銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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8.幸せを噛みしめて

 感動の再会を経て、正気に戻ったヒミコは私の中に引っ込んでしまった……ということはなく。

 

 ここまで大事にしてしまったからには、「もうしょうがないですよね?」と笑って、私から抜け出し堂々とみんなと交流し始めた。

 こういう妙に図太いところは、やはりヒミコである。先ほどあんなに感極まって大泣きしていたのに、まるで嘘のようだ。

 

 とはいえ、魂でしかない今の彼女をフォースユーザーでないものが認識することはできない。なので、ここは増幅の出番だ。

 

 ただし、クラス全員のミディ=クロリアンを強化するなど、一時増幅だとしても餓死は必至なので、最低限の人数と量だ。

 

『そういうわけで、どうにかこうにか戻ってきて、さっきやっとコトちゃんに合流できたんです』

「それでことちゃん、帰りが遅かったんだ!」

 

 私の増幅ありきとはいえ、それでもとんでもない経験をしてきたからか、幽霊ながらにすさまじいフォース量に至っているヒミコは、力業でみんなに声を届けることに成功していた。

 まあ、何があっても積極的であれることはいいことだろう。そういう前向きなところも、私が好きなところの一つである。

 

 ところで、ヒミコがそうやってクラスのみんなと盛り上がっている中、私は話の輪の中にはいない。何をしているかというと、

 

「ダメだ。明日は普通に出席しろ」

「そこをなんとかなりませんか……」

 

 マスター・イレイザーヘッドを相手に、交渉を続けていた。明日、授業を休んで病院に赴き身体を取り戻すヒミコを迎える許可を得る交渉である。

 

 私としては、無断欠席もやむなしと考えていた。少なくとも寮に戻ってくるまでは。

 しかしクラス全員にヒミコの帰還が知られてしまった以上、無断欠席は選べない。感情的に選びづらいというわけでない。単純に、手段としては下策になったのだ。

 

 しかも、気を利かせたテンヤがヒミコのことをイレイザーヘッドに報告してしまったため、こうしてイレイザーヘッドにも発覚してしまった。これは素直に許可を得るしか、真っ先にヒミコを迎える方法はなくなってしまったという次第である。

 

 だが、イレイザーヘッドはそれを許可しない。非合理的であるからだ。

 

 正直なところ、それは私もわかってはいる。何せヒミコの身体は一か月近くも寝たきりだったのだ。普通の昏睡状態よりは軽微だが、それでもリハビリが必要な状態であることは間違いないだろう。

 昏睡状態から目覚めたとあれば、相応の時間を検査に割く必要もある。であれば、直接私が出向いたところでヒミコと一緒にいられる時間はさほど多くはならないはずなのだ。

 

 イレイザーヘッドはその待ち時間を無駄だと断じているし、私自身も理性の部分では同感なのだが……やはり感情面で、目覚めたヒミコを一番最初に迎えるものは私でありたいという気持ちが強いのだ。

 

 なので、最初の目覚めるところだけでも立ち会いたいという方向に話を変えたのだが……それもイレイザーヘッドはダメだと言う。理由は、私一人を特別扱いするわけにはいかない、である。

 確かに、法的には私とヒミコは他人だ。そんな私を特別扱いしようものなら、誰だって対象にできてしまうからわからなくはないのだが……今日ほど婚姻契約を結べない年齢であることを恨んだ日はない。早く大人になりたい。

 

 ……なお、こんな押し問答しているくらいなら今から行けばいいだろう、という話もあるかもしれないが……現在、夜の九時を回っている。既に病院は面会ができない時間帯なので……。

 

 結局、私の欠席は許可されなかった。しかしヒミコが「コトちゃんがいないならヤです」と開院と同時の病院入りを拒んだため、最終的には放課後クラスメイト全員(カツキはフォースの実例を見るためだけだが)で訪ねるということになった。

 イレイザーヘッドは思い切り顔をしかめていた。無理もないが、今回ばかりは諦めていただきたい。

 

 そして、いい意味で非常に待ち遠しく、緩やかに流れる時間に焦れながら迎えた放課後。私たちは担任も生徒も全員という大所帯で、病院を訪れた。

 

 病室ではヒミコのご両親が既に到着していて、病院もスタッフ・機材共に万全の状態だった。思わず苦笑したが、こうなった原因の何割かは私なので、反省するべきなのだろう。

 

 だが、それは今は後回しだ。私は大勢に見守られる中で、ヒミコのペンダントをそっと彼女の身体にかける。

 するとペンダントに宿りなおしていたヒミコはするりと抜けて、自らの身体へと入っていく。

 

