ナインたちとの決戦自体は、さほど長くかからなかった。時間にして三十分あるかどうか、と言ったところだ。
夜明けと同時に戦いが始まったので、終わった直後もいまだに夜明けと言える頃合いだった。
随分と短時間で済んだと思われるかもしれないが、これはナインに急速な消耗を強いることでスキを作りそこを突くという作戦の根幹上、そうならざるを得なかったと言うほうが正しい。短期決戦を挑まなければ、やられていたのは私たちだったかもしれないのだ。
とはいえ、勝ってからもやることは山積みだ。
中でも最初にやらなければならないことは、確保したナインたちをしっかりと拘束すること。これだけは他のほとんどを後回しにしてでもやらなければならない。
ただし、両手両足を縛る程度ではどうにもならないことが多々あるのがヴィランであり、彼らを完全に拘束するにはどうしても”個性”を封じるものが必要になる。
この島にそんなものがあるのかと言えば、実はある。一応はこの島にもヒーローはいたのだし、離島であっても最低限の警察機構は置かれているからな。
ということで、動けるA組メンバー総出でナインたちを拘束したのである。
まあ、そのナインは始末されてしまったわけだが、それについては後ほど語るとして。今は少しだけ時間を遡って、彼が殺される前の時点に何があったかを語ろう。
ナインたちの拘束が終わったあとの私たちは、怪我人の治療と被害状況の確認に追われることになった。
私はと言えば、普段なら治療に駆り出されるのだが、栄養が残り少ないのであまりきちんとした治療を施すことはできない。なのでこれについては、昨夜もお世話になったこの島の医療従事者の方々にお願いすることになる。
カツマ少年も協力を申し出てくれたが、既に事件はおおむね解決していて差し迫った状況ではない。命に別状のあるものもいなかったので、彼の手を煩わせるほどでもない。
そのため、未成年で資格を持たない彼に、これ以上仮免許の私たちが”個性”を使わせるわけにはいかなかったので、丁重にお断りさせていただいた。
そしてようやくそろそろ一段落したかな、と言った頃合い。少し離れたところから、突然人々の歓声が上がったので私は首を傾げた。
何事かと思ってそちらに出向いてみると、どうやらキメラの放った破壊光線によって崩れた地点に洞窟が現れ、その中には社があったらしい。
だとしても随分と島民……特に自治会長の女性が興奮していると思ったが、
「それはそうですよ! 何せこのお社、超常黎明期のゴタゴタで行方知れずになっていたのですから!」
とのことらしい。なるほど、それは盛り上がっても仕方がない。
聞けば見つかった社とやらは、実に最低でも千年以上前から存在したものらしい。なんでも、この島に現存する最も古い事物だったのだとか。
それが事実であれば、観光資源としてはもちろん文化的価値は計り知れない。彼らが喜ぶのも無理はないだろう。
だが、それとは別に私には驚くことがあった。その見つかったという社とやらがあった洞窟の中が、非常にフォースが濃かったのだ。
とはいえ、ジェダイの聖地とされるような場所にはまだ及ばないが……しかし間違いなく、フォースが薄いこの星にあっては上から数えたほうが早い濃さだと思う。
それだけでも十分驚くに値するのだが……一番はそこではない。何よりも私の意識を引いたのは、見つかった社そのものである。
何せこの社、見覚えがあったのだ。今までこの島のあちこちで漠然と感じていた、既視感という程度のものではない。はっきりと、記憶として残っているものとよく似ていたのである。
だからこそ、私は驚くばかりであった。
なぜなら、その社の形は――
「ジェダイテンプル……!?」
――かつて私が在籍した、あの寺院のようだったのだから。
「よろしかったら、近くでご覧になりますか?」
「ぜひ!」
驚いている私に対して、自治会長から声がかけられた。嬉しそうに微笑んでいる。どうやら興味を持ってくれたと思われたらしい。
それは勘違いなのだが、しかし歴史的なあれこれに興味があることも事実である。この手の文化的な話は好みなのだ。
ただ、そういう趣味的なことよりも、この機会を逃したら次にこの社に近づける機会は恐らくなかなか来ないだろう、という予感のほうが先立った。直感した、と言ってもいい。だから私は、食い気味に頷いた。
そうして案内されるまま、私は社に歩み寄る。
日本の領土にあるこの島ではあるが、社の外観に日本らしさはないと言っていい。完全に文化圏が違う。全体が石造りの小さな平屋に、これまた小さな五本の尖塔が生えているような形である。
こうして至近距離で眺めれば、やはりその形はジェダイテンプルのそれだ。縮尺としてはかなり小さいが、しかしコルサントにあったジェダイテンプルのものとほとんど同じ形と断言できる。
ということは、つまりそういうことなのだろう。
私がかつて生きていた、銀河共和国。そこからこの星にやってきたものは、この那歩島に根を下ろしていたのだ。
その事実を確認できただけでも、この島に来たかいがあるというものだ。思わず嬉しくなって、久しぶりに気分が高揚するのを自覚する。
