銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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5.最初の授業とコスチューム

 明けて授業初日である。

 今日のスケジュールは、午前中は高等学校に於ける必修科目を複数。午後はほぼ丸々、ヒーロー基礎学という特殊な科目となっている。

 

 ヒーロー基礎学とは、ヒーローになるための様々な知識を養う座学や、実際に戦闘や救助などを行う実技がつまった科目であり、一番重要な科目と言えよう。

 

 私……と、ヒミコはヒーローに大した思い入れも憧れもない(ただしその理由は二人で異なる)が、私は自由と正義のために戦うと決めた身。ここで得られる知識は間違いなく無駄にはならないだろう。

 特にヒーロー関係の法律や社会制度については、どうせここで学ぶだろうからと今まで優先順位を下げていたので、重点的に覚えたいところだ。

 

「うわーっ、増栄さんすごい食事量だね!?」

「ふへー、『同年代の倍以上食べている』って話、本当だったんやね……」

 

 そんな授業を控えた昼休み。ミドリヤにウララカ、イイダらと食堂に入った私たちだったが、私の食事を見た彼らはみな一様に驚愕している。

 

 まあそうだろう。何せ私の前には丼とサラダが三種類、定食が二つ並んでいて、なおかつそれが見る見るうちに減っているからだ。

 

「いや本当にすごいな……! 君のその身体の、どこにそう入るんだい!? 明らかに君の身体の体積より食べた量のほうが多いと思うんだが!」

 

 イイダの言葉にはまったくの同感だが、食べるのに忙しいのであまり話す余裕がない。何せ、昼休みには時間制限がある。私の小さな身体でこの量を昼休みが終わるまでに食べ切るには、口を動かし続けなければならないのである。

 

 なので、ここは生活を共にしているヒミコに解説を任せる。

 

「コトちゃんはですねー、”個性”で胃腸の機能とか、栄養の摂取効率とかを増幅してご飯するんですよ。食べた端からどんどん消化されてってるので、理論上は無限に食べられるってわけなのです」

「なんでもありだね『増幅』!?」

 

 すまないミドリヤ、私もそう思う。

 

 ただ実のところ、このなんでもありっぷりは”個性”そのものの力ではなかったりする。

 

 私の”個性”はご存知の通り、触れたものの何がしかを選んで増幅するものだ。なので基本的に触れないものには効果が及ばず、体内のものなど直に触れないものに対しても効果が薄いのだが……フォースがこれを解決してしまう。フォースの届く範囲も効果の対象になるのだ。それも効果を減退させることなく。

 さらに。フォースと”個性”が組み合わさった結果、概念的なものですら増幅できるようになっている。体力やらを増幅できるのはそういうわけだ。正直な話、自分でも反則だなと思うときは多々ある。

 

 そしてこのことから、他の人間の”個性”も恐らく、フォースと組み合わさるととんでもない効果を及ぼす可能性は高い。ヒミコの変身も、フォースによって何かしら強化されているかもしれないのだ。

 このことはジェダイを復興したい私にとって、人集めのときに苦労しそうで今から少し憂鬱である。主に人選の点で。

 

「……でもそれって、食費とかすごいことになるんとちゃう……?」

「それは……言わないお約束なのですよ、お茶子ちゃん……」

「あっ……うん、そうやね……!」

 

 ちなみに私の食費の出どころは、おおむねドロイドと翻訳機の特許使用料だ。名義は父上だが実質私用の口座に振り込まれている。なので、何かを察した顔のウララカには悪いが、実生活にさほど支障はない。

 

 いや本当、機械いじりが得意でよかったと常々思っているよ。いくら清貧に生きようとしても、生きていくためにはどうしてもお金は必要だ。

 

「ご馳走様でした。……と、なんとか予定通りだな」

 

 椀と箸を置き、傍らに置いていた携帯端末のタイマーを確認。予定通り、六度目の一時増幅が切れた一分以内に食べ切ることができた。

 

