銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

220 / 288
12.つきまとう影

 ヒーローインターンはあっという間に過ぎていった。新しいことばかりが怒涛のように押し寄せてくる日々というものは、時間が短く感じるものだなとつくづく思う。

 もちろんそのすべては有意義なものであり、ヒーローとして見るのであれば非常に成長できた日々であったと断言していいだろう。

 

 一方で、ジェダイとしては特に進展がない。正義に代わるものを見つけろと言われても、ジェダイ以外の生き方を知らない私には少々難易度が高い。

 まあ、インターンのほうが忙しすぎたということもないわけではない。ほぼ朝から晩まで仕事であったから、他のことを考える余裕がなかったのである。

 

 その数少ない余裕も、フォースについて考える時間として割いたので、ある意味仕方ないと言っていいだろう。試練は始まったばかりなのだから、まだ焦ることはない。

 

 ではなぜ今になってフォースなのかというと、ここ数日の間に私のフォースが前触れなく成長したのである。それについて考察していた。

 

 ヒミコはもちろん、アナキンも交えて話し合った結論としては、「ヒミコが魂ながらに力を伸ばしたので、それに引っ張られている」ということになった。

 どうやらフォース・ダイアドの関係にあるものは、天秤のようにその力が釣り合おうとする傾向があるようなのだ。フォース自体が均衡の取れた状態こそ安定するものなので、ここでもそうなのだろうと。

 

 そう、フォースに目覚めて間もない頃のヒミコがめきめきと腕を伸ばしたように。今は私が彼女の能力に引っ張られて、フォースの力が成長しているということなのだろう。

 

 ただ、フォースが強くなることにはメリットだけでなく、デメリットもある。

 一番顕著な例としては、意図するしないに関わらず、様々な現象を起こしてしまうこと。フォースヴィジョンがいい例だが、それよりもヒミコが見舞われたように、”個性”と組み合わさったことで起こる事故が何より怖い。

 

 私の増幅は今のところそうしたことは起きていないし、兆候らしいものもないが、万が一のことは考えておいたほうがいい。何か違和感があれば、すぐにでも共有すべきだろう。

 

 ……と、いう話をした翌朝。インターンを終えて、三学期初日の朝。年末ぶりにヒミコと同じベッドで眠った翌朝のことである。

 

「ヒッ!?」

 

 目を覚ました私の目の前で全裸の私が寝ていて、私は気を失いそうになった。

 

 おかげで一気に目が覚めた。が、同時に血の気が引く音を聞いたと錯覚するくらい、急速に顔が、頭が冷えていく。

 ただでさえ寝起きで渇いている喉が、どんどん渇いていく。呼吸が浅くなっていく。脂汗もどんどんにじんできて、全身が震えて止まらない。

 

 どちらだ。ここにいるのは、ヒミコか? それとも、もう一人の私か?

 

「ヒ……ミ、コ……?」

 

 そんな震える手で、血の気の引いた青白い手で、ヒミコが変身している私の身体を揺する。

 起きない。いや、まさか、そんな。

 

「……ッ、ヒミコ! ヒミコ!! 頼む、起きてくれ!!」

 

 ますます悪循環に陥っていく思考に急かされて、激しくヒミコを揺り動かす。

 

 すると、不機嫌そうに声を漏らしながら彼女の目が緩やかに開かれた。

 

「ひ、ヒミコ……」

「んむぅ……朝からどうしたんですか、コトちゃん……」

 

 そして、やはり不機嫌そうにひり出された言葉に、私は安堵するあまりその場に崩れ落ちた。

 

「コトちゃん? ……んむぅ? あ、あー、あー? ……ああ、私またやっちゃったんですね」

 

 そんな私を見て、事態を悟ったのだろう。自分の声を確認して、それから申し訳なさそうに苦笑しながら元の姿に戻った。

 

「ヒミコ……! よかった、よかった……!」

「はぁい。……ごめんねぇ、びっくりさせちゃいました……」

「ぐす……っ、もう置いてかれるのだけはヤだからな……っ」

「はい……私もそんなのヤです」

 

 ぎゅっと強く抱きしめれば、同じように抱き返される。ヒミコの体温が、ぬくもりが心地いいけれど、その分感情が緩んで涙があふれる。

 昨夜の後始末もしなければいけないのに、これだ。どうやら今朝は慌ただしくなりそうだが……今はそんなことよりも、ここに確かにある愛しい人の暖かさに溺れていたかった。

 

