銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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幕間 サンタクロースはどこのひと

 少し時間は遡って、クリスマスの夜。念願の再会を果たした恋人同士が、爛れた夜を過ごしていた頃合い。

 草木も眠る丑三つ時と俗に言われる時間帯に、サンタクロースの衣装に身を包んだプレゼントマイクと、それを呆れた顔で見やる普段通りのイレイザーヘッドが雄英職員寮の一角にいた。

 

 彼らが待ち合わせた場所は、雄英で保護されている少女、エリの部屋の前だ。そんなところで何をしているかは、プレゼントマイクの格好が示す通りである。

 今まで悲惨な目に遭ってきた少女のために、初めてのクリスマスプレゼントのために、ヒーローたちは一肌脱ぎに来たというわけだ。

 

 まあ、上から下まで完璧なサンタ衣装を着こなすプレゼントマイクから、いつものコスチューム姿なイレイザーヘッドは抗議を受けていたが。

 

 なお幼いエリは既に眠っている時間のため、二人の会話はすべて小声で行われている。

 

 だがそんな彼らでも、いざプレゼントタイム、と室内に入った瞬間、同じようにサンタ衣装を身に着けたミッドナイトと13号に遭遇した(進入経路はそれぞれ異なる)瞬間は、ぽかんとするしかなかった。これは相対したミッドナイトと13号も同様である。

 

 それでも、ベッドの中のエリが軽く身動ぎした瞬間に即刻無音で身を翻して闇に紛れ、最終的には一瞬のアイコンタクトだけでトイレへと一斉に合流を果たしたところはさすがと言うべきだろう。絵面があまりにも愉快な点は見なかったことにするとして。

 

「なんだよー、結局みんな同じこと考えてたのかYO!」

 

 妙なタイミングで妙な遭遇を果たした彼らだが、目的は同じだった。

 元々エリは教員寮における癒しと化している。中でも、同性ゆえに様々な身支度などで接点が多いミッドナイトと13号にとっては、格別と言える。

 だからこそ彼女たちも、生まれて初めてのクリスマスを楽しみにしていたエリのためにプレゼントを、と考えたわけである。

 

 それを確認し合った四人は、多少話を脱線しつつも四人でプレゼントを置いていこうと結論付ける。

 とにかく音を立てずエリの枕元に置く。予定より人数が増えただけで、やることは変わらないからだ。

 

 たったそれだけのことを再確認するために要した時間を考えてイレイザーヘッドはひっそりとため息をついたが、下手に口を挟んだら余計に話がこじれることを理解しているので、終始ほぼ無言だった。

 

 ということで、改めて室内へと進入した四人だったが……今度はブラドキング、ハウンドドッグ、エクトプラズムがやはりサンタ衣装(ハウンドドッグはトナカイ)で登場。またしても一旦引き、話し合う羽目になる。

 

 彼らの目的もイレイザーヘッドたちと一緒だ。察するまでもなく衣装からして明らかである。

 結局のところ、彼らはヒーロー。誰もが人並み以上の正義感と親切心を持ち合わせており、そうした気持ちを表す行動力も持っている。そういうことなのだった。

 

 とはいえ、時間は有限である。またしても話が脱線しかけたため、合理性を何より重視するイレイザーヘッドが低い声で一喝する羽目になったが。ともかく改めてプレゼントを、となったわけであるが。

 

「……オイ、なんだアレ」

 

 ここでまた別の問題が浮上し、三度目の中断を余儀なくされた。

 プレゼントマイクが代表するように指で示したものは、床に横たわる天使の置物である。元々はエリが眠っているベッドヘッドに置かれていたものであることは、何度もここに出入りしている彼らは全員が承知している。

 

 だが問題が一つ。それは、そんな置物が真っ二つになっていたことである。

 さらにその周辺には、何やらべたべたと粘着質な見た目のロープ。

 そして最大の問題は、ベッドの脇に一足先に置かれていたプレゼントボックスだ。

 

 置物についてはまだわからないが、少なくともわかることが一つある。

 

「……先客がいた、のか?」

 

 ブラドキングのつぶやきに、全員の顔色が変わる。引き締まった、現役プロヒーローとしてのそれにだ。

 

 だから彼らは、即座にこの場の検分に取りかかった。まず、エクトプラズムが分身を作り出して真っ二つになった置物を調べる。

 

