相手を穿つことではなく、特定のポイントまで誘い込むことなのだから。
果たしてその狙い通り、スライスはこの島の地下にある洞窟へ。キメラは同じく島の水源でもある滝へと誘導されていった。
「分断成功」
「ウェーイ!」
「予定ポイントに誘い込めてるよ!」
その様子を確認した私は、状況を口にする。これに続いたチャージズマとイヤホンジャックの言葉には、喜色が浮かんでいる。
ここが成功しないと前提が崩れるので、まずは第一段階は無事済んだと見ていいだろう。
スライスの相手は、ツクヨミとピンキーがする。
選んだ場所が光のほとんどない地下洞窟なので、主力は当然ツクヨミだ。闇が濃ければ濃いほど力を増す彼の”個性”ならば、既に弱体化しているスライスに後れを取ることはないだろう。敵もさるもの、油断は禁物だが。
キメラのほうは、ショートを先頭にインゲニウムダッシュ、レッドライオット、フロッピーの四人が相手取る。
滝に誘い込んだのは、フロッピーによって水の中に沈めてショートに凍結させることで封じ込めを狙ったからだが……まあ、マミーから聞き出したキメラの能力からして、それで終わることはないだろう。
では残るナインはどうするか、だが……まずセロファン、ウラビティ、グレープジュースによる大量の瓦礫や岩石で生き埋めにする作戦が取られている。
集めるのは大変だったが、三重にものを放つ準備ができているので、生き埋めにできなかったとしても相応に消耗させられるはずだ。
そこを突破されたときのために、三人のやや後方にはデクとキングダイナが陣取っている。とはいえ恐らく突破されるので、最後は彼らによる直接対決になるだろう。
そして私とチャージズマ、イヤホンジャックはターゲットにされているシマノ姉弟の護衛だ。
また、私はこの場の指揮を執ると共に、遠隔からの攻撃で前に出ている五人を支援する役目を負っている。
なお、テンタコルとテイルマン、それにインビジブルガールの三人は避難しているものたちの護衛としてそちらについている。
超人社会となった地球だが、”個性”を戦うために鍛えている人間は少ない。その少数に入らないものたちのことを考えると、そちらにも人数を割かねばならなかったのだ。
と、そうこうしているうちにも状況は進んでいく。ウラビティによって無重力にされた大きな岩石たちを、三重に展開したテープによって接着し、雨あられと敵に降り注がせるセロファン。
だがナインは慌てることなく手先から弾丸を乱射し、これを的確に撃墜していく。漏れて彼に迫ったものも、展開されたバリアによってことごとく防がれる。
これをさせないために、私はフォースを用いて妨害する。プッシュやプルはもちろん、手の向きを変える程度だがフォースグリップも駆使してだ。
フォースブラストは使わない。ライトセーバーを伸ばしての援護も、マイナス増幅もだ。
昨日からかなり”個性”を使っているため、もう栄養にあまり余裕がないのだ。私が後方に配置されたのは、その辺りの兼ね合いもある。
そのため、ナインへの妨害は十分ではない。
さすがに敵の首魁というべきか。あるいは力こそすべてという理想を掲げているからか、彼は非常に戦い慣れている。それは攻めるだけでなく、守る、かわすという方面でも揺るぎない事実のようだ。身体の使い方が抜群に上手い。
「……第二地点、通過された」
フォースによる妨害を続けながら、報告を口にする。
「もうかよ……わかっちゃいたけど、実際にやられると目の前だっつーのにマジわけわかんないんですけど」
「でも想定よりは時間稼げてるよ。ここは上手く行ってるって考えたほうがお得でしょ」
イヤホンジャックの言う通り、現時点ではいい傾向にある。相手の消耗具合が正確にはわからないので目安でしかないが、それでもだ。
「ああ。それよりもチャージズマ、そろそろ本命地点だ。ここを突破されたら君のターゲットエレクトも射程範囲になる、備えはいいな?」
「もちろんだぜ! ……そんでもまだ有効射程じゃねーし、電撃放てるほど充電だって残ってねーけど、いいんだよな?」
「ブラフでもしないよりはマシだからな。相手の意識を少しでも割ければそれでいい」
「もうちょっと肩の力抜きなよチャージ。そもそもあんたの一番の役割は、敵の落とす雷対策なんだからさ」
「お、おう、任せとけよ! なんせ電撃を受けることに関しては誰にも負けねぇからな俺!」
マミーからの情報と、実際に交戦した二人の話を合わせて考えるに、ナイン本来の”個性”は気象操作である。昨日、島に降り注いだ突然の雷はそれによるものであり、私とクリエティに向けられた竜巻もそうなのだろう。
このうちもっとも殺傷力が高い雷対策は、どうしても必要だった。自然のものではないためか直撃を受けても後遺症が残らない程度でしかなかったようだが、人間に向けるには十分すぎる。速さもあって、脅威であることには間違いないのだ。