 だが、少し落ち着いてくるとそうも言ってはいられない。もちろん今日から始まる授業のこともそうなのだが、再び無意識の変身が起きてしまったことは、何よりも問題だ。

 

 もちろん今の段階で、すぐにどうにかなるとは思っていない。あの日ヒミコが完全に私になってしまったのは、私に対する好感度の高さから来る同化願望もさることながら、「私に変身しなければ今を凌げない」という、ある種の強迫観念に応じてフォースも含めた全身全霊の変身を敢行したからだと思われる。

 確証はないが、状況証拠からしてそう判断できる。何せフォースとは、意思によってその真価を発揮するのだから。

 

 なので、ヒミコには今後全力での変身を避けてもらう必要があるのだが……ここで問題になるのが、先ほどのような無意識下での変身である。

 彼女の過剰変身が起こる何か月も前から、こうしたことはたびたびあった。最初はたまにであったが次第に頻度が上がり、さらにはその状態であっても私になりきってしまっていることも多々あった。消失の直前など、無意識下での変身はイコールほぼ完全な私への変身と言っても過言ではなかったほどだ。

 

 つまり無意識下での変身は、過剰変身の前兆と考えられる。もちろん物証はないが、単に私に対する愛の発露と考えるのは楽観が過ぎるだろう。

 これがさらに進行した状態で、万が一にでも私への変身が求められる状況に陥った場合……それはまさしく、あのときの再現になってしまうのではないか。

 

 もちろんすぐに起きることではないとも思う。けれど解決策は、今のところ一切ないのだ。ヒントもない。

 だからこそ、私は取り乱してしまうのだ。だってもう、もう二度と、ヒミコを失いたくないのだから。

 

「……ホント、どうしましょ。早くなんとかしなくちゃですけど……なんにも思いつかないです……」

 

 ヒミコもそれは同様だ。二人で抱きしめ合っているからひとまずは落ち着いてきたものの、先行きが不透明なのだから顔色はよろしくない。

 そうしていても、刻限は迫ってきている。14Oがこのままだと遅刻すると伝えに来たので、私たちは仕方なく風呂場に向かう。

 

「何か……何でもいい、何か手掛かりになるようなものはないのか?」

「うーん、正直あんまり……あ、でも」

「何かあるのか? なんでもいい、どんな些細なことでも構わないから」

 

 そして慌ただしくシャワーを浴びながら、着替えをしながら、話し合う。

 

「幽霊してるときは、ちっとも変身できなかったんです。そもそも身体がなかったので」

「……まあ、それはそうだろうな。”個性”は肉体に準拠する力だ」

「はい。でも、だから、なんですかね? 変身したいとも全然思ってなかったんですよ。普通、好きな人には思うんですけど」

「ふむ……? 好きと言っても程度はあるだろう。たとえばクラスのみんなはどうなんだ?」

「コトちゃんほどじゃないですけど、なりたいなって思うときが結構ありますね。爆豪くんすら何回か思ったことありますし、透ちゃんとかお茶子ちゃんとか……女の子ならみんなで楽しいことするたびに毎回思います。戻ってきた今は、特に」

「……ということは、君の『好きな人と同じになりたい』という衝動は純粋に”個性”由来のものか」

「たぶん?」

「それ以外に何か精神的に変調はあったか?」

「んー……。覚えてる範囲ではない……と、思います。たぶん。ちょっとお節介だったかもって、思うくらいですかね?」

 

 だとすると、マイナス増幅で欲求そのものを減らすことが一番現実的な回答になるだろうか。

 

 ……今の地球人にとって、”個性”とはもはや切っても切れないものだ。それは社会的にも人格的にもである。それが失われたときどうなるかは予想がつかないし、よしんば予想できたとしてもその通りになるとも限らない。

 

 しかし、それがない魂だけの状態のときに精神に目立った変化がなかったのであれば、消してしまっても問題はないようにも思う。

 とはいえ、内心の欲求なんてただでさえ曖昧なものだ。そもそも心の奥底から湧き続ける欲求である以上、完全になくすなど非常に困難だと言わざるを得ない。単純に、私の身体が持たないだろう。少なくとも、今の能力では不可能だとほぼ断言できる。

 

 であれば最大の問題は、それができるようになるまでいかにしてヒミコの過剰な変身を防ぐかになるわけだな。

 

 ……うん、話が最初に戻って来た。どうしろと。

 