「コレハ……随分複雑な機械ガ仕込マレテイタヨウダ」

「なんでそんなものがここにあるのよ……」

「……そういえば、今日の職員会議の終わりに校長が何か言ってませんでした? 今日からセキュリティを強化したとかなんとか……」

 

 13号が何かに気づいたように言葉を継ぐ。これを受けて、全員がうろ覚えの記憶を辿った。

 そして、全員が「あ」と声を上げる。そう、根津校長は確かにエリの部屋のセキュリティを更新したと言っていたのだ。

 

 だが、そんなセキュリティが破られている。となれば、答えは一つしかない。

 

「……何者かが侵入した。それで間違いなさそうですね」

 

 イレイザーヘッドがずばり答えを言う。同時に、彼は視線をハウンドドッグに向けた。

 

「グルルルル……薄れてはいるが確かに感じる……雄英では嗅いだことのない匂いだ」

 

 彼は既に、言われるまでもなく匂いを探っていた。彼は犬という異形型の”個性”の持ち主。これくらいは朝飯前だ。

 

「性別は十中八九、女……それとかすかだが、血の匂いも感じバウウゥッ、ガウルルルッ」

「ほぼ百パーヴィランじゃねーかYO! どうするよマジで!」

「エクトプラズム、プレゼントの中身はどうなの?」

 

 ハウンドドッグが高揚していき人間の言葉を失い始める一方、ミッドナイトは眉をひそめながらも冷静に、エクトプラズムへと声をかけた。

 

 やはり分身によって、置かれていたプレゼントボックスを慎重に検めていたエクトプラズムは、ちょうどその中身を明らかにしたところであった。

 

「……コレハぺんだんと、カ?」

 

 小さめの箱から出てきたもの。それは、()()()()()()()()()()()()だった。見た目だけで材質を看破できる人間はこの場にいないが、少なくとも銀色に輝く鍵は何らかの金属製のようだ。

 それを吊っている紐は細身のチェーンである。ご丁寧に、長さを自由に調節できるようになっている。

 

「……確かにペンダントだな。だが銀色の鍵、だと?」

 

 近寄って、ペンダントをしげしげと眺めたブラドキングが「まさか」とこぼす。

 この場にいる全員が、彼と同じ意見だった。

 

「……死柄木襲ダロウナ」

「間違いないでしょうね」

 

 そう、可能性があるものは一人しかいない。ヴィラン連合のサブリーダー、死柄木襲である。

 

 根津校長以下、雄英の教師たちには彼女とエリの関係についてはある程度周知されている。

 何せエリにとって、襲はヒーローなのだ。救けてくれたのみならず、慈しんでくれた存在であり、普段から襲の存在を気にしていることもある。

 まだ幼いエリには、襲の細かい事情を何も知らない。だからこそ、無邪気に慕っている。

 

 だがそれは、ヒーローたちにしてみれば素直に看過することができないこともまた事実。

 

「……エリちゃんの気持ちはわかっけどよォ」

「調べないわけにはいかないな」

 

 何せ襲は、悪名高きヴィラン連合の中心人物の一人なのだ。その素性も雄英にはある程度知らされていると言っても、現在進行形で襲が強大なヴィランであることには代わりない。

 だからこそ、そんな人間からのプレゼントを素直にエリに渡すわけにはいかないのだ。

 

「パワーローダーの仕事がまた増えるな……」

「この手のことは専門性が高すぎますもんねぇ……エリちゃんには悪いですけど……」

「仕方ないわ。こればっかりは、ね……」

「ソレモ問題ダガ、一番ノ問題ハドウヤッテ侵入シタノカトイウ点ダ」

「バウウウッ、ガルルルッ、匂いはバウアウッ、途切れガウウルルル!」

「……匂いは途中でプッツリと途切れているようだ。突然その場から消えたような途切れ方らしい」

 

 激昂することで発語に支障が生じるハウンドドッグの言葉を、ブラドキングが通訳する。

 

 ただ、この内容に対して驚いたものはいなかった。襲の持つ”個性”は、既に割れているからだ。

 