「……ああでも、さすがに完全とはいきませんか。返す返すも超常黎明期の騒乱が残念でなりません」
そんな私をよそに、社の中から出てきた島民と言葉を交わした自治会長が残念そうにこぼした。
どういうことかと思って視線で続きを促してみると、彼女は律儀に応じて語り出した。残念そうな顔はそのままに。
「記録によれば、このお社の中にはご神体や神器とされるものが複数安置されていたのです。その昔、天より来たりし神の化身たちが持ち込んだとされるものと伝えられていたのですが……それが大半紛失してしまっているようでして」
天より来たりし神の化身とは、まず間違いなくジェダイだろう。今ほど科学技術が発達していなかった当時の地球人にしてみれば、フォースによる様々な現象が神の御業と思われても不思議ではない。
特に、死亡した際にアナキンたちと同じくフォースと一体化して消滅していたとしたら。そんなところを目撃したものがいたとしたら。それは確かに、神の化身と言われるというものだろう。
複数形で伝わっていることも気にはなるが、ともあれそんな人間がもたらしたものとなれば、まず間違いなく銀河共和国の道具か何かだろう。
「たとえばこちら。ご神体が安置されていたという、台座なのですが……」
そんな風に考えていた私の前に示されたのは、どこからどう見てもホバリングプラムだった。既に機能停止しているようだが……まあ、千年以上経っているなら、そうもなるだろう。
ホバリングプラム……言ってしまえば機械製の高機能な揺り籠である。リパルサーリフトをはじめとして、頑丈な覆いと保護者への追従機能などを持っており、銀河共和国ではありふれた道具の一つだ。
そのため、ご神体……重要な品を安置する場所としては確かに理には適っているのだろう。千年以上昔の地球に、これを上回る保護具があるとも思えない。
ただ、エネルギーがなければそれらの機能は使えない。そういう意味では、無事にご神体とやらを保護できていた時間はさほど長くはなかっただろう。だからこそ、自治会長が言うように紛失したのだろうな。
「……空っぽですね」
「ええ。まあ黄色やオレンジ、青など様々な色の宝石が埋まった岩という、いかにも高価そうな見た目をしていたそうですから。ならずものが見つければ、持って行ってしまってもおかしくありません」
自治会長の話に、私は曖昧に頷く。
おかしいと思ったのだ。なぜって、そんな色とりどりの宝石を複数内包する岩石など、この星に自然にあり得るだろうか?
宝石は成分の他、置かれた環境における温度や圧力で変わるものだ。それらをすべて満たす場所は惑星内部にしかなく、ごくごく近しい距離の中でそれらの条件がバラバラになることなどまずあり得ないと思うのだ。
だが銀河共和国で生まれ育った私には、それを人工的に造る手段に心当たりがある。これは現代の地球でも、やれないことはないだろう。それだけの機械技術があれば十分だ。
ただ、銀河共和国にはもう一つ。機械などに頼ることなく、自然の岩石に対してほとんど手を加えることなく同じようなものを作る方法がある。一般的に可能なことではないが、フォースユーザーが集まれば、いけなくはないはずだ。
そのためには、その宝石とやらはカイバークリスタルである必要がある。なぜかと言うと、カイバークリスタルは基本無色だが、生物が持つフォースに感応することで色を変える結晶だからだ。
無論地球には存在しないものだが、ここがジェダイによって建立されたと思われる以上、前提が異なる。ここにあったものが地球外から持ち込まれた可能性が高い以上、この仮説は十分成り立つと思う。
「他にも色々あったはずなのですよ。超常以前は、それらがオーパーツということでその手の雑誌に掲載されたこともあったとか」
「オーパーツ……時代にそぐわない品物のことですね」
「ええ。たとえば神器としてまつられていたものの中には、SF映画に出てきた小道具とそっくりな剣があったと聞きますし……」
……それはライトセーバーなのでは? いや、もしかしなくともライトセーバーだろう? なんとまあ……まさかあったとは。
しかしここには見当たらないので、それらも何者かに持ち出されたのか。だとしたら、もっと騒ぎというか、問題になっていてもおかしくないとも思うが……。
ふむ……オカルト系の雑誌に掲載されたことがあった、か。雄英に戻ったら少し調べてみるか。当時、それがどういう風に噂されていたか少々気になる。
「あとは、金属製の箱らしきものも収められていたそうですよ」
思考をやや明後日の方角へ飛ばす私をよそに、自治会長はそう言いながら大きさを示すためか、両手でものを包むような仕草をした。どうやら、成人が片手でつかめる程度の大きさのものらしい。
「史料によれば、銀色に輝く正十二面体の箱とのことで……ただ剣とは異なり、それがどういうものなのか。中に何が入っているのか……そもそも中にものがあるかどうかもわからなかったのだとか」
と思っていたら耳を疑う言葉が聞こえて、また私は驚愕する羽目になった。
銀色に輝く、正十二面体の箱? しかも大きさが、片手に収まる程度の大きさだと?
