銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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6.戦闘訓練 1

「いいじゃないかみんな! カッコいいぜ!」

 

 訓練場に勢揃いした二十名の生徒をぐるりと順に眺めながら、マスター・オールマイトが嬉しそうに声を上げる。

 

 横目で同じように見渡してみれば、確かに。三者三様と言うべきか、統一感は一部の例外を除いてほぼないが、みなそれぞれが似合う、それぞれが映える装いだ。なるほど、これはこの星の年少者の多くが憧れるのも頷ける。

 

「さて、それじゃあ早速始めようか! まず訓練の内容を説明するよ!」

 

 ともあれ訓練である。

 

 マスターの説明によると、今回の内容はツーマンセル同士の対抗戦。片方がヒーロー役、もう片方がヴィラン役となっての戦闘訓練ということだ。

 その舞台はこの訓練場にあるビル内であり、つまり今回は屋内戦の演習ということになる。

 

「基礎訓練もなしに?」

 

 いきなりの実践的な内容にツユちゃんから質問が飛ぶが、マスターはその基礎を知るためだと答える。

 

「ただし、今度はただぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ!」

 

 つまり、現時点でどれほど戦いで動けるかを見極めたいのだろう。基礎はもちろん大事だが、達人になってから実戦に出るような悠長なことは言ってられないしな。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか!」

「このマントヤバくない?」

 

 一つの説明に、多くの質問が寄せられることは学び舎としてはいいことだろう。やはりこの学校のヒーロー科ともなると、人としてできた人間が多く集まるのだなぁと思わされる。

 まあ、一人明らかに関係のないことを聞いている不思議な男子生徒もいるが……あれはあれで、子供が集まる場としてはよくあることだろう。

 

 対するマスターは、生徒の前でありながら堂々とカンニングペーパーを取り出して答える。ナンバーワンヒーローといえど、教師としては新人ということがよくわかる光景だな。

 

「いいかい!? 状況設定はヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている! ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか、核兵器を回収すること。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること! コンビおよび対戦相手はくじで決めるぞ!」

 

 核兵器とは、また過激なものを出してきたな。この星の技術力で作りうる、最大級の兵器じゃないか。いかにこの星の人間がとんでもない力を持とうと、この兵器を至近距離で使われたらまず誰も助からないだろう。

 ヴィランはそんなものをどうやって入手して、どう扱っているんだ? 想定に疑問点が多い。

 

「マスター・オールマイト。いくつか疑問があるのですが、質問よろしいでしょうか?」

「いいよ! なんだい?」

 

 イイダがチーム分けがくじ引きである点に質問したあと、私も質問する。

 

「今回の演習の条件づけは、それだけですか? 具体的に言えば、ヴィラン側に『核兵器を隠し持って立てこもっている』以上の設定はないと解釈しても?」

「そうだね、それだけだ! だから、それ以外のところは好きに考えてくれて構わない!」

 

 なるほど、提示された以外の部分はこちらで補えと。これはそういう、目に見える形で提示された以外のものをどう捉えるか、どう利用するかも訓練に含まれているな。

 

「もう一つ質問させてください。今回の『核兵器』ですが、爆発兵器ですか? それとも放射線兵器ですか? あるいは、別の意図で設計された類のものですか?」

「んん? ……そうだな。じゃあ……これについては爆弾ということにしよう。核爆弾だ! もちろん、爆発したら放射線も出る!」

 

 爆弾か。一番扱いが面倒なものが来たな。放射線だけなら即死するような量を浴びなければどうとでもできるのだが……あ、いや、違うか。ここは共和国ではないのだった。

 うーむ、放射線除去装置なども製作を検討しておくか?

