銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

225 / 288
幕間 引き金に指がかかる

 年の瀬。たった一泊の帰省と、そこから続くヒーローインターンのための準備に追われている、雄英高校ヒーロー科一年A組の寮棟にて。

 

「んー……むむむむむ……どうしよ……」

 

 麗日お茶子は自分の部屋で一人、神妙な顔で正座して葛藤していた。

 

 準備は既にほぼ終わっている。では何を悩んでいるのかと言えば、彼女の前のちゃぶ台に置かれた一つの根付けが原因だ。

 具体的には、オールマイトをデフォルメした小型のぬいぐるみがメインの根付けである。彼女はこれの扱いに悩んでいた。

 

 別に使いどころがない、というわけではない。逆に使いどころしかない、と言える。

 だがそれは、オールマイトが世界に誇る元ナンバーワンヒーローだからではない。原因は、この根付けを用意した人物にある。

 

 この根付けは、クリスマスプレゼントだ。つい先日行われたクラス全員揃ってのクリスマスパーティで、互いに持ち寄ったプレゼントをくじ引きで交換し合った結果、手元に転がり込んできたものなのだ。

 

 もちろん誰が用意したものかは基本非公開なのだが、オールマイトグッズをクリスマスプレゼントの交換会に持ち込む人間など一人しかいない。

 

 だがその一人こそ、お茶子にとっては意中の人であり。そんな人から偶然とはいえもらったプレゼントは……いや、偶然であるからこそ。

 そこにどうにも運命めいたものを感じてしまうのは、年頃の少女としてはある意味当然と言えるだろう。

 

 だから彼女は悩んでいる。想いを寄せる異性からのプレゼントだ。使わないという選択肢はあり得ない。

 ただ、それをあまり大っぴらにするのはなんだか危ないと思えたのだ。

 

「被身子ちゃんとか理波ちゃんにはもうバレとるから、今更やけど……芦戸ちゃんに見つかったら絶対なんか言われる……!」

 

 何せA組には、コイバナが好きな友達が複数いる。彼女たちの目に触れたら……と思うと、普段使いをするには少しためらわれたのだ。

 

 その懸念は実に正しい。何せ懸念通り、ことは二週間も経たずに露呈してしまうのだから。

 

 まあ、それはともかく。

 

 かくなる上は、ヒーローコスチュームの中にでも仕込もうか? 幸いちょうどよさそうな空きスペースはあることだし……。

 

 などと思い始めたときである。

 

「うひょっ!?」

 

 根付け同様にちゃぶ台に置かれていた携帯電話がメールの着信を通知し、音と振動を発した。まったく意識の外にあったものの突然の挙動に、思わず奇声が口をついて出たお茶子であった。

 

「あーびっくりした……えっと、わ、で、デクくん?」

 

 だがすぐに気を取り直して携帯電話に手を伸ばし、送り主の名前を見て再びお茶子はびっくりする。

 何せ送り主はデク……お茶子の想い人である緑谷出久、その人であったのだから。

 

 だがもう何か月も同じ寮内で生活している上に、登校先もクラスも同じな間柄である。必要以上に驚くことも、慌てることもなかった。

 ただ、誰もが色々と追われているタイミングで連絡が来るのは珍しいな、とお茶子は思った。

 

「……え」

 

 そしてそのメールを見て、みたびお茶子は仰天した。

 次いで、その顔にどんどん赤みが差していく。

 

 無理もない。何せ出久からのメールの内容は、要約すれば二人だけで話がしたいから会えないかというものだったのだから。

 

「でっ、え、ど、どうしよ!? ま、まさか、まさかだよね……!?」

 

 本来とは異なり気持ちをしまわないことに決めているお茶子は、この内容に上ずった声を上げる。

 

 違う、とは彼女自身もなんとなくわかっている。出久はそういうことを、自分から言い出すタイプではない。なんだったら、お茶子のアピールに何一つ気づいていないまである。

 それでも、もしも。もしも、と期待してしまうのは複雑な乙女心だ。

 

 だからお茶子は寮内のことであるのに、一応身だしなみをそれなりに整えた。化粧などはまだよくわからないから、目で見てわかるような劇的なものは何もないけれど、それでも髪や服の乱れは正せるだけ正して呼び出しに応じたのだ。

 

「……え、インターン先が変わる?」

「そうなんだ」

 

 そして二人きりになった出久から切り出された話は、案の定色恋沙汰とはまったく関係のない真面目な話だったので、表面上は取り繕いつつも内心で少しだけがっかりするお茶子だった。

 

 と同時に、自分の頬を殴りつけて煩悩を振り払う。

 

(何考えてるんや私は! こんなんデクくんにも迷惑かかる!)