 直後、ヒミコの身体から感じるフォースの気配が一転した。死体のそれだったものから、生けるもののそれへ。

 

 そして。

 

「お、おおお……!」

「ああ……!」

 

 緩慢な動作でヒミコの目が開いた。ご両親が感極まって声を上げる。

 

「……私の身体、こんなに使いづらかったですっけ……」

 

 やはりゆっくりとこちらに顔を向けて、ヒミコがつぶやく。かすれた声だったが、ご両親ともども一番近くにいた私にははっきりと聞こえた。

 

 しかし、目覚めて最初の言葉がそれでいいのか。思わず苦笑する。

 

「仕方ないさ、君の身体は一か月近く寝たきりだったんだから」

「……ですねぇ。まあ、でも」

 

 周りがどよめいた。無理もない。いきなり健常者と変わらない動作でヒミコが起き上がったからだ。

 

「あ、あり得ない! 弱っているはずなのに、こんなこと……」

「はい、とってもしんどいです。でも……」

 

 フォースで身体を強化して動かしているな。晩年のマスター・ヨーダと同じことだ。彼も普段は杖を突かねば歩けないほどだったが、フォースを身にまとうことで機敏な戦闘を可能にしていた。

 

 ここに増幅を加えれば、リハビリもスムーズに行くかなと考えていた私であるが……。

 

「とりあえず、これだけは、させてください。ね?」

「ヒミコ? 待て、それは待っ――」

 

 首に両手を回されて、有無など言わせぬとばかりにキスをされた。

 

 大勢の前で。

 

 先ほどとは比べ物にならないほど、室内がどよめく。休日の新宿駅もかくやである。

 

 とはいえ、もうされてしまったからには仕方ない。私もしたくなかったわけではないし、こうなったからにはもうヤケだ。

 

 ということで、私もヒミコの背中に両手を回して愛に応じた。久しぶりすぎて、幸福感が強すぎる。頭が真っ白になって、思考が弾けそうだ。

 

 ああ、もう、ずっと我慢していたのに……こんなことされて、我慢なんてできるわけないじゃないか……。

 

「えっ、増栄さんトガさん……えっ、えっ!?」

「ひゃあ……被身子ちゃんってば、大っ胆……!」

「ああ……やっぱ()()なんだ……」

「薄々そんな気はしてた」

「公衆の面前でなんと破廉恥な……峰田くん? しっかりしたまえ峰田くん!」

「し、死んでる……」

「め、メディック! メディーック!」

「……俺らは何を見せられとんだ……」

 

 比較的クラスメイトのみんなは冷静なようだが、しかし聞こえる内容からして私たちの関係はほぼ全員に察せられているようだな。

 

 まあ、それもそうか。ヒミコがいなくなったときの私の取り乱し方は、友人を亡くした程度のものではなかったからな。

 

 一方、ヒミコのご両親のほうは唖然として硬直している。完全に寝耳に水というか、青天の霹靂というか。まったく想像もしていなかったらしい。

 

「ぷはあ♡ ……はぁー、もうダメです。疲れました。寝ます」

 

 そんな中、我関せずとばかりにヒミコはあっけらかんと言い放つと、さっさとベッドに戻って改めて横たわった。

 気まぐれすぎるその態度に、クラスメイトたちがずっこける。もちろん、医療関係者は大慌てだ。

 

 しかしご両親は、いまだに静かなまま。不思議に思って目を向けてみれば、今も変わらず固まり続けている。よほど衝撃的だったようだ。

 

 うん……これは……冬休みは、家族会議かな……。

 

 そんなことを考えながら、私は全力で叩きつけられた愛の余韻に浸りながら、その場にぺたんと腰砕けに座り込むのだった。

 

***

 

 さてそんなわけで反省文の提出を命じられた私とヒミコであるが、しかしヒミコがリハビリを必要としている身であることには代わりない。突然昏睡し、突然快復した点も医療の観点からすると放置できないので、彼女はしばらく入院することになった。

 

 だが、当初の退院予定日は一月半ばくらいだったのに、ヒミコは気合いで二十四日に退院できるくらいまで持ち直して見せた。

 もちろん精神だけでどうにかなるものではないのだが、そこは私の増幅があれば可能だった。

 

 それでも全快ではなく、動作はまだぎこちない。それこそマスター・ヨーダのように杖を突いてだが……しかし、確かにヒミコは二十四日に、クリスマスイブに退院してきた。

 

 なので、

 

『メリークリスマス!! と!! 退院おめでとう!!』

 

