銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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4.トガヒミコ:ライジング

 ホロクロンが、データが、私の言葉を認識した瞬間である。

 

 映像から文字が消え、声が放たれた。

 

『――はい! 私もコトちゃんが大好きです! 愛してます!』

 

 ヒミコの声ではない。しかしその帯びた色は、調子は、間違いなくヒミコのものだった。

 嬉しさと、それに同じくらいの切なさで胸がしくりと痛む。思わず手が前に出る。

 

 しかし直後、そんな私を無視して、電子音と共にホロクロンの光が切り替わった。

 また緑が減った。これで緑は、全体の四分の一だけ。

 

 そして今しがた切り替わった、残る四分の一。新たに灯された光の色は、橙色。

 私と、ヒミコのライトセーバーの色。一緒に買い揃えた、ペンダントの色。私たちにとって、私たちを象徴する色。

 

 そんな光に私が目を見開く中、やはりアクセスできるデータが増えたホロクロンが、こちらからの操作を待つことなく映像を再生し始めた。

 今しがたアクセス権を得たばかりの映像。橙色の光がもたらした映像。

 

 そこに現れたのは、

 

「……誰だ?」

 

 見たことのない老いた女性だった。具体的な歳の頃はわからないが、少なくとも五十代は過ぎているだろう女性。

 ホログラムなのでどうしても青系統の色が強調されてしまっているが、それでもなおとても強い意思があるとわかる、澄んだ栗色の瞳が印象的だ。

 

『……初めまして、コトハさん』

「!?」

 

 そして口を開いて放たれた言葉に、私はもう何度目かもわからない驚愕をする。

 

 なぜなら、彼女が発した言葉は……この十一年で慣れ親しんだ、日本語だったのだ。銀河共和国で使われていた銀河ベーシック標準語ではなかったのである。

 

 しかも、ただの日本語ではない。私が使っている現代の日本語だ。

 言語は時代と共に姿を変えるもので、百年二百年単位でも容易に変化する。だが目の前のホログラムが放った言葉は、そんな気配が見られないほどに疑いようなく、現代日本語だったのだ。これで驚くなというほうが無理がある。

 

『私の名前はレイ。レイ・()()。一応は、最後のジェダイということになるのかも? 違う可能性もあるけど』

 

 だが驚いたままの私をよそに、女性……レイは話を続ける。録画された映像なのだから、当然だが。

 

 レイ・ソロ? それはもしや、アナキンの孫の名前ではなかったか。ということはこの女性が……。

 

 ……ん? だが、孫はスカイウォーカー姓だったような……あれ? なんだか記憶が曖昧だ。

 

 ……いや、今はそこを気にする必要はないか。まずはヒミコについてだ。

 

『これを見ているということは、島に遺されたメッセージは読んでくれたということよね? なら大体のところは察していると思う。

 でも、まだ疑問はたくさんあると思う。どうしてそんなことをしたのかとか、どうして銀河共和国人の私がニホンゴを話せるのか……どうしてあなたのことを知っているのか……何より、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私が思っていることをそのまま口にする彼女に、私は何度も頷いた。ただの記録映像にそんなことをしても無意味であることはわかっているが、どうにもせずにはいられなかったのだ。

 

『……これらの疑問に、私は答える準備がある。正確には、私ではないんだけど……()()()()()()()()。彼女本人は、ホログラムに姿を残せなかったから私が代役になるわ。その点は、ごめんなさい』

 

 そこで彼女は言葉を一度区切って、頭を下げた。日本人を思わせる、丁寧なお辞儀だった。

 

『……それじゃ、本題に入りましょう。まずは……これを見て。これが何か、わかるわよね?』

 

 私はここで、再び硬直する。もはや何度目かわからない驚愕の最大値更新に、目と耳を疑う。

 

 なぜなら、顔を上げたレイが見せたものは。

 彼女が服で隠れた胸元から引っ張り出したものは。

 

 トランプのダイヤのような形状の、ペンダント。

 ただのペンダントではない。ホログラム映像であっても、元が橙色だとわかるペンダントだ。開いて中にものを収めることができる、ロケットペンダント。

 

「なッ、なぜそれがそこにあるんだ!?」

 

 そしてあの日以来、ヒミコと共にどこへともなく消えてしまっていた、彼女の。私のものとお揃いのペンダント。

 