「転移系の”個性”も持っているんでしたっけ。だとしても、雄英の中にまで侵入した上に誰にも気取られないなんてことあります?」

「全体のセキュリティ含めて、再確認が必要だな」

「ケーッ! せっかくの聖夜だってのに、今日は徹夜か!? F〇CK!」

「校長に連絡がついたわ。ここには一人だけ残して会議室に集合、ですって」

「ソレガ妥当カ。了解シタ、スグニ向カオウ」

「アオーンッ!」

 

 かくして教師でありヒーローでもある彼らは、唐突な仕事に巻き込まれることになった。それでもやることはきっちりやる辺り、彼らはやはりプロである。

 

 結果として、やはり下手人は死柄木襲であることが発覚する。

 彼女は三つ目の”個性”である瞬間移動によって短距離の転移を繰り返しながら、堂々と正面から入って来ていた。その小脇には、先のペンダントが入っていた箱が抱えられている。

 

 だが、監視カメラに映っている機会はごくわずかだ。映っている時間もわずかであり、その映っていたものもすべて、リアルタイムで警備員がついていないものに限られている。

 また、センサーの類もすべて回避されている。まるでそこにあるのだとわかっているかのように、どれくらいまで範囲が及んでいるのかわかっているかのように、的確にだ。

 

 こうなれば、何らかの”個性”の関与は間違いないだろう。それが襲本人に新たに与えられたのか、それとも他に何か手段があったのかまではわからないが。

 

 さらに言えば、敷地内を巡回している警備用ロボットもそれなりの数が破壊されていた。いずれも死角からの一閃で機能停止に追い込まれている以外に異常はなく、いずれも侵入者に気づく前に壊されたのだと推測された。

 

 これを受けて、根津校長は雄英のセキュリティをさらに強化することに決定した。

 とはいえ、今の地球の技術では、転移系の”個性”を無効化するすべは”個性”に頼るほかない。そのため、極めて広大な土地を持つ雄英への侵入を完全に防ぐことは不可能と言っていい。

 

 ゆえにすぐにできることと言えば、今までも密かに進めていた士傑高校との連携を加速させること。それから既存の延長線上にあるロボットではなく、高度な能力を持つドロイドのさらなる導入くらいだ。足らない部分は、「ハイスペック」の”個性”を持つ根津校長による運用システムが埋めることになる。

 

 なお襲が持ち込んだプレゼントは、当たり前だが入念に検査にかけられた。だがあらゆる方法を駆使しても、結果は「異常なし」。ヴィラン連合に繋がるものも出てこなかった。

 このため、最終的にはエリに返却されることになる。クリスマスから、優に一か月は経過したあとのことだった。

 

 根津校長が一番苦労したのは、クリスマスプレゼントだったはずのものが一か月遅れで、しかも雄英の教師陣から渡されることへの言い訳を考えることだったのは、教師陣共有の秘密である。

 

***

 

 また少し時間は遡り、日付が変わるか変わらないか、という時間帯。

 

 転移の”個性”で拠点へと戻って来た襲は、転移特有の唐突な環境の変化に一瞬眉尻を下げた。この場で行われていた()ヴィラン連合メンバーによるクリスマスパーティの現状に対して、わずかに警戒したのだ。

 

 襲が確認したのは、異能解放軍のメンバーの有無。彼女にとってかの組織のメンバーは大半が気に入らないので、なるべくなら近くにいたくなかったのである。

 今日のクリスマスパーティがヴィラン連合時代からのメンバーだけで行われている理由は、それだけではない。しかし半分を占めていることも間違いではない。

 

 ちなみに荼毘は既に退席しており、彼が最低限の雰囲気として身に着けていたブラックサンタ帽だけが部屋の隅でぽつりと宴に残留している。

 

 ただ彼の独自行動はいつものことだが、序盤だけでも参加していた辺り彼にもまったく協調性がないわけではないのだろう。

 

「あら、襲ちゃん! 戻ってきたのね。サンタさんは上手くいった?」

 

 そんな中、戻って来た襲に最初に気がついたものは、乱闘型対戦系のゲームで白熱するスピナーとマスタードを一歩下がったところで優しく眺めていたマグネだ。既に宴もたけなわというべき状態の中で、彼女はいまだにサンタの衣装をほぼフルで身につけていた。

 

「……ま、一応ね」

「ちょっ、それ俺のコーラ! いいよ!」

 