「そのタイマーはどういう意味なんだい?」

「私の”個性”には永続増幅と一時増幅の二種類があるのだが、後者は全力でも五分くらいしか続かなくてな。その確認用だよ。何せ消化に関わる機能を増幅しているから、下手に効果が切れる前に食べきるとそれはそれで問題が起きるんだ」

「ついでに、有効時間が少しでも延びていないか確認するって意味もあるんだよね、確か?」

「ああ、その通りだ」

 

 ごくわずかな増幅を胃腸と消化効率にかけながら、イイダの疑問に答える。

 補足をヒミコが入れたところで、三人の顔が少しだけ強張るとともに、妙に真っ直ぐな視線を向けられた。

 

「……それはつまり、食事すら”個性”の鍛錬に利用しているということか?」

「端的に言えばそうなる」

「よ、ようやるね……」

「でも合理的だよ。増栄さんの”個性”はものだけじゃなくて身体機能とか体力みたいな概念的なものにでも使えるわけでそれはつまり何にでも効果を発揮できるってこととイコール……つまり彼女は起きている間ならいつどんなときでも”個性”の訓練ができるってことでもあって……すごいな本当に彼女は努力することにまったく躊躇がないんだ見習わないと……ブツブツ」

 

 三者三様の視線には、尊敬の色が見えた。日々これ精進と言わんばかりの態度は、なんだか懐かしきジェダイ・テンプルでのイニシエイト時代を思い出させる。まあ、ミドリヤはなんだか奇妙な方向に行きかけている気もするが。

 

 彼はともかく、彼らから向けられる視線がどことなくくすぐったくて、私は頰をかきながら視線を逸らした。

 その先で、にんまりしているヒミコと目が合って、気まずくなる。

 

 恥ずかしいだろう、やめてくれ。

 

***

 

 そんな食事が済んで、初めてのヒーロー基礎学。

 予鈴が鳴るとともに現れたのは、

 

「わーーたーーしーーがーー!! 普通にドアから来た!!」

 

 ナンバーワンヒーロー、オールマイト。筋骨隆々の身体に、原色がまぶしいコスチュームを身にまとった彼が現れ、教室内が一気にざわめき始める。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため様々な訓練を行う課目だ! 単位数も最も多いぞ! ……早速だが今日はこれ!『戦闘訓練』!!」

 

 オールマイトは軽い説明をするとともに、「BATTLE」と書かれたカードをこちらに向け提示した。

 それを見て、周りのざわめきが大きくなる。特に私の前の席に座るバクゴーなどは顕著で、凄まじい戦意が湧き起こっている。今日も絶賛暗黒面だな、彼は。

 

「そしてそいつに伴って……こちら!」

 

 と、私があれこれ考えているうちにも、オールマイトの話は進んでいく。

 彼はざわつく生徒たちを無理になだめることなく、手にしていた小さいスイッチを押した。するとかすかな駆動音とともに、壁の一部が横にずれるようにせり出てくる。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と要望に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!」

『おおお!!』

「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!」

『はーい!!』

 

 ここまで来ると、もうざわめきというよりも歓声だ。やはり、この星ではヒーローという職業は特別なものがあるのだなぁ。

 この中で、声を上げるどころか身動ぎすらしていないものなど、私とヒミコくらいものだ。ここ一日半の間、ほとんど誰ともしゃべっていないトドロキ(例の憎悪系の暗黒面を背負った美形である)ですら多少のリアクションを見せているのだから、私たち二人は間違いなく浮いている。

 

「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女! 自覚するのだ! 今日から自分は……ヒーローなのだと!」

 

 そしてオールマイトはそう締めくくると、なぜか焦った様子で(それがわかったのは私とヒミコだけであろうが)教室を出て行った。

 

「……ヒミコ、何やら彼、焦っていたようだが……」

「教師としては新人なんだし、会場の準備が間に合ってないとかじゃないです? それより、私たちも行こ?」

「それもそうだな」

 