 レイが見せたのはそんな、私にとってとてもとても大切なものだったのだ。

 

『……ふふ』

 

 そのレイが、驚き続ける私をよそに、不意に笑った。今までの彼女の気配とは、異なる笑い方だ。

 目は細められ、口元が三日月のように歪んでいる。にやりとした、どこか凄みもある妖艶な笑い方。

 

 私はそれを、その笑い方を。

 

 とてもよく、知っている。

 

「……まさか」

 

 もうこれ以上はないと思っていたのに、私はさらに驚いた。ただのホログラム映像に思わず前のめりになって、うっかり椅子から落ちそうになる。

 

「まさか、まさか……君なのか……?」

 

 そんな私をもてあそぶように、目の前の彼女は笑みを深くする。嬉しそうに、誇らしそうに……何より、楽しそうに。

 

()()()……?」

 

 だから、私はその名前をつぶやいた。

 

 嘘、だろう? そんな、そんなことが、まさか? 本当に、そんなことが?

 

「……君、なのか?」

 

 返事はない。ただ、くすくすという笑い声だけが返された。

 私はたまらず、声を張り上げる。

 

「君、なんだなっ? 君は……君は、そこにいるのか!? そこに、そこにいるんだな!? ヒミコ!!」

『……はい。私は()()にいます。この子の身体の中に』

 

 果たして、返事は是であった。懐かしい笑みを浮かべた女は、私が世界で一番愛する人とは似ても似つかぬ声で……しかし私が誰よりも愛した人の口調で、はっきりと頷いたのだ。

 

 そしてレイの身体を借りたヒミコは、語り始めた。彼女の身に起きたことを、そして今に至るまでの冒険を。

 

***

 

 あの日……B組との対抗訓練でコトちゃんに全力全開で変身した私は、気づいたら真っ暗なところに倒れてました。

 あとから知ったことですけど、はざまの世界ってところらしいです。未来、現在、過去……すべての時間と場所に繋がってるところ、らしいんですけど細かいことはよくわからないので飛ばします。

 

 そんなところで目を覚ました私は、もちろん混乱しました。初めて見るところだったし、色んな人の声が聞こえるんです。未来の人だったり過去の人だったりの、色んな声が。

 

 もちろんコトちゃんの声もありました。だから、とりあえずコトちゃんを探して歩き回ることにしたんです。コトちゃんのいるところが私の居場所だから。

 

 それで歩き回ったはざまの世界には、色んな時間、色んな場所の光景を見られる場所があちこちにありました。もちろんそのときはそれがそういうものってわかんなくて、とりあえずそのとき一番近いところにあった丸い窓を覗き込んでみたんです。

 

 そしたら……見えたんです。砂と、機械の残骸だけの場所で、一人で寂しそうに泣いてる女の子が。

 

 だから私、思わず近寄っちゃったんです。深いことはなんにも考えなくて、身体が勝手に動いてたんです。だってコトちゃんならそうしたでしょ?

 それで私、女の子にまで近寄っちゃって。はざまの世界から出ちゃったんです。はざまの世界にいれば、いつかはコトちゃんのところにちゃんと戻れたはずなのに。

 

 おかげで私、過去の銀河共和国に飛ばされちゃったんです。あとになって思い返せば、私もちゃんとヒーロー志望できてたのかなって思ったんですけどね。

 

 正確には新銀河共和国、らしいです。シディアスのおじいちゃんがますたぁに殺されて、帝国が崩壊したあとの時代でした。私が出たのはそんな時期の、ジャクーっていう星でした。

 

 ……もしかしてもうわかっちゃったかもですけど、このとき私が救けようとしたのがレイちゃんです。お父さんとお母さんにジャクーに置き去りにされて、ひとりぼっちになっちゃった女の子でした。

 そんな彼女に私、話しかけたんです。お節介したんです。それで、仲良くなりました。

 

 でも私、身体をそっちに置いてきちゃったみたいで……過去に飛んだ私は、()()()()()()()()()。おかげで、誰にも見えないし聞こえない幽霊さんだったんです。

 

 でもフォースが使える人、感じる人には見えるみたいで。レイちゃんもそういうタイプだったので、私はある意味運がよかったんだと思います。そうじゃなかったら、誰にも見えない聞こえない状態でジャクーの砂漠をさまよってたかもしれないので。

 