 

「……わかりました。回答いただきありがとうございます」

「他に質問はないかな? ……よし、それじゃあくじ引きといこう!」

 

 そして私が下がるとほぼ同時に、箱が取り出された。中にはアルファベットが書かれていて、それが合致したもの同士が組むという流れだ。

 

 ……と、その前にヒミコには釘を刺しておこう。私と一緒にいたいという彼女の気持ちは否定しないが、これはクラス全体で行う訓練だ。私とヒミコが同じ組になるように、フォースで操作することはアウトであろう。

 

「コトちゃんのケチんぼ」

「ケチで結構」

 

 ふん、と鼻を鳴らしてヒミコをいなす私であった。

 

***

 

 厳正なる抽選の結果、私の相方はトコヤミという少年と相成った。全身が上から下まで、何から何まで黒い少年である。

 またしても暗黒面のものかと思わず身構えてしまったが、フォース越しに確認すれば見た目とは裏腹に、かなりの善人と確信できるものであった。

 

 一方で、ヒミコの相方はまさかのバクゴーである。協力する光景がこれほど想像できない組み合わせもそうそうあるまい。

 

 そして訓練本番だが、一回戦はミドリヤ・ウララカペアと、ヒミコ・バクゴーペアで行うこととなった。ミドリヤたちがヒーロー側、ヒミコたちがヴィラン側である。

 

 ……意図したものではないのだろうが、チームの所属についてはとても様になっているな。特にヴィラン側が。

 

「爆豪少年、渡我少女はヴィランの思考をよく学ぶように!」

 

 とはマスター・オールマイトの言であるが……果たして学ぶ必要のある二人だろうかとうっかり思ってしまった。

 

 ともかく、演習を行わない面々とマスターは、会場となるビルの地下に用意されたモニタールームへ移動する。

 ここにはビル内に設定された多くのカメラから取得した映像が、そのままの数だけ表示されるモニターがずらりと並んでいる。実際に戦闘を行うものたちだけでなく、他のものもこの映像を俯瞰した立場から見ることで、戦いというものを学べということだな。

 

 さて、そうして始まった演習。双方には、開始前に五分という時間が与えられている。

 ヴィラン側はこの五分間、打ち合わせの他にも核爆弾設定の模型を設置する場所を決めたり、罠を設置したりして備えることができる。

 対してヒーロー側は、舞台となるビルの見取り図が与えられるため、打ち合わせの他にそれを覚える時間と言えよう。

 

「核爆弾の確保判定は、模型にヒーロー役のどちらかが触れること。演習参加者の確保判定は、与えられた確保用テープを巻きつけること。そして制限時間は十五分だが、核の位置はヒーロー側には知らされず、時間切れはヴィラン側の勝利とする、か」

「これ、ヒーロー側が不利だよね」

 

 私のつぶやきに、アシドが乗っかってくる。

 それにマスターが応じた。

 

「相澤君にも言われただろ? アレだよ、『Plus Ultra』!」

 

 つまり、これくらい乗り越えて見せろということなのだろうな。

 

 しかし……その優位性を、ヴィラン側はまるで活かせていないようだ。なぜならバクゴーは話し合いを最初から放棄しており、ヒミコを模型ともども放置してさっさと別行動を開始してしまったのだ。

 演習参加者には、それぞれ仲間と通信可能な小型無線機が配られているが……あの様子ではそれも使わせてくれるかどうか。

 

 画面に映る定点カメラの映像は音声が付随していないので、頬を膨らませているヒミコが何を言っているのかこちら側ではわからないが……特殊な関係にある私でなくとも、みな大体はわかるだろう。

 

 そしてバクゴーは、ミドリヤだけを執拗に狙っている。ミドリヤも果敢に立ち向かっているが、それすらもバクゴーの怒りに油を注いでしまっているように見える。

 うーん、ダークサイド。いくらなんでも、今のバクゴーは誰がどう見てもマイナス要素しかないぞ。どう挽回するつもりだろうか?

 

 そしてそれ以上に……残されたヒミコの様子から考えるに、彼女と対峙する人間が心配だ。

 

 なぜなら部屋に一人取り残されたヒミコの顔が、態度が、様子が、フォースが、闇に満ちたものへ変わったからだ。

 流れから言って、彼女に対峙するのはウララカになるだろうが……いや、本当に心配だ。

 

 ウララカ、気をつけてくれ。今のヒミコは……この場にいる誰よりも、ヴィランだぞ。

 

***

 

『黙って守備してろ……! ムカついてんだよ俺ぁ今ぁ……!』

 