 広い教室にぽつんと二人だけになった私たち。

 自分の分のコスチュームケースを手に取ると、遅ればせながら更衣室へ足を向けた。

 

***

 

 雄英高等学校ヒーロー科には、被服控除と言うシステムがある。プロヒーローが身に着けるような高性能なコスチュームを、ひよっこどころか卵でしかない生徒でも使えるようにするための措置であり、この学校がヒーローを目指すうえで最高の環境と言われるゆえんの一つだ。

 入学前に生徒は自身の”個性”の届出書と身体情報を提出することで、学校専属のサポート会社(ヒーローが扱う様々な道具を開発している会社の総称)が各々に合ったコスチュームを作ってくれるというわけである。

 

 この際、生徒は要望も併せて提出できる。それはデザインであったり、盛り込んでほしい機能であったり様々だが……あまり書かずに提出すると、ウララカのようにあまり望んでいない仕上がりになることもある。

 

「うひー、もっと要望ちゃんと書けばよかったー」

「わー! お茶子ちゃん、そのスーツすごいカァイイねぇ!」

「そ、そかなぁ? ちょっとパツパツすぎひん?」

「そんなことないですよ、お茶子ちゃんによく似合ってます!」

 

 早速コスチュームをまとったウララカが、どこか恥ずかしそうにしている。彼女のコスチュームは、ボディラインがはっきりとわかる全身スーツタイプのようだ。

 彼女に似合っているし、何より彼女は恥ずかしがるような体型ではない。むしろ十人が見ても十人とも整っていると言うだろう。

 

 だから別にそこまで気にせずともいいのではと思うが……これは私が元男ゆえかな。女性なら思うところがあるのだろうか。

 個人的には、半裸の状態のままウララカとあれこれ話しているヒミコのほうがよほど問題だと思うが。

 

「うっはー! ヤオモモ攻めてるねぇ!」

「私の”個性”でものを創ると、素肌から取り出す形になりますので……どうしても露出は多くする必要があるのですわ」

「あー、これも”個性”が関係してるんだ。へぇー!」

「これでも依頼していたものより露出が少ないのですけれど」

「それで!?」

 

 一方、ヤオヨロズのほうは要望が通らなかった部分があるらしい。

 聞いていると、理由は露出が多すぎるからとか。うむ、納得すぎる理由である。実際目のやり場に困る。

 

「ケロ……私、思ったことはなんでも言っちゃうのだけど。透ちゃん……それ……もしかして、ブーツと手袋だけなのかしら?」

「本気出したらブーツと手袋も脱ぐよ!」

 

 だがヤオヨロズより問題なのが、ほぼ全裸状態のハガクレである。ツユちゃんの心配はもっともだ。

 いや、確かに彼女の”個性”から考えるに、ある意味一番その真価を発揮できる状態だろうが……かといって全裸はどうなのだろう?

 

 というか、だ。

 

「……本人の髪などから作った特殊繊維のスーツであれば、肉体同様に”個性”の影響を受けるコスチュームも作れるはずだが。確か『巨大化』のMt.(マウント)レディが、そういうものを使っていたぞ」

「……マジ?」

 

 私の言葉に、ハガクレは固まってしまったようだ。

 気づいていなかったのか……。

 

 そんな彼女に、渋い表情でジローが口を挟んできた。

 

「マジかどうかはともかく、全裸なのは女子としてどうかと思う。先生と相談して考え直したほうがいいと思うよ……」

「ケロ……私もそう思うわ」

「私も同感だ。それに今のままでは冬場の活動は厳しくなるだろうしな」

「で、でも私って髪の毛も透明だし、それでコスチュームって作れるのかな……?」

「そこも含めて、教師陣に相談すべきではないかな。個人的には早めに動くことをお勧めする」

「……うん、そーする!!」

 

 ハガクレの全裸問題は、早くなんとかすべきだと思う。まあ、今日はさすがにどうしようもないから、そこはがんばってもらうしかないが。

 