「う、麗日さん!? 急にどうしたの!?」

 

 もちろん、いきなり目の前でそんなことをされた出久は驚くばかりだ。

 

 こんな状況でもお茶子を気遣う彼の態度に、復活しそうになった煩悩を再び押さえつけながらお茶子は激しく首を振る。

 

「なんでもない! ちょっと自分に喝を入れたくなっただけ!」

「このタイミングで!?」

 

 あからさまになんでもないわけがない言い訳だったが、まっすぐな目でそこまで言い切られたらさすがに出久も少しは躊躇する。

 

 その隙に、お茶子は強引に話を元に戻すことにした。これで押し切られるのだから、出久の気弱さも大概である。オールマイトが絡むとまた話は別なのだが。

 

「その、B組との対抗戦で起きた”個性”の暴発に関係してるんだけどね。あの日は麗日さんとトガさんのおかげでなんとかなったけど、やっぱり自分でなんとかできるようにならないとって思ってて……でも、なかなかうまくいってないのが現状で。サーにそのことを相談したら、自分はその手のことには不得手って言われちゃってね」

「そう? 十分教えるの上手いと思うけど。サーが教えて伸びたって言えば、通形先輩って先例もあるやん?」

「僕も同じこと言ったんだけど、サーが言うには『自分が教えたものは戦いの立ち回りと考え方が中心』らしくて。あのとき僕に起きたみたいな、エネルギー? 的なものをを扱う”個性”の制御の仕方とか鍛え方は、わからないんだって。サー自身、”個性”はそういう力を扱うものじゃないから」

「あー、言われてみれば確かに」

 

 二人が現状師事しているサー・ナイトアイの”個性”は、「予知」。対象の未来を見るというものであり、その拡張性はかなり低いものだ。

 彼が直々に指導している通形ミリオの”個性”も、それそのものは物質をすり抜けるというだけの「透過」であり、拡張性という点ではさほど変わらない。

 

 だからこそ、サー・ナイトアイには出久の持つ力を……ワンフォーオールの中に眠っていた、「黒鞭」のような”個性”について教導するノウハウが不足している。なじみのない考え方や使い方が必要となる以上は、どうしても。

 

「だから代わりに、そういうのを教えられる人に一時的に任せることにしたんだって」

「なるほどぉ。……えと、ちなみに、誰のとこに行くとかってのは、もうわかったり……?」

 

 とはいえ、意図したわけではないにせよ、出久と一緒にいられるインターンの時間を楽しみにしていた部分を否定できないお茶子にとって、それはあまり嬉しくない報告だった。

 だからか、思わず上目遣いになって、もじもじと問いかけてしまう。無自覚に距離を詰めながらだ。

 

 彼女の行動はすべて完全に無意識なものだったが、それでも女性に対する免疫が薄い出久には効果抜群である。急に心臓が跳ねて、顔に送られる血液の量が増える。

 それでも以前のようにあからさまに取り乱すことはなく、一応は取り繕いつつもぬるりと距離を取った出久。しかしその視線は、間違いなくお茶子にまっすぐ向けられて離れようとはしなかった。

 

 ただし、この際の己の心境に対して、最初の頃に比べれば女性耐性ができたなと考える辺り、どこまで行っても彼はクソナードだった。

 

「その、エンデヴァーのところだって……」

「ええ!? すごいやん!」

 

 とはいえ、出久が託される先のことはお茶子にとって、何より出久本人にとっても驚きだったので、二人の間に漂い始めた甘酸っぱい空気は即座に消し飛んだ。二人ともそういうところだぞ。

 

「ってことは、轟くんと爆豪くんと一緒になるんかな? 確か爆豪くん、スナッチが引退しちゃって行く先ないならどうだって轟くんに誘われてたよね」

「うん、そういうことになるみたい。幼稚園から高校まで一緒なんてすごい縁だなぁって思ってたけど、まさかインターンまで一緒になるなんて思わなかったよ」

 

 ただ、そんな中で出久が答えた言葉が、お茶子にはやけに印象的に感じられた。

 

 よどみなく話す出久の表情が、澄んだものだったから。今までとは違うと思ったから。

 