 ということで、この話はひとまず中断することになった。これ以上はすぐに答えは出ない。まずは腹を満たすことを考えるとしよう。

 

「ちなみに、吸血衝動のほうはどうだったんだ?」

「あ、そっちはありました! なので、たまーにレイちゃんとかベンくんに身体借りて、誰かをチウチウさせてもらってました。人種によって血の味が違うので、楽しかったです」

「……レイたちはよくそれを許したな……人種によっては血そのものが有毒になることもあったはずだが」

「お義姉ちゃんなので。でも、だからこそ私もいっぱい感謝してたんです。本当ですよ?」

「いや、疑いはしないよ。君は基本的に、隠しごとはしないものな」

 

 しかしそうなると、やはりヒミコの吸血衝動は生まれつきのものとしての面が強いのか。ヘマトフィリアというのだったかな。

 魂だけになってもしっかりと衝動自体はあった、という点はすごいな……。三つ子の魂百までということわざがこの国にはあるが、まさに生まれ持った気質なのだろう。人間、赤ん坊の頃から結構個性があるものなぁ。

 

 と、いったところでちょうど朝食の場に着いたので一旦話はお開きだ。

 それでも、頭の隅には朝一に受けた衝撃が残っていて、私はあまり食事を楽しめなかったのである。

 

***

 

 三学期一発目の授業は、ヒーローインターンの報告会だ。プロと業務をこなす中で得た成果や、見えた課題などを共有するものとなる。ヒミコだけはリハビリ完了の報告だが、それはともかく。

 

 ここで、一波乱あった。

 

 別に事件があったわけではない。ただ、オチャコのコスチュームの中から、クリスマスのときにプレゼント交換で引き当てたイズクのプレゼントが出てきただけである。

 

 しかし「だけ」とは言うが、これを見過ごせない女がいる。ミナだ。

 

「やはり」

 

 彼女はそう言いながら、心底楽しそうな顔をオチャコに向けた。

 

 一方対するオチャコはと言うと、床に落ちてしまったプレゼント……相変わらずオールマイトフリークなイズクのプレゼントだとすぐにわかる、オールマイトの人形がついた根付けを大急ぎで回収したものの、その顔は真っ赤で白状しているも同然である。

 当然、それで察せないほどミナは鈍くないので……。

 

「ぅ、うぅー……」

「やっぱりそうなんだー!?」

「はううぅぅ……そ、そう、です……」

 

 最終的には言葉でも白状する羽目になっていた。その言葉は、消え入りそうなものではあったが。

 

「そっかー、いいねぇ、青春だねぇ! ねね、緑谷のどのへんが気に入ったの?」

「ぅぅ……もう堪忍してぇ……!」

 

 そして、ミナの追求にオチャコは真っ赤な顔を両手で覆ってしまい、”個性”が発動。いつぞやのように、空中を漂うことになった。

 これ以上はさすがにやりすぎだろうということで、とめに入ったが……これは近いうちに女子会だろうなぁ。

 

 今夜? 今夜はインターンの意見交換会とヒミコの快気祝いを兼ねた新年会をしようという話になっているから、さすがにないだろう。

 

 とはいえ、こういう話を知りたいという欲求がなくなるわけではないからなぁ。あまりオチャコ一人に負担をかけるわけにはいかないし、私からも何かミナたちが食いつきそうな話のタネを用意しておくべきか?

 

「こっちはこっちで、なんとなくそうなんじゃないかとは思ってた」

「ケロ。最初のインターンが始まった頃から、緑谷ちゃんとの距離が近かったものね」

 

 どうにかこうにか着替えを再開したあと。キョーカとツユちゃんは、察していたと優しい表情だった。

 何かを言いはしなかったが、モモも似たような表情で数回頷いている。モモはあまり恋愛方面に詳しくなさそうだと思っていたが、生粋の女性は私みたいな元男よりもこの手の感情には詳しいのだろうか。

 

 いや、私の場合は前世が前世ということもあるわけだが、それはともかく。

 

「バレちゃったからには、応援ももうちょっと大々的にやってもいいかなー?」

「そうですねぇ、早速作戦会議しましょうか?」

 

 一方で、焚きつけた側である二人は頭を寄せ合って楽しそうに笑い合っていた。そういうところだぞ。

 

 なので、これには太い釘を刺しておく私である。

 

「……二人とも、そういうのはやめておけ。人の恋路をそうおもちゃにするものではないぞ」

「「はーい」」

 

