ヒミコからのメッセージの再生が終わったあと、しばらく私はうずくまって号泣していた。ヒミコが眠っている場所の情報を提示されていたが、それを見て考える余裕はなかった。
けれど、ずっとそうしているわけにはいかない。一刻も早く、ヒミコの下へ行かなければ。
しかし既に時間は遅い。今日はこれ以上動くわけにはいかないだろう。
ということで、提示された情報をいつでも見られるよう自分の端末に移す。I-2Oにはその場所の精査を指示し、モモの部屋へと戻った。
フォーススリープで眠らせたからか、彼女はぐっすり眠っているようだった。
それでも、何かの拍子に起きてしまうということはあり得る。だから私は抜け出たときと同じく細心の注意を払って布団に潜り込むと、改めてモモの身体に身を寄せた。
早ければ明日には、ヒミコにまた会える。そう思うと、身体が興奮してしまって眠れそうになかったが……このまま寝ないでいると絶対に朝になって痛い目を見るので、増幅を使って無理やり眠ることにした私であった。
そして翌朝のことである。
「ますたー、仕事終ワッテルゼ」
教科書類を取りに自室に戻ったところでI-2Oからそう言われ、私は荷物を放り出して彼に詰め寄った。
さすが私の造った自慢のドロイドだ。仕事が早い。
「結果は?」
「オゥワ、近ェッテノ。……ホラヨ、ココダ」
彼は私に求められるまま、データを私の端末に飛ばしてきた。
早速データを確認してみれば、どうやら一般的な地図に解析した結果を書き込んだ画像データのようだ。
わかりやすくまとめられていて素晴らしいな……と思いながらそれを読み込んだ私は、次の瞬間声を荒らげることになる。
「雄英の敷地内じゃないか!!」
なんと、ヒミコが眠っている場所は雄英の中だったのである。
こんなにも近い場所にいたにもかかわらず、全然気づかなかったなんて……。これでは恋人失格ではないかと、私は頭を抱える。
だが、すぐに復活した。
「……落ち着け、私。逆に考えれば、これ以上罪を犯す必要はなくなったということだ。うん、そうだ。前向きに考えよう……」
何せヒミコが提示した映像からして、彼女が眠る場所は地下なのだ。これがどこかの建物の地下だった場合、掘り返すなどできるはずもない。
しかし場所はどうやら雄英の敷地内で、かつ周辺に建物がない森林区域と思われる。雄英内でも滅多に人が行き来しない場所なので、掘り返しても気づかれにくいはずだ。
また、私有地であれば”個性”の使用は犯罪に当たらない。校則というルールには抵触するかもしれないが、憲法に規定されたものではないので、一応、かろうじてだがセーフだろう。
「……よし。放課後だな」
なので、私は覚悟を決めて今日という日を早く終わらせることにしたのだった。
「なんか今日のことちゃん、元気だね?」
「私も思った! 何かいいことでもあったん?」
だが、逸る気持ちが態度に出ていたのだろう。登校中、トールたちからそんな風に問われた。
「ん……うん」
ただ、ヒミコが戻ってくる目処が立ったなどと素直に答えると、それはそれで問題だ。あまり深く踏み込まれたとしても、答えられないことが多いのだ。
なので、嘘ではないが事実でもないことを告げてお茶を濁すことにする。
「……夢を見たんだ。クリスマスに、ヒミコも含めたみんなでパーティをしている夢だ」
夢を見たことは事実だ。ただ、それが昨夜ではないだけで。
しかし十分な理由付けにはなったのだろう。オチャコとトールはにっこりと笑ってくれた。
「わー、素敵な夢だねぇ」
「いいねぇ、クリスマスパーティ。みんなでやろうよ!」
「なになに、クリパすんの? いーじゃんやろうぜ! なあ!」
「ん……まあいいんじゃない? せっかくの機会だもんね」
これには周りからも賛同者が集まった。やはり世間一般では、クリスマスとは楽しい行事なのだなぁ。
「……あれ? でも増栄さんの家って、お寺だったよね?」
と、ここでイズクが心配そうに私を見た。大丈夫なの? と言いたげな顔である。