 クリスマスイブの夜。二学期も終え、ヒミコを加えて無事にクラス二十名が揃った私たちは、退院祝いを兼ねたクリスマスパーティの開催にこぎつけた。タイミングとしてはギリギリではあったが、私が夢に見た光景は成就したのである。

 もちろん夢と同様に、エリも一緒だ。生まれて初めてこういうイベントを体験するという意味では、私と彼女は似たようなものかもしれない。

 

 室内は暖かく、光に満ちている。奏でられる聖なる調べの中で、誰もが楽しそうに笑っている。

 

 みんなで同じ食事を摂り、語らう。将来のこと、人間関係のこと、自分たちが持つ力のこと。

 

 プレゼントをランダムで交換し合う。引き当てたものを、それぞれにあれやこれやと話し合ってまた盛り上がる。

 

 それらの一つ一つが、恋人とはまた違う意味で何物にも代えがたい、貴重で楽しい時間と素直に思う。今までこうやってイベントを一緒に楽しむ(ともがら)がいなかったから……今までとの違いが、けれどとても嬉しくて、胸の奥がほんのりと暖かくなる。

 

 幸せそうに、心底嬉しそうに、ヒミコが満開の笑みを浮かべている。戻ってこれた、大切な友人たちとまたこうして同じ時間を過ごせる喜びを噛みしめて、万感の想いがこもった笑顔が何よりも美しい。

 

 その膝の上で、抱きしめられながら私も同じように笑う。この光景が、夢だったはずの景色が、現実であることが……大切な恋人が帰ってきてくれる夢が現実になったことが、何よりも嬉しいから。

 

「夏の合宿のとき付き合ってるってトガっち言ってたよね? ってことは、そのときもう二人は付き合ってたってことでいいのかな~?」

「はい、そうですよぉ」

「ケロ……ミスリードにまんまとひっかかっちゃったわね。六歳違いがまさか下だったなんて思わなかったわ」

「んふふ、ひっかけるつもりだったので。私は別に隠さなくてもよかったんですけど、犯罪になりかねないからってコトちゃんが」

「あ、そこの自覚はあるんだ。いやまあ、増栄なら騙されてるとかじゃないって思うけどさ……」

「これについては私ももどかしく思っている」

 

 宴もたけなわを迎える頃にはヒミコを案じる声は既になく、中でも女性陣の会話の大半は私とヒミコの関係に及んでいた。ヒミコが退院するまではどうにかこうにかはぐらかしてきたので、いよいよ好奇心が爆発したのだろう。主にミナが。

 

 なのでこれ以上隠すことは現実的ではないと判断して、ヒミコだけでなく私も聞かれるまま素直に答えている。ただ性的なあれこれについてはさすがにまずいので、それ以外のことについては、だが。

 

「でもさ、六歳違いっておかしくない? ことちゃん、十一歳でしょ?」

「コトちゃんはそうですけど、私みんなの一つ上ですよ。お姉さんなのです」

「えええ!?」

「なんで!?」

「ヒミコときたら、先に通っていた高校を辞めて雄英を受験しなおしたんだよ……」

「理由を伺ってもまだわかりませんわ……なぜそのようなことを……」

「安心してくれ、私も同じことを思った」

「えー、だってコトちゃんと同じ学年になりたかったんですもん」

「どんだけぇ!?」

「重い……! トガっちその愛は重いよ……!」

 

 その過程で、ヒミコが実は年上であるという事実がようやく周知された。

 同時にヒミコの非常識的な選択も明らかになってしまったが、これこそ今更だろう。

 

「……理波ちゃんは、本当にいいのかしら? こういう……たまに突拍子のないことをするところもそうだけど、その、被身子ちゃんの愛情表現って……血を……」

 

 ちなみに、そんな恋愛談義の中で、ツユちゃんからはひときわ真面目な問いを受けた。

 ここまでの過程でヒミコが人を殺しかけたことも全員に周知されたので、ツユちゃんの問いに全員がハッとする。彼女の言いにくいことをバッサリ言ってくれる姿勢、私は気に入っているぞ。

 

 だがこの答えは、恋仲になる前から……ヒミコに出会ったときから決まっていて、今に至るまで一切変わらない。

 

「いいんだ。世間一般的には確かに普通ではないかもしれないけれど……それが彼女の普通で、私はそんなところもすべて受け止めると決めているから」

 

 なのでそう言ったら、みんなが納得の顔を見せた。

 

 一方のヒミコは蕩けるような顔で、私に頬ずりをしている。それを拒むことなく、むしろ私も応じる形で頬ずりし返す。

 

