ルークさんのわくわくジェダイレッスンは、その日の午後から早速始まりました。
とはいえ、レイちゃんはもうそれなりのことができます。なので、レイちゃんを軽く見て、ルークさんは自分に教えられることは何もないと言い切りました。
私ができないこと、知らないことは教えられてないので、バッチリってわけじゃないはずなんです。条件が悪かったとはいえ、レンくんにも負けちゃいましたしね。
レイちゃんもそれをわかっているので、少し食い下がりましたが……目覚め切ってなくて基礎も何もないフィンくんのが優先度は高いと判断されたのかもしれません。それは仕方ないですね。
代わりと言ってはなんですが、どうやらこの島にはルークさんが銀河の各地で集めたジェダイに関する資料が置いてあるみたいなので、それを見せてもらうことになりました。
フィンくんとは一旦離れて、資料が置いてあるところに向かいます。それは岩山の隙間、谷のようになったところに植わった屋久杉みたいな枯れ木の中にありました。そのまま家にできそうなくらい、おっきな木です。
うろから中に入ってみれば、十数冊の本が小さな棚に置かれているのが見えました。
「……ここ。見覚えがある……?」
けどそれより、不思議なことがあります。レイちゃんが、ここに強い既視感を覚えてるのです。
『そうなんです? 写真か何かで見たんですか?』
「……夢の中で……」
『……ヴィジョンですか』
またですか。やれやれなのです。
ってことは、レイちゃんはやっぱりただの人じゃないですよね。完全にフォースに導かれてるタイプの……言うなればますたぁやルークさんみたいな、物語の主人公です。
どういう意図があってここの光景を見せたのかはわからないですけど、そこは間違いないでしょう。
もしかしたら、とんでもない血筋だったりするかもしれません。実はルークさんの娘だったりしません?
「確かに気にはなるけど……でも今は、それより」
けどレイちゃんはそれを棚に上げて、ジェダイの本に手を伸ばしました。
まあ、そうですね。確かに今はこっちのが大事でしょう。
ただ、ぱっと見でどれがどういうものかはわかりません。何せ背表紙にはなんにも書かれていないので。
だからレイちゃんが手にしたのは、とりあえず真ん中ちょっと右あたりにあったやつです。ここにある中で、一番大きいやつでした。
……ふむ、フォースの関係するものに触れたけど、特に何も反応はなしですか。
ってことは、ここにあるものが大事ってわけではないのかもしれません。それよりもむしろ、ここっていう場所自体のほうが……?
「……ダメだわ、読めない」
レイちゃんが顔をしかめながら言いました。おっと、今はこっちに集中です。
どれどれ……と思って私も本を覗き込みましたが……うん。これは、ダメなやつですね。
「義姉さんも読めない?」
『何度も言いますけど、私この銀河の人間じゃないですからね? 銀河ベーシック標準語関係の文字なら多少わかりますけど、古代語なんてわかるわけないじゃないですか』
「それはそうかもしれないけど……」
この中でわかるものって言ったら、せいぜい挿絵にあるジェダイの紋章くらいです。光を背負う、翼みたいな絵はジェダイの紋章なのです。
つまり、それくらいしかわかりらないとも言います。
「義姉さんにもわからないんじゃ、ルークに聞くしかないか……」
『そうなりますね。教えてくれるかどうかはともかく』
今のルークさんに、それは期待できないんじゃないかなぁ。
そう言ったら、レイちゃんはでも何もしないわけにはいかないからって言って、頼んでみることにしました。
なので修行場のジェダイ寺院に戻ったところ……。
「何かを感じます!」
「感じるか」
「ええ感じます!」
「それがフォースだ」
「ほんとに!?」
「おお……! なかなか強い……!」
「ああっ、こんなの初めtって痛った!? 何なんだよもう!?」
「『何してるんですか……』」
瞑想の態勢のフィンくんを、ルークさんがからかってました。私とレイちゃんは、二人揃って呆れた顔と目と声を向けます。
だって目を閉じさせたフィンくん相手に、手にした草を使って手をくすぐるってそんな、子供じゃないんですから……。
「……霊体を認識できるのであれば、最低限の条件は揃っている。感じることはできるはずだ。息をしろ。深く。息を吸って――感覚を研ぎ澄ますんだ」
三人分のジト目を受けて、ルークさんは何事もなかったかのようにレッスンを再開しました。どうやら今回は真面目みたいです。
フィンくんもそれを感じ取ったのか、素直に言われた通りにしていました。