「確かに実家は寺だが、我が家では関係なくクリスマスパーティをするぞ」
「するんだ!?」
「お寺なのにそれでええの!?」
この答えに、同じようなリアクションをするのは相変わらずお似合いなイズクとオチャコである。
「今の時代、そんなものなのだそうだ。まあそれは建前で、父上の本音は『宗教が違うというだけの理由で、クリスマスの話題についていけなくなるなんてことは娘にはさせたくない』らしいが」
『やっぱり親バカなんだ……!』
そして私の更なる答えに、クラス全体の心が一つになった。同感である。
仏教の僧侶としてそれはどうなんだと思うのだが……同級生とクリスマスのプレゼントのことで盛り上がる妹のことを考えると、父上の選択はあながち間違いでもないとも思う。特殊な生まれの私にはあまり意義がなかっただけのことで、普通の子供であれば重要なことなのだろう。
「とはいえ、実家でやっているクリスマスパーティはどちらかというとヨーロッパ式でな」
「家族だけで穏やかに過ごすスタイルですわね。それも素敵だと思いますわ」
「うん。でも逆に、友達と一緒にパーティをするということはやったことがない。だから」
――とっても楽しみなんだ。
そう言って、私はにこりと笑った。ヒミコと一緒のクリスマスというフォースヴィジョンを、恐らくは現実のものにできそうなことが嬉しくて。その感情を隠すことができなかった。
これを受けて、みんなも嬉しそうに笑う。きっと色々と勘違いをしてくれているのだと思うが。
しかし、そういうことなら大いに盛り上げよう、という気概をみんなから感じることは素直に嬉しく思う。
なお、ミノルは私の笑顔を見た瞬間「見える……見えるぞ……その顔を見たトガのリアクションがオイラには見える……!」などとのたまいながら、地獄で仏に出会った罪深き破戒僧のように合掌して崩れ落ちている。誰もそれについては何も言わず、触れもしなかった。
***
さて、問題の放課後である。
私はホームルームが終わるや否や、行動に……出なかった。それはさすがに目立ちすぎる。
なので普段通りに下校し、荷物をすべて自室に置いてから念のため体操服とジャージに着替え、ランニングと称して寮を出ることにした。これ自体は、ヒミコがいた頃に二人でたまにしていたので、さほど怪しまれることはないだろう。
何人かは親切心でついて来てくれようとしていたが、言葉として提案される前に飛び出して来た。
持ち物はスマートフォンと、それから那歩島にも持って行った圧縮収納装置である。ヒミコからの情報によると、地球に乗って来たスターシップも一緒にあるそうなので、それを回収するためだ。
入るかどうかはわからないが、ともかくこれで準備よし。そう判断して、私は寮を飛び出したわけである。
もちろん、まっすぐ目的地には向かわない。念を入れて、ランニングをする際に使っていたコースをなぞる形で回り道をしてからだ。
さらに、周囲をフォースで探って誰も周りにいないことを確認したうえで、私は目的の森林区域に踏み込んだ。
「ここのどこかのはずだが……」
森の中を歩きながら、スマートフォンに表示させた画像と周辺を見渡すが……やはり、地上にフォースと感応するものは見当たらなかった。
フォースによる探査もさすがに地中にはそうそう及ばないので、これ以上何かをしようとするなら地面を掘り起こすしかない。
ただ、それとは別に見つけたものがある。
「……掘っ立て小屋、というにはしっかりした造りだな。用具倉庫にしては小さいし……」
それは小屋だった。工事現場に置かれているプレハブ事務所くらいの大きさだが、造りはしっかりしている。一軒家をしっかり建てるくらいの工事がなされているように見える。
しかし、扉が一つある以外は窓も何もないという点は気にかかる。
確認してみたが、雄英の校内マップにも載っていない。他は細かなものまで載っているというのに。
ここまで来ると、いっそヴィランが学校内に侵入するために造った拠点か何かなのでは? と勘ぐってしまうな。
