「……? なんだか騒がしいな」
マズさんと一緒にハンさんのところに戻ったタイミングでした。手持ち無沙汰で暇そうにしていたハンさんが目に入りましたが、彼はめんどくさそうな顔をしつつも外に向かいました。
彼の言う通り、確かになんだか外が騒がしいです。でも、普通の騒がしいとはちょっと違いますね。
「……喧嘩騒ぎじゃないね」
「……ええ。もっと違う……これは、恐怖とか、驚きとか、そういうものだわ」
なのでマズさんもレイちゃんも、揃ってハンさんを追いかけます。
屋外に出てみると、ますます謎は深まります。そこにいた人たちは、みんな空を見上げた状態で怯えていたからです。
空に何かある。すぐにそう理解した私たちは、ハンさんに一歩遅れる形で空を見上げました。
するとそこにあったのは、真っ赤な光が線を描いて空の彼方を横切る様子。まるでシスのライトセーバーみたいな、不吉な赤がばらけてどこかへと向かっています。
「なんだありゃ?」
「流れ星……じゃないわよね」
「……デススターのスーパーレーザーに似てる」
「なんだと?」
それを見たマズさんの言葉に、私たちはぎょっとして彼女に視線を集めました。そこには、睨むようにして空を見上げるマズさんが。
「おい……おい待てよ、マズ。だとするとありゃあ」
「何本もあるわよ!? そんなのが当たった星は――ッヅ、あ、アアアッ!?」
「レイ!?」
マズさんの言葉に、ハンさんとレイちゃんが懸念を口にした、その直後。
宇宙が、フォースが悲鳴を上げました。断末魔の悲鳴どころじゃない、身も心も引き裂くような絶望的な悲鳴でした。
それがフォースを通じてレイちゃんを、そして私を殴りつけてきます。これには私も気分が悪くなって、身体がないにもかかわらず全身を鋭い痛みが駆け巡りました。死ぬかと思いました。
同時に、私の脳裏にある光景が見えました。どこかの宇宙の景色。そこに並ぶ惑星たちが、真っ赤な光で貫かれて爆発する光景です。なんて無慈悲で、恐ろしい光景でしょう。
でも、おかげで理解できました。この衝撃は、間違いないです。どこかの星が……ううん、星系が。丸ごと全部、破壊されたってことが、はっきりと。
レイちゃんも、私と同じことを感じたのでしょう。
でもこないだジャクーで感じたのとは全然違う規模です。今回は本当に、それだけで死んじゃうんじゃないかって思うくらいの衝撃だったので、レイちゃんは気絶して倒れちゃったのです。ハンさんが慌てて抱きとめました。
「ああ……無理もない。この子ほどのユーザーなら、わかっちまったろう……」
「どういうことだマズ!? レイに何があった!?」
「強いフォース感応能力を持つものはね……生命の死に敏感なんだよ。一度に大量の生命が失われたとき、宇宙が感じた痛みと悲しみがフォースを通じて流れ込んできちまう。この子はそういう子だったのさ」
「……ッ、おいやめろマズ……だとしたら、それが正しいとしたらあれは!」
「現実を見なハン・ソロ! あんたもわかってるはずだ! ファースト・オーダーがいよいよ動き出したってことくらい!」
直後のことです。空の彼方に、今までなかった惑星の姿が突然現れました。うっすらとしていて、揺らいでいる様子からして幻なんでしょう。
でもそれが、私が見たものだってことが直感的にわかってしまいます。あれがどこの星系なのかはわかりませんが、少なくともここから見える位置にあるはずがないのに、見えています。
悲鳴があちこちから上がりました。無理もないです。だって、今まで見えなかった星がいきなり見えるようになったかと思ったら、それが吹き飛んでいくんですから。
「共和国です……! ファーストオーダーがやった!」
と、そこにフィンくんが駆けてきました。確かに、あんなことをやるのは他にないでしょうね。
けど彼は、レイちゃんを見るや否や慌ててレイちゃんの体調を確認し始めます。
「レイ? レイ! どうしちゃったんだ!? ……レイに何が!?」
「感受性が強すぎたんだよ……そのせいで、一つの星系が滅ぶ衝撃を直接受けちまった」
「……なんてこった……ああレイ! 無事か!?」
だけど、私たちに消滅した星系を悼む時間は。気絶したレイちゃんを介抱する時間はありませんでした。
『……! マズさん、敵が来ます!』
「ああ、どうやらそうみたいだね……!」
迫りくる強い敵意と殺意。そして何より、強い暗黒面の力を感じます。
それを証明するかのように。どういうことだ、とハンさんたちが言う間もなく、空にスターデストロイヤーの艦隊が出現しました。