 彼女に対して言葉少なに応じつつ、襲はサンタ帽子をかぶったトゥワイスから問答無用で缶を奪って遠慮なく口をつけた。

 

 失敗はしていない。だが襲にしてみれば、成功したとも言えない状況だった。

 

 何せ、エリに声をかけることも触れることもできなかったから。根津校長が強化したセキュリティによって、エリは物理的に隔てられ接触ができなかったのだ。

 だからこそ、プレゼントはベッドの脇に置いておくしかなかった。邪魔をしてきた人形は真っ二つにしてやったが、それで溜飲が下がるわけもない。

 

 それを思い出した瞬間、一瞬だけ赤い光が襲の身体の表面を走る。彼女はその怒りを持っていた缶に込め、「間接キス……」などとつぶやいたトゥワイスに向けてぶん投げる。

 

「痛ァい! 何すんだよごめんなさい!」

 

 ただ、悪いことばかりでもない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の効果に間違いはないとわかったからだ。それに対してあまりにも得意げなドクターは面倒だったが。

 

「……そう。じゃあ、襲ちゃんもパーティの続きを楽しみましょ! せっかくのクリスマスなんだもの! 楽しまなきゃ損ってもんよ!」

「ん……そう、だね。そうする」

 

 それに、せっかくのパーティだ。エリを訪ねるために中座したが、襲にとっては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 気を遣ったマグネの言葉でその楽しさを思い出して、襲は笑った。かすかに漏れていた物騒な空気が霧散したことで、マグネ同様にサンタ衣装のミスターコンプレスが仮面の裏で小さくほっと息をつく。

 

「はい勝ちー!! 僕の勝ちー!! っざまあーー!!」

「クッ!! 一手遅かったか!」

 

 そんな彼らの横で、スピナーとマスタードの戦いは決着が着いたらしい。激闘を制したマスタードが派手に歓声を上げ、けらけら笑いながらスピナーを煽る。

 

 二人の姿を見て、襲も笑う。最初は文字通り子供のように、楽しげに。

 

 しかしその表情は、次第に悪い笑みへと変わっていく。いたずらをする悪童のそれへ。

 だがそのどちらも共通して、無邪気な子供らしさのにじむものであり。

 

 彼女の幼少期を知るものが見れば、たとえこの場が悪党の巣窟であったとしても、胸に来るものがあるだろう。そうでなくとも、人生経験が豊富なマグネとコンプレス――なんだかんだで連合の潤滑油的役割を意図せずやらされがち――の二人も、思うところがあったという。

 

「じゃー次、ボクもやろっかな~!」

「ああ、戻ったのか。いいぜ、やろう。CPUが弱すぎて毎回マスタードとの一騎打ちにしかならないんだよな」

「リーダーがいればもっと盛り上がれたんだろうけどねぇ。ま、いいさ。三人でも。どうせ一番強いのは僕なんだしさあ!」

「わー、マスタードってばそれまーじですぅー? タイマンになったら絶対ボクに勝てないくせしてぇー?」

「は? 超能力でチートしてるやつにだけは言われたくないんですけど??」

「襲はタイマンだけはやたら強いからな……」

「ふふふー、二人がかりじゃないとボクに勝てないざーこ♡ 負け犬♡ 時代の敗北者♡」

「負けないが!? お前みたいなクソガキになんか負けないが!?」

 

 そんな賑やかな夜を過ごすヴィランたちの姿を、プレゼントの鍵と対を成す金色の小箱だけが静かに眺めている。

 

 ――死柄木弔に対する改造手術が始まった翌日のこと。ヒーローとヴィランの全面戦争が始まる、およそ三か月前のことであった。




復活の幕間。
内容は削除前とまったく変わっていません。

健全な幕間一つ目は、ヴィラン連合関係でした。
こっちもこっちで、A組に負けず劣らず賑やかに過ごしてましたよという・・・まあ彼らなりの日常回とでも言いましょうか。
でももう弔の改造は始まってるので、リーダーは不参加。荼毘もすぐに抜けてます。
エリちゃんにプレゼントされた鍵のペンダントについては、実はあんま深くは考えてないですけども。まあ将来的に意味のあるものにしたいですね。

なお襲がもらったクリスマスプレゼントこと、彼女の四番目の個性はたぶん次の章で触れられるかと思います。
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