ところが、その答えは予想外のものがった。念のためI-2Oに学校のデータに何かないかと探らせたところ、ちゃんとここのことが記載されたものがあったのだ。
「……ハツメの発明品を収蔵するための地下倉庫?」
『オウヨ。アノ嬢チャンガ後先考エナイデモノヲ造リマクルセイデ、工房ノホウハスッカリ飽和シテルンダトヨ』
「なるほど。それでパワーローダーが校長に嘆願したか何かで、地下室を造ることになったのか」
説明を聞いて、納得した。
ハツメが関わっているならあり得る。ヒミコが消えてから彼女と顔を合わせる機会は持てないでいるが、しかしそれ以前でも工房へ顔を出すたびにものが増えていたからな。
いよいよ飽和したのかと呆れればいいのか、よくぞいままでスペースが保ったなと感心すればいいのかは、判断に困るところではあるが。
しかしそれについてはこの際どうでもいい。私にとって重要なのは、この小屋が建設中の地下倉庫への入り口である、ということだ。
そう、地下である。もしかしたら。そう期待してしまうのも、無理からぬことであろう。
「……行くか」
ということで、私は小屋への侵入を試みた。
物理的な鍵と、電子的な鍵の二重ロックがかかっていたが、どちらもフォースがあれば解錠は容易である。私はほとんど時間をかけることなく侵入に成功した。
そこには、様々な工具や工作機械が並んでいた。他にも作りかけの道具があったり、壁にカレンダーがかけられているなどしており、恐らくは休憩用か準備用の部屋も兼ねているのだろうな。
さらに室内を見渡せば、エレベーターも見つかった。私は入り口の鍵をかけ直し、I-2Oから現時点でわかる限りの地下のデータを送信してもらう。
おまけに地下にはセキュリティもかかっているようなので、それも一時的に切ってもらい……ようやく私はエレベーターに乗り込んだ。
「……やはり地下に直通だ。これは運がいいぞ」
エレベーターの階数表示は、一階と地下の二つだけだった。
ただ、エレベーターがとまる前にスマートフォンは通信網から切り離された。先にデータを送ってもらって正解だな。
とはいえ、ここのセキュリティの解除に当たっては準備をしていなかったので、いつ発覚してもおかしくない。ここからは時間との戦いだな。
「さて……こちらか」
そのデータに従い、歩き始める。道中、ハツメのベイビーと思われる警備兵器に何度か襲われたが、いずれもフォースハックで機能停止させていく。
……ここを建設しているのは、パワーローダー一人らしい。彼の”個性”は「掘削」であり、掘ることにかけては右に出るものはいないだろう。
しかし一人で延々と同じ作業に従事していると、人間は往々にして羽目を外し出す。私も長々と機械をいじっているとそんな気分になることがあるので、よくわかる。
パワーローダーもそうだったそうで、作業の息抜きにサーキットコースやらシアタールームを作ってしまったらしい。
だが最近は温泉まで掘り当ててしまい、その対処に追われていたそうだ。どうにかこうにか浴場の体裁に整えたはいいが、今度はその過程で謎の迷宮が土の向こうから出現して頭を抱えているところだとか。
「……謎の迷宮、か」
その言葉に、私はピンとくるものがあった。
ヒミコから提示された、彼女が封印されている場所とそこに繋がる経路の情報に、そういう場所を通ると記されていたのである。
目的地に非常に近い地点で、土を掘ったら出てくる迷宮と来れば、可能性は高いのではないだろうか。
そしてその推測は、すぐに確信へと変わった。
なぜなら、問題の場所にできた穴からさらに地下へと降りてみれば、辿り着いた洞窟には確かにフォースの気配がしたのだから。
慎重に状況を整え、細心の注意を払って完全犯罪に挑む元ジェダイの図。
常に冷静であれとはそういうことじゃないんだよなぁ。
なお、いかにもご都合主義的な展開に思われるかもしれませんが、野放図に造られまくる発目のベイビーを遂に持て余したパワーローダーが校長から許可を得てこの時期に地下保管庫を一人で作ってるのは、真面目にヒロアカの公式設定です(小説「雄英白書・祝」より)