そして彼らはなんにもためらうことなく、空襲を開始したのです。
「けだものどもめ……!」
次々と飛んでくる砲撃なんて、生身でどうにかできるわけがないです。だから直前まで屋外で眺めていた人たちが、慌てて逃げまどいます。
『マズさん、対空砲とかってないんです?』
「あるけど数が足らない! ないよりはマシだろうがね!」
マズさんの言葉を証明するかのように、城のあちこちからせり出た対空砲が反撃を開始します。結構な数です。いくつかのタイファイターが撃ち落とされました。
でも……それにもかかわらず、数が足りません。迫りくるファーストオーダーの艦隊が、あまりにも多いのです。
「に、逃げないと!」
「どこにだ?」
「それはッ、その……」
「……お前はレイの看病してろ。道は俺が切り開く。マズ、それでいいな」
「頼んだよ。私も全力で応戦する」
怯えるフィンくんをよそに、ハンさんとマズさんはそんなそぶりも見せず散開しました。それぞれの持ち場を即座に見出して、そこに向かったのでしょう。
取り残されたフィンくんは、唖然とした顔で二人が消えた方向を交互に見ていましたが……近くに砲撃が着弾したのを見て、大慌てで城内に戻りました。
「レイ……レイ、しっかり! 目を覚ましてくれ……!」
そのまま目についた広めの場所に横たえて、応急処置を施していきます。
ちょっと驚いたんですけど、その手際はすごくよかったです。度重なる空襲で、地面もお城も何度も揺れるし、小物が飛び交ったりもする中なのに。
そういえば彼、悪の軍団とはいえ正規の訓練を受けた兵隊さんでしたね。そういうところはきちんと押さえてるんでしょう。
何より、ここでレイちゃんを投げ出さず、きちんと手当までしてくれたところはやっぱりトガ的にポイント高いです。普段からそうしてれば、もっとカッコいいんですけどねぇ。
「ぅ……フィン……?」
「レイ! よかった、目が覚めたんだな!」
「……! フィン、どうなったの? これ、どういう状況!?」
「ファーストオーダーが攻めてきた! 今はマズ・カナタやソロ将軍が味方を引き連れて応戦してる! だから今のうちに……レイ!?」
けど、カッコいいのはレイちゃんもです。レイちゃんは目が覚めて、状況を把握するや否やすぐに外に飛び出していったのです。
フィンくんは間違いなく、今のうちに逃げようって言おうとしてたんでしょうけど。地球のヒーローの話を寝物語に育ったレイちゃんには、今の状況から逃げるなんてあり得ないのです。
誇らしいと思う一方で、やめてほしいと思う私がいるのも本当なんですけどね。なんだかんだで、レイちゃんとはかなり長いこと一緒にいます。私の主観だと、私の人生の半分近くがレイちゃんと一緒だったので。
でも、それでも、立ち向かえるからきっと、ヒーローなんだと思います。
私もヒーロー志望です。それは自発的なものじゃないです。周りに触発されてでした。
けど、でも、それでも確かに、今のトガはヒーロー志望のトガなのです。だから私も、レイちゃんに付き合いましょう。お姉ちゃんですしね。
ただ、追いかけてきてるフィンくんはどうしましょう?
短い付き合いですけど、わかります。彼は出久くんタイプです。咄嗟に自分より人を優先しちゃう人です。このまま勢いに任せて、戦場のど真ん中まで来ちゃうと思うんですけど。
『……どうしよう!?』
『あ、やっぱり考えてなかったんですね。二人とも考えるより先に身体が動いてたってやつなんでしょうけど』
戦場に飛び出して、ライトセーバーを閃かせながらレイちゃんが内心で頭を抱えます。
そんな中でもしっかりとソレスの型に忠実に、飛んでくるブラスターの弾幕を適切に跳ね返しながら戦線を押し上げていくところは、義姉ながら鼻が高いです。
ただ、そんな八面六臂の活躍をしてれば当然目立ちます。ストームトルーパーさんたちがどんどん増えてきてます。
『私に目が向くなら、その分他が楽になるでしょ!』
『それはそうかもですけど……って、危ない!』
大量の弾幕に晒されれば、ライトセーバーだって無敵じゃないです。ましてやこんな不均衡な戦いなんてレイちゃんは初めてなので、対処できない攻撃も増えてきます。
それには私が対処します。フォースを使って弾道を逸らしたり、弾そのものを一瞬留めたりして、援護するのです。
「馬鹿な、ジェダイだ!?」
「れ、レン団長を呼べ!」
そうこうしているうちに、どうにもならないと判断したのかトルーパーたちが撤退していきます。どうやら局地的には私たちの勝ちみたいですね。
