フォースクロークを使って人の波に紛れ、監視カメラの目をごまかしつつ。
カメラのない車両を選んで新幹線に揺られること一時間弱。私は無事に東京までやってきた。
博物館までの道中も同様に移動し、博物館でも基本的にやることは同じだ。
ただ、I-2Oを出してセキュリティを掌握してもらうところは今までと違う。
セキュリティそのものは落とさない。用意しておいたダミーの映像にすべて差し替えるのだ。
もちろん、センサーの類はさすがに落とす。しかしこちらも、表向きは起動している状態を維持した状態でのシャットダウンだ。
そこまでやった上で、ようやく中へと忍び込む……前に。博物館に向けて、手を合わせて頭を下げる。
こうしたところでこれからすることが変わるわけではないし、聞き届けるものもいないが、それでも謝罪はしておきたかったのだ。
その後、私が潜り込んだのは博物館のバックヤード。この手の施設が収蔵する品の大半はこちらにあるのが常であり、ある程度分類はされてはいても、数が膨大すぎて普通に探そうとすると大変に手間取ることになる。
しかし、既に大雑把な場所は特定済みだ。伊達に前世で情報管理を職務にしていたわけではない。
もちろんその範囲の中から探すだけでも、普通ならそれなりの手間だが……今回の探し物はホロクロンだ。フォースを通すことで、起動する記録媒体である。
であれば、フォースユーザーの私にとってはそこまで難しい仕事ではない。何せ、普段の索敵と同じような要領でフォースを周辺に飛ばせば何かしらの反応があるはずだからな。
これが銀河共和国のように、ホロクロンを保管あるいは秘匿する場所や手段がそれなりにあるなら話はまた変わるのだが。ここはフォースの薄い惑星地球であり、フォースを利用するだけの技術も知識も、道具もない。
なので、私はほとんど迷うことなく目的のものを見つけることができた。
一番面倒だったのは、広い上に整理整頓がされていない室内の移動だった。
次点で高所に手が届かないこと。前世ほどとは言わないが、せめてヒミコと同じくらいの背丈が欲しいところだ。
しかし何はともあれ。
「……見つけた」
棚の中から、写真で見たものと寸分違わぬ形のホロクロンを手に取り思わずほうっとため息をこぼす。
造られてから相当な年数が経っているからか、ヒミコのフォースは感じられないが……そこは仕方がないだろう。もうすぐ彼女にまた会えるのだと思えば、そこは気にならない。
とはいえ、ここで中身を閲覧するわけにはいかない。どんな情報が込められているかはまだわからないのだ。
もしも心を揺さぶるようなメッセージが入っていようものなら、私は絶対に号泣してしばらく動けなくなるだろう。それだけは避けなければならない。
ということで、ホロクロンは懐に仕舞う。代わりに、持ち込んでいたダミーのホロクロンを同じ場所に置いておく。
これは見た目はそっくりだが、本当に見た目だけという代物だ。ホロクロンとしての機能は一切ないので、文字通りダミーである。
とはいえ以前にも触れたが、フォースユーザーでもなければそれを認識する手段はない。年代測定にでもかけたらわかるだろうが、一度調べられたあと一度もここから動かされていない品にそこまでするものはいないだろう。
「よし……撤収だ」
やるべきことはすべてやり終えた。なので、すぐさまここから撤収する。
セキュリティを来たときと同じ状態にすべて戻し、私がいたという痕跡を消す。そうして立ち去る前に、もう一度謝罪してから博物館を後にした。