「これはヒーローやなぁ」

「うん……ひみちゃんの言ってた『初めて本当の私を見つけてくれた人』って、そういうことなんだね……」

「今となってはウチらも受け容れてるけど、前情報なしでいきなりできるかっていうとやっぱ自信ないもんなぁ……」

「あの、ですがそれはそれとして、血を吸われるのはなかなかに負担なのでは? 確かに理波さんの”個性”なら問題はないのでしょうけど……」

「慣れればそうでもないよ」

 

 今となってはそれで法悦を覚えるくらいには、待ち遠しい行為の一つになっていることだし。もちろんこれは言わないが。

 

「それに、今は私からもたまにするしな。好きな人がすることだから、どういうものか知っておきたいものだろう?」

「ケロケロ……理波ちゃんも本当に被身子ちゃんが大好きなのね」

「ああ、愛しているよ。彼女がいないと生きていけないくらいにはね」

「えへへぇ、コトちゃん、だいすきですー」

「……こっちもこっちでなかなか重かった……!」

「ことちゃんさー、そういうのストレートに断言できるのはズルいよーもー!」

「情熱的っていうかなんていうか……聞いてるこっちがハズくなってくるな……」

「せやねぇ……うひゃあー……」

「で、ですが、そこも理波さんのいいところですし」

 

 そして思っていることをそのまま口にしたら、周りに赤面される私であった。

 

「あっ、また峰田が息してねぇぞ!?」

「即身仏みたいになってやがる!」

「峰田、お前も”個性”二つ持ちだったのか?」

「言ってる場合か轟ィ!?」

 

 なお、その傍らでミノルがやはり死んでいたが、すぐに生き返ったので問題はないだろう。いつも通りだ。

 

 ……そして、楽しかった宴も終わって。片付けも済ませたあとのこと。

 

 久しぶりに、本当に久しぶりに二人で同じ部屋に入った私たちは、扉に鍵をかけるのもそこそこに、ベッドに身を投げ出して抱きしめ合った。

 

「ん……っ♡ ちゅ、ちゅむ、んっ、んむぅ……♡」

「はむ……んちゅ、ちう♡」

 

 そのままどちらからともなく口を奪い合う。

 唾液と共に酸素が奪われて、苦しくなっていくけれど。その苦しささえも愛しくて、気持ちよくて……。

 

「はあ……っ♡ ヒミコ……♡」

 

 愛しい人。私の大好きな人。この世で一番大切な人。

 そんな人の、黄金に煌めく瞳の中で、乱れた私がはしたなく身体を投げ出している姿が見える。

 

 けれど、構わない。そんなこと、どうだっていい。

 

 今はもう、なんだっていいから。一刻も早く、彼女の愛が欲しい。彼女と一つになりたい。それしか頭の中にはなかった。

 

「ヒミコ……私……っ、もう、もう……ガマン、できない……♡」

「……♡ はい……私も、もう限界です……」

 

 再びヒミコの顔が近づいてくる。ちろり、と赤い舌が蠢いた。背筋に電撃が走ったような感覚がした。

 

「お願い……ヒミコ……。私のこと……めちゃくちゃにして……♡」

 

 ――そして、私の首筋に彼女の歯が突き立てられた。

 




本作を構想し始めたときから、一貫して「絶対に書きたいシーン第一位」に君臨し続けていた「私をめちゃくちゃにして」をようやく書くことができました。
ここまで長かった・・・まさか200話以上かかるとは思ってなかった・・・。

そこ以外にも、この話は幸せに満ち溢れすぎてて書いててテンションがおかしなことになった気がします。後悔はしていない。
個人的にはクリスマスカラーのリボンを裸に胸とあそこだけを隠すような形に巻きつけて「私がクリスマスプレゼント」もやりたかったんですが、二人が早くヤりたそうにしてたので諦めました。

ところで次の更新ですが、アンケートの結果えっちなほうを先に見たいという意見が僅差ながら上回りましたので、別枠の「幕間:愛を重ねて」のほうの更新となります。
クリスマスの夜のえっちをいつも通り23時前後に投稿いたしますので、お手数ですがボクのマイページを経由するなどしてアクセスしていただければと思います。
が、もちろんR18になりますので、18歳未満の方は見ちゃダメだぞ! おじさんとの約束だ!

※22時44分、えっちな幕間投稿しました。18歳未満は18歳になるまで我慢だゾ!

明日の更新はどっちがいいですか?

  • 作品としてのストーリー優先、本編を続ける
  • 状況からの流れを優先、一旦えっちな幕間へ
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