 言うだけ言って通信を一方的に遮断した訓練の相方に、トガは悪かった機嫌がさらに悪くなった。

 ただでさえ一緒にいたい相手と別々にされて不機嫌だったというのに、組んだ人間からこうも意味のないものと扱われれば腹も立つ。

 

「あーあー、つまんない」

 

 ぼそりとつぶやきながら彼女は着けていた小型無線を外すと、明後日の方向へ放り捨てた。

 

「いいもん。そんなに爆豪くんが好き勝手やるなら、トガだって好き勝手やるんだもん」

 

 それは、好きな人から人前では控えろと言われていたことだ。

 彼女から嫌われたくないから、彼女とずっと一緒にいたいから、控えていたこと。

 

 だが、今は……今この瞬間は、訓練であり。

 誰がどう言おうと、今の自分はヴィランだ。

 もう一人だって、やりたいようにやっている。

 

 なら、たとえそういう役だとしても。

 

 ――少しくらい許されるでしょ?

 

 だから。

 

「私も自由に、やりたいようにやるのです」

 

 そう言って。

 

 トガはにたりと笑って見せた。

 

 彼女のフォースが、暗黒面の帳に包まれる。

 彼女を抑えていた理波のフォースが遠のき……暗黒面の力がトガの身体に満ちていく。

 

 そうして闇一色になったフォースは闘争に鋭敏となり、戦意を持って彼女に近づいてくる存在を即座に感知させた。

 

「あは、お茶子ちゃんが来てくれたんだ。嬉しい」

 

 笑顔のまま部屋の入り口へ身体を向け、ジェダイローブのフードを外す。

 そうして彼女は、入り口の上へふわりと跳び、天井近くに張り付いた。

 

 そのまま待つことおよそ一分半。警戒しながらお茶子が部屋を覗きこみ、誰も守っていない模型を見つけてきょとんとする。

 だが表情を引き締めると、恐らく罠だろうと警戒を強め、少しだけ室内に顔を入れた。

 

 ――瞬間。

 

「……ッ!?」

 

 お茶子の首根っこを押さえつけんと、トガが上から奇襲をしかけた。

 お茶子はすんでのところで前へ跳び、回避したが……完全には回避しきれず、うなじ周辺を爪でひっかかれてかすかに血が噴いた。

 

「上に隠れてたんや……! ぜんっぜん気づかんかった!」

「あー、タイミングはばっちりだったと思ったんですけど。残念!」

 

 ふわりと着地しながら、トガが笑う。

 彼女は同時に、お茶子の血がついた指先を見て嬉しそうににたりと笑い、その指を口に含んだ。

 

「ん……浅い。少ない。ダメですねぇ」

 

 その姿が、あまりにも壮絶で。

 お茶子は、前日……あるいは今日、直前まで見てきた友人の姿が目の前の彼女と重ならなくて、ごくりと唾を嚥下する。

 

「血が少ないとね、ダメです。これじゃ、お茶子ちゃんになれません」

「私に……なる……?」

「刃物は持ち込み禁止だったし、ライトセーバーは斬るっていうか焼き切るだし……っていうか今ここにないし。もうしょうがないので、ここは直に行くしかないよね」

「直……? な、なんのこと……? 何言って……」

「だから――やっちゃうね、お茶子ちゃん。だって、トガは今……ヴィランなので!」

 

 お茶子とまるで話をかみ合わせず、吸血鬼のような犬歯をむき出しに笑ったトガが、暗黒面のフォースを放ちながら猛然と襲い掛かった。

 




戦闘訓練の組み合わせをどうするかでチコっと悩みましたが、原作リスペクトということでやはりここはトガちゃんとお茶子ちゃんだろうなと。
ヒロアカという物語の展開的に、緑谷と爆豪とお茶子ちゃんの三人にはそれぞれ意味があって外せないので、このシーンでは一番役割が薄い飯田くんにはズレてもらうことになりました。
こんな感じで、主人公とトガちゃんが直接関わるところは原作とは違った形になることが多くなると思いますが、そうでないところはおおむね原作沿いになるかなと思ってます。
まあ、話が進めば進むほど小さな改変が重なって大きな改変に繋がるんですけどね。予定は未定ですけど、予測できる大き目な変化もあるので・・・(遠い目

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