「そういう二人はなんかファンタジーっぽい!」

「あんま見たことないタイプのコスチュームだ!」

 

 そしてこれは、私とヒミコのコスチュームを見た、ハガクレとアシドの感想である。

 前者はよくわからないが、後者はそうだろうなと同意できる。ヒーローでこういう格好をしているものは、私も父上くらいしか知らない。

 

 というのも、だ。私たちのコスチュームは、ずばりジェダイの正装なのだ。

 白一色で染めなど一切ない、簡素な揃いの上下。ブーツも飾りはない。そこに茶色のローブを羽織った状態である。ローブは全体的に緩やかなので、激しい運動には向かない。

 

 この手のゆるりとしたコスチュームを使うヒーローは、多くないはずだ。何せ戦闘に向かない。当のジェダイですら、戦闘になるとローブは脱ぎ捨てがちだ。

 

 ただ、このコスチュームはこの星で可能な限りの防護処理が施されている。小口径の拳銃程度は貫通できない頑丈さ、熱冷双方にもある程度の耐性があり、炎も防ぐという代物だが……この仕様はローブも同様である。重ねて着ているとなれば、相応の防御力が期待できるはずなのだ。

 なので、あまり脱ぎ捨てないようにするつもりだが……それは相手次第だろうな。

 

 なお、サポート会社はデザインについては勝手に変更してくることがあるらしいので、私は絶対に私の要望から外れないように要望していた。

 あちらはあちらで善意があるのかもしれないが、やはりジェダイ装束を改造されることは、容認できないのでね。

 

「お二人はお揃いなのですね。同じ流派とか、そういうことですの?」

「あー……まあ、そんなところだ」

 

 そして私とヒミコのコスチュームは、サイズが違うだけで装備も含めデザインは一緒である。

 これは単にヒミコが私と一緒にしたがったからで、深い理由はまったくない。

 

 とはいえ同じ流派というのも、あながち間違いではない。ヒミコの指導もアナキンが行なっているし、言うなれば私たちは姉妹弟子と言って差し支えないだろう。

 

「でも、厳密にはお揃いじゃないんですよね。材質とか」

「それは”個性”の都合上、必要な措置だろうに」

「えー、全部揃えたかったですよぅ。ライトセーバーは間に合わなかっただけだから、それは我慢しますけど……あんましかわいくないんだから、せめてお揃いがよかったですー」

 

 私の指摘に、ぶうと頰を膨らませるヒミコ。逢引用の服でもなし、そこはこだわるところでもないだろうに……。

 

 というか、ヒーローとしてのコスチュームで、デザインの好みより私と同じであることのほうが優先順位が高いのか君は。いくらヒーロー願望がないとはいえ、それはそれでどうなんだ?

 

「材質って、どう違うん?」

「我々のコスチュームは、それぞれの髪由来のものだ。それぞれの”個性”に合わせて効果が発揮されるようになっているぞ」

「理波ちゃんがMt.レディを例にしていたやつかしら」

「それですそれです」

「へー! 被身子ちゃんの”個性”どんなやろ、昨日使ってなかったぽいし見るのが楽しみやー」

 

 ……まあ、ヒミコの真意は誰も気づいていないというか、さほど気にされた様子はないので、私もあまり気にしなくていいのだろうかな。

 

「…………」

「? どうした、ジロー?」

「いや……その、がんばろうね、お互い」

「? うむ、無論だ」

 

 なお、最後になぜかジローに励まされたのだが、なんだったのだろう?

 




ちなみに個性が上手いこと増幅してるので、どんだけ食べても排泄の回数や量は普通の人と変わらない・・・というか少ないまであります。
理屈? 細かいことはいいんだよ。かわいい女の子はそういうことしないんだよ(暴論

ああそれと、耳郎ちゃんが何を指してがんばろうと言ったのかはヒロアカ知ってる人にはお分かりいただけると思うけど、SWしか知らない人のために解説しておくと、ずばりおっぱいです。
このクラスは胸囲の格差社会なのです。

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