道中、周囲に私を気にするものはいない。視線も感じないし、警戒や監視といった気配もゼロだ。フォースから危険を伝えられることもない。嫌な予感もだ。
それでも、まだ気は抜けない。来たときと同じく……いや、それよりもさらに気をつけて元来た道を戻る。帰りの新幹線は終電になったため乗客がほぼおらず、少しはらはらしたが……。
「……ふうー……! なんとかやり遂げた、か」
日付が変わる直前に、寮まで戻ってくることができた。
「ウマクイッタナァ、ますたー。案外コーユーノニ向イテルンジャネーノ?」
「やめてくれ。こんなことはこれっきりだからな」
空き巣なんて前世も含めて初めての経験だが、こんな重圧を始める前も最中も、何なら終わったあとも感じるような行為なんて、もう二度とするものか。
というか、世の犯罪者はよくこんなことをしていられるものだな……。私に言わせれば、なんでもありのポッドレースのほうがまだ気楽だぞ。
自室の椅子に身体を預けて、思わずため息をこぼす。自分でも思っていた以上に、深いため息だった。
だが、いつまでもそうしているつもりもない。確かに大きな疲労と後悔があったが、それを凌駕する期待もまたあったから。
ただ、すぐにホロクロンを起動するのも少しためらわれた。
この中に、恐らくはヒミコのメッセージがある。けれどもし、そうでなかったら。そう思ってしまって。
だから私はしばらくの間、椅子に腰かけた状態のままホロクロンを手の中で転がしていた。相反する二つの感情がせめぎ合う中で、ぼんやりとホロクロンを眺める。
……通常、ジェダイのホロクロンは未起動状態だと立方体をしていることが多い。だが起動すると角の部分が外れ、フォースとの反応によって空中に広がることで正多面体の本体が姿を現す仕組みになっている。
このホロクロンは、その外れる角の部分がない。最初から起動状態のときと同じような、正十二面体だ。それにしても、少しジェダイホロクロンとは異なるのだが。
しかしこうやって手の中で転がしながら細部を見ていると、どうやら角の部分は本来存在していたように思える。角の部分が存在していた痕跡は、はっきりと見えるのだ。
外れてしまったか、意図的に取り外したかのどちらかなのだと思う。どちらかまではわからないが……。
「……よし」
そうしているうちに、ようやく私の中で覚悟が決まった。たとえこの中にあるものが望んだ答えではないとしても、それを受け入れる覚悟が。
だから私は全身を、魂を、フォースと共鳴させる。私が発したフォースがホロクロンに染み渡り、緑の光が機体に灯る。
直後のことだ。私の手の中からホロクロンが自然と離れ、空中に制止する。待機状態だ。こちらからの入力を待っている、そんな状態である。
待機状態自体は、珍しいものではない。一つのホロクロンに複数のデータを入れることはままあることだから、必要な情報にだけアクセスできるようにデータを分けてあったり保存領域を区分けしたりしているのだ。銀河共和国末期……つまり前世の私が生きていた頃は、そんなホロクロンが主流だった。
つまりこのホロクロンには、複数の映像が記録されている。これはすべてを確認していたら、徹夜になってしまうかもしれない。
そんなことを考えながら、ひとまず一番手前のデータを再生……しようとして、思わず首を傾げた。
状態から言って複数のデータがあるはずなのに、アクセスできるデータが一つしかなかったのだ。これは一体どういうことだろうか?