 だってレイちゃん、すっごいフォースの才能があったんですよ。目覚めてもないのにびっくりするくらい感知能力が高くって。

 そんな子だったので、私はレイちゃんの身体を間借りすることにしました。レイちゃんの中に入って、身体の中からアドバイスとかするようになったんです。危ないってなったときは今こうしてるみたいに私が身体を使って、守ったりしてました。

 

 その代わりに、私がいつか地球に帰るために協力してもらうことにしたんです。

 

 レイちゃんとしては、お父さんとお母さんが戻ってくるのを待ってたかったみたいなんですけど。

 でも、戻ってくるかどうかわからない人たちをただ待ってるよりかは、自分から探しに行ったほうが有意義じゃないです? もしも万が一、億が一、兆が一コトちゃんに置いてかれたら、私はそう思いますしそうします。

 

 なのでがんばって説得して……まあ説得するのに十年以上かかったんですけど。でもそのおかげでって言ったらアレですけど、その時間があったからレイちゃんを鍛えることもできたので、悪いことばっかりでもなかったです。私もスターシップの運転とか覚えられましたし。

 

 あ、そうそう。機械の規格とかも大体はわかったので、戻ったらコトちゃんのことちゃんと手伝えますよ! 楽しみです。一緒に機械いじり、しようねぇ。

 

 ……えーっと、それで……そう。そんな感じで、ジャクーでしばらくレイちゃんと暮らしてたんですけどね。

 あるとき、ファーストオーダーからの脱走兵くんと会う機会があって。それがきっかけで、私たちはジャクーを出ることに成功したんです。

 

 その過程でハンさんとかチューイくんとか、そう、ルークくん……さん、にも。むかーし私が夢で見てた人たちと会うこともあったりして……なんだか芸能人に会うみたいな気分でした。

 

 まあおかげでレジスタンスに加担することにもなっちゃったので、戦争に巻き込まれもしたんですけど。

 でもまあ、それもなんとかなりました。そもそも私、ますたぁからある程度歴史のこと聞いて知ってましたし、エクセゴルのこともウェイファインダーのことも存在は知ってたので。

 

 それで、実は生きてたシディアスのおじいちゃんを今度こそちゃんとみんなで倒して……そこから、地球に向けて出発することにしたんです。レイちゃんはお父さんとお母さんが死んじゃってたので、引き続き協力してくれました。レイちゃんとフォース・ダイアドのベンくんも一緒です。

 二人は最初敵対してたんですけど、やっぱり同じフォースを持ってると色々気になっちゃうんだと思います。最終的には私とコトちゃんみたいになってました。ラブラブ度は私たちのが断然、断っ然! 上ですけど。

 

 あと、銀河の外に向けて旅に出るんだって言ったら、ハンさんが「俺も行く」って。そのときにはルークさんもレイアさんも亡くなってたので、引き留める人もいなかったんですよね。

 

 その代わりってわけでもないですけど、ハンさんがスターシップを使わせてくれたので、私、レイちゃん、ベンくん、ハンさん、チューイくんで地球に向かうことになりました。ソロ一家の旅の始まりでした。

 

 銀河共和国的には地球って完全に外にある星で、どこにあるかもわからない未開の地だったんですけど……そこは私がある程度道を知ってたので、なんとかここまで来れました。

 

 なんで知ってたかって言うと、ほら。いつだったか、I-2Oくんが息抜きに造ってた、地球と銀河共和国の星間図あったじゃないですか。未完成でしたけど。

 あれ、わりと覚えてたんです。あれを見たとき、これは覚えておいたほうがいいんだって、直感があって……。

 

 今思うと、あれってフォースがそうさせたんだと思います。普段の私だったら絶対気にしてなかったと思うので、その点についてはフォースに感謝してあげようと思ってます。

 

 えっと、そんなわけで、わりと地球にはまっすぐ移動できました。何せますたぁが助言して造られた星間図でしたからね。わかんないところのほうが多かったですけど、それでも進むべき方角がはっきりしてるってのは、本当にすっごく助かったんですよ。何度も何度も。

 

 まあそれでも結構な時間かかりましたし、燃料も食料もギリギリでしたし、なんなら途中パーギルの群れの力も借りたりしましたし、スターシップもボロボロになりましたけど。それでもなんとか地球に戻ってこれたんです。

 

 戻ってこれたんですけど……やっとのことで戻って来た地球は、まだ平安時代だったんですよねぇ……。

 

 ……そうそう、昔の建物とか人とかの写真、たくさん撮ったのであとでコトちゃんにあげますね。こういうの好きでしょ?