それはもしかしなくても、ホロクロンのことでは? これはますます、ジェダイが地球に来ていたと確信できるな。
と、思ったところで脳裏にふと閃くものがあった。確かイッシキやシガラキ・カサネが所属していた銀鍵騎士団は、創立メンバーがどこかの洞窟で銀の鍵を入手したことに端を発するという話ではなかったか?
まさか……まさかとは思うが、それがここなのか? ここで彼らは銀の鍵を、ホロクロンを入手したのか?
だとしたら、国立博物館のバックヤードに収蔵されたままになっているあのホロクロンは、まさか……。
驚きつつも、そう考えを巡らせる私をよそに、自治会長は興が乗って来たのか話を続ける。
彼女が次に示したのは、ホバリングプラムが安置されていた場所のさらに奥。暗くなっていて見えないが、彼女はそこにあった壁を、手にしていたスマートフォンにライトを灯して指し示したのである。
「こちらには、神々のお言葉が刻まれていると伝わっております。超常以前に何度か調べられたことがあるのですが、文字だろうということしかわかっていないものでして……」
「…………」
思考を戻して言われるままに覗き込んでみると、こちらもなかなか目を見張るものあった。
何せそこに刻まれていたのは、銀河ベーシック標準語……すなわち銀河共和国の言語だったのだから。
とはいえ、ホロクロンに比べればさほどのものではない。ジェダイがここにいたことはもうまず間違いないだろうから、銀河共和国の文物がどんどん出てきたとしても何もおかしくない。文字も同様で、ある意味で思った通りのものが出てきたと言った趣である。
だからこそ、身構えていた私は力を抜いた。抜いてしまった。
その状態で遺されている文章を読んでしまい……おかげで私は、今まで以上の驚愕に襲われる羽目になった。
いや、驚愕という言葉では足らない。あるいは戦慄、と言ったほうがいいかもしれない。それほどの衝撃が、私の身体を脳髄ごと貫いていた。
となればもう、私には取り繕うことができず……それでもなんとか自分を抑えるため、涙でにじみ始めた視界はそのままに、嗚咽を上げないようにするために慌てて両手で口を閉ざした。
「……? どうなさいました?」
「……い、いえ……っ、その、……なんでも……、なんでも、ありません……っ!」
自治会長に気を遣われてしまったが、だからと言って私には、わななく自分の身体をとめることなどできなかった。
なぜなら、なぜならそこには、こう書かれていたのだから。
『私の愛しい愛しいコトちゃんへ――――』
ドチャクソ久しぶりすぎる、今後使えるかどうかもわからないスターウォーズ用語解説第六回
「ナブー」
銀河共和国のミッド・リム(共和国の首都惑星コルサントから近くもなく遠くもない地域)に属する惑星。
EP1「ファントム・メナス」の舞台の一つで、アナキンの妻にしてルーク、レイアの母であるパドメ・アミダラの出身地。すべての黒幕、ダース・シディアスの生まれ故郷でもある。
非常に豊かで美しい自然に恵まれた星であると同時に、銀河共和国で一般的に使われている資源であるプラズマエネルギーの産出地として知られていた。
絵に描いたような典型的な平和な国だが、アナキンに端を発するスカイウォーカーサーガは、この星で生まれたダース・シディアスの手によって、この星で引き起こされたとある事件から始まる。
そのため、映画作品としてのスターウォーズ始まりの地がタトゥイーンであるならば、物語としてのスターウォーズ始まりの地は、ある意味このナブーとも言える。
ヒロアカ的には、劇場版第二作目「ヒーローズ:ライジング」の舞台、那歩島の元ネタ。
前述の通りスターウォーズ始まりの地の一つが元ネタなので、本作においてもジェダイが流れつき根を下ろした場所という、理波に繋がるあらゆる事象の始まりの地という設定。
ただし、卵が先か鶏が先かは、もはや誰にもわからない。