「大丈夫!?」
「あ、ああ……なんとか……」
彼らが退却していった先には、死んではいないけど怪我を負って動けないでいる人たちがそれなりの数いました。捕まったのか、拘束されてる人もいますね。
……いやーな予感がします。これ、捕虜をあえて取らせて無駄を強いる戦術じゃないです? このままだと、大変なことになる気配がすっごくするんですけど。なんてったって、フォースがそう言ってます。
『でも見捨ててはいけないわ!』
レイちゃん、いい子です。いい子なんですけど、ねぇ……。
「レイ! よかった、無事か!」
「なんとかね。それよりフィン、この人たちを逃がすの手伝ってくれる? とりあえずこの場は抑えたけど、このままじゃ危険だわ」
「そういう君は!?」
「私はこのままさらに戦線を押し上げるわ。多勢に無勢だけど、こういう軍隊って確か指揮官を倒せばなんとかなるんでしょ?」
「危険だ! 敵陣に一人で突っ込むなんて命がいくつあっても足りない!」
「ええそうよ。誰だって命は一つだわ。私も、彼らも」
「それは……ッ、でもレイ……」
「っ!」
言い合っているところに、またブラスターが飛んできました。単発だったので、レイちゃんはこれを危なげなく跳ね返します。
『……! ダメですレイちゃん!』
「くっ!?」
ですが、跳ね返した弾がさらに跳ね返されて向かってきました。セーバーを振り抜いたあとだったので反応が遅れましたが、かろうじて切っ先を差し込めました。弾かれたブラスターは、空の彼方へ飛んで行って消えました。
「……!」
「おいおいおい……冗談だろ……」
『このフォース……まさか、そんなことって』
そこにいたのは。それをやったのは。
真っ黒な服と、真っ黒な仮面で全身を包み込んだ男の人でした。強い、とっても強い暗黒面の気配がします。
そしてその手には、十字架みたいに光刃が三方向に出ている変わった形のライトセーバー。刃の色は、もちろん赤です。
「なんでカイロ・レンがこんなところに……!」
フィンくんが、怯えた様子でその名前を口にします。なるほど、この人が。
けど問題は、カイロ・レンさんだけじゃありません。彼は後ろに、数人のトルーパーを従えていて、複数の銃口がまっすぐこっちを向いてることです。
どうしましょ。カイロ・レンさんだけならなんとかなったかもですけど、こうなるとどうにもしようがありません。何せこっちは、怪我人をそれなりの数後ろにかばってるんですから。
『……義姉さん。後ろの人たちをお願い』
『レイちゃん? ダメですよ、ここは一緒にいたほうがいいです。そのほうがまだ少しは安全です』
『それじゃみんなを守り切れない! ジェダイは、ヒーローは、救けたり守るためにいるんでしょう? 無理は承知の上、
まさかこんな状況で、それを聞かされるなんて思ってなかったです。
本当にもう……。レイちゃんはもう、きちんとジェダイですしきちんとヒーローですよ。誰がなんて言っても、私がそれを認めます。
であれば、私もレイちゃんを信じるべきなんでしょう。義妹のことを、生まれたばかりのヒーローのことを。
『もう……それを言われたら私は反論できないのです。しょうがないですね、死んじゃダメですからね!』
『わかってる!』
そして会話を終わらせると、レイちゃんはペンダントとますたぁのライトセーバーを、怯えながらもすぐ近くから離れないでいたフィンくんに押し付けると、
「え、これって……あ、ちょ待、レイ!? 嘘だろおい!」
「はああぁぁぁぁっ!!」
雄たけびを上げながら、カイロ・レンさんに向かって突撃しました。
もちろんと言うべきか、銃口が一斉に向けられます。けどカイロ・レンさんはそれを手で制して、周りの制圧を優先するよう命令しつつレイちゃんを正面から迎え撃ちました。
緑色のセーバーと赤色のセーバーが正面切ってぶつかり合い、特有の接触音が断続的に響きます。
「驚いたな……ジェダイは俺が滅ぼして久しいはずだが」
仮面でくぐもった声が、戦場の中なのにやけにはっきりくっきり聞こえました。
「ソレス……それにシエン、か? だがルークの弟子でもなさそうだ。どこで、誰に習った?」
「知りたい? 残念、絶対教えてあげないわ!」
「ならば闇の流儀で聞くとしよう!」
そうしてこの銀河で何十年かぶりとなる、ジェダイとシスの剣戟が始まったのです。
幕間につき要素は薄いですが、本作はヒロアカクロスなので、遠い昔遥か彼方の銀河系でもプルスウルトラを叫びますとも。