 あ、紀貫之さんはちゃんと男の人でした。他にも色々お土産ありますから、楽しみにしててくださいね。

 

 それで……どこまで話しましたっけ?

 

 あ、うん。そうそう、平安時代だったんですよ。たぶん十世紀くらい。そこからコトちゃんがいる時代まで、千二百年くらいあるわけじゃないですか。さすがにそんなには待てないなってなりまして……。

 

 一応私幽霊さんだったので、待つこと自体は無理でもなかったんですよ。見た目は歳取らなかったので。

 でもたぶん、私の心が保たなかったと思います。っていうか確信できました。

 

 だって私の感覚だと、その時点でもう二十年以上コトちゃんと会えてなかったんですよ。がんばって、がんばって、がんばって、一生懸命我慢してましたたけど、これ以上はやっぱり無理だったんです。

 

 ……なので私、寝ることにしました。寝てればそういうこと考えなくて済むでしょ?

 

 しかもラッキーなことに、オク=トーにあったジェダイの古文書から魂を封印する方法ってのを見つけてたんです。

 これだ! って思いました。これしかないって思ったんです。

 

 ジェダイのやり方なのでダークサイドの魂しか封印できないみたいでしたけど、そこは私わりと闇寄りですし。

 あとフォースユーザーが大量に必要ってことでしたけど、闇にも光にも突き抜けてない私を封印するなら、レイちゃんとベンくんだけで足りてる感じなのです。

 あとはその準備と、場所を決めるだけでした。

 

 で、今はもう封印されるだけってところで、この映像を録画してます。録画して、いつか那歩島って名前になるはずの島にホロクロンを置いたら、私寝ます。

 

 ……と、言うわけで……コトちゃん。今から、私が寝る予定の場所の写真を出せるだけ出します。

 

 ただ、千二百年くらい経ってるわけですよ。ってことは、色々と地形とかも変わってるはずなんですよね。

 なので大変だとは思いますけど、そこはなんとかうまいことしてもらうしかないです。ピンポイントでここ! って出せなくてごめんねぇ。

 

 でも、コトちゃんならできるって私、信じてます。見つけてくれるって、信じてます。

 

 だってコトちゃんだもん。あの日、あのとき、本当の私を初めて見つけてくれたときみたいに。絶対、絶対絶対、私を見つけてくれるって信じてます。

 

 ――だから、コトちゃん。私、待ってます。いつまでも待ってます。

 また会える日を、楽しみにしてます。

 

 それまで、またね。コトちゃん――――。

 




トガちゃんのライジング回でした。
理波が物語の進行に合わせてどんどん闇に寄っていったのに対して、トガちゃんは逆にどんどん光に寄っていっていたのだ、という説明回と言い換えても可。
ただしレイの身体を間借りしてるので、その声は永宝さんもしくはリドリーさんであるものとする。

まあ内訳の大半は、彼女がそもそもなぜ過去に飛んだのか。過去の銀河共和国で何をしてたのか。どうやって地球まで来たのか。「眠る」とはどういうことなのかの説明なんですけども。
こういう重要な情報はもうちょっと小出しにすべきなんだろうなと思いつつ、ここ以外で触れる機会を用意できなかったので怒涛の情報開示回となりました。力不足を感じる。

なおスターウォーズをご存知の方にはおわかりかと思いますが、結構歴史を変えてます。普通に救済もの二次創作みたいなムーブをしてたトガちゃんです。
そして地球で眠る、もとい封印されているトガちゃん。魂だけの邪悪な存在を、光の力で封印するというのはレジェンズを参考にしてます。
ぶっちゃけエグザ・キューンが封印されてたのとほぼ同じ理屈ですね。彼ほど凶悪ではないし、トガちゃん自身も封印される気だったし、封印を手掛けたのがレイとベンなので少人数でもうまくいった感じ。
ホロクロンの製作にも二人が関わってます。強大な光と闇の使い手でしょう?

あ、それとトガちゃんが銀河共和国銀河・地球の星間図を全部ではないにせよ知ってたというくだりは、EP10の1話「スターウォーズ」でのワンシーンのことを言ってます。
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