すると……少しずつ。小さな揺さぶりだけで大きなものを動かそうとするときみたく、少しずつ、フォースがフィンくんに感応し始めます。
外からルークさんが少し後押ししていますし、それでもなお時間はかかっていますが……今のフィンくんに、時間の流れを知覚する感覚も余裕もないでしょう。
やがて大きくなるフォースは、この島の……やがてはこの星の、ひいては宇宙のフォースにまで至ります。そうすることで、ようやく人はフォースとの繋がりを得るのです。
「何が見える?」
「……島が……。生と……死が……。それが新たないのちを生む……。平和と……暴力……」
成功ですね。私が思ってたよりは、早かったです。
フィンくんもなんだかんだで才能あるほうじゃないですかね? 少なくとも、アヴタスくんよりはあるんじゃないでしょうか。
ただ……空を見れば、既に太陽は沈みかかっています。才能という意味では、やっぱりフィンくんはレイちゃんには及ばなさそうと言うしかないのでしょうね。
「その間に何がある?」
「……バランス……エネルギー……。……フォース?」
「君の中には?」
「俺の……。……同じ……フォースが……」
「そうだ、それを教えたかった。フォースはジェダイに帰属するものではない。ジェダイが死ねば光が消えるなど、ただのうぬぼれだ。フォースはこの宇宙のどこにでも在り、何にでも在る」
「……フォースはジェダイだけが。ああいや、ジェダイの敵? もではありますけど……そういう特別な人たちだけの力だって……俺、そう思ってました」
「そうだろうとも。みなそう思っている。だが違う。違うのだ。使い手はみな、宇宙のすべてからわずかに力を借りているだけ。その大元が、光か闇かだけの差でしかない。
ただ……そう、大事なことはバランスだ。強い光には深い闇が伴う。光だけ、闇だけが存在することはできない。だからこそ、闇が……シスが死んでも。闇は、消えない……」
後半は、どこか自分に言い聞かせるような調子ではありましたが。
ともかくルークさんの教えは、的確にフィンくんを明確な覚醒まで導いたようです。これができないと、フォースの使い方とかライトセーバーとかの実践的な話ができないので、スタートラインに立てただけではあるんですけど。
ちなみに、もう十年以上前のことではありますが、レイちゃんは十秒でこの境地に到達しました。比べるまでもなく、どれだけ規格外かお分かりいただけるかと思います。
***
様子が変わったのは、その夜のことでした。
夜って言っても深夜です。もうみんな寝静まってる時間帯。
でも私は幽霊なので、寝なくっても身体の調子は落ちません。寝不足とは無縁なのです。
かといって眠れないわけじゃなくって、必要がないだけなんですけど……ずっと起きてるのも面倒ですし、精神的には疲れることもあるので、まったく寝ないわけでもないのです。ただ睡眠時間がかなり短く済むってだけで。
最初っからこれだけショートスリーパーだったら、もっといっぱいコトちゃんとえっちできたんですけどねぇ。
シたいなぁ。チウチウもしたいなぁ。いっぱいいっぱい愛し合いたいなぁ……。
……それはともかく、夜です。深夜です。私はそんなわけであんまり眠らなくて済むので、普段は夜の暇な時間を鍛錬に充ててるんですけど。
普段通りあれこれやってる最中に、レイちゃんからフォースの高まりを感じて首を傾げました。
レイちゃんのところに行ってみれば、もちろん彼女は寝ていて……けれど、次の瞬間、一気に覚醒しておもむろに身体を起こしました。
『……どうしたんです?』
「…………」
私の質問への答えは、口に人差し指を当てるポーズでした。つまり静かに、ってことです。どうやら、何かを感じてるみたいですね。
でも、私には何も感じません。フォースの感知はまだまだレイちゃんには負けないつもりなんですけど、返上したほうがいいんでしょうか。
なんてことを考えながら、とりあえずはレイちゃんの様子を見ることにします。彼女は何かを探るように、虚空の向こうをじっと見つめています。その状態でゆっくりと夜の外へ出ていくので、私も追いかけました。
そうして歩くこと、一分ほど。崖の近くまで来たところで……そこで、ようやく私にも感じられました。
今ここに広がっている空間の中に、そこだけまるで別の場所のようになっている場所があります。
もちろんそれは比喩的なもので、現実的には全然そうじゃないんですけど……同時に、そこにあるのも本当で、間違いなく相互に影響を与えることができる。そんな奇妙な空間の接続が起きていたのです。