「……もしかして、最初の実戦訓練のときに私が言った『男の因縁』は解消したっぽい?」

 

 だから、ふとそんなことを問いかけていた。元々ストレートにものを言いがちなお茶子の性格が直に出た形である。

 

 出久はこれに対して、目を丸くする。しかしすぐににこりと笑みを浮かべると静かに、けれど確かに弾んだ声で頷いた。

 

「……うん。とりあえず、仲直りはちゃんとできたよ」

 

 その顔が、とても眩しくて。

 

 一瞬、呼吸を忘れて想い人の顔に見惚れてしまうお茶子だった。

 とくり、と胸が甘くうずく。ああ、この人は心の底から嬉しいとき、こういう笑い方をするんだなと知れて、心が暖かくなる。

 

「……そっか! よかったやん!」

 

 だからこそお茶子もまた嬉しくなって、満面の笑みを自然と浮かべていた。好きとか嫌いとか、そんな次元を超えた先にある輝くような笑みだった。

 それは、そう。彼女の名前のように、麗かな。

 

 だが、それは出久には刺激が強すぎた。至近距離で直接向けられたことで閾値を一瞬で突破されてしまい、思考が停止した彼は目の前の女性の顔に釘付けになってしまう。先ほどとは真逆の状況である。

 

 そうして数秒ののち、見つめられていることに赤面したお茶子が照れながらも指摘したことで、再起動した出久はひたすら謝り続けるロボットと化す。

 二人はそのまま謝罪合戦を始めてしまうのだが、それはある意味蛇足であろう。

 

 あまりにも遅々とした、緩やかな歩みではある。しかしだとしても、確かに二人の間にあるものが前へ進んだことは事実なのだから。

 

***

 

 そして元日。以前と同様、通形と共に事務所入りしたお茶子を迎えたサー・ナイトアイからの最初の指令は、遠征への随行だった。サイドキックのセンチピーダー、バブルガールのみならず、お茶子と同じくインターン生である通形……ルミリオンも伴う、事務所全員での大移動である。

 

「サー、どこまで行くんです!?」

「リューキュウの事務所だ。チームアップの要請は既に済んでいる」

「リューキュウ? 梅雨ちゃ……フロッピーがインターンしてるとこですね。ナンバーテン、ドラグーンヒーローの」

「その通り。……目的は、トリガーの摘発と犯人グループの背後に潜む黒幕の尻尾をつかむことになる」

「死穢八斎會からこっち、そういう違法薬物取り締まり系の仕事がよく入ってくるようになったんだよねー。死穢八斎會は壊滅したはずなのに、なんでか案件が減らなくってさー」

「資料はまとめておきましたので、移動中に読んでおいてくださいね」

 

 この説明に、お茶子は顔を強張らせる。

 しかしすぐに気を引き締めると、受け取った資料を読み込み始めた。時折挟まれる重要な話も聞き逃さないようにしながら、プロの仕事にくらいついていく。

 

 そんな新人の姿勢を悪く思うものなど、ここにはいない。程度の差こそあれ、誰もが好意的に受け止めていた。

 

 かくして、お茶子のインターンは始まったのだった。

 

 ……だが、彼らは知らない。

 このとき摘発したトリガーの密造工場が。そこから密かに運び出されたトリガーが。世界を震撼させる大事件に繋がっているなど、誰も知らなかった。

 

 オールフォーワンやヴィラン連合、あるいは異能解放軍とはまた異なるヴィランによる大事件は、すぐそこにまで迫っていた……。




復活の幕間そのに。
そのいち同様、内容は削除前とまったく変わっていません。
そしてそのいちと連続しての更新ですので、念のためご注意をば。

そんな健全な幕間二つ目は、デク茶回でした。
書いててわりと冗談抜きにじれったすぎてエロい雰囲気にしたくなったけど、二人とも動いてくれなかったです。残念。

それとついでと言っては何ですけど、次に向けての繋ぎもひとつまみ。
彼らが追っている事件はアニメオリジナルエピソードである「お久しぶりですセルキーさん」に繋がるものです。
つまり何が言いたいかというと、劇場版三作目であるワールドヒーローズミッション編をやりますよという宣言であります。

ということで、月初めから開始した更新も今日でおしまいです。
色々とあった章ですが、区切りがついたついでに感想やここすき等いただけるとボクがはかどります。
コンゴトモヨロシク・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。