これには私が全力でフォースバリアを展開すれば防げなくはないだろうが、それよりも「帯電」の”個性”を持つチャージズマのほうがうってつけだ。雷を受ければ彼が今までに消費した電気も補充できるので、一石二鳥である。
まあ、雷を受けたあとに戦闘ができるかどうかは彼にもわからないので、そこは賭けになるのだが。先にも述べた通り自然の雷よりは弱いようなので、決して分の悪い賭けではないと思う。
「おっ、本命行ったぜ!」
おっと、どうやらそうこうしているうちに、最後の仕掛けが発動したようだ。
今までのものは、前座。最後のものは、幅数十メートルを埋め尽くすほどの岩石と瓦礫の山である。せき止めていたものがウラビティによって解き放たれれば、それらは雪崩のようにナインを襲う。
最後にグレープジュースのもぎもぎによってそれらを接合してしまえば、脱出も不可能……というわけだ。
「やった!」
「成功だ!」
「……いや」
まあ、それもさして時間を置かずに吹き飛ばされたのだが。
「ウッソだろ!?」
「マジか……」
「マジ、だな」
もうもうと巻き上がる砂塵の中から、ナインが悠々と現れる。まったく堪えていないわけではないようだが、戦闘に支障はなさそうだ。効果は薄いと言わざるを得ないだろう。
対して、彼が瓦礫の山を吹き飛ばした衝撃によって、前にいた三人は吹き飛ばされている。
それでもなお立ち向かおうとする気概は素晴らしいものだが、これ以上は許可できない。彼らの命を消費することになる。
「……セロファン、ウラビティ、グレープジュースは撤収! 無理はするな!」
「遊びは終わりだ」
だが、ナインの両手から、紫色のオーラがほとばしる。どうやら、あちらも焦れてきたようだ。なおのこと、三人には無理はさせられない。
であれば、ここから先は彼らの仕事だろう。
「ッ、デク、キングダイナ、出番だ!」
「でえあァァァァ!!」
私が呼びかけている最中に、彼は既に前へ飛び出していた。今の今まで貯めていたものを一気に解き放つ巨大な爆破を見舞い、ナインの攻撃の出だしを強襲。攻撃を潰すとともに、ナインを数歩下がらせる。
その姿を見て、ナインが再び口を開いた。
「生きていたか……」
「寝言は寝て死ね!!」
キングダイナがいつものように、暴言でそれに応じる。
その隣には、デクが静かに並ぶ。彼の身体には、彼がフルカウルと呼ぶ緑色の閃光で覆われている。こちらもとうに臨戦態勢だ。
「「爆豪!! 緑谷!!」」
「やっちまえ!!」「行けぇぇー!!」
二人の背中を、チャージズマとイヤホンジャックの声援が押し出す。
これに応じるかのように、デクとキングダイナは同時にナインへ躍りかかった。
「ここから先は!」
「ブッ殺す!」
二人とも、攻撃に躊躇などない。作戦的には相手の消耗を強いることが目的だが、二人とも倒せるなら倒してしまおうという気概に満ちている。
キングダイナはともかく、デクのほうもそうであることには少し意外に思うところもあるが……元より手加減できる相手ではない。それは一度戦った彼らが一番わかっているだろうから、そうもなろう。
だが、やはり戦うことにかけてはナインのほうが一枚上手のようだ。
何せ彼には手札が多い。その多くは、手に入れてからさほど時間は経っていないはずなのだが……どれもこれも手札として十分以上だ。彼が振るう”個性”は、もしや元の持ち主はどれもヒーローか?
中でも、バリアの精度が非常に高い。正面からであれば、キングダイナの爆破もデクのパワーも完全に防ぎきっているのだから恐れ入る。
とはいえ、私がフォースで妨害し続けることもあって、戦況としてはこちらのほうがやや優勢だ。少しずつだが、ナインを後退させている。後ろからは、シマノ姉弟の歓声が聞こえてくる。
だが、まだ本番と言うには遠いだろう。なぜなら、ナインは今もなお本気を出していない。
本気を出せば身体に強い負担がかかる以上、元々本気を出せる状態ではないのだが……先にも述べた通り、あとがないとなればそこは関係ないだろう。
実際、遠くからだがかすかに感じるナインの心中にある天秤は、少しずつ本気を出すほうへ傾きつつある。彼にとっても、デクたちはそれだけ無視できない強敵なのだ。
であれば、ナインが本気を出す可能性は高い。遠からず戦況は逆転するだろう。私が真実動くべきときはそこだ。
「……勝つぞ、みんな」
爆破や掛け声など、様々な音を聞き分けながら。
戦塵逆巻く彼方の様子を眺めながら、私は祈るようにつぶやいた。
後半戦がスタート。佳境ももうすぐです。
改めて原作見直すと、マジでナインの戦闘力がおかしい。
劇場版第二作目の展開は、堀越先生がヒロアカ最終回の案として考えていたものの一つを使ってるので、当たり前と言えば当たり前なんですけど。
だとしてもヒロアカはボスの強さに定評がありすぎるんよな。今原作でやってる第二次全面戦争、マジで決着どーすんの?
なおナインの放つ雷が自然なものより弱い、というのはいつもの独自解釈です。原作見てると、あんなぶっとい雷の直撃受けたわりに軽傷っぽく見えるので・・・。