そして私は、この現象を知っています。地球にいたとき、一人のヒーロー志望だったとき、コトちゃんと一緒にいたとき……けれどそのコトちゃんと少しだけ離れて行動しないといけなくなったとき。
フォースの力で、私とコトちゃんの居場所が重なったことが何度かありました。
そう、これはある種のフォースプロジェクション。けれど、ただの投影とは一線を画した直接的な繋がり。
ますたぁが言うには、フォースボンド。強い強いフォースの繋がりを持つ者同士が、空間を超えて直接的に繋がる……これはそういう現象なのです。
けれど、そんな現象を引き起こすくらい強いフォースの繋がりなんて、フォースダイアドくらいじゃないとなかなか到達できないものです。だからこれは、ものすごく珍しい現象なのです。
ですがレイちゃんと同じフォースを持つ人間が、この銀河には一人います。
「あれは……!」
『うわあ……』
フォースを介した視界の果てに、彼がいました。カイロ・レン……ベン・ソロが。
けれど、彼の悲鳴が聞こえてきます。肉体、精神双方を苛む、邪悪なフォースを浴びせられているようです。フォースライトニングですね。
少しでも苦しみを逃すために、硬質な床の上をのたうち回るレンくん。けれどそんなことは許さないと言わんばかりに、青白いいかづちは断続的に視界の外から放たれ続けています。
つまり、拷問ですね。
あるいは、体罰って言ったほうが正しいでしょうか。このライトニングの使い手は、まず間違いなくレンくんのマスターであろうスノークでしょうから。
「やめ……!」
そしてそんなところを見せられて、レイちゃんが黙ってられるはずがありません。咄嗟に手を伸ばして、フォースで介入しようとしました。
けれど、
「うあっ!?」
強大な闇の力に押しのけられて、レイちゃんの身体が吹き飛びました。
その身体に軽くフォースを向けて、衝撃を和らげてあげます。これを活かして、レイちゃんは空中でくるりと態勢を整えて見事な着地を決めました。うーん、十点ですね。
けれどそんなことをしている間に、フォースボンドは終わっていました。いえ、打ち切られたって言ったほうがいいでしょうか。
「……義姉さん、今のは……」
ぜえぜえと、疲労ではなくて精神的な圧迫から荒い息をつきながら、レイちゃんが聞いてきます。
そうですね、知らなかったらあれはなんにもわからないですよね。
ということで、先ほどの説明を口に出してレイちゃんにします。これを聞いたレイちゃんは、驚きながらも何やら考え込んでいました。
「……ということは……うまくやれば、ファーストオーダーの情報を手に入れられるかも……?」
『あー……まあ、できなくはないでしょうけど、近くにいた私も二人の様子をちらっとは見れたんですから、気をつけないとですよ。彼の近くにスノークがいたら、絶対バレちゃいます』
「つまり、今回の接続は間違いなく気づかれてるわよね……?」
『でしょうねぇ。相手は暗黒面の使い手ですから、警戒はしないとです』
「ええ、わかってる。あとは……」
と、ここでレイちゃんが視線を後ろに向けました。私もそれに続く形で、視線を遠くに飛ばします。
そこには、いぶかし気な表情を浮かべながら、こっちに歩いてくるルークさんの姿が。
「……このこと、ルークにはしばらく言わないでおこうと思うんだけど」
『トガ的には下手に隠すより、最初っからアケスケちゃんのが後腐れないと思いますけどね。でもレイちゃんの気持ちもわからなくはないので、私からはこれ以上言わないのです』
あんまりよくない因縁があるっぽいですもんねぇ。言いづらいですよねぇ。説明がヘタッピだと、間違いなくもっとこじれちゃうでしょうし。
ということで、この件についてはレイちゃんの決定に全面的に従うことにしました。
まあ、何か隠してるってことは勘づかれてるっぽいですけどね。そこはさすがルークさんって言っとくべきなんでしょう。
引き続きリアクション担当フィン。
シークエルトリロジーには色々と思うところがありますが、ルークのレッスンはわりと好きなシーンです。
絶対ヨーダを参考にしたんだろうなって感じのやり方ですよね。この時点ではルークは色々と閉ざしていますが、それでも確かに師匠から受け継がれたものがあるんだって感じがして。
なお、ボクがEP8で一番好きなシーンは、ジェダイの本を燃やしたヨーダに「ジェダイの神聖な書物です!」って言い募ったら「ではお前はすべてに目を通したのか?」って言い返されて、「いや、それは……」って口ごもるルークのシーンです。
あいつぜってぇ読んでねぇよ。下手したら最初の数ページで匙投げてるぜ。
たった一言で父親と一緒の知識より実践派ってことを示すいいやり取りですよね。