とはいえ、この状態で考えていても仕方ない。とりあえず予定通りにデータにアクセスし、保管されていたホログラム映像を再生した。
出てきたのは、フォースの基礎について。あるいはその歴史であったり……ジェダイであれば、基本中の基本とも言えるものを教える映像番組のようだった。まるでジェダイ・イニシエイトの教材である。
もしかしたら、例の銀鍵騎士団はこれを元に研究を進めていたのかもしれない……が、言語が銀河ベーシック標準語だから違うか? それとも翻訳するような”個性”でもあったのか。
ただ、そんな映像をしばらく無言で眺めていたが、ヒミコは影も形も出てこない。解説している声は女性のものだが、明らかに彼女ではない。
がっかりだ。心の中で、闇が降り積もる気配を感じた。と同時に、ああ私はまた暗黒面にと自責の念を……。
と、その瞬間だ。私が闇の誘惑を感じた、まさに瞬間のことである。突然ホロクロンが動き始めた。
こちらからは操作していないのに。映像はまだ続いているのに。
ホロクロンの中心部分が放つ光が、いくらか色を変えたのだ。正十二面体の面から放たれる光の、四分の一が赤に切り替わった。おかげで考えていたことが吹き飛び、思わず距離を取って身構える。
「……これは、一体どういう……?」
こんな挙動は、私の知識にはなかった。あるいは、前世の死後に開発された機構なのかもしれないが……。
考えながらホロクロンを検める。そして再び驚いた。なんと、アクセスできるデータが増えていたのだ。何がどうなっているのかわからない。
だが、増えたと言うならこれも確認しないわけにはいかないだろう。
そう思って、映像を切り替えたのだが……ここで私は顔をしかめることになる。なぜなら、再生された映像はフォースの暗黒面に関する教材だったのだから。
現状暗黒面に寄っている私だが、しかし秩序の側にいたい、いようと思っていることには代わりない。申し訳ないが、この映像は嬉しくない。
「……!?」
とここで、またしても変化が起こった。ホロクロンの光がまた変わった。
今度もまた、変化の規模は同じだ。赤い部分を残したまま、ホロクロン全体のさらに四分の一が黄色に変わったのである。
「……これで緑が二分の一、赤と黄が四分の一ずつ。まさかとは思うが、もう一回変化する予定があるとは言わないだろうな?」
変化に対してそんなことを考えつつ、私はひとまず暗黒面の映像教材を停止。
代わりに、新たに出てきた黄色い部分に保存されていたデータを再生する。
「……?」
ところが、何も映像は出てこなかった。すぐにわかるような音声もない。
思わず首を傾げた……がしかし、何も収録されていないわけでもないようだ。あえて空白を作っている。そんな意図を感じる。
どうやらその予測は正しかったようで、たっぷり一分間の沈黙ののち、ホロクロンは銀河ベーシック標準語の文字を映し出して待機状態になった。
ホロクロンそのものの待機状態ではない。黄色い部分に収録されていたデータを一時停止した状態で、さらに音声入力を受け付けるための待機状態である。
パスワードの入力待ちだ。コンソールで入力するか、音声で入力するかの違いだな。
そして、映し出されている文字の内容こうだ。
『あなたが愛する人の名前は?』
使用者に問いかける一文でこれである。
これを確認すると同時に、私の心臓が大きく跳ねた。緊張と期待とで、溺れそうになる。
今までただの教材ばかり出てきたのに。ここに来ていきなりこれとは、びっくりするからやめてほしい。
けれどそんなお茶目な仕掛けが、どうにもヒミコらしい気がして。久しぶりに彼女に触れることができたような気がして。驚きつつも、私は確かに笑みを浮かべていた。
だって、答えは決まっている。地球において太陽が東から昇って西に沈むくらい、私にとっては当然の摂理だから。
だから、私は覚悟を決めて。
「――トガ・ヒミコ。それが私の愛する人の名だ」
けれど迷うことなく、その名前を宣言した。
マジメで何事にも一生懸命でさらに技術のある人間が闇堕ちすると、手が付けられないことをやりがちだよね。
ちなみに、複数の属性に反応するホロクロンはさすがに独自設定です。
反応した属性に応じてアクセスできるデータ領域が異なるので、持ち手が光、闇、中庸と複数の属性を扱えなければすべてのデータは閲覧できないという、ものすごく扱いがめんどくさい一品。
もちろん、理波以外の人間に核心に迫られるわけにはいかないトガちゃんが、あえてそういうものにしようとがんばった結果ですね。
ただ、ジェダイホロクロンとシスホロクロンを結合しようとする儀式は原作に出てきます。
ジェダイホロクロンは光の、シスホロクロンは闇のフォースがなければ起動できないという設定も、原作からあります。
なので、儀式として存在するならくっつけるのも不可能ではないよねってことで、出しました。
二人必要、かつそれぞれが光と闇の使い手でないといけないらしいので、トガちゃん一人ではこのホロクロンを造れません。
さて、それではこのホロクロンに関わった光と闇の使い手は誰でしょうね?