 返事は、見事に揃った……しかしどこか楽しそうなものだった。こういうところ、似た者同士だよなぁこの二人は……。

 

 と、考えたところで、ふと私の脳裏に一つのひらめきが駆け巡り、思わず私は目を見開いて硬直したのだった。

 




何も解決してない問題そのに。
トガちゃんは確かに、過酷な運命と絶望的な距離を乗り越えて元の時代まで戻って来ましたが、それは彼女の意志が強く、運もまた強かったからで。
彼女がトガヒミコである以上、フォースと絡んだ過剰な変身が彼女を消失させる可能性は依然として存在しています。
この問題も理波が向き合わなければならないものであり、これが今章の主題となります。

お茶子ちゃんは、うん。
原作と異なる環境から気持ちをしまってないので、認めちゃいました。
バレンタイン回を書くのが今から楽しみです(その目は澄み切っていた

ところでトガちゃんのヘマトフィリア(血液嗜好症)と同化願望についてですが、ここからはそれにまつわるクソ長い考察のような何かです。
究極見なくても話には関係ないしネタバレとかもないので、興味がない方は飛ばしていただいて大丈夫です。



ボクはヘマトフィリアはトガちゃん生来のサガ、同化願望は個性による衝動であると考えており、本作はその説に基づいて制作されています。
確かに彼女の「変身」のためには血が必要で、そんな個性に適合する形で血を好むようになったと考えるのは、間違っていないとも思います。
個性に必要な身体機能として、そのように身体が発達した、というのはあの世界の人間にとっては普通のことでしょうし。

ですが同時に、個性に必要な身体機能を持たないキャラも、原作にはちゃんといるんですよね。
代表的なのは荼毘で、彼は全力を出せばエンデヴァーをも上回る火力の炎を放てますが、肉体が普通寄りなので個性を使えば使うほど身体が焼けただれていくデメリットを持つ羽目になってます。
なので、使用に血の摂取が必要な個性であっても、その行動を忌避する性格の人物はあの世界にはいるはずだろうと思われるのですね。

何より、「個性に必要な機能は身体が自然に持っている」のはあの世界では普通なんですよ。ごく当たり前のことなんです。
でもそれがトガちゃんに当てはまるのかって言うと、ボクにはそうは思えないんですよね。
なんせ両親からあれほど「普通」であることを望まれながら、本人も一応努力はしたのに、それでもなお「普通」であれなかったのがトガちゃんです。
そんな彼女が「個性への身体の適応で血が好きになっている」というところだけ「普通」というのは、なんだか違うような気がしてならないんですよね。
だってトガちゃんのヘマトフィリアがもし個性由来だとするなら、AFOに個性を奪われたらトガちゃんは血に対する執着や嗜好を失う、あるいは失わなくとも減退することになり得ますよね。
それはあの世界の法則に基づく「当然」であり「普通」ですが、だからこそトガちゃんにそういう「普通」は、違う気がするんです。

逆に個性と関係ないなら、仮に無個性になったとしても彼女は血を望むでしょう。個性とは関係なく、誰かの血を求めるでしょう。
そしてそれは、ホモ・サピエンスという生き物にとって間違っても「普通」ではない。
つまりAFOが個性を奪ったとしても、それだけでは彼女は救われない。それを手段として人々を救い、あるいは支配してきたAFOでも、個性だけでは彼女を救えない。
彼女を救えるものはただ一つ、彼女の愛を正面から受け止められる対等な愛か、彼女はそうなんだと受け入れられる仲間だけ。
そういうどうしようもない業を背負うからこそ、彼女はトガヒミコなのではないかとボクは思うのです。

では同化願望はどうなのかですが、これはヘマトフィリアほどの異常ではないと思うんです。
もちろん程度の差はあるでしょうし、必ずしも好きな人への変身とは限りませんし、同じになりたいと思うかどうかもわかりませんが、しかし誰かに変わりたいと思ったことのある人は多いのでは?
もし自分がこの人だったら、という空想もそうでしょうし、極論「この人と同じ力を持っていたら」「この人と同じ服を着たい」なんかもある種の同化願望でしょうし。
なので、個性を失ったとしてもなお好きな人と同じになりたいと思うこと自体は、ヘマトフィリアよりは「普通」に近いのでは?
だからこそ、同化願望のほうはトガちゃんにあってもまあおかしくはない「普通」かなと。

以上のことから、ボクはヘマトフィリアはトガちゃん生来のサガ、同化願望は個性による衝動であると考えている次第であります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。